↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
最終章―楽園の覇者―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

442/623

イシュタル諸島

2月10日発売の魔石グルメ5巻が予約受付です。


今回もたくさん書き下ろして分厚くした一冊ですので、こちらの方も、どうぞよろしくお願い致します。

 さて、シルヴァードの本気度は他者が思うそれ以上だった。

 まさかロイドまで連れてきてるとは、と驚いたのはアインだが、そのロイドだけを連れてギルドへ向かい、宣言通りの行動をしてみせた。



 その際に、供をしたロイドはギルド長が渋ると思っていたが。

 実は二十層の件は冒険者たちにとっても迷いの種だった。というのもあの階層の海を渡る手段がなく、二十一層へ行くにはどうすればよいのか? と答えが見つかっていなかったからである。魔道具を持ち込む、あるいは魔法を用いて――――など、いくつかの選択肢はあった。

 だがあの王太子が苦戦したという情報が、他の何よりも二の足を踏ませていた。



 アインが目を覚ました日の夕方のこと。

 彼の身体が少しずつ調子を取り戻し、歩けるようになってきた頃のことだ。



「魔石が拒否反応を起こしてたんだ。だから殿下の身体は変色して、意識を手放すだけの影響に苛まれてしまった……って感じかな。あくまでも殿下の言葉通りならね」



 診察に来ていたセラがソファに座って言った。彼女の対面にはアインが腰を下ろし、後ろには帰ってきたばかりのディルも居た。



「へぇ……俺の魔石がってこと?」


「そ」


「はじめて聞く症状だけど」


「そう? イストで行われていた実験ではしょっちゅうだったはずだけど」



 言われてみればそうかもしれない。

 頷いたアインはこれまで脱いでいた上着を着直して、ボタンを閉じていく。

 納得した姿をみて、仮面で顔を隠したセラが椅子から立ち上がった。うんと背を伸ばしてから、扉の外へ向かて歩く。



「じゃ、ボクはこの辺で」


「今日はありがと」


「いいのいいの。お金はもう貰ってるしね」



 彼女はドアノブに手をかけ、軽快な足取りで去っていく。

 するとこれまで黙っていたディルがアインに近寄り。



「これを」



 と、数枚の書類を手渡す。



「私から小言を言うことはありませんから、先にこれをご確認ください」


「……後から怒ったりしない?」


「致しません。幾度となくアイン様がご無理をなさる姿を見てきましたし、何か言ったところで変わらないでしょう。念のために、これは嫌味ではありません。ただ、私はそんなアイン様のために出来る事をするだけですから」



 ディルはそこまで言って笑った。

 たかが十年ほどの時間では本来培えない信頼関係。

 しかし、二人の間ではこれが普通だった。



「本題に戻りましょう。そちらの報告書は読まれずとも構いません」


「え」


「というのも、すべてアイン様のご推察通りだったからです」


「あぁー、そういうことか」


「齟齬を正すために僻地まで足を運ぶ必要はありましたが、大した隠蔽はされておりませんでした。大金をはたけば出来る程度の、特に手回しもない程度の隠蔽でございます。果たして隠すつもりがあったのかと、疑問を抱くほどの話でした」


「だろうね」



 詳細を語らずとも、実は最初からそうだろうと思っていたことだった。

 念のために報告書に目を向けたアインは、満足げに笑う。



「イストで行われていた実験ってのも、人工魔王の件だと思う」


「あれは機密のはずでは?」


「だから、あの人は隠すつもりがないんだよ」



 頃合いを見計らうように、コンコンと扉がノックされた。

 すぐにアインが「どうぞ」と言うと、現れたのはクローネとオリビアの二人だ。

 それを見てディルがアインに頭を下げると。



「私が参ります」



 彼は扉を開けに行き、そのまま彼女らに気を使って退室した。

 入れ替わりに現れたオリビアとクローネはすぐにアインの傍に来て、対面に座ると思いきや彼の両脇を占領してしまう。



「どうだった?」



 心配そうにクローネが尋ねてきた。



「ちょっとおかしな魔力を吸っちゃって、魔石が拒否反応を起こしてたんだってさ」


「……もう平気なの?」


「大丈夫。心配かけてごめんね」



 クローネもまた、ディルと同様に慣れたものだ。

 しかし心配なものは心配で、大丈夫と言った彼の手を握り吐息を漏らしてしまう。

 ほっと落ち着いて、いつもの彼女らしらを顔に取り戻しつつある。



 彼女の反対側からは、オリビアがアインの事を見上げていた。



「無事で良かったです。アインが勇敢で素敵なのは変わりませんけど、あまり無茶はしないでくださいね」



 オリビアは決して「やめて」とは言わない。

 多くの感情がごちゃごちゃしていたのもそうだが、それがアインのための言葉かと思うと、どうにも頷けない感じがしたからだ。

 どこまでも慈しみに満ちていて、見惚れそうになる聖女の笑みだった。




 ◇ ◇ ◇ ◇




 神隠しのダンジョンの第一層。

 その地下に出来たという新たな場所は、これまでと違った雰囲気に包まれていた。



 まず、一言でにまとめると書庫だ。円状の書庫は天井が高く、壁沿いに螺旋階段がつづいている。

 壁一面の本棚には数えきれない本が収められている。

 これまであったダンジョンの石材は一切なくて、まるで貴族が住んでいそうな豪奢さがある。

 ここにはつい最近まで人が住んでいたような痕跡もあった。



 まず螺旋階段を下りた最下層には暖炉が置かれていて、その前には木製の安楽椅子が二つ。暖炉は誰が手を付けなくとも火が灯されていて暖かく、揺れる橙色の灯りが周囲を照らしていた。

