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走馬灯が止まる前に  作者: 北郷
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泳ぎ着いたところは(掌の中で2)

 次に、どうして自分と俺の間に誤解があると気づいたのかを聞いてみた。

 俺にはその誤解が解けるのなんて人は、一人しかいないと思うし。


「やっぱり、あの人から?」

 俺がそう聞くと、すると、麻緒は笑い出した。それで、誰のことなのか分かったらしい。


「あはっはは、そう、そのやっぱりです。

 ご想像の通り、そのお方からお聞きしました!」

 そう、俺と麻緒の間の誤解が解けるのは、やはり義理姉一人しかいない。


「だけど、義理姉あみさんは麻緒が誰であるのかを気付いていなかったようだったんだけどなぁ」


「ん~、気づいてはいなかったみたいなんだけど、世間話の中で、偶々恭ちゃんのことが出てきたのね、それで、私、驚いちゃったの」


「世間話って、いつ?!」


「偶然に会ったの亜美さんんと。確か、恭ちゃんのマンションにいきなり行った日の10日くらい前だったと思うんだけど、仕事の帰りに駅でね。

 それでね、亜美さんの話って凄く面白くって色々話したんだけど、私が恭ちゃんの話を聞く前に、なんとなく恭ちゃんに似ている人の話が出てきて、もしかしたら?って思ったのね。

 だから、色々突っ込んで聞いてみちゃったの。

 そしたら話が弾んじゃって、それでその足で二人でカフェに行ったのね・・・」


 なんか、凄いおしゃべりな気がするのだけど、俺が長年知る義理姉は人のことを面白がって他人にべらべら話すような人ではない。


「・・・聞いている内に、やっぱりその話は恭ちゃんの話って分かっちゃて、その時に他人のフリして色々聞いちゃったの。

 この間、亜美さんにあった時、そのことはお詫びしたんだけどね。

 その時に、花織ちゃんのことも色々聞いちゃってホントのことを知ってしまいました。

 もちろん、その時に恭ちゃんが知らない内にバツイチ独身になっていたことも聞いてるから、全部知ってま~す!」


 どうやら、義理姉は花織が俺の本当の子ではないことも、俺が法的には既婚歴が残ってしまっていることも、全て話してしまったようだ。

 麻緒の顔は、話を続けるに連れ、段々と真剣になって行った。


「それで、絶対恭ちゃんに会わないとと思って。

 でも、引っ越しした後で家の場所が分からないから、最初は、会社の帰りに恭ちゃんを捕まえて話そうと思ったんだけど、その度胸が出なかったり、人目が気になったりで、結局話せず仕舞い。

 その後、偶然、花織ちゃんを見かけた時があって、ついて行けば住んでる場所も分かるかなっても思って、こっそり付いて行ったんだけど・・・

 そしたら多分花織ちゃんに変態扱いされたのか、逃げられちゃって。花織ちゃんには悪い事しちゃた・・・」

 麻緒は、すまなそうに顔を顰めて続ける。


「・・・追いかける訳にもいかないから、結局、恭ちゃんの家は分からなくて。

 その後、もう一度、会社の帰りに駅で恭ちゃんを持ってたんだけど、会えなくて・・・」


 それは、俺が誰かに付けられていることを悟って、帰り道を変えたせいである。


「・・・それで、どうしようかなぁと思ってたらね、2、3日してまた亜美さんと偶然に会ったの。

 話している内に恭ちゃんの引っ越し先の凡その場所と、あと、5階建てのマンションに住んでることが分かっちゃったのね。

 そこまで分かれば、ほら、この辺に5階建ての賃貸マンションってそんなにないでしょ」


 そうだ、俺の漠然とした記憶では3件しかない。

 そうなると、1階のポストを捜せば直ぐに分かってしまう。


「なんか、凄い偶然でしょ。困ったら亜美さんと会っちゃうの。

 これって、もしかして運命が私を後押ししてるのかな?って。

 そう思ったら力が湧いてきて、思い切って恭ちゃんのところに行ってしまいました!とさ・・・エヘ」


 麻緒の話はそんなところだった。

 結局、義理姉の意図的な関与の決定的な証拠は掴めなかったんだけど、必ず、流れのポイントでその存在が顔を出している。それに、何より彼女のやりそうなことだ。


 決定的に思ったのは、麻緒の話では「麻緒のお姉さんは女子高ではない」と言うことだった。

 義理姉が話の中で、彼女が麻緒のことを持ち出したあの時、麻緒のお姉さんは隣の女子高の生徒だと、義理姉は自信を持って言っていのだ。

 あれは、間違えたというより、話を自然な流れにして麻緒の苗字を聞き出すための作り話の様に俺には思えてしまう。


 あとで、麻緒と一緒に義理姉に、彼女の掌の広さについて聞いてみたが、彼女は何度聞いても、更に酔わせてみても「自分の掌の中に人間二人も躍らせられません」の一点張りだった。

 偶然に麻緒に会った時に、世間話的に俺についての話をしてしまったこと、それについては大変申し訳なかったと、ご丁寧な陳謝を受けた。

 二度麻緒に話しているので、二度誤ってくれた。


 だけど俺はこう思った。

 きっと、義理姉は何処かの時点で、麻緒が別れた俺の彼女であることが分かったのだと。それに、麻緒の連れていた子供も麻緒の子供ではないと。

 

 水泳教室の三日目、義理姉が麻緒と初めて会ったあの日。俺が義理姉の家に花織を迎えに行った時に彼女が俺にいきなり麻緒のことを話したのは、今考えてみると義理姉が俺の気持ちを確認するためだったような気がする。

 なんとなくだけど、そんな誘導を受けたような気がしてならない。


 もし、そうだとすると直接聞かないところが義理姉らしいと俺は思う。

 きっと彼女なりのその先のストーリーには、その方が良かったのだと思う。

 もし、義理姉が今回の魂胆を暴露したとして、直接俺の麻緒に対する気持ちを聞かなかった理由を聞いても「その方がドラマチックだから」って応えるのは分かっている。

 だから、どっちにしてもその部分は聞いてはいないし、聞くきもしない。


 でも、そんな義理姉も「花織のことを麻緒に姪だと、どうして伝えなかったのか?」この質問には、応えてくれた。

 その応えは、「いいじゃない、親子ごっこくらいしたって」であった。

 聞くんじゃなかった、そう思った。


 きっと、義理姉は知リ得た色んな断片を繋げて凡その内容を掴み、麻緒に会いに行ったのだと思う。そして、極力自分は表では動かないで、俺たちが自分の気持ちで動くように仕向けたのだと思う。

 どうやって、麻緒の勤める会社が分かったかは分からないけれど、恐るべし本庄家の伝手を使えば、この辺りの情報は掴めてしまうのかもしれない。


 麻緒も後で言っていたけど、

「だけど、今考えると、亜美さんに全部気付かれていたのかな、私の気持ちも含めて」

今考えるとそんな感じがすると。

 

 結局、俺は麻緒と元の関係に、いや、新しい関係を気付くことが出来た。

 これは、義理姉のお蔭だと俺と麻緒は心の中で感謝している。例え、義理姉が故意に行ったのではなくても、その事実はかわりはしない。


ただ、このことが10年後の俺たちに、それなりの影響を及ぼすこととなる。


多分なったのだと思う・・・。


<つづく>


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