友人と。
夕方頃、活動報告で明日の更新とお知らせしたのですが、意外と余裕が出来て書けたので更新します。
お騒がせして申し訳ありません。
アインはクリスと二人で外に出た。目指すのは訓練場だ。
「立ちなさい。立つのをやめた者から、この屋敷を去るのです」
訓練場に近づいたアインの耳に、マルコの声が届く。
基本的に、彼ら黒騎士や近衛騎士の休日というのは不定期だ。
だというのに、マルコが休日を取った日というのは、いまだかつて見たことがない。
石畳を見てみると、息絶え絶えの三人の姿。
ディル、クライブ、そしてエルフのサイラスだった。
三人の武器は性格が分かる。
ディルはその実直な性格ゆえか、中型の直剣を持つ。
つづいて、クライブは直情的な性格のとおり、ロングソードを持つ。
最後に、サイラスは長弓を使う戦士だが、この場においては短剣を所持している。
彼の場合は、性格よりもエルフに向いている武器――といったところだ。
「……黒騎士の訓練は、相変わらず厳しいようですね」
壮絶なこの場をみて、クリスが言った。
近衛騎士団の団長を務める彼女からしても、頬がひきつる光景のようだ。
「そうみたいだね。さてと、訓練の邪魔をするのは忍びないけど――」
アインがゆっくりと訓練場に近づく。
訓練を遮ることに申し訳なさそうに感じ、そのまま声にだした。
「訓練中にごめんね。マルコ、少し用があるんだけど、大丈夫?」
「おぉ、これはアイン様……」
マルコはアインに答えると、三人から離れてアインに近寄る。
「少しの間休憩にしましょう。昼食の後に再開します」
「はっ!」
まずはじめにディルが答え、
「はぁ……はぁ……あ、ありがとうございました……ッ!」
呼吸すら辛そうにクライブが答える。
立つことすら厳しそうで、足元がふらついていた。
「ご、午後の訓練に向けて、英気を養ってまいります……」
最後にサイラスが答えるのだ。
三人は去り際にアインに対して頭を下げると、時間を無駄にしないようにと、急ぎ足でこの場を後にする。
「その、三人とも大丈夫?」
三人の後ろ姿を眺めながらアインが案じた。
「……実は、以前の訓練はもう少々、大人しいものだったんです」
「厳しくなっていったのは、何か理由があるの?」
「ございます。団長が筆頭となり、それを望んだからですよ」
なるほど。アインは頷いた。
まさかそうした事情があるとは思わなかったが、向上心が凄まじいということだろう。
自らそう申し出たということは、決して訓練に不満はないはずだ。
そう、アインが安堵する。
そういえば、と。
三人の返事を聞いて感じたのだが、三人には体力差があるようだ。
(一番元気に答えたのはディル。息を切らしながらだったけど、それが表に出ないように気を付けてた)
つまり、マルコの厳しい訓練についていけてるのだろう。
アインはつい嬉しさを感じてしまう。
残り二人はそう大差がないように思えるが、サイラスの方がクライブよりは体力があるようだ。
エルフの里で戦士長を務めていた影響だろう。
「ごめん。話がそれちゃったけど、ちょっと意見を聞きたいんだ」
若干の申し訳なさを顔に乗せ、アインが尋ねる。
前方にいるマルコは、熟達した老兵のような直立で聞く。
「俺もさっき、クリスから聞いたんだけど――」
語るのは犯罪組織とやらについてだ。
未だ情報は少なかったが、マルコは真剣にそれを聞く。
そして、すぐにアインが足を運んだ目的が明かされるのだ。
「今のシュトロムは大事な時期だ。だからこそ、犯罪組織にだけ全てを向けることはできない」
「仰る通りかと。都市を――そして、国の長たる者ならば、ただ一つのことに見向きすることは愚行でしょうね」
「そうなんだ。だから俺は、人員を選んで調査することに決めたんだけど」
ここでマルコは察した。その人員とやらが自分なのだと。
一方でアインは心配だった。そんなこと、そんなことというには些か不謹慎だが、マルコに任せるようなことなのかと。
しかしそれは杞憂だ。
「また新たな任務を頂戴できたこと。我が騎士道に新たな誇りが連なります」
彼は膝をついた。
すると、上半身を低くし、胸に手を当てて喜んだのだ。
「あ……えっと、受けてくれる、かな」
「主君から頂戴する任務。その栄光を他人に譲ることはできません」
「――感謝してるよ。マルコ」
アインはそう言うと、正式に命令を下す判断をした。
請願や陳情の書類が届くときのように、アインは命令書を認めることを決める。
後ほど、部屋へ戻ったら羊皮紙にペンをとることにする。
「ですがアイン様。一つ、提案してもよろしいでしょうか」
主君のアインが言い終えるのを待ち、マルコが尋ねる。
声は彼にしては珍しく、アインの顔色を覗うような遠慮が見え隠れしている。
「私がこのシュトロムを調査するには十分ですが、もう少々……手が欲しく存じます」
「手……つまり、調査をするための仲間ってことだよね?」
「ご推察の通り」
当然だ。アインも同じことは考えていた。
いくらマルコだろうとも、一人に任せるつもりはさらさらない。
苦労を掛けるにはことが過ぎる。
「城に連絡をして、いくらか調査する人員を選ぶつもりだった。この際だから、マルコの意見を聞きたい」
「私が求めるのは優秀な文官と、引き際を弁え、体力のある武官です」
「……なるほど、そうきたか」
難しいな。と首を傾げる。
どちらも探せばいるはずなのだが、ちょうど手が空いてるかという疑問がある。
「あ、いえ、アイン様。そう難しく考える必要はございません」
すると、マルコが手を振って言った。
「得体の知れぬ悪辣さを秘めた者を相手取るとき、私が求めたいのは引き際と、冷静な判断力でございます」
悪辣。犯罪組織には当然の言葉だ。
マルコの声には、正義というよりかは、アインの御許でその行いをすることへの不快感が募る。
「戦士としての強さは求めておりません――とはいえ、歩き回ることができる程度の体力はほしく存じますが」
いかがでしょうか? どなたか、人員はいませんか?
