②
荒唐無稽ではないか。
神から祝福を受けた建国王が、その聖なる力で一匹の荒ぶる竜を青年に変えたなど。
そしてその竜の血が今も、【エスラルダ】に流れているなど。
確かにエスラルダ一族は素晴らしい剣の使い手ばかりだ。
だが単にそれだけの人だ。神とか竜とか、そんなお伽噺とは関係無い。
リチャードはそう思っていた。
だが戦場の【エスラルダ】は強すぎた。
簡単に人の域を飛び越え、お伽噺を現実とする程に。
全身に血を浴び、目をぎらつかせ、人離れした力で戦場を疾走する集団は、まるで狂戦士だと敵も味方も恐怖に陥れたのだ。
葬儀の最中、リチャードはぼんやりと目の前の棺を眺めていた。
ずらりと並んだ棺は、彼の父、兄弟姉妹のものだ。
棺の上には現国王から送られた勲章や最高級の艶やかな絹織物が広げられていた。
義理の母はじめ女達は、現国王の覚えが良いのは夫と子供が立派に国の為に働いたからだと泣きながらも喜んだ。
しかしリチャードだけは知っている。
あの棺の中は全て空だ。
それは壮絶な最後だった。
援軍は来なかった。
彼らは小指の節まで徹底的に切り刻まれ、肉片1つとして残っていない。
人としての尊厳も、何も無かった。
駆られたのだ。
まるで化け物のように。