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第21話「おれたちは大馬鹿だ」

 やつは趣味として、コークの生成をやっていた。

 やつの主張ではもともとコークの身体依存度は煙草より低いが、精神依存度も生成方法の工夫によって低くできるという。

 ドクター・グラビティはマリファナ並に安全なコークを開発できたと、のたまう。

 いつしかやつは自分の作品を、世にしらしめたいと思うようになったらしい。

 そしておれは、戦場で麻薬こそ我が運命と思ったおとこである。

 おれたちはいうなればエヴァンジェリストとして、コークのビジネスにのめり込むようになった。

 いつしか西海岸でおれたちの作品は、それなりに評価されるようになる。

 おれたちはコカノキを栽培しそこからコークを生成するところまで自前でやっていたので、市場で流通しているものより一桁安く提供できた。

 ただ、おれたちはそれがやっかいごとをひきおこす種であることを、理解していなかった。

 おれたちは、運命に導かれコークのビジネスを行う求道者のつもりである。

 まあ、ただの馬鹿者であったといってさしつかえない。

 しかし、世の中には純然たるビジネスとしてコークを扱うものがいる。

 かれらはおれたちとは違って、ちゃんとした(ちゃんとした?)おとなたちであり、売り上げをあげなければ上司にどやされるビジネスマンだ。

 かれらからすれば、高品質のコークをふざけた低価格で売るおれたちは、許し難い馬鹿者である。

 かれらはつまり、メキシカン・マフィアであり麻薬カルテルであった。

 カルテルの連中は、おれたちに幾度か警告をあたえる。

 その全てに嘲笑で応えたおれたちに、カルテルの連中は実力行使にでた。

 だが、そこから先はむしろおれたちの得意分野である。

 おれたちは、マッチョなメキシカン・マフィアを相手にギャングごっこをはじめた。

 まるで1930年代の禁酒法時代からやってきたギャングみたいに、街中ではでな銃撃戦をおれたちはやらかす。

 違うのは、死をまき散らすのがトンプソンやバラライカではなく、ストーナーやカラシニコフであったところか。

 おれたちは、はじめは戦闘員を削りあうただのギャングごっこをやっていた。

 しかし、ガキの遊びが常にそうであるように、いつしか互いに一線をこえていくチキンレースとなってしまう。

 まず、やつらがおれたちの表向きのオフィスへグレネードを撃ち込んだところから、掛け金を積み上げていく遊びがはじまる。

 おれたちは、その報復としてロスの高級住宅街にあるカルテル幹部の邸宅へ、突入を行った。

 暗視スコープとサプレッサー付きPDW・MP7を装備した部隊を率いて、邸宅のガードマンを皆殺しにする。

 そしてカルテルの幹部をベッドから引きずりだして、尻にナイフを突き刺した。

 これに怒ったやつらは、おれたちのコークのプラントをRPGを持ったならず者たちに襲撃させ、焼き払ってしまう。

 これにはおれたちも、かなり頭にきた。

 おれたちは退役したB2爆撃機を手に入れると、MK82爆弾を使ってコロンビアにあるやつらのプラントを村ごと消滅させる。

 さらにカルテルの最高幹部に、警告した。

 次はメキシコシティにある、おまえたちの家にぶちこんでやると。

 これは、おれたちのしでかした致命的な失敗だった。

 なぜなら、カルテルの連中は自分たちが何者であるかを思い出したからだ。

 やつらにしてみれば馬鹿なくそガキであるおれたちを、力ずくで排除できなかったのは屈辱だったろう。

 けれどやつらはなりふりかまわず、やつらの友人を利用することにした。

 カルテルの連中は、ビューローにもカンパニーにも上院議員にも友人が沢山いる。

 さらにふざけたことには、DEAにも協力者がいるのだ。

 おれたちの友人といえば、年間売上100万ドル程度のギャング団を率いるアウトローくらいで、やつらといえばおれたちが死ねば嘲り笑っておれたちのためにコニャックを飲むような連中だ。

 表の世界から攻められれば、おれたちはひとたまりもない。

 かくしてギャングごっこは終わりをつげ、ビューローとDEAに追われて西海岸におれたちの居場所はなくなる。

 命からがらシウダ―フアレスのスラムへと逃げ込んだおれたちの前にやってきたのは、驚いたことにカンパニーのエージェントだった。

 そいつはジョン・スミスと名乗ったが、後で聞いた話ではロシア系アシュケナージである。

 おまけに元スペツナズ・アルファ部隊出身の、外部委託エージェントだ。

 スーパーボウルから抜け出してきたかのように身体のがっちりした大男のスミスは、安ホテルでテ キーラを飲んでいたおれたちの前に現れるとこういった。


「ラングレーには、おまえたちを評価しているものもいる」

「へえ?」


 おれは、呆れた声をだしたがスミスは気にせず話を続ける。


「おまえたちがやったことは、ラングレーやビューロー、それにDEAの人間が一度はやってみたいと思っていたことだからな。ただし」


 スミスは、にやりと笑う。


「残念ながら、そこまでの馬鹿はいなかったということだ」


 おれは、苦笑する。


「いかにもおれたちは大馬鹿だが、カンパニーはその馬鹿に何かしてくれるというのか」


 スミスは、笑いながらうなずく。


「カルテルの相手は、そろそろ飽きたろう。新しい遊び相手を、紹介してやるよ。コンビナートの連中と、遊べばいい」

「なんだそりゃ」


 おれの問いに、隣にいたドクター・グラビティが答える。


「ロシアン・マフィアだよ」


 ほう、おれは吐息をつき、スミスは頷く。


「やつらは極東の島国で、アフガンのヘロインをさばいている。そいつらを叩くんなら、ラングレーもDEAも文句はない」


 おれは、狼のように笑う。


「いいぜ。やろうじゃないか」



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