1節 透、剣術を磨く!
ようやく王都編(自分でそう思ってた)が終わったのでいよいよ2章突入です!
ではどうぞ!
何故だろう、おかしい。予期せぬ事態が起こってしまったのだ。いや、正確に言うならば、予期できたかもしれないのに現実から目を背けた。の方が正しいのかもしれない。こんなことになってしまった要因は約1年前のメンバーを募る時だ。いやもっと前なのかもしれない。
「嘘だ……そんな、みんながここまで強いだなんて聞いてないよぉ〜!!!」
そんな悲痛な叫びはこだましながら闇の中へ消えていった。
予想はしていた。あぁこの人達強いだろうな、と。だが予想をはるかに上回る強さだったのだ。
王都を出発して早1年、最初は、勇者になったので、女の子を助けて「大丈夫か?俺がきたからもう安心だぜ!(ギンッ‼︎)」とキメ顔をしながら言って、その助けた女の子が俺に惚れるという夢を持っていた。
しかし!!夢は夢、現実はもっと残酷だった。足手まといになるだけならまだいい!足手まといの状態から役に立てる状態に頑張ろうとする。そうするとどんどん強くなれる。だがしかし!このパーティーの面子全員が俺を守ろうとするのだ。
"守ってくれる"はありがたいことだと確かに思う。だが、俺たちのパーティーは俺が剣や槍で闘おうとするとゲイルや赤髪の美人さんによって早々と片付けられ、俺が魔法を使って攻撃しようとすると、より高速の詠唱を唱え、かつ威力の高い魔法をツバキさんが発動して、先に倒してしまう。ではカエデは?そう、こいつはてっきり俺と同じで足手まといの部類になるかと思いきや、前衛もできるわ、後衛もできるわでメチャメチャ優秀だったのだ。
結論を言うと俺は戦わせてもらえていない。そのため経験が積めないので弱いままなのだ。
はっきり言ってしまえば、俺が居ようと居まいと変わらない。なんならこいつらだけで魔王なんか倒せるんじゃないかって感じだ。
「はぁ〜俺の存在意義って何だろ?」
みんなで焚き火を囲んでいる時に俺がそう呟くと、
「なんだ?あんちゃん、まだそんなこと気にしてんのか?気にすんなって!そのうち強くなるって!
ゲイルはいつも俺を励まそうとそう言ってくれる優しいやつだ。だが、
「おっちゃん!俺はチヤホ……じゃなくて、みんなを助けるヒーローになりたいんだ!それなのに、みんなは強くなっているじゃ……」
あれ?実際みんな強くなってんのか?最初からみんな化け物みたいに強かったからよくわからない。
「では、私が剣を教えて差し上げましょうか?」
そう言ってくれたのは赤髪の美女さんだった。
「では、早速始めますか?ここでは何ですから向こうの川岸でやりましょう。」
そうして、俺と赤髪の美女さんとの特訓が始まった。
川岸に向かう途中、俺はまだ赤髪の美女さんの名前を聞いてないと思い、思い切って聞いてみた。
「そういえば、お名前とかってまだ、聞いてなかったですよね?お伺いしてもよろしいですか?」
「それも含めて川岸でお話ししましょう。」
しばらく歩いていくと開けた場所に出た。
「到着です。ここなら誰もいないでしょうが念のため……」
そう言って赤髪の美女さんは指をパチンッ!と鳴らすと周りに結界が張られた。
「うわ!すげぇ!何今の!俺にも教えて!!」
俺がそう言うと
「では、改めて。私の名前はヒイラギ=スターチス。ヒイラギとでも呼んでください。」
うん、軽く無視されたわ。
まぁそれはさておき、そう名乗った赤髪の美女、改めヒイラギは何故今まで名乗らなかったのだろうか?
「どうして今まで名前を隠していたんですか?」
「あなたはこの名前をご存じないのですか?」
うーん、聞いたことがない。ヒイラギ=スターチス?うーん、知らない。だが、この女性はもしや名の知れた人なのかもしれない。それを知らないとなると俺が世間知らずだとバレてしまう。
「あ、あー!ヒ……ヒイラギさんね!はいはい!聞いたことありますよ!もー!俺が知らないわけないじゃないですか〜」
そう俺が言うと
「ではこの意味もわかりますよね?」
ヒイラギは剣を抜いてきた。お!ようやく稽古なのか!!頑張るぞ!
「はい!もちろんです!えーっと剣は……」
「こちらを使ってください。」
「あー!ありがとうごさいま……」
渡されたのはてっきり木刀とかだと思いきや真剣。それも素人の目から見てもかなりの業物だとわかる代物だ。
「さぁ、構えてください。」
「いや、ちょま、これ真剣じゃ……」
俺が戸惑っているとヒイラギさんはそう言った。
まぁ、鍛錬なんだから切られることはないか。
よし!行くぞ!と心を決め、剣を構えた。
「さあ、どんどんきてください!!」
そう俺が言うと目の前からヒイラギさんが消えた。いや、正確に言うならば目に見えない速さで移動したのだ。
いやいや、ガチすぎるだろ!?
