救いの天使は今ここに
変わりゆく天使と変われない悪魔。
キラキラとした目で見つめられる。
「寂しかったんですよ、ね」
ああ、そうなのだろう。誰も寄り添ってはくれなかった。だから感傷やヒトとの接し方を学べなどとヤツらに言われてもできなかった。
「ずっと上にいなきゃいけないのに、誰も助けてはくれなかったでしょう」
ああ、そうだ。誰も、助けてはくれなかった。だって助ける必要なんかない。無駄に心なんて物を持ち合わせているだけで、完全な存在だからだ。その中でも一つ抜けて異端と言われるのも頷ける。ヤツらは自分のように人と関わりながら干渉もしないなど考えてもいない。
「力を持っているから、どんな人間だって助けようと考えることすらなかったでしょう」
あぁ、そうだ、誰も、手を差し伸べようとはしなかった。だが自分はそれを不快に思うこともなかった。必要などない。不愉快だという感情も、元々は希薄なのだから。悪魔の王の中でも、自分は世間で思われている様に怒りも苛立ちもせず、何も感じなかった。
「きっと、あなたに、いえ、君に拾われなかったら僕もそうなっていたのかもしれません」
あぁ、そうかも、しれないな。記憶のないお前は、きっとぼろぼろになっていただろう。ヤツらならそうした。気まぐれに優しいフリはするかもしれないが、最終的には何かしら悪意を向けていただろう。自分だとて、そうしたはずなんだ。ただ、今は気が削がれただけで。
「私の中に残っているのかもしれないんです。光帝も、きっと同じように苦しんだのでしょうね」
あぁ、そうかも、しれない。光帝はいつも、何かに苦しんでいた。アレは我々よりもシステムに近いくせして、慈悲や愛などを人間のようにはっきりと持ち合わせていた。我々悪魔では、慈悲や愛があっても希薄に過ぎる。
「寂しいってずっと言えなかったのでしょう。それで、今自分を見てもらえて、泣いてしまったんですよね」
あぁ、そうだ。正面から見つめられたのは、初めてだ。
知った様な口を聞くななんて思っても、記憶がない癖に何処にそんな無駄なものを刻み込んでいるんだか。年月を重ねただけの瞳は、我々と共通のものがあった。
「これまでに泣けなかった分、気づかないうちに苦しくなってたんですね」
あぁ、そうだ!ずっとずっと、泣きたくてしょうがなかった!!感情が完成してからずっと。傷付くことがわかっていて感情の発露などするものかと。抑え込んできた!
「ずっとずっと、辛かったでしょう。寂しかったでしょう、悲しかったでしょう。きっとあなたは気付いてはいなかったけど」
あぁ、気付いていたさ。それでも周りに何もいない。泣いたところで助けてはくれない。気付かないふりで誤魔化していた。でもそれも、もう限界だった!!寂しくて寂しくてたまらなかった!!
だから、こんな騒がしい、人間の多く住む街で、星を眺め続けていた。
「もう大丈夫なんです、だから…」
辛い、寂しい。悔しい。悲しい。負の感情などハッキリと感じるだけ無駄なんだ。
「だから、私と一緒に暮らしてくれませんか?」
どうにかして解消されないうちは。
だから…僕と一緒に暮らしてくれないか?
はっぴぃえんど。
読み方解説
↓表記 ↓名称 ↓簡単な読み、通称
光帝 オルディネ こうてい