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魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
六章

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束の間の休息。

今日もアクセスありがとうございます。

 夕食前のゆったりとした時間。その時間帯に、二人は今日のことを語り合っていた。

 


 ——昼間は大変なことになった。だが後悔しているかといわれれば、それは全く考えていない。

 その事態が面倒なだけで、『決着をつけたい』という言葉は、エウロから帰ってからというもの、しばしば抱く思いだったから。



 その後の癒しといえば、クローネに首席の件を祝ってもらったこと。祝ってもらった後は、意を決して、昼間に起こったことをクローネへと告げる。



「……いい加減気持ち悪いかなーって、思っちゃうのだけれど……」


「もうストーカーでしかないからね」



 補佐官のクローネへは、基本的にはアインが手にした情報は、全て伝えても構わない。なので今回のハイムからの件も、言いづらくはあるが、クローネへと伝えることにした。



 クローネは基本、人の悪口に近い言葉は口にしない。そんな彼女が、つい気持ち悪いという程、彼女も限界が近づいていた。



「もの凄い前向きなのかしら……?それとも嫌な話は、意図的に無視しているだけなの?」


「どっちもじゃない?」


「なるほどね……はぁ。お母様の苦労が良くわかるわ」



 クローネの母は、ハイム城内での仕事。それ故に王族たちとも関りが多かった。そのため、クローネは母の苦労もすぐに理解できた。



 ……アインの自室で、げんなりをした顔を浮かべるクローネ。朝から城の雰囲気が悪いと思っていたら、まさかこんなことになっているとは、夢にも思っていなかった。



「いっそのこと、もうクローネのご両親も、イシュタリカに呼ぶ?」



 これは前々から議論されていたことだ。先にクローネとグラーフがイシュタリカへと渡ったが、その後は生活も安定しているため、もう一家全員呼んでもいいのでは?と数回議論されている。



 だが現状では、それは難しいだろう。



「なんとか姿をくらまして……なんて、今はもう難しいと思うの。だから本当にやるのなら、その顔合わせの時に、強引に連れ去るぐらいじゃないかしら」


「うーん……最終手段だね」



 もはやただ喧嘩を売ってるだけの手段。……とはいえ、先に喧嘩を売ったのはハイムなのだから、それを思えば、別に大丈夫な気すらしてきてしまう。



「でもここまで強引な人たちだったかしら……。もう少しぐらいは、頭を働かせられる人たちだと、そう思ってたのだけど」


「ん?ティグル王子とかのこと?」


「えぇそうよ。顔を真っ赤にしていても、ここまで無茶するなんて思わなかったわ」



 ハイムに居た頃の話になるが、アインはハイム王家と関りを持ったことは無い。イシュタリカに来てから、ようやく奇妙な縁により、ティグル王子と顔を合わせた程度なのだから。



 そのため、クローネの言葉を信じるしかないのだが、彼女としてみれば、多少の違和感を感じ取った様子。



「言い方は悪いけど。ハイム王家は、あっちの大陸で覇者を気取って、それで満足していたはずだもの」


「確かにあっちでは、好き勝手振舞ってるみたいだけどね」



 ティグルのエウロでの件を思い出してもそうだ。約束も無しに、他人の会議へも乱入するほど、自由に振舞っていた。



「それなのに、引き際なんてあったものじゃないわ。わざわざ遠いイシュタリカへと、関わる必要なんてないじゃない」


「うーん……でもティグル王子とあった時に思ったけど、相当クローネのことが好きみたいだけど」



 クローネのためだけに、わざわざ王子が自らエウロまで飛び出したのだ。多くの金を投じてまで、それをした理由がクローネのため。それを考えれば、彼のクローネへの愛は伝わる。



