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魔石グルメ ~魔物の力を食べたオレは最強!~(Web版)  作者: 俺2号/結城 涼
十四章 ―因縁の終わり―

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ハイム王都攻略戦[4]

今日もアクセスありがとうございます。

 ……クリスはゆったりとした動作で港町ラウンドハートを歩く。



 そして、砲撃が収まった事に気が付いたハイム兵が進軍をはじめた。

 しかし大通りを舞台にした正面きってのぶつかり合いでは、地力の差が如実にあらわれる。



 それに加えて、ハイムは一つの作戦が封じられていた。

 バードランドでロイドを追い詰めた戦い方は、この街中ではあまり意味をなさないという事だ。



「このまま中央を抜けなさい。続けて、ハイム王都にむけて進行する」



 ――はっ!殿下の許に!



 周囲の騎士が一斉に答えると、陣形を組んで馬を走らせる。



「クリスティーナ様――こちらの馬を」


「……えぇ」



 近衛騎士がクリスの傍にやってくる。

 連れてきた白馬の手綱を手渡すと、彼は『ご武運を』と口にして馬で駆ける。



「――さぁ、私たちもがんばろっか」



 受け取った白馬に語り掛け、鬣(たてがみ)を優しく撫であげる。

 勢いを付けて白馬の背中に乗ると、大通りにできた一本道に目を向けた。



 強大な熱量に溶かされた石畳は落ち着きを取り戻し、馬が火傷をしないまでには冷えただろう。

 クリスが一歩ずつ慎重に歩かせると、白馬は特に痛がるような仕草はみせなかった。



 焦げ臭さは漂い続けるが、戦場ならばいくらでも感じる匂いだ。

 白馬もそれは気にする様子を見せず、黙ってクリスの指示を待った。



 ――クリスは素直に従う白馬に微笑みかけると、手綱を握って白馬を前方へと走らせる。



「イシュタリカの蛮族を殺せ!」


「我らが聖地を汚させるなッ――ひとりでも多くのイシュタリカ人を打ち取れ!」



 ハイム兵が自らを鼓舞するかのように声をあげる。

 彼らは少しずつ大通りへと押し寄せると、イシュタリカの騎士へと殺意を向けた。



 クリスも戦いのために剣を抜く……いや、抜こうとしたときの事だった。



「団長!クリスティーナ団長!」



 突然、クリスを呼ぶ声が大通りに響き渡った。

 ハイム兵に目を向けていたクリス――彼女に向けて、近衛騎士が息を切らせて近寄る。



「……貴方は、私と帯同していなかったはず。どうしてここに?」



 近衛騎士の顔つきには覚えがあった。

 だが、今回はクリスと共に作戦行動はしていなかったはず。

 クリスはその事に気が付くと、訝しむように近衛騎士を見る。



「元帥閣下――ロイド様からのお言葉を届けに参りました。わき道を通り、ここまで参った次第です」


「ロイド様の……?」



 何やらただ事ではない。

 わざわざこうして伝令を送るほどなのだから、急ぎの用事なのだろうとクリスが察する。



「続けなさい」



 クリスが続きを促すと、近衛騎士は荒れた呼吸を必死に整える。

 そうして、クリスの隣に並んで口を開いた。



「はっ!では、お伝えいたします!ロイド様はこう仰っておりました――」



 語られるのはロイドの計画だ。

 エドと相対するため、クリスたち(・・)と共闘したいという旨を近衛騎士が伝える。

 すると、話を聞くクリスは目を見開いて驚いた。



 クリスからみても秀でた実力者で、イシュタリカの元帥として何一つ汚点がない男……それがロイドだ。



 ロイドともあろう男が、完膚なきまでに倒される相手。

 その話を聞き、クリスの頭の中に衝撃が生まれる。



「私とは別に、もう一人の近衛騎士が伝令に走っておりますが、ロイド様のお言葉は以上です」


「……ロイド様が容易く倒されたというのは……事実なのだな?」


「――はっ。加えて、ロイド様は先日の戦いの際に、左目を失っております……」



 クリスが手綱を握る手に汗が浮かぶ。

 まさに死の直前まで追いやられたという事実に、クリスは脈拍が早まるのを感じた。



「わかった――では、急いで大通りを突破する」


「承知致しました。私はこれより団長の指揮下に入ります」



 近衛騎士がクリスの指揮下に入ると、彼は慣れた様子で隊列に加わる。



 アインと合流するための障害が現れた。

 普段なら不機嫌な感情を増したことだろう。

