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魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
アフターⅣ 黒龍艦バハムート II

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黄金の宝石

来月発売となる9巻が予約受付中です!


今回も半分以上が新規書下ろしとなっております!

成瀬先生が描いてくださったイラストと共に、書籍版も是非お楽しみいただけますと幸いです!


挿絵(By みてみん)

 アインはセラのものと思しき火柱を目の当たりにして、すぐに海上に木の根を生み出して駆けた。

 その先では、水平線の彼方に新たな水晶の塔が見えるや否や、その塔はまた火柱に包み込まれ、灰燼と化したのを確認した。



 彼はしばらくの間、そのまま海上で佇んだ。



 ――――セラさんが顔を出した。それはつまり。



 また、裏付けられた。

 アインが戦っていた相手は、あのセラが顔を出さねばならないほどの相手であることが。

 そしてヴィゼルの口から自分の声を発していた、黄金航路の元相談役。その男こそが、セラにとって強い警戒を必要とする相手であることも分かった。



 ――――あの男はいったい……。



 アインの脳裏をよぎる、序列者の言葉。

 セラから聞いた情報によれば、世界に存在する強者の中でも、ギルドが管理しきれない者たちを総称する言葉であるとか。

 序列者は順位付けされることにより、その影響力や実力により上位者が決まると聞いた覚えがある。



 そして、アインもその一人であるとセラから聞いた。

 ステータスカードが壊れた! と騒ぎ立てた騒動の答えがそれで、アインのステータスカードはすでに常人と別のものになっている。



 これらのことを、アインはシュトロムの屋敷の中、その中でもホールの一角で考えていた。

 時計を見ると、時刻は夜の八時を過ぎた頃だ。



「あら殿下。考えごとかしら」



 マジョリカは屋敷の外で怪我人の様子を見ていたのだが、その様子が落ち着いたことでアインの下に足を運んだ。



「マジョリカさん……まぁ、そんなとこ」


「無理もないわね。今回の騒動は今までに例がないことだし、さすがの殿下も状況が分からないって感じかしら」


「そんな感じ。ヴィゼルが死んだんだから、これで落ち着いてくれたらいいんだけどね」


「そうねぇ~……でも、一回の冒険者に出来ることじゃなかったわね。後ろにどんな協力者がいるのかしら」


「…………多分、神族よりも強いやつだよ」


「はいはい? 今何て言ったの?」


「何でもない。独り言」



 すると、アインはこれまで背を預けていた柱から離れ、ある女性の姿を探した。

 昼間はあの後、残念なことにあまり会話が出来なかった。

 戻った際にはすでに彼女は自分に出来る仕事を探していて、アインもその邪魔をすることが出来ず、騎士を通じて伝言を頼んだぐらいだ。



「あの子なら、つい三十分くらい前に港跡に向かったわよ」


「ほんと? だったら俺も――――って、どうして分かったのさ」


「私が何年二人を見てきたと思ってるのよ。数時間前にすれ違ったあの子ったら、町の様子に危機感は抱いてたけど、それでも幸せそうだったわよ」



 アインはぽりぽりと頬を掻いて、そっぽを向いた。

 こうしていると気恥ずかしかったのだ。



「外の様子はどうだった?」


「平気よ。っていうか気にしないで行ってきなさいな。殿下ってば、来てからずっと働きっぱなしだったじゃない。いいのよ。多少は下々の者たちに任せた方が」


「………だったら、少しだけお言葉に甘えて」


「そうしなさいな――――って、殿下!? どうして階段の方に行くのよ! お求めのポンコツエルフはお外よ! お外!」



 忘れていたわけじゃない。

 ただ単に、別の目的があって自室に行きたいだけだ。



「ちょっとだけ、支度があってさ」


「支度……?」



 きょとんとしたマジョリカを置いて階段に向かったアインは、そのまま上の階へ行って自室に足を踏み入れた。

 この部屋にはアインの正装が保管されている。用事があるときや有事の際、アインが動きやすいように準備されているものだ。



 アインはこの屋敷を別邸としたことに、今日ほど喜んだことはない。

 彼はいつもマーサたちが手伝ってくれる着替えを一人でこなし、あとはジャケットを羽織れば……というところまで身支度をした。



 近くの机には、黄金のバラの宝石を置いて。



「…………しまった」