 暖炉の周りに本棚はない。

 絨毯の上に雑多に落とされた本や服、あとは木製の食器ぐらいだ。



 ――――時刻は夜の九時を回ったところ。

 この場所に、アインはディルを伴って足を運んでいた。



「冒険者が本を運んだりはしてないんだ」


「ギルドが止めているらしいです。貴重な本であれば扱いは注意が必要ですから」


「なるほどね」



 どうしてアインが地下に居るのかというと、ある提案のもとでの行動だ。

 今、第一層にはシルヴァードやロイドが居る。ギルドの担当者を引き連れて、まだ話をしている最中なのだ。そのシルヴァードたちが仕事を終えるまでという条件でアインはここにいる。

 名目としては、本棚の調査だ。



 勤勉なアインなら何か情報を得られるかもしれないと。

 明後日に迫る王都への帰還前、最後の一仕事としてシルヴァードから許可を得ている。



「聞いていた通り、魔物が一匹もいないし気配もない」


「ええ、冒険者たちも困惑していたと聞いておりますよ」



 しんと静まり返ったこの階層は、さながら神聖な場所のようにも感じられる。

 何か、神隠しのダンジョンらしくない。

 例えるのは難しいが、ここは温かみのある空間だ。

 暖炉のあるなしによるものではなく、この場を作り上げた者の人となりというべきか、穏やかで優しげな何かが伝わって止まない。



 どうしたもんか。

 床に落ちていた本を一冊、アインが手に取った。



「――――読めない」



 全く分からない文字だったが、マジョリカが読んだ古代イシュタル文字に似ている。

 問題と言えば、アインには読めないことか。

 竜人やライルたちの情報が少しでもあれば……そう思っていたのだが、難しそうである。



「私も本を集めて参りますので、アイン様はここを離れないでくださいね」


「ん、ありがと」



 ディルがアインの元を離れていく。

 その彼の背を眺めていたアインは安楽椅子に座り、暖炉を眺めた。

 暖かい。

 心地よい暖かさがじわっと伝わってきた。



「椅子は二つ……誰か、二人分ってことだろうけど」



 やはり人が住んでいたのだろうか? 仮にそうだとして、竜人の他に誰であろうか。

 考えても答えは出ず、アインは暖かさに心を溶かすばかり。



(――――あれ)



