一晩が明けて。
>>一つご報告があります。<<
諸事情で申し訳ないのですが、近日中に、魔石グルメのタイトルを変更いたします。
旧タイトルとして後半部分に記載はしますが、見つけるのが少し不安だという方がいらっしゃいましたら、お手数をお掛けして申し訳ないですが、作者自身をお気に入り登録くだされば幸いです。
そうしていただけば、見逃す事は無いかと思いますので……。
また、活動報告などでも連絡等をする場合がございます。
もしよければ、確認いただければと思います。
長文となりましたが、何卒宜しくお願い致します。
翌朝の屋敷は、いつもと違って騒々しかった。
というのも、決して大きな声が交わされていたというわけではないが、人の行き来が多く、落ち着きが無いのは一目見てわかる。
さて、どうしたものか。
昨晩のことを考えていたアインの元へと、ディルが慌ててやってきたのだ。
場所はアインの自室で、一人で考え事をしていたときのことだ。
「ア……アイン様ッ! ご無事でしたか!?」
「ぶ、無事だから落ち着いてほしいかなー……なんて」
「申し訳ありませんッ! この度は、襲撃を許したというのに、私がお傍にいられなかったこと……なんとお詫び申し上げればよいのか」
彼にしては珍しく、随分とアインの言葉を聞かない態度だ。
アインの部屋にやってくるや否や、頭を下げたまま、顔をみせようとしない。
「……だから、ディルは悪くないって」
「いえ、そもそも、私が先日のように休暇をとることが――」
「ディル。命令だ、頭をあげろ」
王太子アインに近いものならよく知る、アインという男の放つ覇気。
皮膚全体をひっぱりあげられる。そんな錯覚を抱かせ、彼の瞳に目線を向けるしかなくなるのだ。
「ディルが言うことは、俺の命令を受け入れられないという意味になるよ」
「……どういうことでしょうか?」
「定期的に王都に帰るように命じたのは俺だ。休暇のつもりじゃなくて、それもあくまで仕事の一環だよ」
あくまでも方便だ。
そんなこと、当事者のディルやマーサなら、良く分かっていることなのだが、
「ッ――ですが」
「ですがじゃなくて、これは命令だった。だから、ディルが謝るのは筋違い……さてと」
そういって、ソファから立ち上がるアイン。
窓際に向かい、屋敷の外に目を向ける。
「お爺様は何か言ってた?」
「……近衛騎士を増員するとのことです」
「だろうね。ロイドを送るなんていわれたら、それは断ってたけど」
国王シルヴァードの周辺を守るためだ。
そもそも、アイン個人の話をするならば、そう危険という話ではないのだから。
彼は魔王にして、世界樹――それも、ただの世界樹ではない。
覚醒済みの存在にして、暴食の世界樹と呼ばれる存在だ。
完全な隙をつけたところで、今のアインを殺せるか?
考えてみるが、その結果は望みにくい。
「リリ。いる?」
「……あれ? 私ってば、いつからバレてました?」
「最初からかな、ディルと一緒に来てくれたんでしょ?」
そこまでいうと、扉の外からリリがやってくる。
リリは耳がいいな、アインは笑った。
「ウォーレンの隠密は、何をはじめたところかな」
「……そこまで分かってるんですか。相変わらず、アイン様は目ざといというかなんというか」
すると、リリは悔しそうに近づいた。
「我らは本日より、ここシュトロムの調査を開始しております。ですが、芳しくないのが現状です」
「芳しくない?」
「はい……なんというか、アジトらしきものもなくて、密会? とかをしてる様子も見当たらないんですよ」
アインが窓から目を離し、目を白黒させてリリをみた。
こめかみを掻き、やがて手の全体で頭の片側を搔く。
「ごめん、聞き間違いだったって思いたいけど、リリたちでも、痕跡を掴めてないってこと?」
「ま、まだはじめて半日程度ですので……これからはわからないですけど……」
「あぁ、ごめん。怒ってるんじゃなくて、信じられなかっただけなんだ」
慌てたリリに対し、同じく慌ててアインが否定する。
アインが考えていたのは、彼女を詰問するようなものではなく、
「リリたちでも、半日かけて分からない相手。……そこに驚いただけだよ」
意識を変えるべきかもしれない。
もう少し、更に警戒を強めるべきなのだろうか、と。
(ただの、ちんけな犯罪組織かなって思ってたけど)
この認識ではだめなのだ。
今は、大きくなるかもしれない被害に対し、もう少し慎重に、且つ力を入れて取り組む必要が出てきたのだから。
「ウォーレンは何か言ってた? 俺に、王都に帰ってきて……とか」
「あー、いえいえ。どちらかと言うと逆ですね」
「ん、逆?」
言うに迷うような表情で、手を振ってリリが答える。
「力を暴走させることがないようにお願いします――って言ってましたよ」
「……信用されてるのか、されてないのか」
信用されてるのはアインの力。
信用されていないのはアインの判断、といったところだろうか。
「あれ、でもその言葉って……実質的に、俺が調査に関わるのを許可するってこと?」
「え、えぇーっとですね、陛下が仰っていたことを伝えますと」
すると、次にいうリリの言葉を聞き、アインが項垂れることになるのだ。
「なんでも、『止めて止まる相手なら、余も止めることにするのだがな』って、仰ってましたよ」
「……信用されてるのか、されてないのか」
「きっとされておりますよ。ただ、その中身は少し……答えに困窮致しますが」
ディルのフォローになってないフォローを聞き、アインは少しだけ気が楽になった。
この不可思議な事件にありながら、若干の和みを感じたのだ。
やがて、アインは机に置いていた剣を取り、同時に羊皮紙の命令書を取った。