 失念していたというよりは、想定していない事態だったために用意が足りていなかったというところだ。

 というのは、机の上に置いた宝石のためのチェーンがない。

 たとえばクローネのように腕に嵌めてもいいし、オリビアのようにネックレスとして首元を着飾ってもいいのだが、いずれにせよ相応しいチェーンが無かったのだ。



 それを知ったアインはどうしようかと迷った。

 するとそこへ、頃合いを見計らったかのように扉がノックされ、燕尾服の老紳士が足を運ぶ。



「マルコ?」


「失礼致します。是非、私にもお力添えをさせていただければと」



 マルコはそう言ってアインの傍に足を運び、アインの着替えを入念に確認する。埃一つでも執念深く、決して間違いがあってはならぬと言わんばかりの勢いで。



「俺ってそんなに分かりやすいかな」


「おやおや。私が何十年(、、、)、お傍にいたとお思いですか?」


「その言葉って、すごい実感がこもってる気がする」


「ええ。それはもう」



 好々爺然と笑ったマルコはふと、机の上を見た。

 彼はアインが置いていた、黄金の宝石を見て「ふむ」と呟いた。



「せっかくですから、身に着けていただきたいとお考えのようで」


「ああ。……でもチェーンとかを用意してなかったんだ」


「しかし、不要では?」



 さも当然かのように言い切ったマルコ。



「クリス様はエルフですので、不必要に金属を身に着けられるより好ましい素材がございます」


「それ、すぐに取ってこれたりする? すぐなら今から行ってきたいんだけど」


「その必要もございません。ですが意匠に関しては私も素人ですので……おお、確か書庫にそれらしき本がございました」


「あの……マルコ?」


「すぐに戻りますので、少々お待ちくださいませ」



 彼はアインの疑問に答えず足早に立ち去った。

 これは意図的に無視したのではなく、実はマルコも少し緊張していて、主のために必死であったからだ。



 そんなマルコは、数分と経たぬうちに戻ってきた。

 彼は手元に一冊の本を手にしており、その本をアインの隣で開く。



「これって……」



 そこにはエルフの装飾品が描かれていた。

 中にはブレスレットもあり、それを見たアインは植物を模した意匠に神秘的な印象を抱く。



「このようになさるとよろしいかと。アイン様の魔力を与えつづけることにより、枯れることも防げましょう。魔力の消費量も、髪の毛一本抜いた程度の些末事でございます」


「…………ああ」


「また、低級の魔物除けとしての効果もあるかと存じます」


「…………ありがとう。本当に助かったよ」



 だからマルコの意見では、クローネとオリビアのスタークリスタルに使っているチェーンも、同じようにアインが生み出した方がいいとのことだ。

 特別扱いと格差は違う。

 こうした方が、より一層価値があり皆が喜んでくれるはず、という考えからの進言である。



「――――さぁ、アイン様」



 マルコがジャケットを広げ、アインに羽織らせる。

 夏場だから少し暑い気もするが、正装でいたいアインには些細なことだった。



「ありがとう」


「護衛はご入用ですか?」


「大丈夫。今日は一人で行ってくるよ」


「はっ……では、お待ちしております」



 アインは頭を下げたマルコに背を向け、自室を出た。

 廊下にはディルが居た。彼はアインの剣、イシュタルを両手に持ち、捧げるようにしてアインに差し出す。



「こちらを。最後の仕上げです」



 イシュタルを受け取ったアインは腰のベルトに携えると、ふぅ、と大きく呼吸をする。

 ディルは依然として顔を上げず、アインが去るまでそのままでいるであろうことが分かる。



「少しの間、屋敷を空ける」


「はっ!」


「何かあったら、遠慮なく呼びに来るように」


「……その際は我々にお任せを。命に代えてでも、お二方の邪魔が現れぬよう戦いましょう」



 そこまでしなくていいとは言わない。ディルも茶化すつもりで言っているわけではなく、本気なことを知っていたから。



「頼もしいよ。……それじゃ、行ってくるよ」



 最後にそう言って歩き出したアインは一階のホールに戻る。

 離れたとことでマジョリカが。そして他の騎士たちもアインの姿に気が付いて、アインの正装を見て一瞬だけ驚いた。

 しかし、すぐに皆が穏やかな笑みを浮かべ、アインを見送ったのである。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 港は悉く崩壊しており、臨海都市というには難しい惨憺な光景だった――――というのは、夕方までの話だ。

