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第28話「これからおれたちは、世界中を敵にまわす」

 全員が立ち上がり、装備を確認する。

 おれは、部屋の外に出て廊下を歩き出す。

 ドクターが、追いかけてきておれにならぶ。


「威力偵察で、どれだけ損耗をだしたんだ」


 おれの問いにドクターは、少し不機嫌な声でこたえる。


「ハウンド・クラスは、全滅。アイゼン・イェーガーは、一体失った。それと、アイゼン・ジャックは、やつらの手にある」


 おれは、ため息をつく。


「アーク・リアクターを、奪われたのか。そいつは、少しばかり面倒だな」


 ドクターは、肩をすくめる。


「すぐに、取り戻すさ。それにあのアイアン・ジャンクは、やつらだって兵器としては使いこなせないよ」


 おれは少し、うなる。


「おれは、マーフィーの法則を信じているんだ」


 ドクターは、鼻で笑った。


「まあ屋上で、おれたちの装備をみればいい。アイアン・ジャンクが攻撃してきたら、本当にジャンクにするだけだ」


 おれはそれにはこたえず、屋上への階段をあがる。

 屋上は、夜だった。

 クラウスが根城にしているアインツベルスの古城は、既に崩壊して廃墟になってはいるが、まだしっかりした石の城郭が一部に残っている。

 そして残された城郭の屋上は、とても広い。

 満天の星空の下、その広々とした廃墟の屋上には幾つもの篝火が灯されていた。

 東の空は夜明け前の、深く重い闇に閉ざされている。

 夜が明ければ、おれたちの有利な時間が終わってしまい敗北が確定するのだが、それまでにはまだ時間があった。

 クラウスが、おれたちを出迎える。

 おれはクラウスに手をふって、笑みをなげた。


「よお、クラウス。さっきは余計なことをして、すまなかったな」


 クラウスは、いつもの何を考えているのかよく判らない笑みを浮かべている。


「いや、キャプテン。こちらこそ、気を使わせてしまったようだね。礼を、いっておくよ」


 おれは、のどの奥で笑った。

 クラウスは珍しく王族らしい、鷹揚な態度をみせる。


「まあ、うまくやっていこうぜ」


 おれはクラウスに手をふり、屋上を進む。

 屋上には、ワイバーンと呼ばれる小ぶりの竜たちが待機していた。

 小ぶりとはいえ、翼を広げれば10メートルはあるだろうと思える。

 頭の先からしっぽまでは、7、8メートルくらいか。

 ワイバーンの燃えるような真紅の鱗が篝火の光を受け、夜の闇の中で輝いている。

 そのワイバーンたちよりもう少し小さい、ドラゴネットと呼ばれる竜たちもいた。

 こちらは、翼を広げて5メートルほどだろうか。

 ワイバーンが五頭、ドラゴネットが八頭そろっていた。

 ドクター・グラビティが、ワイバーンを指さす。


「見てくれ、こいつらはサイドワインダーを肩に装備している」

「ほう」


 パイロンを鱗にボルトで固定し、三メートル近い空対空ミサイルを左右に一機づつ装着しているようだ。


「こんな竜が、よくいうことをきくもんだね」


 おれの言葉にドクターが、にやりと笑う。


「クラウスが契約しているメリュジーナは、ワイバーン族の王でもあるからな。まあ、戦闘用AIも、脳内にダウンロード済みだが」


 おれは、竜をしげしげと見つめた。


「こんなでかい図体の竜が、よく飛べるもんだな」


 ドクターは、ワイバーンの胴体を指さす。


「こいつらは体内で常温核融合をおこし、血を元素変換で燃焼させて空を飛ぶ。胴体にはジェットみたいな吸気口と排気口があるぜ」

「魔法で飛ぶというわけでは、ないんだな」


 おれの問いに、ドクターがうなずいた。


「大丈夫だ、ファントム・マヤが魔法を無効化しても影響はない」


 ドクターは、ミサイルの代わりにシートを背中に装備したワイバーンを指さす。


「おれはあいつに乗って、指揮をとる。まあ、航空戦力は敵にはなさそうだから、ファントム・マヤがアイアン・ジャンクで出てきたときの迎撃用だね。傭兵たちとナイト・ビッチにはドラゴネットで、降下してもらう」