 だが、ロイドが手も足も出なかった相手となれば、そんなことを考えている余裕はなかった。



「あ、そういえば団長。最後にエドを撃退したのは、王太子殿下ですよ」


「――……はぇ!?」




 *




 ――動く壁。



 クリスの指揮する軍勢は、一言でいえばこの表現がしっくりくる。



 港町ラウンドハートにできた一本道。

 できたと言うよりは、作られた……というべきだが、イシュタリカの軍勢は我が物顔でその道を通る。

 持ち込んだ弩砲が力を発揮したというよりは、まさに地力の差でイシュタリカの進軍が続いた。



 ……時折、わき道から現れたハイム兵が剣を手に襲い掛かる。

 だが、兵力同数での戦いにおいては、イシュタリカとハイムには力の差が如実にあらわれるのだった。



「被害状況を」



 クリスが声をあげた。

 すると、報告が届きはじめ、最後は近衛騎士が報告をまとめてクリスに伝える。



「団長!死者、並びに重傷者は少数。軽傷者は多数おりますが、作戦行動に支障はございません」



 詳細な数字を届けないあたりに、イシュタリカがほぼ無傷というのが良く分かる。

 クリスはほっと一安心すると、額を流れた汗を拭う。



「では、このまま両翼に展開を?」


「……いや、戦力を分散させはしない。このまま一つの集合体として進む」


「――はっ!」



 そうしてクリスは辺りを見渡す。

 クリスが被害状況を確認したのは、戦況が一段落したからだ。

 プリンセスオリビアの一撃や、戦艦からの砲撃は決して伊達じゃない。



 加えて、戦場となった大通りの地形も有利に働き、軽度の被害でイシュタリカの軍勢が港町ラウンドハートを抜けたのだった。



 少し横を見れば、ハイム王都へと続く街道が姿を見せる。

 ところどころに配置されたハイム兵の陣形も確認できるが、その全てが一斉に襲い掛かることでもない限り、クリスの率いる軍勢が押されることは無いだろう。



 戦力差は幼子が見ても分かるほどで、アイン同様に、クリスも赤狐の目的への理解が追い付かない。



「……いや、今は考えてる場合じゃない。早くすすまなきゃ」



 クリスは決して頭が悪いと言うことはない。

 だが、赤狐の目的はさっぱりだった。



「どこにいるの……?」



 ロイドが送った一人の伝令。

 彼の報告通り、クリスはロイドの許へと急ぐことを決める。

 辺りを見渡すと、目的となるロイドの率いる軍勢を探したクリス。



「ッ――居た……あそこだ!」



 多くのハイム兵、そして、イシュタリカの軍勢が入り混じるこの地で、クリスは目を凝らしてロイドを探した。

 すると、本隊――アインが率いていると思われる軍勢とは別に、一つの目立った集団が目に映る。



 詳細な姿までは確認できないが、ロイドらしき姿を発見したクリス。

 その姿に気が付くと、大きな声で指示を口にした。



「元帥閣下の援軍に向かうッ!弩砲を側面に並べ、敵兵へと攻撃しながら進む!」



 加えていくつかの陣形の指示を口にすると、イシュタリカの軍勢は姿を変える。

 一つの生物と錯覚させるほどの連動をみせると、走り出したクリスの後を追い、ロイドが率いる軍勢を目指して馬を走らせた。




 *




「――あれ?貴方ですか」



 クリスが目指す先。

 両軍がぶつかり合った場所で、聖域のように二人の男しか立っていないところがあった。

 一端の紳士のような穏やかな表情を浮かべ、槍を片手にエドがロイドを迎えていた。



 周囲では命の奪い合いが行われているというのに、ここだけはちょっとした茶会が始まってもおかしくない――そんな空気を漂わせる。



「あぁ、私だ。それとも……貴様にとっては、アイン様の方が都合が良かったか?」



 エドの前に立ったロイドが馬を降りる。

 背中に携えた大剣を抜くと、それを地面に突き刺した。



「……そうですねぇ。残念ながら、あの男の子以外には、私に対抗できる人物はいないでしょうから」


「ふむ。違いない」



 エドが呆気にとられる。

 煽ったつもりで口にした言葉だったが、ロイドはあっさりと同意する。

 身の程を知ったのだろうか。エドがロイドを観察するが、ロイドは晴れ晴れとした表情を見せるばかりだ。



「だが、それだけでは言葉が足りていまい」


「……と、いいますと?」


「簡単なことだ。アイン様を避けた貴様には、私たち(・・)程度がお似合いという事だ」



 すると、ロイドがエドを煽り返す。

 老紳士のように振舞うエドが、一瞬だけ頬を引きつらせた。