「何年も顔を見てないのに?……思い出を美化しすぎじゃないかしら」



 はぁ、とため息をつき、髪の毛の先をくるくるといじるクローネ。珍しい仕草だが、彼女の面倒な気持ちが強く表現されている。



 とはいえ思い出を美化するも何も、彼女はティグルに美化されている以上に、美しく成長しているのだが。



「こんなこと言ったら、パーティなんていつもそういう人ばかりだったのだけど」


「そうなんだ。俺はあまりそういう機会なかったから、それを聞くと参加しなくてよかったって思うよ」


「そうね。あの扱いのおかげで、アウグスト邸でアインと会えたと思えば、感謝するべきなのかしら?」



 難しい表情を浮かべるクローネ。彼女の価値観では、それはなかなか難しい。自分にとっては運命的な出会いなことは事実。だがアインが受けた仕打ちを考えると許しがたい。



 そのためクローネにとっては、ちょっとした悩みとなる。



「結果論になるけど、まぁよかったんじゃないかな。俺はイシュタリカで幸せにやれてるし、クローネもここで楽しくしてくれてるなら、俺はそれでいいよ」


「……そう。ならいいの」



 閑話休題。彼女が用意してくれた茶を口に含み、リラックスするアイン。



「何考えてるのかは、俺も気を付けておくことにするからさ」


「そうね……。でもね、アインも"暴走"って聞くと、心当たりがあるでしょう?」


「暴走?」


「えぇそうよ。暴走」



 ハイムの行動を"暴走"と表現したクローネ。それが意味する言葉は、アインが調べていることと深く関係がある。



「俺が直近で関わった事の中では、魔王とか赤狐の件になるけど」


「正解よ。いい子ねアイン」


「ふふん……どんなもんだ」



 大したことではないのだが、なんとなく、達成感に満ちた顔をしてみる。嬉しそうにしているアインを見て、クローネがクスッと微笑む。



「まぁあまり気にしないでいいわ。所詮"こじつけ"だから」


「こじつけにしても、調べてる身としては危機感を抱くけどね」


「そう?なら一応警戒しておいてね。今はこじつけとしか言えないけど、おそらく可能性という意味では、決してゼロではないもの」


「……そうするよ。ありがとクローネ」



『面倒な"ラスボス"だ』そう思わざるを得ない程、赤狐の件はアイン達を困らせる。どこで何があるか分からないからこそ、精神的な油断もできない。



「でも担ぎ上げる相手として比べてしまうと……見劣りはするわね。赤狐も、わざわざハイム王家を選ぶかしら……」


「魔王とハイム王家か。うん、利用する対象としては間違った選択だ。落差が大きすぎるね」



 同じ"王"とはいえ、その差はあまりにも大きい。赤狐がそんなミスをするとも思えないが、今はその冗談を、二人して笑いの種にしていた。




 *




「も、もういい加減気持ち悪いですね……」



 まさにデジャヴの一言に尽きるセリフ。そんな台詞を、オリビアは口にした。

 夕食や風呂を終えたアイン。そのままの足で、オリビアの部屋へと向かい、彼女と夜の時間を楽しんでいた。



 アインと同じく、風呂上がりのオリビア。レースのネグリジェには、彼女の美しい肢体が浮かび上がる。



 すでにうっすらとして、消えかかっている記憶。それでも前世を持つアイン。彼女のことを”純粋に母”と意識できないがゆえに、目のやり場に困ってしまう。



「え、えぇそうですね……」



 ——長く考えていたが、おそらく転生の影響なのだろう。"アイン"という人格で、新たに生きている自分。そのせいか、精神的に未熟なときもあれば、落ち着きが無い時もあった。



 そうだというのに、オリビアを純粋に母と認識させてくれない。そのことはロリ女神へと、つい恨み言でも届けたくなってしまう。



 だが実は、アインの誕生の仕方……。株分けのような形での誕生、それが影響しているのだが、それを知る由は無い。



「クローネも同じようなセリフを言ってました」


「あ、あら……私たち長く一緒にいて、性格が似てきてしまったのね」



 オリビアがクローネに似たのか、それともその逆なのか。アインが考えるに、クローネがオリビアの影響を受けていると思う。ハイムにいた頃から、大のオリビアファンだったクローネなのだから、何もおかしなことではない。