そう俺が思い、後ずさると川岸にあった石につまずき、尻餅をついた。それと同時に頭をヒイラギの剣が掠めた。危うく漏らすかと思った。
「運がいい方だ。だがこれで終わりです。」
「あっぶねぇ!死ぬかと思った!何てことすんだよ!ヒイラギ!」
ヒイラギは俺に剣を振り下ろそうとするのをやめた。
「何を言っているのですか?魔王である私が勇者を殺さないわけないでしょ?」
「え?魔王?」
「え?」
理解ができなかった。ヒイラギが魔王?ヒイラギなんて名前の魔王いたか?あれ?これ鍛錬じゃなかったの?
などと色々な考えが頭を回った。それは、どうやら向こうも同じようだ。
「あなたは私の名前を聞いて魔王の1人だと気づいたのではなかったのですか⁉︎」
「え⁉︎あ、いやぁー、何といいますか、その、知ったかしてすみませんでした‼︎俺だけ知らないとか恥ずかしいじゃないですか!」
俺は顔を赤らめながら言った。
「まったく……もういいわ!あなた程度なら見えた未来のようなことはないだろうし、興が冷めた。私は今後も私の利益のためにあなたについて行くわ。もちろん、剣だって教えてもいい。だけど馴れ馴れしくはしないでちょうだい。」
そう刺々しく言うと去っていこうとした。
「待ってよ、ヒイラギさん!これで終わり?剣術は?」
俺が呼び止めると
「あなたも懲りないわね。いいわ。この木刀を使いましょう。次はあんな幸運ないと思いなさい!さぁ、構えて、始めるわよ!」
ヒイラギは半ば諦めながらも剣術に付き合ってくれた。
ヒイラギと透がこんなやり取りをしている少し前
カエデはみたらし団子を食べながら釣りをしていた。
「なかなか釣れないな〜、もう透にぃはひどいよ!せっかく私が剣を教えてあげようと思ってたのに!もっとわたしを頼ればいいのに‼︎」
そう言うと食べ終わったみたらし団子の串を放り投げた。
もう30匹ほど獲ったのでキャンプ地に戻ることにした。帰り道の途中、かなり強そうな亀のモンスターが襲ってきた。
「よーし!このどうしようもないイライラをぶつけちゃお!」
獲った魚を入れたカゴを置き、上に来ていた上着を置いてカエデは拳を握った。
どんなに強い騎士、冒険者であろうとこの強さのモンスターを素手で倒すなどあり得ない話である。
だが、彼女は華奢な身体なのにそれを可能とする。理由は単純、普通の騎士などは剣や槍、自分の技を極める代わりに魔法がまったくできないところを魔法までもを使いこなせるからである。
彼女は魔法も近接戦闘もすべて得意とする。
彼女はその握った拳に重力魔法と風属性、火属性の魔法を纏わせ相手を殴り飛ばした。その威力は本気でやれば惑星一個を破壊するレベルの破壊力を生み出す。しかし、そんなことはしない、彼女は手加減し隕石衝突レベルの力にとどめた。
そんな拳を思い切り振るわれた者はもはや可哀想としか言いようがない。もちろんその亀のモンスターも跡形もなく消し飛んだ。もちろん置いておいた魚や上着もろとも。
「あぁ、スッキリした!帰ろ帰ろ!あれ?私の上着と獲った魚は⁉︎」
瞬時に一緒に消しとばしたことに気づき、一瞬の感情に任せ、そんな攻撃したことを後悔した。
俺とヒイラギ、そしてしょんぼりしたカエデがテントに戻って来た。
「あんちゃん、こりゃこっぴどく締められたもんだな」
そう笑いながら傷だらけの俺を労った。
「勇者トオル?こんなことで根を上げてしまったのですか?これから毎晩やりますから覚悟してください。」
俺が、ヒイラギは鬼だ……と思った瞬間であった。
「ところでカエデ?釣り道具や上着、そして魚はどうしたのですか?まさか1匹もいないと?」
そう脅しをかけながらツバキさんはカエデに尋ねた。
「や、やだな〜!冗談キツイよ!ツバキ!もちろん獲ったよ!魚は!」
そう、あの後すぐにカエデは川へ戻り、電気魔法で一気に50匹ほどの魚を感電させて捕まえて来たのだ。
「ほらこれ!じゃーーん!こんなに釣れたんだよ!」
「すげぇ!すごいぜ、カエデ!見直しちまったぜ!」
「そうだぜ!嬢ちゃん!こんだけの獲物を獲るなんて見直しちまったぜ!」
俺とゲイルが口々にそう言うとツバキさんが反論してきた。
「えぇ、魚を獲って来てくれたのは感謝しましょう。でも隠しても無駄よカエデ!あなたそれ、魔法で獲ったでしょ?」
カエデは何のことだかさっぱりわからないという顔をしている。
俺はさっきヒイラギさんが言ってることを思い出した。
「あのツバキという女、あれはヤバイなはっきり言って底が見えない、そういう意味ではお前の妹?のカエデやゲイルよりもね。だから迂闊にあいつと2人きりにならないほうがいいわね。」
「何で殺すつもりだった俺を心配してんの?」
「な、何よ!別にあんたのこと心配したんじゃないわよ!」
俺はそのことを考えつつカエデの獲ってきた魚を貪るのだった。
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