 不意に見つけた、暖炉の奥にある鍵穴。

 あんなところに鍵がある? さすがにアインも不思議に思った。

 思わず椅子を立って近づくが、手を入れるとさすがに火傷してしまいそう。

 火を止めてもいいのだが、と思い立って間もなく。



「常識的に考えて駄目だろ」


「おや、なにが駄目なのですか?」


「わっ!? ……びっくりするから急に話しかけないでって」


「申し訳ありません。ところで、本をいくつか見繕ってまいりましたが」



 ディルはそう言って本を床に置いた。



「読んでみよっか。読めるかどうかは別として」


「少しでも情報があればよいかと」



 二人はそう言って手ごろな本を見繕い、手に取ってから安楽椅子に腰かけた。

 すると。



「アイン様! その胸元で光っているものは……ッ!」


「――――え」



 不意にアインの胸元が光り、驚きを誘った。

 勢いよく椅子を立ったディルが駆け寄ろうとするも、その動きは唐突に止まった。一瞬で氷漬けにされたかのように、前触れは一切なしにだ。

 勿論、その様子を見て何事かとアインは驚く。



「ディルッ!」



 立ちあがったアインがディルに駆け寄ろうとしたその瞬間。

 アインの胸元から、手のひらに収まる小さな鍵が現れて宙に浮いた。

 鍵はゆっくりと動き出して、暖炉の中へ向かう。最奥の鍵穴にたどり着くと誰の手も借りず鍵穴に刺さり、カタン、小さな音を上げて回った。



 それから暖炉の火があっという間に消えて、奥につづく道が現れる。



「…………今のって」



 もしかしたら、ヴェルグクと戦ったときに見た光なのか。

 あの戦いで鍵を得て、地下に現れた書庫で使うアイテムだった。

 何やら無視できない因果を感じたアインは、それよりもとディルに触れる。だが、彼は本当に動く気配がなく、開いたままの瞳はまばたきをする様子もない。

 時間ごと止められたような、見たこともない症状だ。



 それから、アインはディルを持ち上げようと試みるも駄目。

 螺旋階段を上り外に出ようとするも駄目だった。

 数十分待っても、数時間待っても助けが来る気配も誰かがやってくる気配もない。



「進んでみるしかないのか」



 意を決して暖炉の中に行くと、奥にあったのは小部屋だ。

 平民の家にありそうな特筆すべき点のない広さをした部屋だった。



 ただ、それでもアインの目を引くものはある。



 ここもやはり暖炉の外と同じく良い造り、良い調度品の備わった部屋だ。

 一人分が寝るのにちょうどいいベッドが置かれていて、隣にはこじんまりとした机が一つ。机の上にはアインが両手で抱えるほどの、少し大きな石板が立てかけるように置かれていた。

 後は一冊、職人の技が光る革表紙の本がある。



 机に近づいてみる。

 近づくまでは服を掛けてあるのかと思った椅子が、少し事情が違っていた。

 椅子の上、そして机の上に袖が掛かったままのそれはローブだった。肌触りが良い、蒼に金糸を用いた美しいローブだ。



「変なの……誰かがこの机で寝落ちしたような」



 そして寝落ちした者だけが消えて、ローブだけ残されたような感じだった。

 よく見るとローブの中に浮き出たものがある。

 アインが手を伸ばしてローブを捲ると、そこにあった物は空の魔石だ。



「そやつはそこで息絶えたのじゃ」



 と、背後から届く声。



「数千年に及ぶ厳しい生活の中で力を失い、死した後、魔石そのものもまた息絶えた。シルビアのそれとは違い、彼女(、、)の魔石は力を失ったのじゃ」


「…………この人は、彼女って言うのは一体誰なんですか」


「イシュタルという神族じゃ」


「イシュタル?」


「左様。神族の中でも特に希少種と呼ばれる、時を司る女神じゃった」



 声の主が更に言う。



「本を手に取ってみよ」



 言われるがまま手に取ると、本の表紙はやはり読めない文字だ。

 苦笑したアインが「読めませんけど」と言えば。



「そこには『記録:巨神(、、)ヴェルグクについて』と書かれておるのだ」



 アインは静かに耳を傾けた。



「神族というのは面倒な性質を持つ。それは他者により命を奪われた際に、自我を失い暴走するという面倒な性質じゃ。ヴェルグクもまた例に漏れず、戦いに敗れて自我を失った――――ま、厳密には死す直前に暴走することで、完全な死を避けるための強化措置じゃな」


「…………」


「その後、自我を失ったヴェルグクはギルドにより討伐が決められた。しかしそれに異を唱えた者がおる。それが女神イシュタルじゃ。二人は恋仲にあったからの。さて……イシュタルはヴェルグクが元に戻ることを信じていたが、そんな前例はないと言ってもよい」



 彼女の声が徐々にアインの背に近づいてくる。



「じゃからイシュタルは逃げた。ヴェルグクを連れ、この遠く離れた誰も住んでおらんかった島に来た。ギルドの影響が薄いこの地まで逃げてこの砦を立て、恋人を治すために研究を重ねることにしたのじゃ。それからしばらくの時が流れ、この地はイシュタル諸島と呼ばれるようになった」


「貴女が口にしていたイシュタル諸島っていうのは……」



 これこそが起源であるということだ。

 予期しなかった情報を聞いてアインは驚きながら、意外にも冷静だ。



「お主、神殺しにまで至るとはの」



 ステータスカードに書かれていた文字を言われ、アインは苦笑いを浮かべて頭を掻く。



「貴女の頼み事ってやつも。あとは目的ってやつも含めて色々尋ねたいことがあって」


「ふむ」


「なんにせよ、正体を隠すつもりは全くなかったようですけど」



 と、アインはここでついに背後の声に振り返る。



「アレは幼名じゃ。近しい者はあの名で呼ぶ」



 なら問題ないと踏んだアインの前で、彼女は静かに仮面を外す。

 髪の毛が銀色に変わっていき、これまで聞いていた声も変化した。

 やっぱりな、笑ったアインが彼女を見て言う。



「はじめて貴女個人のことが分かった気がします――――セラさん」



 彼女は、セラはくすぐったそうにコロンと首を傾げた。

 目を細めて、頬を掻きながら口を開いて。



「その名に「さん」と付けられるとこそばゆいのう」



 何とも力の抜ける言葉を返したのだった。




今日もアクセスありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
>>>原作書籍版、コミックス版もどうぞよろしくお願いいたします!<<<
kk7v3ln45t9go535jpgm38ngs0a_1dgr_is_rs_
― 新着の感想 ―
[一言] セラさん、まさかとは思いましたがやはり貴女でしたか... で、セラさんって誰だっけw?(汗
[一言] やはり神殺しか… 神隠しのダンジョンって神隠しに合うダンジョンではなく神を隠したダンジョンなんです?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。