と、マルコは最後に尋ねたのだった。
「そうか、これはあくまでも調査だから、奴らの殲滅は目的じゃない……」
十分に条件がゆるくなる。
だが、道義をそれた者たちをどうするべきか。
それにたいして熱誠をもって対峙できる人物を選ぶ必要がある。
「このような調査であれば、最低条件を満たしさえすれば、後は心の持ちようを重要視したいものですが」
「……クリスは誰か覚えはない?」
斜め後ろに控える彼女に語り掛けた。
真っ白なシャツを金糸で彩り、耳の下で艶やかに揺らしながらクリスが思考する。
「文官として優秀な方に……ある程度の教養がある武官……そして、人となりを信じられる人物ですか」
意外と条件は多い。クリスの返事に、アインはそう感じた。
「正直言えば、おおよその文官と武官が該当すると思うのですが……」
「俺もそう思う。それに、皆が信用に足る人物だって、俺はそう考えてるんだけど」
「ですね。ただ、欲を言えば……アイン様と密接にやり取りができる相手がいいんじゃないかなーって思います」
しまった。条件が新たに追加されてしまった。
痛感したのだ。調査とやらは、やはり難しいことなのだと。
自らが赤狐の調査を行っていたときとは事情が違う。
当時はイシュタリカそのものが調査を動かし、資金や人員、数えきれない多くの条件が選定の末に進んでいたのだ。
そこには宰相ウォーレンや、多くの重鎮の協力もあり、アインはここで、経験不足を痛切に思った。
「例えば俺とクローネみたいな感じってことか……」
「むしろ、私とアイン様でも大丈夫ですよ? 私もアイン様も、文官仕事はいくらでもできますし……私とアイン様で頑張りますか?」
「あ、うん……確かにその通りなんだけど。俺とクリスだとしても、調査にはいけないからね?」
何がむしろなんだろう。唐突な張り合いだ。
だが、前者も後者も現実味は無い。アインが行動できないからこそ、こうして調査の計画を練っているのだ。
苦慮しながらも、正解へと少しずつ近づくしかない。
「文官に武官……それが二人……ついでに、俺とのやり取りとかに問題がない……」
「――あれ?」
ふと、クリスが手をぽん、と叩く。
「今考えたんですけど……その二人って、ちょうどよく居た気がしたんですが」
「え? 嘘。誰のこと?」
「アイン様の学園時代のご友人ですよ?」
うわの空にクリスを眺めた。
学園時代の友人、こういっては何だが、一組は生徒数が少なく入れ替わりが激しい。
つまり、友人という存在は作りにくいのだ。
胸を張って友人と言えるのは三人。レオナード、バッツ、ロランだ。
「あ……そっか。レオナードとバッツか」
文官としてのレオナードは本当に優秀だ。それに加え、バッツは見習い騎士扱いだが、それはあくまでも、騎士となって間もないからだ。
その実力は、同年代――そして、熟練した近衛騎士相手でなければ、勝利を収めることができるぐらいには成長している。
「でもさ、二人とも貴族なんだけど。レオナードなんて、公爵家だよ?」
「こういっては何ですが、ディルも同じく公爵家の人間ですし、突き詰めれば、アイン様は王太子なんですけど……」
――意外と何とかなりそうな気がした。
アイン自身が行動派だったという事実もあるのだが、ディルの例を言われれば納得できる。
「あの……手紙、書いてみるのはどうでしょう? 聞いてみなきゃわからないですし……」
「そうしようかな。……マルコ、こんな感じで進めてみても構わない?」
「お心のままに、アイン様」
まさか、こうして一緒に仕事ができるようになるとは考えた事もない。
彼らの返事待ちとなるのだが、アインは密かに期待感を募らせた。
先日感想欄にいただいたんですが、制服?的な話を書きたくなりました。
もしかすると、姦しい閑話をあげるかもしれないので、その際は楽しんでいただけるよう頑張ります。
今日もアクセスありがとうございました。




