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「輿入れは一ヶ月後です。両家とも喪の年なので派手には出来ませんが、エスラルダの姫として恥ずかしくないよう私が指揮を取り準備を進めます。」
以上です、と義理の母上はリチャードに背を向けて歩き出そうとした。
それを衝撃から覚めたリチャードが珍しく必死に引き留める。
「お、お待ちください母上殿!あの、いささか急すぎやしませんか?それにフィオナはまだ幼い!!それに市井で育っています。エスラルダの姫となるには、その資格が…まして…伯爵家に輿入れなど…荷が…重すぎるのでは…」
「リチャード殿。フィオナ嬢は今年で14。令嬢の婚期として早すぎることはありません。それにフィオナ嬢は貴方と父母を同じくする妹。母君の実家で育ったとはいえエスラルダの姫となる資格は充分でしょう。礼儀作法云々は心配ありません。こんなことがあろうかとフィオナ嬢が6歳の頃からエスラルダより教師を派遣しておりました。急なのは私も認めます。しかしマーシュリー伯爵家のご希望なのです。有難いことではありませんか。」
リチャードは呆気に取られた。フィオナに教師を付けていたとは初めて聞く情報だった。
「戦争で適齢期の若者が大勢命を散らしたのです。マーシュリー伯爵が焦るお気持ちもわかります。リチャード殿。人の話を聞くときは口を閉じなさい。はしたない。貴方だって他人事ではないのですよ。フィオナ嬢の次は貴方ですからね。」
ぎりりと睨み付けられ、リチャードは冷や汗を滴ながら退散するしかなかった。