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第7話「サンタを待つ子供みたいに」

 ディディは屋上の一カ所で立ち止まると、床に手を差し込む。

 巨大な岩盤のような床が持ち上がり、内部への下降口が現れた。

 しかしこの入り口を開くには、ゴリラ並の腕力が必要だろう。

 そういう意味では、ここはディディだから出入りできる場所ということか。

 わたしはディディに招かれるまま、階段をくだる。

 内部は、ランプのような明かりがあるようで、仄かに階段が見えた。

 先に下っていくわたしの後ろを、岩盤のような扉を閉めたディディが下っていく。


「ねえ、ここって要塞かなにかなの?」

「かつては、要塞であったときく。まだ、共和国とトラキアが戦争していた時代はな」


 今は、違うってことなのね。

 わたしは口にしなかったが、気配を読んでディディが言葉を続ける。


「今は要塞ではなく、監獄として使われている」

「要塞を、監獄にするなんて贅沢ではないの」


 わたしは階段を下りながら、問いを発する。

 下へ続く階段は、狭くて長い。

 ここはそれなりに、大きな城塞のようだ。


「政治犯を収容するための、監獄でね。暗殺を防ぐために、厳重な守りが必要な囚人をあずかることになる」


 ああ、なるほど。

 看守がひとでないのも、買収防止ってことなのだろうか。


「じゃあ、ここには今も囚人がいるってこと?」

「今あずかってるのは、ひとりだけだがな」


 たったひとりのためにこの大きな城塞をつかっているのだとしたら、けっこうな大物の囚人なんだろう。


「あとで、我々があずかっている囚人にも、あわせよう」


 え、なんで、って思った瞬間、階段が終わり広間にたどりつく。

 そこにいた獣に、わたしは驚きの声をあげてしまう。


「うおおおっ」


 黒い獣毛に覆われたその大きな獣は、狼の頭部を持っている。

 しかし、その身体は熊のものであった。

 大昔に絶滅したはずの、ベアウルフのような姿をしている。

 ベアウルフは、熊のように二足で立ち上がった。

 背はディディより高く、三メートル近くあるんじゃあないかという気がする。

 天井に頭が、つっかえそうだ。


「ナンダ、クリスマスガキタノデハナイノカ」


 ベアウルフは、ディディほどひとの言葉をうまく話せない。

 わたしは、いいかげんうんざりしてくる。

 みんなサンタを待ち望む子供みたいに、クリスマスを待ってるようだ。


「どうもクリスマスは、彼女の中にいるらしい」


 ディディの言葉に、ベアウルフは不機嫌そうに金色に光る目を細めため息をつく。


「ソレデナントカナルノナラ、カマワナイ」


 ベアウルフはよく判らないことをいって、四つ足にもどり脇によける。

 ディディが先にたって歩きだし、広間を横切っていく。

 ただ広いばかりで、なんの家具もおかれていない空っぽの広間をわたしたちはとおりぬけていく。

 その広間を出ると、わたしたちは廊下に出た。

 昔のロールプレイングゲームでよくみた、ダンジョンみたいだと思う。

 薄暗いため、石造りの壁が続くその廊下は洞窟のようでもある。

 ディディは、廊下のつきあたりにある扉をひらいた。

 そこは、大きな吹き抜けになっている。

 頭上の高いところに、岩盤のような天井があった。

 吹き抜けは筒上になっており、壁面に螺旋状の通路が付けられている。

 照明らしきものは見あたらないが、完全な闇に閉ざされず日没後の薄暮に満たされているところをみると、どこかから外の光が取り入れられているらしい。

 けれど、窓のありそうなところは見あたらなかった。

 わたしは、吹き抜けの下方を見下ろす。

 下の方は石の床ではなく、水に満たされている。

 多分河の水が、流し込まれているのだろう。

 かなり大規模な建築物であるこの建物をつくるには、それなりの技術が必要とされたはずだ。

 でも明かりに使われているのはランプのようだし、文明レベルは中世っぽい。

 なにか、アンバランスさがただよう場所のようだ。

 ディディとわたしは、螺旋状の通路を下っていく。

 巨大な吹き抜けを半周し、なだらかに下る通路の踊り場みたいなところへたどりついた。

 そこには、鉄格子の扉がある。

 その向こう側が、監獄エリアだということなのだろう。

 鉄格子の扉には鍵のようなものは見あたらず、そもそも蝶番すらなさそうなのでどうやって開くものなのか見当もつかない。

 ディディは壁の一部を構成する石版を、はがした。

 石版の下から、鉄のボタンが並んだパネルが出現する。

 ディディは、なんらかの規則性にしたがって鉄のボタンを押していった。

 どこかで重々しい音が響き、金属が噛み合うような音がするとゆっくり鉄格子が天井に向かってあがりはじめる。

 床から抜けた鉄の棒は、槍の穂先みたいに鋭い刃がつけられていた。

 わたしは、鉄格子があがっていくのを見て、思わず感嘆のため息をつく。

 ディディは、鉄格子の向こうに行きながら説明をしてくれる。


「この城塞は河の流れで水車を回し、そこから生まれる動力を使ったしかけがあちこちにある」


 わたしは、槍の穂先みたいな刃の下をとおりながら、へぇと声をあげる。


「残念なことにこの城塞を造った技術は王国からは失われ、おそらく同じものを造ることは我々にはできない」


 なるほど、ここのアンバランスさはそういうことだったのかと頷く。

 わたしたちが通り抜けたあと、けっこう勢いよく鉄格子が落ち金属が打ち鳴らされる音を響かせた。

 もしわたしたちの後に続こうとするものがいたら、鉄格子の刃に串刺しにされていただろう。



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