ルー=ガオーハウスの謎
シャイン達が孤児院に着くと、ちょうどそこへ出迎えと思われる女性が一人現れた。
「もしかして、あなた達、精霊使い《スピリットマスター》?」
「おう!そうだぜ!」
シャインは女性の問いかけに答えた。
一見して精霊使いか否かを見分ける事は難しい。変身をしていなければ、外見上は常人にしか見えないのだ。
「良かった。無事で何よりだわ。私はジェニファー。この孤児院でマザーをしているわ。今回のクエストの依頼者よ」
ジェニファーと名乗る女性、ブロンドの長い髪をしており、美しい顔立ち。大人の雰囲気を醸し出している。
「俺は、シャイン」
「アリスよ」
「グレイズだ」
簡単な自己紹介を済ませる。
「いきなりで、申し訳ないのだけれど、あなた達の内、一人で良いから、精霊使い《スピリットマスター》だという証を見せて欲しいわ。あの一件以来、ここは厳戒体制になってるの」
そうゆう事なら仕方がない。
あれほどの事件だ。神経質にもなるだろう。
「分かった……なら、アテナ!」
そういうとシャインの背後に天使の精霊・アテナが現れた。
「おお……」
金色の輝き、その女性の美しさに思わず釘付けになる。
「相変わらず、綺麗だなぁ、アテナちゃんは」
グレイズが褒め称える。
「コレでいいか?」
「え、ええ……」
ジェニファーは驚いた表情で言った。
「アテナご苦労様。戻っていいぜ」
シャインが言うとアテナはフッと笑い姿を消した。
「お、驚いたわ……まさか、あんなに立派な精霊を持ってるなんて」
「へへっ、アテナは俺の自慢の精霊さ」
「とても心強いわ。それじゃあ、中に案内するから、ついてきて頂戴」
そう言うと、ジェニファーに連れられ、三人の精霊使いは、孤児院の中へと案内された。
♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢
孤児院―ルー=ガオーハウスには大きな建造物が沢山あり、敷地も広い。
しかし、間近で見ると色落ちした壁や、蜘蛛の巣、割れたガラスなどがあり、300年……いや、もっとかもしれない。ともかく、途方も無い年季を感じさせた。
「着いたわ」
ジェニファーに誘導されたシャイン達は孤児院の一室へと案内された。
「適当にかけて頂戴」
ジェニファーに言われ、シャイン達は部屋にある椅子に腰を下ろす。
「さて、早速、依頼内容の確認をするわ。先日、この孤児院―ルー=ガオーハウスが一匹の狼男に襲撃された……死者を含め重軽傷者多数。狼男はひとしきり、暴れまわった後に森林に姿を消した。依頼は狼男の速やかな討伐。手段は問わないわ」
ジェニファーが淡々と説明する。
「分かった。だけど、一つ確認がある」
「何?」
「襲撃された時、この孤児院に行方不明者はいなかった?」
「⁈」
「いや、なに……狼男とは言うけど、その正体は精霊に取り憑かれた人間だ。もしかしたら、この孤児院にそいつがいたんじゃないかってさ」
シャインはまるで事件を解く刑事のように語る。
「それは……」
ジェニファーが口ごもる。
「ビンゴね、誰なの?その子」
アリスが聞く。
「実は、一人だけいるわ。最初は狼男に殺されたと思ったんだけど、遺体の中にもいなくて……」
「その子の名前は?」
グレイズが結論を求める。
「名前はウィル……12歳の少年よ。あまり、他人と関わらない、大人しくて、自分の世界を持ってるような……そんな子よ」
「なるほどね、なら、後は本人に聞くしかねえな!」
「そうね!よーしっ、やる事は決まったし、皆!がんばろ‼︎」
アリスが立ち上がる。
「そうだな!ああ〜また、あの美人さんに会えるかなぁ」
心底、楽しみな風で、グレイズが言う。
「おい、グレイズ!不謹慎だぜ!」
シャインがグレイズをたしなめる。
「おっと、すまねえ」
空気を察し、即座にグレイズは謝った。
「あなた達、狼男が恐ろしくないの?」
「まあな、アイツは大した事ねえよ」