「マムとブラック・デスは、水中からだな」


 ドクターは、うなずく。


「水中には、ズメイという竜がいる。まあこいつもメリュジーナの臣下らしく、おれたちの味方だ」


 ドクターが言い終えたタイミングで、アイゼン・イェーガーの装備を終えたナイト・ビッチが屋上に姿を現す。

 傭兵たちを、後ろにひきつれていた。

 ナイト・ビッチは、馬に跨がる要領でドラゴネットの背に乗る。

 傭兵たちも、それにならった。


「ナイト・ビッチたちが上で陽動している間に、マムとブラックデスがジークフリート公子を始末し、ランゲ・ラウフを奪う」


 おれは頷くと、煙草を咥え火をともす。


「で、あれはどこにある?」

「あれって、なんだ」


 おれは、煙草の煙を吐く。

 闇の中、紫煙が篝火の光をうけ白く漂う。


「決まってる、シュヴァルツだよ」


 ドクターは、眉間に皺をよせる。

 背後を、指さした。

 宝石のように星々が輝く夜空に、巨鯨のような飛空船が夜空より黒いシルエットを浮かびあがらせている。

 硬式飛行船のことを、ここでは飛空船と呼んでいた。


「キャップ、あんたとクラウスが乗る船に積んでる。シュヴァルツ・ジャック、あれはジョーカーだ。あれを使うのは、最後の最後だぜ」


 おれは煙草を捨て、踏みにじる。


「戦力の出し惜しみは、よくないなあ」


 ドクターは、鼻で笑う。


「あれは、レアメタルを燃やして飛ぶようなもんだぞ。10万ドルが、秒で消える」


 おれは、大笑いする。


「おれたちは史上最も高価な爆撃機、B2を使い捨てたんだぜ。今更なんだよ」


 ドクターは、首をふる。


「あんときはコークで荒稼ぎした泡銭があったし、後先考えてなかったからな。これからおれたちは、世界中を敵にまわすんだぞ」


 そのとき、ナイト・ビッチが軽く手をふりドラゴネットを駆って夜空に昇っていった。

 ジェットのような排気が屋上を吹き抜け、甲高い音を響かせる。

 小さな嵐を巻き起こしながら、傭兵たちのドラゴネットたちも続く。


「おれも、ワイバーンと共にでる。いいか、シュヴァルツは切り札だ。切りどころを、間違うなよ」


 おれは笑って、敬礼をした。

 ドクターはおれを少し睨むと、アイゼン・イェーガーを装着しワイバーンに跨がる。

 ワイバーンたちは排気の轟音と熱で屋上を蹂躙しながら、夜空へ飛び立っていく。

 ひとり残ったおれは、船の下に向かう。

 船体の下部から垂らされたラダーを、おれは掴んだ。

 ラダーは巻き上げられてゆき、おれは船内へとはいる。

 暗い通路を抜けると、艦橋にたどりついた。

 飛空船は貴族の持ち物らしく、艦橋はちょっとしたサロンのように凝った装飾がほどこされている。

 豪華な椅子に腰をかけているクラウスが、おれに軽く手をふった。

 パイロットが、レバーを操作しバラストを捨て船は浮上してゆく。

 窓の外に地上を暗く流れる、イルーク河が見おろせた。

 二頭のワイバーンに曳航されながら、船は夜空を渡り始める。


「楽しそうだね」


 クラウスに声をかけられ、おれは自分が笑っていたことに気がつく。

 おれは、肩をすくめた。


「四機の攻撃機、三体のパワードスーツ、一個小隊の降下兵。さすがにファントム・マヤも手を焼く気がするんだが」


 おれは、笑みを止めれない。


「あいつなら、この状況をくつがえすだろうな。それを目の前で見られると思うと、わくわくするぜ」


 クラウスは、呆れ顔でおれをみる。


「でもキャプテン、最後には君が勝つんだろう」

「そいつは判らんが」


 おれは、クラウスに笑みをなげる。


「楽しめるのは、間違いない」


 めずらしく、クラウスが歪んだ笑みをみせた。


「リアルディールだな」


 クラウスは、おれを指さす。


「君は、リアルディール・フールだよ。キャプテン」


 おれは笑いながら、クラウスに向かって親指をたてる。



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