第九十二話 コピー&ペースト
コースインして早々、陽ちゃんは全開モードに入った。怒涛の勢いでゴーカートを思いっきり飛ばしていた。
「うおおおああああああああああああ!!!!!!!!」
雄たけびを上げながら、彼はクイック羽生のコースを攻め抜く。 インフィールドの連続するタイトコーナー群を綺麗な弧を描いていくように走っていた。
私は、あくまでまずはすぐ後ろに付いて様子を見ようと、無理せず丁寧にラインをなぞって走っていた。 彼の走りの良いところ、悪いところを的確に捉えたい、という意図もあってのことだ。
この走行枠は他のお客さんもいたことがあって、それらを上手くかわしながら、避けながら走るような形になっていた。 私はこういう事には慣れていた(?)という事もあって、それほど無理なく避けながら走れていたが、その一方で彼はまだぎこちなさそうな様子。
という事もあって、私は想像よりずっと早く彼に追いつくことが出来た。彼はまだ、追い越すことには慣れてなさそうな雰囲気であった。
「よーし、追っついたぞ!!」
先ずは一周ピタリと後ろに付き、私は様子を伺う。
彼もどうやら後ろにピッタリ付いているのに気付いたようで一気にペースを上げ始めた。
彼の走りをつぶさに観察していると、所々粗削りさは目立つし、他の人を追い抜くときの動きは全然ギクシャクしていたものの、ラインをかなり綺麗にトレースしているし、アクセルを踏み込むタイミング、また減速するタイミングもスムーズで私は拍子抜けしていた。
際立ってキレッキレではないけれど、ラインを上手くトレースしてロスを少なく走る感じ・・・・なんか身に覚えがあるような。 自意識過剰かもしれないけど・・・・
「もしかして、あの子、私の走りをコピーしてるんじゃ・・・・?」
その時私の心の中で何かが繋がった。そう、この子はさっきまで私の後ろに付いてずっと見ていたんだった。 恐らくこの子は、その時に私の挙動を大方読み取って、それを限りなく近い精度で再現しているのだ。
彼の吸収するスピードに驚くと同時に、それを再現する能力の高さに脱帽した。だって、今日初めて彼はゴーカートに乗っているのだから。
この子・・・・やっぱり走りの才能がある。それもかなり高いレベルで。
感心しきると同時に私は恐怖を覚えていた。言ってみれば、「もう一人の私」が前を走っているようなものなのだから。 誰かの弱点を読み取って勝負をするのは割と私の得意とするところだが、それが今回は使えない。 さあ、どうやって抜くべきなのか。
そんな事を考えながら、私たちは3週目に突入しようとしていた。




