①
あまり長くならないと思います。
フィート神聖王国の北端に位置するエスラルダ伯爵領の春は遅い。
今ごろ王都は花盛りだろうと思いながら、エスラルダ伯爵の六男リチャードは昔と変わらぬエスラルダ城の殺風景な早朝の庭を散策していた。
5年ぶりの故郷には一ヶ月前に帰還したばかり。
息をつく間もなく領主交代の手続きに戦死した父と兄弟姉妹の葬儀と今日までゆっくりする暇も無かった。
だか、その忙しさに自分は救われたのかも知れない。
枯れた芝生を踏みしめながらリチャードは思った。
フィート神聖王国とガルシニア帝国の戦火が唐突に切って落とされたのは5年前。
歴史書を紐解けば5年間の戦争は短い方かも知れない。
しかし、始まった時と同じく唐突に終わった戦争は熾烈を極め、あらゆるものを貪欲に巻き込んだ。リチャードという取るに足らない男の人生も。
エスラルダ一族の始祖は建国王の剣として忠誠を誓った【竜騎士エスラルダ】である。
武芸に秀出でた容姿端麗な一族で、代々王族に騎士として仕えてきた。
もちろんリチャードの華やかな兄弟姉妹も王宮騎士団に所属していた。
その中でリチャードは異質だった。
醜男では無いがパッとしないよくある容姿。
座学は全て中の下。
お人好しでお調子者で涙脆い地方のちょっといいとこのボンボン。
剣より可愛いレディが大好きで、目で追っては友人と肘で小突き合う、どこにでもいる青臭い学生の一人。
つまりエスラルダの“とんでもない”落ちこぼれだった。
そんなリチャードも戦場に放り込まれた。
【エスラルダ】として。