戦闘開始‼︎
狼男がシャイン達に襲いかかる。
凄まじいスピードを保ったまま、拳をシャインの顔面へと繰り出した。
「パンッ‼︎」という音とともに衝撃が走る。
しかし、命中したかに見えた高速の拳をシャインは微動だにせず、右手一本で受け止めていた。
「グルル……」と狼男は呻き声を上げる。
即座にアリスとグレイズは後方へと距離を取った。
シャインはくいっと、狼男の右手を引き、そのまま右横腹へ光のオーラを宿した拳でボディブローをかました。
「グハッ」
反吐を噴射しつつ狼男は吹き飛ばされる。
凄まじい衝撃を受け、後方へと転がるが、未だ闘志は衰えない。
狼男は立ち上がると、跳躍し、再びシャインへと肉薄してきた。
凄まじい打撃の連打……
殺意にまみれた蓮撃が繰り出される。
常人ならば、粉々に粉砕されてしまうだろうという打撃の嵐。
しかし、シャインは難なく狼男の攻撃をやり過ごす。
かわし、いなし、なぎ払い……
「だあ‼︎」
隙を見て、肘打ち。さらに、よろめいたところを力いっぱい空中へと蹴り上げた。
上空に放り出された狼男……その様を待ち構えていたかのようにグレイズが拳を込め……
「ウオォォ‼︎」
狼男のさらに上から背中目掛けて攻撃した。
狼男は呻き声を上げ、激しい勢いのまま地面に叩きつけられた。
砂埃が舞い上がり、衝撃波が周囲へ襲いかかる。
砂埃が晴れると、狼男はうつ伏せで倒れていた。
今にも、変身が解けそうな状態で「グウゥ……」と声を漏らす。
「ふぅ、楽勝だったなぁ。」
グレイズが歩きながらシャインに近寄って来た。
「へっ、まあな」
シャインが応じる。
「シャイン!グレイズ!お疲れ様‼︎ってゆーか私、出番ないじゃん‼︎」
「まぁまぁアリスちゃん、今回の敵は大した事、無かったし、それに皆、怪我がなくって良かったじゃない」
アリスをグレイズがたしなめた。
「ぷー!私の見せ場がー!」
アリスが顔を膨らませた。
「おい、お前ら!まだ、戦いは終わってねえぞ!とりあえず、とっととトドメ、差しちまおうぜ」
シャインが動き出した直後、どこからか声が……
「そこまでよ」
三人は声の主を探す。
「誰……?」
「分からねえ」
アリスの疑問にシャインが返答する。
「ふふふ……」
不気味な笑い声がこだまして、木々がざわめく。
三人が、周囲の気配を探っていると、突如、眼前から漆黒の閃光が照らし出した。
「くっ!」
「キャッ!」
「うおっ!」
シャイン、アリス、グレイズが手で光から目を隠す。
光がおさまるとそこには一人の女性が立っていた。
紫の髪に赤い瞳。露出の多い黒の服。漆黒の翼と角。色っぽい女性。年齢は18くらいであろうか。
「なっ⁈」
シャインは驚嘆の声を上げた。
彼女の事など何も知らないシャイン達であったが、一見した瞬間、彼らの本能が告げていた……目の前の女は敵であると。それほどに、この女性が出すオーラは禍々しく、危険を予期させたのだ。
「ふふふ……初めまして。私はリリス」
微笑を浮かべながら妖艶なる雰囲気を纏う女性が名前を告げた。
「お前、一体何者だ⁈」
「あなた達の敵とだけ言っておきましょうか。残念だけど、この狼男をここで倒させるわけにはいかないわ」
シャインの問いにリリスは答える。
「ふざけるな!俺達はそいつを倒すためにここまでやって来たんだ!お前が何処のどいつか知らねえが俺達の邪魔をするんなら、お前もろともぶっ飛ばしてやる‼︎」
シャインがハッキリと言ってのける。
「礼儀の知らない子ね。お姉さん相手にぶっ飛ばすなんて」
「礼儀なんて知るか!お前を倒し、オレ達はこのクエストをクリアする‼︎」
シャインはそういうと、臨戦態勢に入った。
腰を落とし、こぶしを握りしめ、金色の霊気を放出する。
「ふふふ……なるほど、これがあなたの精霊力」
リリスは不敵に笑う。
「シャイン、ダメ‼︎」
不吉を察したアリスがシャインを制した。
「はぁ‼︎」
アリスの忠告を無視し、シャインはリリスへ向かって突進した。
「どうやら、礼儀だけじゃなく、相手の力量まで知らないみたいね」
シャインの拳がリリスに当たる直前、カッとリリスの赤い目が見開かれた。同時に凄まじい衝撃波がシャインに襲いかかる。
突風。まるで竜巻が正面から直撃したような威力。
「うわああ‼︎」
シャインは爆風のような衝撃波をモロに喰らい、後方へ飛ばされる。
「くっ‼︎」
グレイズが爆風に耐え……
「うっ‼︎シャイン…‼︎」
アリスがシャインの身を案じる。
アリスとグレイズは防御の姿勢を取り、何とか踏ん張る。
吹き荒ぶ嵐のような衝撃がおさまった。
アリスとグレイズは数十メートル後ずさったが、無傷を保っていた。
「シャインは?」
「わ、分からねえ!」
アリスが問いかけ、グレイズが答える。
後方を見渡しても、シャインの姿は見えなかった。
「ふふふ……あら、死んじゃったかしら?」
リリスが告げると……
「まだだ‼︎」
天空よりシャインの声が……一同が声の方向―上空に目をやる。
「シャイン‼︎」
「野郎!無事だったか!」
アリスとグレイズが笑みを浮かべる。
シャインは衝撃波受けた直後、上空へと身を逃し、飛ばされる距離を最小限にとどめていた。
「天弓・アルテミス‼︎」
シャインは叫ぶと同時に弓矢を召喚した。
シャインに名付けられた弓矢―アルテミスは金色に彩られ、荘厳なる雰囲気を醸し出している。
シャインが弓を引くと、光のエネルギーが矢に収束していく。
狙いを定めると、風が吹き荒れ、「ザアア……」と木々を揺らす。
「シャインの野郎、やる気だな。アリスちゃん伏せろ」
「うん」
グレイズとアリスはその場に身を伏せる。
チャージが完了した。
「エンジェルブラスト‼︎」
リリス目掛けて弓矢を放った。
閃光の如く放たれた弓矢が対象に直撃し、爆風を巻き起こす。
小隕石でも落ちたかのような衝撃波が襲いかかる。
(やったか……)
シャインは心の中で呟いた。
ゴゴゴゴゴ……と砂煙がおさまるとそこには誰も居なくなっていた。
リリスと名乗った女性も狼男さえも……
「ふふふ……この狼男は預からせてもらうわ。彼にはまだやってもらいたい事があるの」
木々がざわめき、リリスの声が木霊する。
「チッ」
シャインが舌打ちをする。
奇しくもシャインの一撃はリリスには届かなかったのだ。
「待て‼︎俺と決着をつけろ‼︎」
シャインが叫んだ。
「ふふふ……あなた面白いわね。でも、あなたじゃ私を倒せない……絶対に。また、機会があれば会いましょう……天使の精霊使い《スピリットマスター》さん」
そういうとリリスの声は聞こえなくなり、再び森に静寂が訪れた。