 だが、彼の矜持がもう一度だけ余裕をつくると、エドは執事がするように腰を曲げて頭を下げる。



「これはこれは、中々いい返しでした。こんなやり取りをするとわくわくしてしまいますね」



 表情は穏やかだが、槍を握るエドの手には、いくつもの太い血管が雄々しく浮き出る。



「それは何よりだ」


「……それで。どうして貴方はここに?あなた一人が来ようとも、私にとっては障害にすらなりませんが」



 エドが、先程と似たような問いをもう一度口にした。

 口元に手を当てて考え込む姿をみせ、心底不思議そうにロイドへと尋ねる。



「戦いに来たのなら、貴方は状況判断を間違えている。先日の用兵と同じく、醜態を晒すおつもりで参ったのですか?」


「――ははは、耳が痛いな。確かに、先日の私の振る舞いは、本国に戻ってから処罰を受ける必要があろう」


「でしょうねぇ……。貴方は判断を間違えた。そのせいで、全滅する直前に至ったのですから」



 バードランドでの件を口にするエド。

 その言葉に、ロイドは困ったように顔を傾げる。



「あぁ、もしかして……主君から、死んで来いとでも言われましたか?ならば仕方ありませんね。僭越ながら、私がお相手致しましょう」


「……万が一、アイン様がそう口にでもしたならば、私は喜んで死地に参ろう。だが、今回はまだ死ぬ気が無い」



 地面に突き刺した大剣を抜き、正眼の構えをエドに向ける。

 片目になったロイドだが、むしろ闘気は増してすらいた。

 エドがロイドの纏う気配に気が付くと、ニタァっと下卑た笑みを浮かべる。



「――狐は願う。脳を溶かす快楽を」



 槍を器用に振り回すと、ご馳走を見るように唇へと舌を滑らせる。



「――狐は夢見る。永久に続く、達した刹那の感覚を」



 唄うように語ったエド――すると、彼の足元が突然ぶれた。

 芸術と見まがう動作で足を進めると、間合いに入ったエドが槍を突き立てる。



 ……だが、エドの槍先には、手ごたえが届くことは無かった。



「悪いな、こうした戦い方は好きじゃないが――手段を選んでいられる相手じゃないのだ」



 エドが動き出した瞬間に、ロイドはあっさりと数歩後退する。

 自慢の大剣を地面に突き立て直して壁にすると、懐から取り出した緑色の玉をエドに投げつけた。



 そう。マジョリカから受け取った魔道具だ。

 それはエドに向けて投げつけられると、エドの目前で破裂する。



「ッ!?小細工を……!」



 警戒したエドが数歩下がる。

 ……が、魔道具の直撃がその速度に勝った。



「げほっ……げほっ……これは……」



 破裂した玉からは、半透明の粉が漂いだした。

 勢いづいたままエドに向けて飛び散ると、エドの首元や顔など――露出された皮膚にへばりつく。



「鴉蝶の鱗粉――よく、こんな趣味の悪い魔道具を……!」



 ……鴉蝶。

 アインが魔物現地実習で相まみえた魔物だ。

 人の体に卵を植え付け、母体を麻痺させる性質を持つ。



 どうやらマジョリカは、その鴉蝶の素材を用いた魔道具をロイドに手渡していたらしい。

 エドがすぐに素材を看破すると、若干震える手先を見て、懐から取り出したナイフで体を傷つける。



「ですが、こんな時間稼ぎをしても意味はないでしょう。ほら、すぐに私の身体は――」



 すぐに痺れに対しての対処を行ったエド。

 自慢げに、それでいて勝ち誇った笑みを浮かべてロイドを見つめる。

 だが、一方のロイドも似た顔つきだった。



「あぁ、そうだ。これは只の時間稼ぎ……だが、本命はッ!」



 ロイドが剣を抜き去ると、突進するようにエドを目指す。

 気でもおかしくなったのだろうか――エドが呆れたようにロイドを見るが、ロイドはあくまでも強気な面持ちだ。



「戦場で気が狂うことは、なにも珍しい事ではありません。ですから、恥じることなく――」



 ロイドの首に槍を突き立てようとした、その時だ。

 ふと、死角となった箇所からエドの横っ腹目掛けて、銀色の一閃が煌いた。



「ッ……不意打ちですか……?」



 身体を強引に捻らせると、槍を振り回して防御する。

 一体何が起こったのだろうか、とエドが振り返ると、そこに居たのは金糸を靡かせる女性――クリスの姿があった。



「……完全に死角だと思ったのですが、防がれるとは驚きです」



 エドに気が付かれたことで、クリスは驚きを浮かべながらも数歩の距離をとる。

 ふぅ、と息を吐くと、ロイドに向けて語り掛ける。



「ロイド様、遅くなりました」


「いや、そんなことは無い。むしろ、頃合いは最高だったといえる」



