くっ殺さん
Twitter上での出来事。
「タックさんには『私は雪の日に死にたい』で始まり、『恋って偉大だ』で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以上でお願いします」
「えっ、『私は~死にたい』なんて書いたらTwitterで凍結されるんじゃ……?」
「はい」
「えぇ……ムリ」
諦めなかった結果。
「私は雪の日に……くっ、殺せ!」
突如、世界が神の手によって言論統制され、危ない言葉が全て“女騎士語録”にオート変換されるようになってしまった。
例えば神に背く自死に関連するような言葉は『くっ殺』になってしまう。
また、通りすがりの人間を殺すときの迫力ある言葉も――
「絶対にオークなんかには負けないんだからっ!」
――というオート変換具合だ。
最初は王国の人間達も害はないだろうと思っていたのだが、現実は厳しかった。
考えてもみてくれ。
この女騎士語録は、見目麗しい女性が言うから様になっているのであって、それ以外の人間が使うと悲惨である。
そう……俺のようなヒゲ面マッチョの盗賊が使うとどうなるか……。
「ボス、商人の馬車がきますぜ」
「ぐへへ……カモがネギしょってやってきてるようなもんだぜ……。オイ、いくぞ野郎共! 絶対にオークなんかには負けないんだからっ!」
絶妙に気持ち悪いし、負けフラグにしか聞こえなくなってしまう。
というか相手が人間でもオーク呼びになる。
これには周りの部下たちも苦虫を噛み潰したような顔で、士気が死期になってしまうくらいだ。
「ぼ、ボス!? あの商人の馬車の中に用心棒が隠れてやしたぁぁ!?」
「なにぃぃぃ!?」
「あ、あああ……逆に囲まれちまいやした」
「諦めんな! まだだ、くっ、ひと思いに殺せ! 快楽になんか負けはしない!」
「汚らしい盗賊め、用心棒にオレ様がいる限り、絶対に負けないんだからっ!」
敵も味方も女騎士語録に変換されるため、混乱が生じた。
その間に俺一人だけ逃げ出すことができた。
「くそっ、さっき剣で受けた傷が……。痛みになんか……オークになんか絶対に負けないんだから……」
俺は気を失った。
――それから数年がたった。
大体の言葉に『オーク』とか入ってしまうために、一生まともな会話ができないと思っていた。
しかし、それは間違いだった。
「くっ、殺せ!」
「あら、ダーリン。今日は狩りの調子がいいわね」
「絶対にオークになんか負けないんだからっ!」
俺はオークの集落に拾われて、オークの嫁をもらって元気にやっています。
オークの嫁が相手なら、女騎士語録に変換されても平気だったのだ。
恋って偉大だ。
私は恥ずかしくて死にたい(オチ)。