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第36話「それって、つんでるってこと?」

 マヤは、ランゲ・ラウフで駆動されるプログラムとなった自分が結構気に入っていた。

 あらゆる情報が、システムからダイレクトに流れ込んでくる。

 多分、ギブスンのニューロマンサーで電脳世界に接続されるのは、こんな感じだろうと思う。

 ただ残念なのは彼女が駆動されているのはcpuで構築されたマシンではなく、夢見虫という生き物であるということだ。

 しかも虫という名前なのに、実は粘菌だという。

 ひとの頭の中に入り込み脳を食べるとそれと入れ替わるという、危険な粘菌であった。

 けれどもプログラムのロジックであるマヤにとって、それは些細なことである。

 マヤは、センサーが感知した敵の機体を解析した。

 思考とシステム操作が一致しているというのは、夢のようである。

 システムは、赤外線センサーの検索結果をダイレクトに思考結果として提示した。

 どうやらそれは、アイゼン・シュヴァルツという外骨格マニュピュレータらしい。

 機体の形態は、マヤの今操っているアイゼン・ジャックと同じであるが装甲にステルス性能を持たしており漆黒に塗装されている。

 マヤは、僕に質問した。


「こいつは一体、何物なの」

(おそらく、アース・リアクターを装備せずブラックライト・プロセスだけを使用したエンジンで高出力高機能にしたアイゼン・ジャックだ。今の我々と、同程度の性能をもっていると思う)


 マヤは、むうとうなる。


「そんなの作れるなら、アイゼン・ジャックいらないよね」

(ランニング・コストが、半端ないはずだ。今まさに、何百万ドルもするレアメタルを燃焼させながら飛んでる)


 マヤは、驚きの声をあげた。


「わお、さすが王族だけあって贅沢なものつかうね」


 話をしているうちに、お互いの射程にはいる。

 ほぼ同時に、二機の外骨格マニュピュレータはビームを撃つ。

 両機とも撃つと同時に回避行動に入っているので、命中しない。

 ふたつの外骨格マニュピュレータは、鏡写しのように空中でターンしていく。

 シュヴァルツはシャンデルで上昇してターンをする。

 一方マヤは、スライスバックで下降してターンをした。

 二機は空中の一点を挟み、ループする。

 マヤは身体を石化してプログラムとなっているが、対するキャプテン・スターアンドストライプスは激しいGを受けているはず。

 しかしキャプテンは過酷な訓練を受けているのか、常軌を逸した高機動戦闘に耐えていた。

 互いに対空ミサイルは使えないため、まるで前世紀のレシプロ戦闘機がやるドッグファイトになってしまっている。

 馬鹿げていると、マヤは思った。

 高速ループを制したのは、シュヴァルツのほうだった。

 アイゼン・ジャックのバックをとったシュヴァルツは、ビームを撃つ。

 マヤは、ロウ・ヨーヨーで下降しながらブレイクする。

 至近距離をビームが通り過ぎ、機体が揺れマヤは気が遠くなったが持ちこたえた。

 システムとダイレクトに繋がるということは、どうやらシステムの被害もダイレクトに思考へ届くようだ。

 二機は、再び高速ループに入る。


「性能は、シュヴァルツのほうが上みたいだけど」


 マヤの愚痴めいた呟きに、僕は応える。


(いや、互角だがこちらはヘンシェル・ミサイルを背負ってる。ハンデがあるわりには、よく戦ってるよ)

マヤは、むうと唸る。

「それって、つんでるってこと?」

(いや、ヘンシェルを切り離すしかない)

「どちらにせよ、切り札がなくなるからつみだよね」

(後で、回収すればいい)


