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第39話「ファンタジー小説のコスプレをしたような」

「気がつけば、僕はマリーンのもとで目覚めることになった」


 クリスマスは、終始落ちついた口調で語り続けたので、クライマックスもなんだかとてもあっさりしている。


「僕はマリーンの手によってこの人形へダウンロードされると、デルファイへ送り込まれた」


 おれは、唸った。


「マヤの幻覚が現実になるとか、なんか納得いきがたいところがあるけど」


 おれは、腕組みする。


「まあ、全体的に荒唐無稽なんでどうでもいいかとも思う」


 ナミが、はあとため息をついた。


「つっこむところは、そこじゃないでしょ。キョウヘイ」


 ナミは、よく光る目でクリスマスを見る。


「クリスマス、多分あなたの目的は達せられなかったんだよね」


 クリスマスは、ほうと感心した表情でナミをみる。


「なぜ、そう思うんだい」

「いやいや、判るでしょ、そんなの。マヤ、そろそろあなたの語る番がきたようね」


 マヤが、驚いた顔をしてナミをみる。

 ナミは、少し目を細めてマヤを見た。


「マヤ、あなたクリスマスがクラウス公子のコンビナート向けに作ったマネーロンダリングシステムを使って、まとまったお金を手に入れたのは知ってる」


 マヤの表情が、固まった。


「でもまあ、あのコンビナートを壊滅させたのは表向きはそこのキャップになってるけど、実質はマヤ、あなただからね。その報酬と考えてあげてもいい」


 マヤは、小さくため息をついた。

 キャプテン・スターアンドストライプスは狼の笑いをみせている。


「あなたが最後になにを見たのか、ちゃんと話してくれればという条件がつくけどね」


 マヤは、少し口を歪める。


「やっぱりナミさんには、かなわないな」


 マヤは、肩をすくめた。


「別に隠すつもりはないんだけれど、あまりに荒唐無稽なもので」


 おれは、目を剥いた。


「これ以上、荒唐無稽になるっていうのかよ」


 マヤは、静かにいった。


「わたしはあの後、女神様にあったんだ」


 おれとナミは、なんだそりゃと眉をあげる。

 マヤは、ほらねといった顔で薄く笑う。

 ナミは、苦笑した。


「まあいいから、話をしなよ。マヤ」

「わたしがあの後気がついたのは、星船の中だったんだ」


 かくして、マヤはどこか真相を告白する犯人のような調子で、語りはじめる。


◆     ◆     ◆


 わたしが目覚めたのは、真っ白な部屋だった。

 壁に折り畳んで収納できるタイプの簡易ベッドから、わたしは身をおこす。

 殺風景というよりは、無機質な部屋だった。

 わたしは、古い映画を思い出す。

 そう、2001年宇宙の旅に登場した、宇宙船の内部のようだと思う。

 わたしは、そこがどこであるのか本能的に理解していた。

 自分のこころの中にいる居候に同意をとろうとして、わたしは驚愕する。

 クリスマスが、いなかった。

 存在自体を削除されたように、思える。

 クリスマスはダウンロードした記憶を削除するメソッドは、作っていなかったはずだ。

 わたしは混乱して目眩を感じつつも、立ち上がろうとする。

 足下がおぼつかず、少しふらついた。


「気をつけなさい、まだ君は快復しきってない」


 いきなり背後から声をかけられ、飛び上がるほど驚いた。

 そこには、ファンタジー小説のコスプレをしたような感じの女性がいる。

 燃え上がる朝焼けのように輝く金色の髪に、サファイアの輝きを持つ青い瞳が目をひく。

 すこしばかり長身の身体には純白の鎧を、装備している。

 その鎧は金属というよりも、象牙を加工したかにみえるほどの白さであった。


「えっと、誰ですか?」


 わたしの問いに、おんなのひとはそっと微笑んだ。


「地上では、女神フライアと呼ばれる。まあ、座りなさい、ファントム・マヤ」


 わたしは女神の話す言葉が王国の公用語ではないことに気がつき、えっ、と思う。


「随分、英語が上手ですね」

「ニューヨークのブルックリンで育った、アイリッシュだからな」


 わたしは、驚きとともに腰をおろす。

 女神は、満足げに頷く。


「父親は消防士だったが、911の時に殉職した。わたしは女神になる前は、空軍パイロットだった」


 聞いてないことまで話す女神に面食らい、わたしは目を丸くする。


「本題に入る前に、質問を受け付けよう、マヤ。君には聞きたいことが、色々あるだろう」


 わたしは頷き、女神は微笑みを返す。

 わたしは、最初の質問を繰り出した。


「ここは、星船の中なんですよね」

「そのとおりだ」


 思ったよりシンプルな答えが、かえる。

 わたしは、質問を続けた。


「あなたが、わたしの中からクリスマスを取り除いたのですか?」

「そうだね」

「一体、なぜ」


 女神は、いい質問だというように頷く。


「クリスマスは、そもそもここへくるために全てを仕組んだといっていい。しかし、彼をここにいれてやるのは危険すぎる。彼ならここのシステムを使ってとんでもないことをするかもしれない」

「とんでもないこと?」


 女神は、美しい顔を少し歪めて笑う。


「例えば世界を破壊し、その向こう側へいこうとするといったことだね」


 うーん。

 確かに、馬鹿の師匠でありリアルディール・フールのひとりでもあるクリスマスならやるかもしれない。

 でも、ここはそんなことができるなんて。


「この星船も、失われた古代技術で造られたんですね」

「いや、違う」


 予想外の答えに、わたしは驚く。


「2020年代の後半、人類は木星軌道上に外宇宙からきた謎の構造物を発見する。それは、異星人の造った恒星間航行用宇宙船に思われた。人類は、その宇宙船を調査するための船団を派遣する。わたしはその船団のパイロットであり、船団メンバーの唯一の生き残りだよ」


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