 今、この辺りは簡易的な道があり、桟橋がある。

 すべてアインが生み出した木の根によるもので、惨憺とした光景は少しだけ鳴りを潜めている。



 そして静かだ。

 来る途中まで人の姿を見付けることはあったけど、数分前から人っ子一人見ていない。アインはその理由を知らないが、これは密かにマルコたちが人払いを済ませておいたからだ。



「クリスは…………」



 金糸の髪を靡かせるエルフを探すこと、数分。

 彼女は少し海まで伸びた木の根の桟橋の、その先に居た。



 一人佇み、潮風に髪を靡かせる後姿。

 いつもと違うのは、その服装だ。



 アインもその服装に身を包んだクリスを見るのは久しい。

 最後に見たのは確か、シエラが王都に来た日のはず。

 あの日以来、クリスがエルフの正装に身を包んだ姿を見る機会はなかった。



(…………なんて幻想的なんだろう)



 植物の足場に佇むクリスは月灯りを浴び、どこか幻想的且つ神秘的。

 昔、アインに月の女神と称された彼女は今、本当の意味で月の女神になったように見えてくる。そのクリスがエルフの正装に身を包んでいることで、更に人間離れした美を湛えている。



 肌の露出が多いのに、艶っぽくない。

 偏に美しく、雅やかだった。



「クリス」



 と、彼女の背に語り掛けた。



「…………こんばんは、アイン様」



 振り向いた彼女は照れくさそうにはにかむと、ゆっくりアインの傍に歩いてくる。



「その服、どうしたの?」


「あははっ……実はマルコが王都から取って来てくれたんです……マーサさんに聞いたら、この服がいいと思うって言われたらしくて」



 その……どう、ですか?

