連れ去られた先は?
もう三日ですが、新年明けましておめでとうございます。
今年も皆様にお付き合いいただけるよう、気合を入れて執筆などに努めてまいります。
まずは一回目の更新となります。
それでは、今年もどうぞよろしくお願いします。
旧ハイム王国近衛騎士は、ティグルの言葉にひどく気を悪くした。シルヴァードを陛下と言い、自分たちではなく、イシュタリカの騎士らを頼もしい部下と言わんばかりに呼びつけたからだ。
また、ティグルはこれでカミラを捕縛できるだろうと思い、騒動がいくらか収まるはずと胸の内で考えた。
すぐにでもイシュタリカの騎士が力を見せるはずだったのだが――。
「彼女が残していった遺産は、こうして役立っているんですよ」
下卑た笑みを振りまくカミラにティグルが気を取られた。その余裕はなんだろうか、思った矢先に駆け付けた騎士たちが壁際に吹き飛ばされる。
一瞬だけ、金属のぶつかり合う鈍い音が響いた。
「な――何をッ!?」
いったい何をした? ティグルが辺りを窺うと、目線の先には二人の騎士の姿がある。カミラに命じられて剣を抜いた二人だ。
いつの間にか振り下ろされた剣は、イシュタリカの騎士の鎧を切り裂き、壁際に吹き飛ばしていた。
ふと、ティグルの脳裏をよぎった瘴気を纏う謎の生物たちの件。
今は瘴気が漏れていないのが分かるが、一度も声を出していない二人の騎士は普通の人間なのかと疑問符を抱く。何よりも、目にもとまらぬ速度でイシュタリカの騎士を倒せる者は、ティグルが知る中ではローガスとグリントぐらいなものだ。
(この力が、兄上や父上……それに、ローガスたちをも支配したという例の力なのか……!?)
戦場に立たなかったティグルは、あくまでも耳にしただけだ。ハイム王ラルフ、そして兄のレイフォンの変わり果てた姿はアインから聞き、むしろ、止めをさしてくれたことに感謝したほど。
だが、現状その正体を思うべきじゃない。
「くっ……考えている余裕はないか……!」
部屋の外からは、すぐさま増援のやってくる足音が聞こえだす。
この状況から逃れるべく、ティグルが小さく舌打ちをして駆けだしたのだが。
「殿下! ひとまず我々とともに来ていただきますッ!」
「さぁっ! どうぞこちらへ!」
無理やり肩を握った騎士の手に、部屋を出ようとしたティグルの足が止まる。
「や、やめろ! 私は別に貴様らが抱いているような宿願なんぞ……」
すると、カミラが食い気味に口を開く。
「……今の殿下にはなくとも、私たちにはあるんですよ。夫の無念を、そしてグリントが抱いた痛みの分だけの復讐を。全てを果たした暁には、偉大なるハイムの再興です」
王族のティグルを差し置いた大それた願い事だが、カミラの血走った眼からは、嘘か誠かを察するのは容易すぎた。
ティグルは両腕を近衛騎士に捕まれ窓際に連れていかれる。
「違う! 父上も私も間違えていた! イシュタリカに喧嘩を売るというだけのことではなく、我らは民に対し真摯であったとは思えんッ! 現状はだからこその罰であり、今の統治に民は満足している……! 我らがハイムの再興を願うことはもはや――」
「殿下へ、ノイシュ殿からいただいたお薬を。殿下は混乱なさってるようですから」
「はっ! 失礼いたします……殿下」
「まて、ノイシュだと!? やはりお前たちは龍信仰の者らと――」
ウォーレンの予想が的中した。
古代生物研究所の所長だったノイシュとカミラの繋がり、手を組んでいたのはもはや言うまでもない。
やがて、近衛騎士が甘い香りのする白い布をティグルの顔に近づける。カミラが語った「お薬」という言葉から、意識を奪うような物なことは察しがついた。
「ッ……貴様! やはり! 龍信仰の者らと手を組んでいたのだなッ!?」
わざとらしく大声をあげたのは、自らが得た手がかりを誰かに伝えるため。
