2節 上巻 透、アヴァロンを救う!
今回は上巻下巻と分けることにしました!
いつも読んでくださる方、ありがとうございます。
魔剣のあるアヴァロンに向かう途中の山みちにて
「まだなの〜?もう疲れたよー。休憩しよ?休憩!」
「5分前に休憩したばっかじゃねぇか!」
カエデは比類ない力を持ちながらも積極的にその力を使おうとはしなかった。やろうと思えばカエデとツバキさんが協力して、魔剣の前まで転移できるらしい。だが、もちろんそんなことは俺が許さない。そんな魔剣の前までひとっ飛びとか、冒険への冒涜である。
「かといって確かにこの山辛すぎるよなぁ。なぁ!おっちゃん!これいつになったら着くんだ?」
「なぁんだあんちゃん!もうへばっちまったのか?俺の背中にしがみつけ、と言いたいところだが、俺はこの姉ちゃん運ぶのに手一杯だ!悪いな!」
俺はカエデを待ちつつ、ゲイルの方を見上げた。
ゲイルはもう手一杯といっていたが、後ろに乗せたツバキさんを物ともせず上がっていっている。
「まじで、おっちゃんの先祖猿だったんじゃないの?あ、いやそれは人間なら普通か!なら、両親が猿とか?」
などと俺は独り言を言ってると、カエデがようやく登ってきた。
「ツバキほんとずるい!私が飛行魔法できるんだからあの子もできないわけないよ!1人だけ楽しちゃってさ!」
俺はブツブツ文句文句を言うカエデを横目に見ながら登ってきた道を見た。
「ちょっと待ちなさいよ!置いていかないで!」
山を登ってヘトヘトになっているヒイラギさんを見てこの前のヒイラギさんはどうしたのだろう?本当に彼女は魔王なのだろうか?などという考えが頭をよぎった。
「何してるんですか?ヒヒラさん?」
俺はヒイラギさんに周りの人から自分の本名がバレないようにしてほしいと頼まれたのでヒヒラさんと呼ぶことにしたのだ。
「あの人ってヒヒラさんって言うんだ!あの人なかなか名前明かさないからなんて呼べばいいか困ってたんだよね!透だけに名前を明かすってあたり、彼女あんたのこと好きなんじゃないの〜?」
「いや、それだけはないな。うん、断言できるよ。」
俺はニヤニヤしながらツンツンしてくるカエデに呆れながら答えた。
それもそうだ。だって先程殺されかけたばかりなのだから。
俺はヒイラギ改めヒヒラさんを待ってから俺たち3人は先に行ってしまったゲイルとツバキさんを追った。
時間をかけながらも俺たち一行は山の頂上へとたどり着いた。そこにはいつからあるのか、神殿が建てられていた。
「ここがアヴァロン?ただの神殿にしか見えないけど……」
「アヴァロンはここではないわ。ここからのみ転移できる場所のことよ。」
ツバキさんはまるで知っているかのような足取りで神殿を進んで行った。 俺たちがツバキさんについていくとその先には湖が広がっていた。
「こんなところに湖?なんでこんなところに?」
「さぁ、ここに入ってください。ここの先にアヴァロンがあります。」
ツバキさんは先に湖へ入っていってしまった。カエデやゲイルも飛び込んでしまった。俺も飛び込もうとするとヒヒラさん、ヒイラギが止めた。
「待って、殺そうとした人に言うのもなんだけどほんとにここがアヴァロンに通じるって信用できるの?」
確かにそうかもしれない。ヒイラギの言うことが正しければこの先がアヴァロンである保証もない。だが……
「俺はツバキさんを信じるよ。サチ母ちゃんにも頼まれてるしね。それに今更悩んだところで他のみんなは入っちゃったしね!」
「確かにそうね。わかったわ。行きましょう。」
「何?俺のこと心配してるの?大丈夫だって、ちゃんとヒイラギのことも信用してるから」
「何言ってるの?そうと決まればさっさといくわよ。でも覚悟はしておくことね。」
俺はカッコつけたのに無下に扱われたことに傷つきながらもヒイラギとともに湖に飛び込んだ。
目を開くとそこにはもう一つの世界が広がっていた。