 クリスは少し不安そうに小さな声でつづけた。



「ずっと見ていたいって思った。見惚れてたよ」



 以前と違い、ただ似合ってるの一言では終わらせなかった。

 アインの返事を聞いたクリスはほっと胸を撫で下ろし、更に一歩、アインとの距離を詰めて彼の目の前に立つ。



「あ、そうだ……! びっくりしちゃいましたからね、アレ!」


「アレって……バハムートのことか」


「そうです! あんなにすごいので来てくださるなんて思いませんでした! ……って! そ、そうです! 勝手に使って、陛下に怒られたりしませんか!?」


「怒られるかもしれないけど、今はどうでもいいや」


「ど、どうでもいいって……もう……っ」



 だって本当にどうでもよかったのだ。



 怒られるのならいつでもできる。

 別に軽視しているわけではないが、今はそんなことよりも大切なことがある。こっちは、いつでも出来るわけじゃないのだ。



「いつか俺のこと、様を付けないで呼んでもらえるようになるのかな」


「っ――――急ですね。いっときますけど、しばらくは無理です! というか、貴族とかだったら様を付けて呼ぶ人も多いじゃないですか!」


「よそはよそ。うちはうちだし」



 すると、アインは少し焦ったクリスの前で両ひざをついて、仄かに赤く染まった彼女の顔を見上げた。



「とりあえず、一回だけでいいからさ」


「う、うぅ~~……む、無理です! 急すぎますもん!」


「大丈夫だってば。俺とクリスしかいないからさ」


「でもでも……今までずっとアイン様って呼んでたのに……これからも呼びたいですし……」


「あ、アインって呼ぶのが嫌なわけじゃないんだ」


「それは――――当たり前じゃないですか」


「だったら、これからも好きな方で呼んでくれたら嬉しい。でもさ、一度くらいアインって呼ばれてみたいんだ」



 膝を付いたままのアインはクリスと両手を重ね合わせ、優しい声で言った。

 そのアインを見て、クリスは弱ってしまう。

 アインはさっき、クリスの姿に見惚れたといったが、クリスも今、自分を優しい表情で自分を見上げるアインに見惚れていた。



 それは彼の言葉に無条件で応じたくなる、言葉に言い表せない暖かな感情を呼び起こす。



「い、一度だけ……ですからね……!」



 すぅっと大きく息を吸ったクリスは意を決し、宝石のような瞳を潤ませて。



「急に強気になっちゃうの、私は昔からズルいと思っていたんですからね…………アイン」



 言い終えたクリスはぼんっ! と音が鳴りそうなくらい一瞬で顔を赤らめてしまう。

 アインはその姿に愛おしさを覚え、目を細めた。こうしていると、クリスはアインと重ねていた手を放し、我慢ならず自分の顔を覆ってしまった。



 アインはここで、自分も呼吸を整えてジャケットの内ポケットに手を差し込む。



「顔を見せて。クリス」



 照れくささを必死に抑えたクリスが顔を覆っていた手を放すと、彼女の片手にアインの手が伸びた。

 彼は片方の手で指を絡め、もう一方の手を彼女の手首に運ぶ。

 月灯りを、黄金のバラが反射した。



「これって――――」


「受け取ってほしい。いや、絶対に受け取ってもらうよ」



 言葉を失ったクリスはアインと重ねて居ない手を自分の口元に運び、それを覆いながら大粒の涙を流した。

 こうしているうちにも、黄金のバラはアインが生み出した植物が絡み合い、すぐに見目麗しい腕飾りへと姿を変える。

 エルフの彼女は、これ以上ない喜びを感じていた。



「だからさ――――」



 約束の宝石を渡し終えたアインが、ここで。



「クリスティーナ・ヴェルンシュタイン――――俺と――――」



 刹那、波が足場の木の根に押し寄せて、波音を奏でた。

 彼の声は潮風に乗らず、面前のクリスにだけ届いたのだ。

 彼女は何も言わず、涙を流す。



 そんな彼女が答えるべく動いたのは、長い長い数秒が過ぎてから。

 おもむろにアインに強く抱き着いた彼女は、そのまま彼に全身を預けた。だが、不安定な足場の上でそんなことをしてしまうと、ある結果に向かってしまう。

 アインも必死の今、足元にあまり力が入っていないから。



 ――――バシャン! 

 と大きな水飛沫を上げ、二人は海にその身を投じることとなった。



 しかし、危ないことなんて一つもない。

 アインは抱き着いたクリスに情熱的な口づけをされながら、自らもそれをして返す。

 十秒、二十秒、あるいはもっと長い時間、これまでの時間を取り戻すように。



「っ――――はい! お受けいたしますっ!」



 順番が逆になったり、海の中で返事をしてしまったり。どうしてもこの二人は最後まで話題に事欠かない。

 それはきっとこれからも、絶対に。




「もうずっとずっと……どんなことがあっても離れませんからね――――っ!」




 月灯りを浴び、エルフの正装ごと海水に濡らし。

 でも、今までで一番の美しい笑みを浮かべ。



 クリスがアインの首に回した腕の先では、黄金のスタークリスタルが幸せそうに揺れていた。



◇ ◇ ◇ ◇



 次回の更新から次の章になります。

 

 また、今回のお話では書籍版の内容も含まれました。

 範囲は原作6巻ですが、口絵や内容についても試し読みで拾うことが出来ますので、もしよければ、試し読みなどで無料でご覧いただけますと幸いです。

 (BOOK☆WALKERさんなどで是非……!)


 併せての告知で恐れ入りますが、原作最新9巻がもうすぐ発売となります。

 こちらのご予約も併せて、ご検討いただけますと幸いです。


 といったところで、今日もアクセスありがとうございました。

 引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。



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― 新着の感想 ―
[一言] 538部分でコメントしたんですが、アインの強化じゃなくて黒剣イシュタルの強化の話です。 522部分で「ガルムの魔石も溶かして素材にすれば大丈夫だと思う」とシャノンが言っていたことについてなん…
[良い点] めちゃくちゃ良いプロポーズだぁ、俺も異世界転生してみたいなぁ...(切実)
[一言] 更新お疲れ様です 少し気になったんですがガルムの魔力を吸って倒してましたが、イシュタルの強化はできるんですか?
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