「お母様としては、もう本当に……その、なんといえばいいのか」


「アイン?気にしないでいいの。……私がハイムの事をどう思ってるのか。それが聞きたいのね?」



 素直にうなずくアイン。オリビアの口から、本当はどう思ってるのかを聞きたかった。



「……そうね。アウグスト家の方達のことは、考えることがありますよ」


「それは俺も同じです。できればクローネと、一緒に暮らせるようにしてあげたい」


「えぇ、私もそう思います。あとはそうですね……一言で言えばあまり興味がない。それが本音かしら」



 首をかしげて、そう口にしたオリビア。興味がないという意味の真意を、アインは尋ねた。



「えっと、興味がないというのは具体的には……」


「例えばハイムで。大きな疫病が流行ろうとも、重大な災害が発生しようとも……もうそれに興味を抱くことはない、そういう意味ですよ」



 人によっては、このオリビアの言葉を冷たいと思うだろうか?彼女は過去。様々な場所で聖女と呼ばれたことがあるほど、慈愛に満ちた美しい女性。



 そうはいっても、今の彼女にとって愛するべきは、イシュタリカの民。決してハイムの人々ではないのだから。



「では例えばですよ?俺が……その、ラウンドハートと大きく揉めたとしても……」


「構いませんよ?ただし、半端にするのはいけないわ」


「な、なるほど……」



 最終確認その2。ラウンドハート家も問題無いみたいだ。



 つまるところ、現状不安視されてるのは、ハイムに住むアウグスト家の皆々だろう。できることならば、ささっとイシュタリカに連れて来たいのだが……。



「ですが、クローネのご両親を連れてくるのは、精神的な面からいっても難しいですね」


「……そうね。私はクローネさんのご両親が、どれほどハイムに心を残してるのか。それはわからないわ。だからグラーフさんみたいに、直ぐに決断するのは難しいかもしれない」



 グラーフは決して、ハイムへの忠誠心が無かったわけではない。ただし彼の中での比重が、家族……そしてクローネが一番だったこと。それが影響してか、イシュタリカを目指すことになったのだから。



 今では商会の用事で、大陸の各地へと出張しているグラーフ。クローネから聞く限りでは、彼はイシュタリカでの生活を、大いに楽しんでいるとのことだ。



「第三者が良かれと思っていても、それが有難迷惑になることもあるの。だから私たちも、しっかりとそれを考えなければいけません」


「強引な手段は、まさに最終手段と言うことですね」



 笑顔で頷くオリビア。『えぇ、そうですね』と静かに語り、優雅な動きでティーカップを口元へと運ぶ。やはりオリビアの所作が、誰よりも洗練されている。アインはオリビアを見てそう実感した。



「ところでお母様は……いえ、お母様もですね。お母様も、歯がゆく感じているのですか?」


「ええと、歯がゆく……?」


「言ってしまえば、今までのハイムからの態度です。舐められてると感じても、間違いではありませんから」



 オリビアの時の件然り、アインがエウロに行った時然り。そして今日の件だ。

 


——それを聞いて、少し考えるような顔をするオリビア。もう一度茶を口に運び、それから一呼吸置いて語り始める。



「でもね。自業自得でしょう?そういうきっかけを作ったのはイシュタリカだわ」


「……はい」



 アインの返事を聞いて、オリビアが続きを語る。



「そうでしょう?軍事力も資産の面でも、あとは文化もね。何一つイシュタリカは劣ってないわ、でもハイムにああして舐めた態度を取られる。でもそれって、私たちが自分で蒔いた種だもの」



 初めて聞くオリビアの意見に、アインはじっと耳を傾ける。



「元をたどれば、初代陛下にまで遡る。でも結局は、今生きてる人々……王族と国民で、新たに考える必要もあると思うの」


「む、難しいですね。その件は特に……」


「えぇ……本当に難しいの。でもね、自分たちが蒔いた種。そのことを忘れて、相手(ハイム)にだけ文句を言ってたら、足元をすくわれてもおかしくないわ。だから私たちは、もう少しそのことを考えるべきだと思う」


「そうですね……。少しは今回の事が、一つのきっかけになればいいんですが……」



 昼に口にした、決着をつけたいというアインの一言。それが一つの切っ掛けになれば、そう思わざるを得ない。



 過激派という訳ではないが、改革には賛成派のオリビア。国の未来を思えば、制度をもう少しぐらい変更するべきだ。そう思っていた。



「考えても考えても、結局は結果が出るまでは何も分からないわ。大失敗で愚策になるのか、それとも行動しないで愚策となるか。……でもそんなこと考えても、私にはもっと別の大切な事があるんですよ」