誰か、この叫びを覚えていくれるように……。ティグルはその願いを最後に意識を失った。
――特定の人物を狙うための大胆な犯行は、まさに警備の穴をついて行われた。
ティグルが意図して叫んだ言葉は屋敷の者にも届き、すぐさま新たな警備網が敷かれる。
やがて早馬により、バードランドに到着していたバッツとレオナードの下へと、ティグルが連れ去られたという報が届いた。
時刻は朝の六時過ぎ。
早い時間帯であったが、二人が情報共有のために一つの部屋に集まっていた時のことだ。
「はぁあああッ!? ティグルが攫われただって?」
差出人はエレナ・アウグスト。
何の気なしに内容に目を通していたバッツが、レオナードの手前に座り大声をあげたのだ。
「ッ……げ、げほっ……げほっ……おい、バッツ! 急に何を――」
レオナードが飲みかけの紅茶を吹き出す。
「いいから読めってんだ! おらッ! アインの嫁さんの母君からの手紙だぞ!」
「分かりにくい言い方をするな! だが、エレナ殿がそのような手紙を……?」
「んなこと嘘ついてどうすんだってんだよ……ほら、いいから読めって」
手紙を読めば、主犯はカミラで龍信仰との関係が確実なものとなったとある。ティグルが攫われ、イシュタリカの騎士が容易にのされたという報が、二人の緊張感を高める。
「にわかには信じられん……正直、ハイムの騎士はそう精強ではないと聞いていたが」
「俺も直接見たわけじゃねえから知らねえよ。だけどな、ハイム戦争のときの戦力ってのは、あの……赤狐だったか? あいつらのせいで相当な地獄だったって話だ。その胡散臭い力の欠片でもありゃってとこじゃねえのか?」
「そうだな、詳細は知らんが胡散臭いにもほどがある。恐らく、殿下たちはその胡散臭さの本質をご理解なさっているのだろうが――」
「ま、俺ら末端が耳にしていい情報じゃねえってことよ」
「ははっ、皮肉だな? 我々は現在、貴族の立場もあって指揮官の一席を担っているわけだが」
「それでもまだまだ末端だ。色々と聞けねえ話は妥協するとして、ティグルのことをどうするかって問題だ」
「……助けるべきだろう」
言いづらそうに語ったレオナードにバッツが目を点にした。すると、大きな大きなため息を漏らし、自身のこめかみを掻き苦笑した。
「当然だろうよ。あいつはダチだしな」
「だ、だが……自分で言っておいてなんだが、仕事に私情を持ち込むのはできん」
「馬鹿言ってんじゃねえよ。ハイム公ってー立派な貴族の救出任務だろ、後は――」
「そうか。黒幕ともいえる存在が近くに居た……なら、その黒幕を捕縛するために行動すれば、ティグルも助けられるということか」
ふっ、と笑ってバッツが頷く。
彼はそのまま腰かけていたソファに深く座りなおすと、両腕を広げ縁に置く。
「それで、これからどうするかって話なんだが」
「まずは本国に連絡をする。恐らく、エレナ殿からすでにされているだろうが、我々からも急いでするべきだろう」
「おう、妥当な線だな」
「後は、立ち去っていったカミラや旧ハイム騎士の後を追うための部隊の編成だ」
レオナードは言い終えると懐から一纏めの紙の束を取り出す。そのまま流れるようにペンを滑らせる。
「手紙に書いてあったぞ、逃げてった方角がな」
「港町ラウンドハートから見てどちらだ?」
「北西だそうだ。ちょうど……そうだな、俺たちが前に行った遺跡の方って聞いたぞ」
「あの遺跡の方角に? 何かあるのか?」
「知らん。隠れ家かなんかがあるんじゃねえのか?」
何はともあれ追手を放つしかない。
二人はその後、部屋を出て、他の部隊の指揮官らを招集し話し合いに向かった。
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