理想郷とは文字通り人々の理想の果てにある世界のことを指す。そして人の理想とは千差万別、つまり人の数だけ理想郷があると言ってもいい。しかし、理想郷にまで辿り着く理想は数少ない。そしてこのアヴァロンは数少ない理想の果ての一つ、人の感情を無視し、合理性のみを求め、圧倒的力によって支配されてきた世界であった。
「なんだよこれ。人が一切言葉を話すことなく黙々と畑仕事をしてやがるのか⁉︎」
俺は驚愕した。理想郷、それは楽園、誰もが笑い誰もが幸せに暮らすものだと思っていた。だが、この理想郷はその笑うという感情さえ消されてしまっている。
「理想郷なんてのは名ばかり。実際に誰もが幸せな国など存在するわけがない。それを理解した?勇者。」
現実なんてこんなものだとヒイラギは教えてくれた。この世界を見て俺はいかに自分たちの世界が幸せかを見に染みて感じた。
「ようやく来たね勇者。早速だけど殺させてもらうよ。」
声のした方向に目をやると1人の悪魔と大勢の王都の騎士がいた。
「申し遅れました。いくら人間とはいえ礼儀を示さなければ、私は魔王テスカ様の配下悪魔大元帥クラネルと申すものです。」
「俺は勇者トオルだ!てめぇ!王都の騎士に何しやがった!」
「何とは?ただ服従させたまでです。弱いものが強きものに付き従うのは道理でしょう?」
俺はこの理想郷の現状や目の前の悪魔の登場によって怒りで我を忘れかけた。しかし、俺が怒ったところで現状は変わらないと悟り、冷静になる。どうやら転移先が各々違うようだ。同時に飛んだ俺とヒイラギは一緒のようだが……皆も無事だろうか?
「他の仲間ももう既に塵に返されている頃でしょう。私の直属の部下を送りましたからね。それはそうと、そこの元魔王は何をしているのですか?自分の故郷すら守れない雑魚が、とうとう人間風情の下にでもついたのですか?」
「下?面白いことを言うものね。勘違いしないで。こいつ(勇者)が私の下の間違いよ。」
え?俺いつからヒイラギの下だったの?と思うと同時にデタラメなこと言ってんじゃねぇ!と言いたい気持ちになったが、黙っておくことにした。
「ではそこの勇者?そこの女を置いて私の元へ来ませんか?どうせ下につくならもっと強い者の下に着いた方が良いでしょう?」
そうクラネルが言うとヒイラギは俯いてしまった。過去に何があってどうやら自分に自信がないようだ。どう転んでもクラネルの配下につくはずないのに…
「そうね、私みたいなのと一緒にいても……」
「顔上げろよ、ヒイラギ。過去に何があったかは知らない。でも安心しろよ。お前の下にもなるつもりもなければアイツの下にもならない。俺たちはもう戦友だろ?もっと俺のこと信じて欲しいもんだぜ。」
さて、数千の騎士と悪魔大元帥、どう見ても分が悪い。逃げきれる者でもなさそうだ。ヒイラギは安心したのか泣いているので戦えなさそうだ。こうなったら、俺1人で戦うということになるのだろうか?
「なぁヒイラギ?そろそろ泣き止んでくれよ。あとで泣いても構わないからさ。な?まじでやばいんだって。目の前!悪魔と王都の騎士来てるから!」
無視!
こうなったら……、俺は決意を固め少しでも生き残れるようヒイラギを担いで一目散に逃げた。
ここにきて元農民であったことが役に立った。米俵を毎日何個も担いで運んでいたので、女の子1人を担ぐくらいどうということはないのだ。
しかし、相手は騎士と悪魔。騎士も毎日鍛えているので走ってくる速さも速い。そして悪魔、こいつは浮かんでるため殺ろうと思えばいつでも俺らを殺せるだろうが、この状況を楽しんでるのか襲っては来ない。
「くそー!まじでやばい!追いつかれる!」
走っていると森が見えた。しめた!と思い森へ駆け込んだ。ここなら平原に比べたら見つからずらいだろうと思ったのだった。
だがそれは甘かった。むしろクラネルの思う壺であった。
クラネルは火属性魔法をここら一帯の森にむけて放った。
炎の大海‼︎
そう唱えたクラネルの魔法で森は一瞬で火の海と化した。そして、俺たちの逃げ道はなくなってしまった。
酸素が薄くなり意識が朦朧とする中、俺は声を聞いた。
「ありがとう、トオル。」
その直後俺は意識を失った。
下巻は今日中に出す予定です。お楽しみに!