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第32話「魔法使いの仕業」

(状況を、報告しろよ。ドクター・グラビティ)


 珍しく、指揮官じみたことをいうキャプテン・スターアンドストライプスに、ドクター・グラビティはこころの中で舌打ちする。

 彼の乗るワイバーンは翼を広げ、星の空を巡航していた。

 なにも問題ないと、応えたいところだ。


「マザー・ロシアとブラック・デスは無事城塞監獄内に、入り込めた。ランゲ・ラウフが手に入るのは、時間の問題だ」


 キャプテンは、笑い声を返す。


(エイ・オーケイだ、ドクター。で、降下部隊の方はどうなった?)

「全滅だよ」

(どういうことかな)


 ドクター・グラビティは、キャプテンの口調が面白がっている様子を隠そうとしていなことが、腹立たしい。


「おまえのフェイバリットであるファントム・マヤが、全滅させた。一分とかからずにな」

(ナイト・ビッチが手も足もでなかったてのは、少しばかり意外だな。で、マヤは入り込んだマザー・ロシアたちを放置してるのか)


 ドクターは、ため息をつく。


「マヤにしてみれば、ランゲ・ラウフを奪われてもクラウス公子を殺してしまえばエイ・オーケイなんだろうよ」


 キャプテンは、ますます上機嫌になっているようだ。


(ファントム・マヤは、おれたちのほうへ向かっているということだな)

「残念ながらな」


 ドクターは、うんざりしたように言った。


「アイアン・ジャンクは、あと三分でおれの射程に入る。あれには、フレアもチャフも装備されてない。撃墜して、終わりだ。あんたのところには、ジャンクしかたどりつかないぜ」


 キャプテンは、笑い声をあげる。


(祝杯の準備をしておくよ、ドクター。シーバス・リーガルのロイヤル・サルートを積んできたかいがあった)

「あんたは同じアイリッシュでも、マンガにでてくるほうのキャプテンとは、大違いだぜ」


 キャプテン・スターアンドストライプスは、大笑いしながら無線を切る。

 ドクターは、網膜投影ディスプレイにレーダーの反応を表示させた。

 アイゼン・ジャックの接近してくる状況が、表示される。

 ステルス機能をもたないアイゼン・ジャックはレーダーにはっきりと、とらえられていた。

 だいたい時速140マイルという、ところか。

 戦闘機と考えれば、話にならないほど遅い。

 まあ、外骨格マニュピレーターが飛んでるのだとすれば、驚異的な速度だといえる。

 だが、その気になれば時速200マイルを越えるワイバーン相手だと、厳しい。

 アイゼン・ジャックにもレーダーは装備されているだろうが、そもそもワイバーンは生体なので電波を反射しないため探知するのは無理だ。

 ファントム・マヤが何を考えているのかはわからないが、空戦でドクターたちに戦いを挑むのはF4でF35に戦闘をしかけるのに等しい。

 ドクター・グラビティは、五体のワイバーンに装着された十機のサイドワインダーでアイゼン・ジャックをロックオンする。

 ドクターは、目の動きで全ての操作が可能になるようシステムをつくりあげていた。

 ドクター・グラビティは、眼差しでサイドワインダーのトリッガーをひく。

 10本の音速を超える焔の矢が、夜空を貫いた。

 すでにアイゼン・ジャックとの距離は、9マイルをきっている。

 いうなれば手の届く距離で44マグナムを相手の心臓めがけて発砲したのと、同じようなものだ。

 アイゼン・ジャックは、回避のしようがない。

 ドクター・グラビティは、自身の網膜投影ディスプレイが紅蓮の焔に覆われるのをみた。

 ドクターは、違和感を感じる。

 命中し爆発するには、数秒はやい。

 レーダーで、確認する。

 アイゼン・ジャックは何事もなかったように、接近していた。

 ドクターはあまりの衝撃に、背筋が凍るの感じる。

 アイゼン・ジャックの速度は、時速700マイルを越えていた。

 音速の、少し手前だ。

 一瞬にして、ドクターのワイバーンたちは後ろをとられる。

 四体のワイバーンが一瞬にして焔に包まれ、落ちてゆく。

 ドクターのワイバーンはかろうじて回避が間に合ったが、光の矢が翼をかすめたせいで片翼が火に包まれている。

 アイゼン・ジャックが至近距離を通り過ぎたことで、ソニックブームが巻き起こりワイバーンは錐揉み状態に入った。

 ドクターは、思考を巡らせる。

 確かにアイゼン・ジャックには、プラズマビーム砲が装備されていた。

 しかし、エネルギー制御がおそまつなため、一回使用すると次弾を放つまで一分以上チャージに時間がかかるので使い物にならないはず。

 その制限を無視するかのように、アイゼン・ジャックは連続射撃を行っている。

 これではまるで、切り札であるあのシュヴァルツのようだ。

 そもそもアイゼン・ジャックのシステムは、あのゲイツのクソで組まれている。

 高速移動してプラズマビームを連射可能なほどの、高度な制御ができるはずがない。

 もし、ゲイツのクソを驚異的に高度な制御を可能とするシステムへこの短時間で組み直したのだとしたら。

 それこそ、魔法使いの仕業だと思う。

 ドクター・グラビティは制御を失ったワイバーンから脱出し、外骨格マニュピレーターのバーニアで降下する。

 アイゼン・ジャックは、ほんの数秒で亜音速に達するというでたらめな加速をしていた。

 そんな操縦をすれば、どんなにタフなパイロットでも確実に意識を失っている。

 ましてやただの小娘であるファントム・マヤでは、死んでいても不思議はない。

 アイゼン・ジャックは、コントロールを失い迷走しているはずだ。

 しかし、気がつくと目の前にアイゼン・ジャックがホバリングしていた。

 夜空に浮かぶ純白の外骨格マニュピレーターは、月の光を身にまとっているかのようだ。

 ドクター・グラビティは、あまりに滅茶苦茶な現実に気がとおくなる。

 それでもドクターは、腕に装着されているアンチマテリアル・ライフルをアイゼン・ジャックに向けようとしたが、光の矢がそれを消し飛ばす。

 プラズマビームは、ライフルを一瞬にして鉄屑に変えていた。

 通信回線が開かれ、ファントム・マヤの声が飛び込んでくる。


「降伏したほうがいい。君たちはもう、野兎のように狩られる側だよ」


 ドクターは舌打ちすると、高周波ブレードのナイフを抜き格闘戦を試みる。

 ドクター・グラビティが最後にみたのは、自身の額に食い込む光の刃であった。



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