 再びバックをとられたマヤは、もう選択肢が残っていないことを知る。


◆     ◆     ◆


 マザー・ロシアは、間合いにはいると高速タックルをしかけてきた。

 強引なアクションで相手の体勢を、崩すためのタックルである。

 だが今度もゴリラは避けることなく間合いをつめ、軽々とジャンプした。

 予備動作のない軽いジャンプに見えたが、ゴリラはあっさりマザー・ロシアの背中をとる。

 アイゼン・イエーガーの前面は鋼鉄の装甲に覆われているが、背面にはメンテナンス用のパネルをはじめとした様々なインターフェースがあった。

 ゴリラは、放熱用排気口に手をかける。

 廃熱機構に損傷を受けても致命的とはいえないが、性能は低下することになった。

 ゴリラは、拳を排気口に叩きつける。

 それはひしゃげると同時に、青白い火花を放った。

 電撃に全身を襲われたゴリラは、尻餅をついた。

 アイゼン・イエーガーは対人戦闘用機能として、装甲の表面に100万ボルトの電撃を放つことができる。

 正直なんのためにある機能だと、思っていた。

 マザー・ロシアはまさか自分がその装備を使う日がくるとは想定していなかったが、それは今とても役にたっている。

 ひとであれば気絶したであろうが、ゴリラは驚いただけのようにみえた。

 しかし、隙ができたのはまちがいない。

 マザー・ロシアはあっさりゴリラに、馬乗りになった。

 ゴリラは、両足でアイゼン・イエーガーをはさんでコントロールしようとする。

 しかし、100万ボルトがきいてるせいか十分な力をだせていない。

 マザー・ロシアは、上からパンチを振り下ろす。

 ゴリラは首を振ってパンチをかわすと、両手でその腕を押さえ込む。

 だがゴリラの腕にも電撃の後遺症があるらしく、十分な力がだせていない。

 マザー・ロシアは、押さえ込まれたマニュピュレータを強引にゴリラの首筋にあてて、頸動脈を押さえた。

 身体構造はひともゴリラも根本的には同じはずで、脳に血がいかなくなれば意識を失うことになる。

 ゴリラの動きは、弱まった。

 マザー・ロシアは、満足げな笑みをうかべる。


「サル、おまえはよくやったが、ここで終わりだ」


 ゴリラのほうも、満足げに頷く。


「ああ、ここで終わりにしよう」


 マザー・ロシアは、突然激痛を腹部に感じうめき声をあげる。

 マザー・ロシアは、驚愕を感じながら自分の腹部を見おろす。

 そこには、ナイフが突き立てられていた。

 高周波ナイフは、脇腹の装甲を貫いて内臓に達している。

 マザー・ロシアは、そのナイフを握っているのがしっぽだと知り驚きの表情を浮かべた。

 ゴリラは、あらかじめしっぽでナイフをひろえる位置を計算して倒れたのだ。


「おまえ、ゴリラなのにしっぽがあるのか!」

「君は、わたしのことをサルとよんでいたのではないかね」


 マザー・ロシアは呻き声をあげ、ゴリラの身体から床へ落ちる。

 アイゼン・イエーガーの前面装甲をひらき、除装した。

 赤く染まった腹部から、血が床へこぼれてゆく。

 ゴリラは立ち上がると、しっぽから手へナイフをうつす。


「我々は、君たちひとよりもあらゆる点で優れているのだよ。あらゆる点でね」


 マザー・ロシアは、笑いの形に口を歪めゴリラを見あげる。


「まるで、ひとのようなセリフをはくじゃないか。まあ、いい。楽しませてもらった礼にいいことを教えてやる」


 ゴリラは、問いかけるような目で、マザー・ロシアを見た。

 マザー・ロシアは、絞り出すように言葉をはなつ。


「あんたらのジークフリート公子は、無事だよ。相棒は、しくじったようだ。信号が、途絶えている」


 ゴリラは、静かにため息をつく。


「ありがとう、君はひとなのに礼を知っているようだ」


 マザー・ロシアは、静かに目を閉じる。


「ダスヴィダーニャ、サル」


 ゴリラは、その言葉に応えるように心臓へナイフを突き立てた。



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