「アイツって?どういう……」
まるで、ワーウルフと知人かのような口調に疑問を抱いた。
「実は俺たち、ここへ来る前に、狼男と一回、戦ってるんだ。でも、その時は全然大した事無かった。まぁ、ギリギリのところで逃げられちまったんだがな」
「そんな……まさか」
ジェニファーは驚嘆した。
正直、この少年達の実力をあまり信用していなかった。
こんな子供に、あのワーウルフが倒せるのかと……最初に見た時は、ハズレだとさえ思っていたのだ。
しかし……もし、少年達の言ってることが事実だとしたら……⁈
この少年達は自分が思っているより、はるかに優秀なのかもしれない。
「それで、これからどうするの?」
ジェニファーが質問する。
「ああ、俺達は、ここで奴らを迎え撃とうと思う。奴らの狙いが俺達にしろ、ここの人達にしろ。黙ってれば、向こうから来るだろう」
「そうね!じゃあ、今のうちに私は怪我した人達を治療しようかしら」
「治療って?あなた、もしかして、傷を癒せるの?」
「うん!私の精霊なら、どんなひどい怪我をしてる人でも、直せちゃうんだから!」
「まさか……そんなことって」
「マジだぜ〜姉ちゃん。アリスちゃんにかかればどんな傷でも一瞬で元どおりよ。俺達が承認さ」
「そ……それならお願いしてもいいかしら?怪我人は医務室で休んでるわ。ついてきて頂戴」
「うん!シャインとグレイズは?」
「ああ、俺達は外の監視をしてるよ。奴らがいつきても大丈夫なようにな」
「そう!じゃあ皆、また後でね!」
アリスが告げると、各々は持ち場へと向かった。
♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢
ルー=ガオーハウスの敷地は広い。
グレイズとシャインはそれぞれ、どこから襲撃されても、即座に対応できる位置―互いの死角をうめつつ、なるべく、広範囲を見渡せる位置に身を構えていた……
(ふぅ……一体、奴らどこから攻めて来るんだ?)
建物の上に位置どりつつ、シャインは胸中で呟いた。
(この、狼男にはまだやってもらいたいことがあるの)
あの女の言葉が脳裏をよぎる……
恐らく、黒幕は奴だ。
孤児院の一人に悪しき精霊を差し向け、己の意のままに操っている。
目的が何なのかは不明だ。
今後、この地に立ち寄らずエスケープ……
それも、十分あり得る……
しかし、シャインの感が告げていた。
奴は再び現れると……‼︎
確証はない。
全ては推測の域に過ぎない。
だが、シャインは思う。
アイツはまだ、何かしようとしてる。
何をするかは分からない。
だが、たとえ相手が何をしてこようとも、自分がやる事は決まっている。
(次は必ず倒す‼︎)
燃え滾る闘志を胸に秘め、シャインは眼前に目を凝らす。
グレイズはシャインとは丁度反対側、言わば正門の裏側を見張っていた。
(いや〜、あの娘、可愛かったな〜マジで……)
グレイズの悪い癖であった。
女性を見ると敵味方以前に一人の女として瞬間的に評価する。
(可愛いは正義……‼︎)
グレイズの信念である。
リリスを見た瞬間、グレイズが思ったのは「イケる‼︎」であった。
戦闘面に関しては、ほぼ天才的な力を発揮するグレイズであったが、殊、女性に関しては誰よりも甘い。
(あ〜、早く会いてえなリリスちゃんに……)
グレイズは燃える恋情を胸に抱き、隈なく前方を索敵する。
奇しくも思想は違えど、シャインとグレイズは互いに全神経を集中させ、敵の気配を探っていた。
その集中力たるや、たとえ、どんな小動物だろうと、彼らのテリトリーに入れば、一瞬にして、探知されてしまうほどである。
もはや、この孤児院に死角と呼べるものは無くなっていた。
「ふふふ……奴ら予定通り、ルー=ガオーハウスに集まったみたいね……」
「グルル……」
「じゃあ、そろそろ行きましょうか……あなたの真の力を見せてもらうために」
暗躍する敵が動き出した事に、シャイン達はまだ知る由もなかった。