『書籍化記念&一周年』学園都市でのやりとり『閑話』
いつもアクセスありがとうございます。
皆様の応援のお陰で、無事に一周年を迎えることができました。
それと共に、書籍化の報告をさせていただきます。
レーベル様やイラストレーター様についてなど、詳しくは活動報告をご覧いただければ幸いです。
実はすでに、素敵なキャラクターデザインもいただいております。
こちらも活動報告にございますので、是非、ご覧くださいませ。
これからもWEB版ともども、魔石グルメをどうぞよろしくお願い致します。
重ねて、皆様にお礼申し上げます。
いつも多くの応援、本当に本当にありがとうございました。
※時系列としては海龍の前で、クローネもまだ学園に通っていた頃の話です。
齟齬が生じていたら申し訳ありません。
◇ ◇ ◇ ◇
学園都市と呼ばれる、学園が集合した地域にいるアイン。
昼下がりに学園を出て、近くにある食事処へ足を運んでいた。
テラスとなった一席に腰かけて、護衛のクリスに話しかける。
「……これさ、学園の一年生にやらせる内容じゃないよね?」
「と言われましても……王立キングスランド学園は、イシュタリカで最高峰の学び舎ですから……」
「まぁ、分かってはいたんだけど……仕方ないか」
アインが言いたいのは、年相応の勉学は求めていないが、これは度を越していないかという疑問だ。
とはいえ、クリスも口にしたように、学園の質が高すぎるから仕方がない。
「学園を出たんですから、城に戻ってから手を付けていかがですか?」
「……クリスさんが言うのも分かるんだけど、たまにはさ、こんな気分転換もいいかなって」
「なるほど……あながち間違いではありませんね」
「というわけで、ご飯食べたから教科書を開いてるわけだ」
しかし、さっき弱音を吐いた通り、順調かと言われればそうでもない。
アインが今見ているのは、今日配られたばかりの新しい教科書。
一組の皆が苦笑いを浮かべていたのは、随分と記憶に新しい。
「天気はこんなによくて暖かいのに、ペンが動かないんだけど……どうしてかな?」
「アイン様、私に一つ助言がございますよ」
まさに天の助けと言わんばかりか、クリスの言葉にアインが身体を乗り出した。
向かい側に座るクリスに顔を近づける。
「ひたすらにペンを動かすのが、正解への近道です」
「――なるほどね。うん。それはいい助言だった、最高だよ」
「あははは……その、応援してますね」
初夏の王都は少し暑いが、今日は風があって涼しい。
アインはその風を感じながら、もう一度、教科書へと目線を戻した――のだが、ふと、聞きなれた友人の声がとどいた。
「――お、アインじゃねえか」
「バッツ。ここは外なんだから、その呼び方はまずい」
「っとと……失礼、殿下」
やってきたのは二人の友人。
バッツとレオナード、入学以来ずっと同じ組の友人だった。
二人の手元にも、アインと同じ教科書がある。
「アイン様。私は近くで護衛しておりますね」
「ん、りょーかい」
二人が来たところで、クリスは席を立って少し距離をとる。
申し訳なさげにしていた二人も、アインに促されて席についた。
「なんか悪いことしちまったみたいだな」
「えぇ……よろしいのですか? 殿下」
「――クリスさんは、二人が優しいのも分かってるよ」
仕事に忠実な彼女だから、素直にこの配慮を受け取ってほしい。
アインの意を組み、二人はそっと頷くと、店員へ声をかけ飲み物を注文した。
「あれ、ロランは?」
「あいつは家に帰ったぞ。家の仕事手伝うーって急いでたしな」
「うーん……それは残念だけど、仕方ないか」
「ところで、殿下。その……殿下も苦労なさっているのですか? その、本日配られた物に……」
レオナードの目線がアインの手元に向かい、ペンと教科書を往復する。
その声を聞いてか、三人は一斉にため息を漏らし、一様に学園都市の通りを眺め出した。
「おうおう……今日も賑わってんなー」
「あぁ、そうだな……」
「……いい天気なのに、気分は晴れないっていうね」
二人から漏れた言葉につづいて、アインも切なげに言葉を漏らす。
「その――殿下はどのぐらい進みましたか?」
「あー、俺は……この辺り」
「おいおい、進み過ぎだろうが……! 俺とレオナードだって、さっきまで図書棟で気合いれてたっていうのによ」
「……バッツ。殿下の場合、我々よりもその、なんだ? 責任感などがだな……」
「あ、あぁ……まぁ、それもあるだろうけどよ」
