第百五十一話 鈍い音
あれから、たった一周半過ぎてからの出来事だった。
莉緒は快調なペースを保ったまま、フィットをV字コーナーから、ダウンヒルストレートへと向かわせていた。前方に2台クルマがいたが、特に団子状態になっているわけでもなく、視界はクリア。安心してアクセル全開で駆け抜けていった。
急な下りストレートを抜け、左わきにある看板を目印にスムーズなブレーキング。
ターンインも決まり、そのまま抜け・・・・るだけのはずだった。
目の前で、競り合っていた2台が交錯。うち1台がコースを横切る形で止まってしまっていた。
焦る莉緒。チームの皆で作り上げてきたクルマを、そしてレースを終わらせる訳にはいかない。
どうする・・・・どうする・・・・そう悩んでいるわけにはいかない。だって、ほんの数メートル先には回ったクルマがいるのだから。
スローモーションのように目の前の光景が映り込む中、必死に考え、莉緒はフィットのブレーキを全力で踏みしめ、ステアリングを左側に一気に切り込んだ。
スキール音を立てるタイヤ。ABSによるキックバックが起きるブレーキペダル。
結構な恐怖感が莉緒を襲う中、フィットの鼻先はどうにかスピンしたクルマから避けた。
・・・・が、事態はいい方向ばかりに転がらなかった。スピンした車からは上手に避けたものの、タイヤを芝生に乗せて少しコントロールの聞かないフィットのノーズは立体交差のコンクリート部分に走ってしまっていた。
マズい・・・・ブレーキを緩めてどうにかタイヤのグリップ力の回復を試み、ステアリングを今度は右に切り込むも・・・・
「ゴウンっ・・・・」
鈍い金属音が鳴った。
フィットは、コンクリート壁に左フロントフェンダーを打ち付けていた。
続く。




