いざ!ルー=ガオーハウスへ‼︎
リリスと名乗る女性の気配が消えた。
一体何だったのだろうか……⁈
まるで狐につままれたような感覚。
シャインはしばらく、呆然実質としていた。
「シャイン‼︎」
アリスの呼ぶ声でハッと我に帰る。
「おーい、降りてこいよー!」
グレイズが地上から手を振っていた。
「ああ、今行く」
颯爽と地上へ降り、三人の精霊使いが集まった。
「おい、大丈夫か?シャイン」
グレイズが身を案じる。
「へっ、何ともねえよ、こんな傷。それより、アイツは一体?」
「さあな、だがこれだけは分かるぜ。奴はかなりの使い手だ。それに、今回の事件に絡んでると見て、まず間違いないだろうな」
シャインの問いかけにグレイズが答える。
「そうね、何れにしても、只者じゃないわ。皆、気を引き締めようね」
「ああ、次、会ったらぜってぇー倒す‼︎」
シャインがパンッと掌に拳を当て、気合いを入れた。
「いや〜、それにしても、あの娘、可愛かったよな〜。なぁ、お前もそう思うだろ?シャイン」
軽薄な口調でグレイズが言った。
「思わねえよ。お前、生きるか死ぬかの戦闘時によくそんなこと考えられるな」
「 はぁ……」とため息をつき、シャインが呆れた様に言う。
「当たり前だぁ、バカヤロウ‼︎俺は女の子が大好きなんだよ‼︎」
グレイズが開き直る。
「ハイハイ、そこまで!二人とも治療するから、こっち来て。まずはシャインから」
手をパンパンと叩きアリスが催促する。
シャインがアリスに近づいた。
丁度、手を伸ばせば互いの体に触れ合う距離である。
「ふぅ……じゃあ、いくわよ!」
アリスの体から青いオーラが溢れ出した。
そのまま、アリスはシャインへ両手を向け……
「フェアリーヒーリング‼︎」
声を発するとシャインの体にアリスのオーラが流れ込む。
暖かい……優しくて、いっそ眠ってしまいたい感覚……
みるみるシャインの体についた傷が治癒していく。
細かい切り傷、擦り傷……そういった外傷は瞬く間に無くなった。
「はい!終わり‼︎」
そう告げるとアリスはシャインの肩をバシッと叩いた。
「いてっ‼︎」
シャインが肩をさする。
「はい、次はグレイズ。こっち来て」
アリスは グレイズを手招きする。
「ハイハ〜イ‼︎ボクちゃん待ちくたびれちゃった〜」
ニッコリ笑顔でグレイズが近づく。
「それじゃあ、いくね‼︎」
「お願いしま〜す!」
手をピシッと伸ばし、グレイズが言う。
「フェアリーヒーリング‼︎」
シャインの時と同じ光景が……
グレイズの体にアリスのオーラが流れ込む。
「おお……」
グレイズが声を漏らす。
「はい!終了‼︎」
傷が治り、アリスはグレイズの肩をシャイン同様パンと叩いた。
「サンキュー‼︎アリスちゃん‼︎」
ビシッと親指を立てる。
「どう、致しまして!」
アリスは敬礼のポーズをとりながらウィンクをした。
「さすが、フェアリーガールの名は伊達じゃないな!というかアリス、お前、自分の傷は?」
アリスを褒めつつシャインが言った。
「ああ、今、治すね!」
そういうと再び……
「フェアリーヒーリング‼︎」
今度は少女のかけ声と同時に自身の傷が修復し始めた。
「ふぅ……治療完了!」
まるで何事もなかったかの様にアリスの体は全快した。
「ヘェ〜、見事なもんだなぁ」
シャインが感嘆とし、少女の手際を賞賛する。
「へへん‼︎」
アリスは満更でもない様子であり、誇らしげな面持ちだ。
「本当にスゲえよ‼︎アリスちゃんが入れば俺たちは無敵だぜ‼︎」
グレイズも続けざまに絶賛した。
アリスが照れくさそうな表情をする。
「さあ〜て、じゃあ傷も治ったし、皆、変身を解こっか‼︎」
「おう」
「あいよ」
シャインとグレイズがアリスに応じた。
「変身‼︎解除‼︎」
三人がかけ声をあげるとそれぞれが元の姿に戻った。
通常、精霊使い《スピリットマスター》は己の契約精霊と融合することでその力を自在に操る。
それが、いわゆる変身である。
変身を使用した術者の体は生身のそれとは比べものにならないくらい屈強になり、常人の身体能力を遥かに凌駕する。
「さあ!皆!とりあえず、ルー=ガオーハウスに行くよ!」
「おう」
「あいよ、アリスちゃん」
アリスの明るい声にシャイン、グレイズが応じる。
現状、分かっている事は少ない……いや、謎だらけだ。
だが、それもルー=ガオーハウスに行けば、全て明らかになるだろう。
様々な疑念を振り払い、三人の精霊使いは再び目的地へと歩を進めた。
♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢
四、五時間が過ぎていた。
荷車が無くなったことで、シャイン達は歩行を余儀なくされた。
変身のまま、向かわなかったのは、持続時間が限られているのと、力を温存しておきたかったためである。
いずれにせよ、進行速度は大幅に減少したが、三人の精霊使いは目的地―ルー=ガオーハウスに目前まで迫っていた。
「あと、少しだな……」
「うん。そうだね」
シャインとアリスの何気ないやり取り。
「なぁ、ちょっといいか?」
あと、少しで目的地に着くというところでグレイズが問いかけた。
「どうしたの、グレイズ?」
「いや、なに、大したことないんだけどさ、気になったことがあって……あの狼男ちょっと様子がおかしくなかったか?」
グレイズは疑問を投げかける。
「ああ、俺も思ったぜ。動きの単調さ、そしてあの溢れる野性味……間違いない、あいつは変身をしていない」
シャインがグレイズに同意した。
「変身をしていないってどういうこと?」
アリスが疑問を唱えた。
「正確に言うと、あいつは自分で変身をしたわけじゃない……悪しき聖霊に身も心も乗っとられちまったんだ」
シャインが淡々とした口調で説明をする。
「身も心も乗っとられたって、そんな……」
アリスは信じられないといったそぶりを見せる。
「それが、すっとこどっこい。珍しい話じゃないんだぜ、アリスちゃん。精霊使いは精霊と出会い契約を結ぶだろ?でも、もしその精霊が邪悪なるものだとしたら?」
「それは……」
アリスは言葉に詰まる。
「つまりはそういうことだな。強力な闇の力に支配され、自我を失い、殺意の衝動に駆られるだろう……そして、成れの果ては化物」
シャインが結論を出す。
「そもそも、俺たち精霊使い《スピリットマスター》は長い年月をかけ、血の滲む試練の末に変身を習得するもんだ。それは、アリスちゃんも分かるだろ?だが、あいつのあの感じ……恐らく、精霊と出会って数日。そして大した修練も積まずに合体しちまったんだろう」
グレイズの駄目押しの発言にアリスは納得せざるを得なかった。
推理の末に点と点が線になりつつあった。
今までの情報のカケラを結集させていく。
残りのピースはあとわずが……
全ての謎が解けた時、そこには何が待ち受けているのだろうか。
「着いたぜ」
シャイン達は足を止めた。
眼前には大きな建造物―ルー=ガオーハウスが……
いずれにせよ、決着の時は刻一刻と近づいている。