「二人とも、この話はよしておこう」
アインが軽く手を叩き、この何とも言えない空気に活を入れる。
折角、学園の外で会えたのだから、もう少し明るい話がしたかった。
「お、アイン。あっちの方見て見ろよ」
「だから……殿下だろ、バッツ」
「いや、今は三人だけだし、アインでいいよ」
ニカッと、バッツが勝ち誇ったように笑う。
レオナードは呆れた様子で彼を見て、アインの判断を尊重した。
「で、あっちの方ってなに?」
「あっちだって。ほらみてみろよ、リーベ女学園のご令嬢たちだぞ。うちに次ぐ厳しさを誇る学園だ」
(リーベ女学園……あぁ、クローネが居るところか)
三つ年上の彼女は、オリビアの推薦とララルアの推薦を手にし、
ウォーレンの手助けもあって、リーベ女学園へと編入学している。
オーガスト商会の建物からもだが、なんだかんだと、彼女は城に寝泊まりする方が多い気がしてならない。
……と、考えているとなんとやら。
バッツが見ていた女生徒の中に、クローネが混じっていたのだ。
「……えー」
咄嗟にクリスに目配せをしたが、彼女も苦笑いを浮かべている。
クローネとアインの距離が近いこと、これ自体は別に隠していることではなかったが、こうして、外部で物理的な距離が近づいたのははじめての経験だ。
「では、少し皆様でお茶をしていきましょうか」
「素敵ですわ。さぁ、クローネ様も」
「あ……え、えぇ……分かりました」
少し強引な令嬢に手を取られ、クローネは笑顔で応じる。
彼女を含んだ三人組の令嬢たちは、アインらがいる店に足を向けた。
「こちらの席に致しましょうか。さぁ、どうぞ、クローネ様」
「……ありがとうございます」
アインは咄嗟に椅子の角度を変え、彼女に背中を向ける。
とはいえ、近くにクリスが立っていることで、アインが居ることに気が付いている。
むしろ、アインが背中を向けたことでムッとしたのは言うまでもない。
「あ? おいおい、アイン……どうしたんだ?」
「いや……ほら? 俺ってお披露目されたばっかりだし、同年代とはあんまり……ね?」
「んー? あぁ、ってーとあれか? 目立ちたくないってことか?」
「そうそう! 分かってくれて助かるよ」
勿論本心は違うが、クリスはそんなアインの事を、何とも言えない苦笑いでみるばかりだ。
すぐ傍に座るレオナードは、バッツの言葉をそのままに信じて、壁を作るようにアインの近くに席を動かす。
「私が道沿いに座ってますので、どうかご安心ください」
「あ、うん……ありがとう……」
心が痛い。
レオナードの気遣いが心に痛みを与えてくる。
だが、顔を合わせるのもなんとなく気恥ずかしいのだから、今はこのままにしておくことにした。
やがて、令嬢たちは席についた。
クローネが座るように促された席からは、背中を向けるアインが見える。
「――ところで、先日の王太子殿下のお披露目はご覧になりまして?」
「えぇ! とても凛々しいお方でしたわね! 第二王女殿下にそっくりで、すごく素敵な方でしたわ」
「私もそう思いましたの。……クローネ様はいかがでしたか?」
ピクッと、アインの身体が揺れた。
クローネはその様子に気が付くと、どうしたものかと考え出した。
素直に言うべきか、それとも、いつものように悪戯を加えてしまうべきか……と。
「……あの人がオーガスト商会の令嬢か。なるほど、騒ぎになるのが良く分かるな」
「あぁ。すでに大貴族からも見合いの申し出が殺到してると聞くが、私も納得だ」
二人は令嬢たちにチラッと目線を向ける。
クローネを挟む二人も十分な美少女だったが、やはり、クローネという華は目立ちすぎている。
「器量がいい。いずれは大商会になるって言われてる、オーガスト商会の令嬢と言う立場。そりゃーモテるだろうな」
「私も同意だ。しかし、宰相閣下が止めていると聞くが……殿下? どうなさったのですか?」
「い、いや……別に……少し暑くなってきたかなーって」
主に緊張からなのだが。
レオナードはそっぽを向いているアインを不思議に思う。
三人が話していると、少しずつ、令嬢たちの会話が新たに聞こえだした。
「私は……そうですね。少しやんちゃなお方かなと思っています」
「まぁまぁ……! そういえば、クローネ様は城に出入りなさっておいでですものね」
(やんちゃって、俺が……!? いやいやいや、たまに暗黒ストローを使ったり、カティマさんと遊んでるぐらいでしょ……!)