 戦友に笑いかけるように言葉を交わすと、二人は満足げにエドを挟む。

 エドの攻撃に備えながら、クリスとロイドの二人が武器を構える。



「貴女は……あぁ、以前エウロでお会いしたことがある、そちらの王族の護衛でしたね」


「えぇ、お久しぶりです。……こうなるのであれば、あの時に切りかかっておくべきでしたね」


「お戯れを。それに、二人になったからといって、そう簡単に強気になるのは良くない兆候ですよ?」



 クリスは相変わらず飄々と語るエドを一瞥すると、ロイドの眼帯をみて痛々しさを感じ取る。

 その視線に気が付いたロイドは、クリスを気にかけるように話を逸らす。



「クリス。港町ラウンドハートは、随分と順調に通り抜けられたようだな」


「そうですね。ここまでは一本道でしたので、苦労することなく進んでこられましたよ」


「い、一本道?あそこは多少入り組んでいたと思うが……」


「いえ。一本道でした」



 あくまでも一本道だったと言い張るクリス。

 ロイドは事前に知り得た知識を思い返すが、やはり、港町ラウンドハートが一本道だったとは思えない。

 だが、クリスの言葉を詳細に問いただすこともしなかった。



「ま――まぁいい!こうしてここに来てくれただけで十分だ!」



 クリスの言葉の真意を尋ねることを止めると、クリスという頼もしい味方を得たことに喜びの声をあげた。

 しかし、エドはクリスがやってこようとも強気な姿勢を崩さない。



「はぁ……分かりませんね。あなた方のような人が二人になったからといって、どうしてそんなにも自信を得て――」


「――何を言っている。私"たち"と言っただろう?」



 徹底的に強腰のロイドがエドに言葉を投げかける。

 呆れてものが言えない……そんな態度のエドは、だからどうしたと言わんばかりにロイドへと答える。



「ですから、二人になったからといって……」




 ……と、エドがやれやれと手を振った瞬間。

 エドの頬に、一筋の切り傷が生じるのだった。



「いって……おや……?」



 半笑いのまま頬に手を当てると、ツーッと流れる血液がヌルッと温かい。

 手についた血液を親指と中指で弄ぶと、エドは顔をあげてロイドたちの表情を確認する。



「勘違いするなよ――赤狐(エド)」


「えぇ、そうです。誰が二対一なんて言いましたか?」



 ロイドが語り掛けると、クリスは腰を落としレイピアを構えた。

 いつでも攻撃を仕掛けられるようにと、これまで以上に戦意を高める。



 ……挟むように立つロイドとクリス。

 この二人の攻撃で無い事に気が付くと、エドはそっと舌打ちをした。

 何が起きたのかと辺りを見渡すと、二人と比べて申し訳程度に距離をとる――小柄な女性に気が付いた。



「そうですよそうですよー?経験豊富なら、早合点するのはどうかと思いますねー」



 茶目っ気に溢れる声で語り掛け、彼女は軽快な足取りで近づいてくる。

 すると、エドは足元の地面に突き刺さる短剣の姿に気が付いた。



「なるほど。この短剣で私に傷を」



 エドの言葉へと、彼女は満面の笑みを浮かべて頷いた。



「上手いもんでしょ?自信あるんです」



 小柄な身体に似合わない妖艶さを醸し出すと、彼女は豊かな胸元へと手を押し込む。

 谷間から二本の短剣を取り出すと、器用な手さばきで弄んだ。



「おじさんは二対一じゃ物足りなさそうですね。じゃあ、例えば三対一なんてどうですか?」


「……貴方は、一体どなたでしょうか?」



 エドはあくまでも笑みを絶やさない。

 だが、それはあくまでも表情だけの話であって、声色には平常心が失われつつあった。

 その証拠に、彼女に正体を尋ねる声も、少しばかり早口に変わりつつあった。



「私の名前はリリっていうんです。こんな開けたとこでの戦いは趣味じゃないんですが、頑張っちゃいますよ?」



 ……これがロイドの考えた秘策だった。しかし、秘策と言っても単純な策にすぎない。

 だが、イシュタリカの誇る実力者が三名も揃ったことで、エドは槍を握る手に力を込めるのだった。




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[気になる点] 『第十一章 城下町の最後』のリリがエレナを見つけて助ける場面で、リリ胸が“慎ましやか”と書かれているがこの章の最後の方では“豊かな胸元”になってて、いつの間に!?と思いました。
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