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走馬灯が止まる前に  作者: 北郷
29/54

泳ぎ着いたところは(掌の中で1)

 もちろん、暫くの間は麻緒との間に、ぎこちなさや隔たりを感じていた。

 三年前とは変わってしまった状況と、その月日の長さには直ぐには馴染むことは難しかった。


 それでも、兄の言っていた”慣れる”と言う人間の二大武器の一つが、そんな状況も少しずつではあるが、確かに解決してくれて・・・

 気が付けば以前とは少し違った関係が出来上がり、昔のように自然と話が出来るようになっていた。

 三年間で出来た隔たりは、緩やかに閉じて行っていたのだ。


 そんなある日、二人でスーパーに買い物行き、その帰る途中のことである。

 俺はずっと麻緒に確認したいと思っていたことがあったのを不意に思い出した。

 それまでは、そのことをぶり返すのは俺にも照れがあるし、麻緒もきっと恥ずかしいだろう、そう思い聞けずにいた。

 だけど、時の流れのせいか?その場の雰囲気なのか?俺は何故か聞き易そうな、そんな雰囲気を感じていた。なので、俺は思い切って口にしてみることにした。


 それは、もちろん再び麻緒と再び会うことが出来たあのスポーツクラブから、俺たちの誤解が解けるまでのでの経緯のことである。

 俺は、その過程で不自然さをずっと感じていた。

 何か、恣意的に泳がされていたような、そんな感じがしてならなかったのだ。


 だから、どうしても俺はそこを確認してみたかったのである。


 まず、俺はスポーツクラブで、麻緒がどうして義理姉と話すことになったのか?それを聞いてみた。


 すると、驚いたことに、三年も経っているのに麻緒は成長をした花織を見た途端、直ぐにそれが誰であるか?分かったのだそうだ。

 それで、誰と来ているのかが気になって、目で追っていたそうなのである。もしかしたら、俺が一緒かもしれないとドキドキしながら。


 その時に花織の下に現れたのが義理姉であった。それに麻緒はちょっとだけ驚いたらしい。

 何に驚いたのか?聞いてみると。

 麻緒は非常に言いにくそうにしていたのだけれど、俺はそこを無りやり聞いてみた。

 すると、麻緒は、


「だって、恭ちゃんには年上過ぎると思って」そう応えて来た。

 麻緒は、まさかこの人が俺の再婚相手?!と思ったそうだ。


 義理姉は兄の二つ下で、俺とは9歳違いになる。

 麻緒曰く、俺には5歳以上年上は無理なのだそうだ。その通りだけど。

 因みに、この麻緒との話は、若く見えることが誇りの義理姉には、絶対に黙っておくことで麻緒と硬い約束を交わしている。

 

 麻緒は花織が俺のところに現れたあの日、俺が救急車が来るのを外で待っている間に、やはり離婚届を見たそうだ。

 そして、そこに書いてあった名前”相川有希”と言う名前を見て俺に騙されていたと思ったらしい。


 実際に俺が知らなかっただけで法的には騙したことになるのだから、麻緒の理解は正しいのだけど。


 さらに、リュックサックの名前と、離婚届の”子の名前”の欄に書かれていた名前が一緒の”相川花織”。

 それで、俺にはその離婚届に記入済みであった相川有希との間に子供がいて、それが目の前の女の子であると断定。

 そして、その離婚届から俺が離婚をしようとしていると思ったらしい。でも、


「あの時は、そう思ったんだけど。

 スポーツクラブで亜美さんと会った後に、もう一度色んな可能性を良く考えてみたのね。

 そうしたら、花織ちゃんが恭ちゃんのお兄さんの子供で、離婚届も恭ちゃんのお兄さんの可能性もあるなぁとも思ったの。


 あの時、「パパ、パパ」って言ってたのは、もしかしたら恭ちゃんのことではなくて、お兄さんのことを言ってたのかなって。

 恭ちゃんが離婚届を預かっているだけとかね・・・」


 確かに俺の名前はまだ記入していなかったので、好意的に捉えればその可能性もない分けではない。


「・・・それで、私の勘違いで恭ちゃんが未婚のままなのか?

 それとも、本当に結婚をしていたのか?そして、あの時に離婚をしたのか?

 離婚をしたとしたら、現在は独身なのか?

 それとも、花織ちゃんを連れていた女性とホントのホントに再婚したのか?

 それを確認をしようと思ったの。あと、花織ちゃんのことも・・・」


 麻緒は、沢山ある疑問を確かめたくて、慌ててスポーツクラブで義理姉に話し掛けたのだそうだ。


 因みに俺の初婚の相手、即ち花織の母親がスポーツクラブで会った女性、義理姉であることは考えもしなかったそうだ。

 それは、離婚届の生年月日では自分と同じ年齢だったからで、それはどう贔屓目に見ても有り得ないらしい。


 でも、義理姉は「旦那さんはそこそこ若い」みたいなことを言うだけで、花織ちゃんのことも自分の子供ぽっく話しはするものの違う様でもあって、なかなか関係が分かることを口にしなかったらしいのだ。


「はっきりと自分の子供かどうか聞いて見なかったんだ?」

 と俺が聞いたところ、

「そんなこと、幾ら何でも聞ける訳ないでしょ」と麻緒に怒られた。

 それは、ごもっともだと思う。


「それで上手く聞き出せなくて、益々恭ちゃんのことが気になっちゃって、どうしても会いたくなったのね。

 何であの日ちゃんと確認しなかったんだろうって後悔しちゃったの。そしたら、なんか凄く熱くさせられちゃって。

 それで凄く恭ちゃんに会いたくなって、居ても立っても居られなくなったら、ほら、スポーツクラブでホントに恭ちゃんに会っちゃったでしょ。

 わたし、驚いちゃった。強く心で思うと、叶うのかなって。


 もう、それなら恭ちゃんに直接聞こうとおもったんだけど、中々聞き出せなくて、それで色々昔の話をしている内に、恭ちゃんに電話が掛かって来ちゃったでしょ。

 で、次に会ったら聞こうと思ったら、もう短期水泳教室は終わってて、結局分からず仕舞い。やっぱり、運命ってそんなに甘くないんだなって。

 それでも何となくだけど、その時に恭ちゃんは独り身なんだなぁって気がしたの」


「なんで?」

 俺がそう聞くと、


「奥さんと二人で一緒にスポーツクラブに来ていなかったからなのかなぁ?

それと、花織ちゃんに一生懸命って感じがしたからかも。

 ああ、あと、花織ちゃんはやっぱり恭ちゃんの子供なんだって思ったの」

 麻緒はそう応えた。


「それは、どうして?」

 再度尋ねると、


「だって、恭ちゃん、花織ちゃんが泳ぐ姿見て泣いてたから」

 麻緒にそこまで見られていたらしい。


「泣いてはいないと思うんだけど・・・」

 と、強がってみたけれど、


「ハハハ、それでもいいけどね」

 上手くかわされてしまった。


 それで、麻緒は何とか俺ともう一度俺と話したい、そう思ったらしい。

 今が独り身なら、俺の過去はもういいや。そう思い直したらしいのだ。


 スポーツクラブでの義理姉や俺と会った時はそんな気持ちだったらしい。


<つづく>


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