「アイン様? いまの紙は?」
「命令書。マルコに頼もうと思ってたやつなんだけど、ちょっと、しょうもないことで悩んでたからさ」
吹っ切れたのだ。それはなぜか、理由は簡単だ。
アインも行動できるようになったことで、気持ちに変化が生じた。
命じる自分も行動できるなら、あんなこと、些細な悩みじゃないかと。笑い飛ばすことができたのだ。
◇ ◇ ◇
リリは自らの仕事のため、屋敷を去って町に向かって行った。
残ったアインとディルだったが、ディルはアインの伴をして、屋敷にあるマルコの部屋に足を運ぶ。
「マルコ、時間を貰うよ」
「え、えぇ。どうなさいましたか、アイン様」
昨晩は、屋敷に戻ってから、お互いに情報の交換をした。
アインはどのように襲われて、何をして、どんな話をしたのかをだ。
その後になってマルコは言っていた。
『……気になることがございます。明日の朝までに、お答えできるように資料をおつくりします』
つまり、例のローブの集団に覚えがあるということなのだろう。
龍の力に関してもそうだが、マルコという、古い時代から生きている者がいるのはありがたい。
その資料を受け取るという意味でも、マルコの元に足を運ぶのはちょうどよかったのだ。
急にやってきたアインに対し、マルコは少しばかり驚いた様子だった。
しかし、彼はすぐに臣下の礼を取る。
「――マルコに対し、正式に命令をしに来たんだ」
懐から丸めた羊皮紙を取り出すと、それを広げて内容を読み上げる。
内容は、犯罪組織に対しての調査の件だ。
読み上げた最後に、アイン自身の名によって命令すると告げ、羊皮紙そのものをマルコに渡す。
「以上だ。マルコも確認できたなら、この命令を正式に受託したものとする」
しかし、受け取ったマルコの様子が変だ。
身体を小刻みに震わせ、彼にはない顔でじっと命令書を眺める。
だが、アインとディルは感じた。
いつの間にか、マルコの全身に異変が生じはじめていたということにだ。
「これは私個人の考えです。この価値観は、誰もが納得するものではないかもしれません」
「……どうしたの、マルコ?」
「上質な羊皮紙。黒い墨で書かれた文字。溶かした金の封。手触りの良い止め紐。……このすべてが、騎士の誇りに通ずるのだと」
アインはその真意を理解できなかった。
理解できたのは、隣に立つディルだけだ。
それは誇り、誰よりも大切な主から頂戴する、特別な命令。
積み重ねられるそれは財産となり、その騎士が生きた証に通ずるのだ。
ただの言葉では終わらない、主が自らを信用したという証。
以前、マルコはクローネに語ったことがある。
彼は仕えるべき主が決まっていた。しかし、仕える前に、その主は死んでしまったという話だ。
そんな彼にとって、主から受け取れる命令書とは、それはもう格別な代物に違いない。
精神に大きな影響を及ぼすであろう、ある種の進化の瞬間がやってくるのだ。
仕えるべき相手のため、自らの身体を最適化する。それすらも、一つの忠義に繋がるのだと。
「謹んでお受けいたしましょう。我が全てを賭け、誇り高き御身の期待に応えてみせると約束致します」
――次の瞬間、マルコの異変が最盛期を迎える。
大きく大きく光を漏らし、マルコを中心に灯りが広がる。
何が起きるんだ。二人は驚き立ち止まりながらマルコをみた。
「マルコッ!? か、身体……どうしたの……!?」
鎧の色つやが変貌し、脈打つ身体に勢いが増した。
心なしか、その鎧すら、少しばかり大きくなったように見える。
「これは私の精神的な問題だったのかもしれません。今の私は、昔の自分を取り戻すことができました」
「……ごめん、どういうこと?」
「ふふ……そうですね、言い方を変えるならば」
マルコは言う。
今までで一番の自信に満ちた声で、徹底的にアインに従うという意思を込め、その真意を答えるのだ。
「数百年前、魔王城をただ一人で守っていた頃の――全盛期の私です」
「――なんとたくましい鎧でしょう、マルコ殿」
「そう煽てずともよいのです、団長。これは偏に、私の精神的な弱さがみせたからの遅れ。今頃になって、こうして主になって力を使えること、喜ぶべきではあるかと思いますがね」
彼から感じるオーラというものは、手加減していた頃のカイン、彼と比べても大差がない。
つまり今の彼は、それほどの力に満ち溢れているということなのだろう。
アインは頼もしさを覚えると同時に、ある一つの心配をした。
(く、訓練の時……勝てるかな……)
しばしば語られることになるが、アインの方が強い。
だが、それは剣のみではないという場合で、剣を競った時には話が別だ。
マルコが全盛期ではなかったという話は初耳だ。しかし、彼もまた、それを伝えるつもりは無かったのだろう。
なぜならば、彼はその力をみせられなかったのを、精神的な弱さと自己評価する。
アインの命令書が一つのきっかけとなったのは事実だが、わざわざ語るつもりはなかったのだと推測できる。
とはいえ、頼もしく感じるのは事実。
この事件が早く終わりを迎えることを願い、アインは深く頷いた。
「さて、では……昨晩の男たちについての手がかりをどうぞ」
あっさりとしたもので、マルコはまとめていた資料を手に取った。
今の場面は、それなりに盛り上がりを見せるところではないのか?
見ていたアインとディルは苦笑いを浮かべる。
命令に忠実で、騎士の鑑たるマルコらしさに溢れている。
彼が差し出した資料を取り、アインはその中身に目を通しだした。
前書きにも記載しましたが、近日中にタイトルの変更を行います。
詳しくは前書き、活動報告に記載しましたので、ご確認くださいますようお願い致します。