「別のですか?」



 キョトンした顔をすると、立ち上がったオリビアが、アインの側に近づいた。するとソファの後ろからアインを抱きしめ、優しい声でそれをささやく。



「私は何よりも、そして誰よりも……アインの考えを尊重します。だから何も心配しないで、貴方のしたいようにしてみなさい」



 オリビアのそれは、ドキドキするというよりも、純粋に安心できる言葉と仕草。



 背中に押し当てられた、オリビアの豊かな胸元。そこからは彼女の静かな鼓動が、アインの体へと届く。それは下世話な欲を生じさせず、ただ純粋に、アインの心を少しずつ落ち着かせていった。



「……あ、でもね?私がさっき言った、私たちにも責任があるって言葉……あれは内緒ですよ?私がお父様に怒られちゃうから」



 ——お茶目さを忘れないのが、彼女の魅力的な部分。



あの人(ローガス)は本当にもったいないことをした』。オリビアと共に居ると、アインはそのことをしばしば考えてしまうのだった。




 *




 朝から城内は、不穏な雰囲気に包まれていた。だがそんなことを、全く知らなかった女性が居る。

 そう、イシュタリカの第一王女カティマだった。彼女は父シルヴァードが怒っていたのも、全く気が付いていなかった。



 彼女は研究室に引きこもり、今日で三日目。厳重に張り巡らされたいくつもの壁が、シルヴァードのオーラを弾いてしまっていた。



 なぜ三日目なのかというと、研究が上手くいきはじめたことが原因。そのせいもあり、カティマはつい外に出るきっかけを失っていた。そのため食事は、クリスがたまに運び入れている。



 ——アインがオリビアの部屋で寛いでいる間、彼女は実験の成功を喜んでいた。



「実験終了だニャー!」



 ガタンと音を立てて彼女専用の、オーダーメイドの椅子が後ろに倒れる。数日にわたった実験が、ついに実を結んだ。

 数日で済む研究成果と言ってしまえば、決して難しくは感じない。だがその前提として、いくつもの検証が行われていたと思えば、決して簡単な話ではなかった。



「とりあえず。これで魔物化の条件は分かったのニャ」



 うんうんと、一人で大きく頷くカティマ。彼女はこの数日間、いくつか考えた仮説の実験を行っていた。それは弱い魔物たちを数匹集め、進化するまでの条件を探る実験。



 似たような実証は、過去にも何度かされている。だが今回カティマは、さらに掘り下げて検証を行った。



「メモメモ……つまりあれだニャ。格が低すぎる魔石を吸収しても、ステータス以外にも影響はニャい!だから魔物化はしニャい!」



 彼女の実験内容はこうだ。



 人工的に、ビッグビーを進化させる。するとそれはジャイアントビーという、さらに巨大な蜂へと進化する。



 その際に与えた魔石は、リプルモドキなどの、ゴミ同然の安い魔石。そしてジャイアントビーになった後も、続けてリプルモドキと同等の、安い魔石群を与え続けた。



 檻の中での体当たりが強くなったこともあり、最初のうちはステータスの上昇を確認できた。だがそれは途中から一切変動しなくなり、結果的には数千個与えたその魔石群は、何一つ効果を発生させなくなった。



 ジャイアントビーは、次にキングビーという、さらに巨大な蜂に進化する。だが進化の兆候は、一瞬も感じ取ることが出来なかった。



「……ニャー。やっぱり私は有能なのかニャ?頭がいいのかニャ……?自分の頭脳が怖いニャ……」



 鏡を見て、自分を褒めたたえるカティマ。その場にアインが居たならば、無言で鉄拳が飛んできたことだろう。



「魔石食べるマザコン。うーむ……アインは本当にいいキャラしてるのニャ。……まぁ至高の毛皮と、頭脳の持ち主。そんな私には負けるのニャ」



 実験が終わり、気が抜けてきたカティマ。ジャイアントビーを、備え付けの魔道具で始末して、ソファに向かう。

 暫く寝ていなかった彼女の体は、もはや限界だった。



「まぁいいのニャ。後でアインに教えてやるのニャ……ふわぁ……」



 ソファの上に着いたカティマ。少しくるくると動き回り、絶好の位置を探り当てる。その後は丸くなり、彼女は夢の世界へと旅立った。



多くのメッセージやブックマーク、そして多くの評価をいつもありがとうございます。

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