当然だが、傍から見れば十分にやんちゃだ。
控えているクリスも、クローネの言葉に深く頷いて同意している。
「……アイン、お前やんちゃなのか?」
「え、何が? 何の話?」
「いや、だから……おう、なんでもねえわ」
答える気が無いアインに気が付き、バッツは言葉を遮った。
その判断の裏には、レオナードのきつい目線があった事は言うまでもない。
「ですが……王太子殿下はお優しくて、気配りが出来る――素敵なお方ですよ」
話す言葉自体は本心からだ。
しかし、それをこの場で口にしたのは、クローネ自身の悪戯心が見え隠れしている。
背中を向けるままなら、貴方を照れさせてあげるから。
そんな気持ちが前に押し出されているのだ。
「……殿下」
「う、うん……なに?」
「クローネ殿は見る目があるお方のようですね」
「あ、うん……そうね」
アインの周辺は個性的な人物ばかりで暇がない。
友人一人とっても、その会話一つとってもそうなのだ。
だが、このまま彼女を野放しにするのはまずい。
原因は背を向けた自分にあるが、アインはクリスに目配せをして立ち上がると、
「ごめん、あの子――クローネは、俺が背中を向けてたことが気に食わないみたいなんだ」
「……だと思ったぜ。ったく、照れてないでさっさといってこい」
まるで気の良い兄のように手を振り、バッツがアインの背中を押す。
レオナードも優し気に笑うと、頭を下げて見送った。
立ち上がったアインはクリスと合流し、楽し気に会話をつづける三人組に近づく。
「――歓談を楽しんでるみたいだけど、失礼するよ」
少し歩いて、三人の令嬢の席に近づいた。
二人の令嬢は怪訝な顔をむけたのだが、すぐさま、やってきた人物の立場に気が付く。
「ッ――お、王太子殿下……!?」
「え、え……ど、どうしてこちらに……?」
「俺が通ってる学園が近いんだ。悪いけど、クローネを借りていってもいいかな?」
二人に断りを入れると、笑って首を傾げるクローネを見る。
「……あら。殿下にお誘いいただけるなんて、光栄ですわ」
「やんちゃな王太子だからね。こんな場所でも気にしないんだ」
令嬢たちははらはらした様子でアインをみた。
もしかすると、クローネの言葉に怒っているのかもしれないと。
しかし、アインはそう言った後、クローネに手を差し出した。
「今日は城に?」
「えぇ。ウォーレン様からの課題もあるもの」
「ちょうどいいし、一緒に帰ろうか」
「ふふ……背を向けたことのお詫びかしら?」
「まぁ、そんな感じかもね」
アインとクローネの二人は、慣れた様子で会話をしてみせる。
王太子に向けてのクローネの態度もそうだが、王太子からの態度のそれも、親しみやすくて気を奪われた。
「お二人とも。本当に申し訳ないのだけれど、今日はこのあたりでお暇いたしますわ」
呆然とした令嬢たちに頭を下げ、彼女はアインの隣に立って歩き出す。
少し離れた場所からは、バッツとレオナードも見送っていた。
「あのクローネ様が……悉く殿方をお断りしていたクローネ様が……」
「えぇ……素敵な笑顔で、王太子殿下と一緒に……!」
去り際に、こんな会話が聞こえてきたりもしたが、アインたちはそれを笑って流す。
少なくともいえることは、王家はアインとクローネがどういう関係かを公表していない。
しかしながら、彼ら王家は、二人の仲を否定することもないだろう。
「お二人とも? 今日ぐらいの者たちなら構いませんが、人が多い場所では言葉遣いをですね……」
「ごめんね、クリスさん。気を付けるよ」
「私も、申し訳ありませんでした」
二人は口にしていないが、こうして、学園都市で会えたことを嬉しく思っていたのだろう。
これを思い、クリスは強く言いつけることはしなかった。
楽しそうに歩いている二人を見ていると、そんな気分にもなれないのだ。
「――あら? それ、新しい教科書かしら?」
「そうだよ。難しくて気落ちしてたら、クリスさんからペンを動かせば解決……って助言をもらったんだ」
「素敵な助言ね。それが何よりも近道だわ」
若干不満げなアインの顔を、クローネは覗き込むように眺めた。
「お城に帰ったら、私が教えてあげる」
「え……ク、クローネ……分かるの……?」
「私の方が年上だもの。それに、私だって努力してるんだから」
「……お手柔らかにお願いします」
教えられっぱなしと言うのも好きじゃないが、今日は彼女に甘えることにしよう。
悔し気に頷いたアインを見て、クローネとクリスの二人は、今日という日の出来事を思い出に残したのだった。




