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マグナ以来の会話。

1200万PVに到達しました。

ありがとうございます!


今日からアインに視点が戻ります。

 アインがエレナと久しぶり言葉を交わす。その時から時刻は少し遡り、戦艦がエウロを出発してすぐのことだ。

 深夜だったが、アインも仕事が溜まっており、寝ることなく執務室で書類仕事に励んでいた時、ウォーレンがその場にやってきたのだ。



「あれ、ウォーレンさん?」



 やってきたウォーレンは、いつもと違って表情が硬い。

 更にいえば、どこか言いづらそうにしている様子を感じに見えた。



「こんな時間にどうしたの?まさか、ハイムでまた何かあった?」


「えぇ、夜分遅くに申し訳ありません。……ハイム、うーむむむ……ハイムといったらハイムなのですが、やってくるのはエウロからでして」



 どうにも要領を得ない。

 言いづらそうにしていたウォーレンをソファに手招きすると、アインはウォーレンと反対側に腰かける。



「どうしたの?随分と言いづらそうにしてるけど」



 苦笑いを浮かべて尋ねると、ウォーレンが近づいてくる。

 アインがここまでお膳立てをしたのだから、若干話しやすくなったことだろう。



「……私も詳しくは把握していないのですが、エウロが不明な生物に襲われました。魔物のような性質があるらしいのですが、どうにも魔物とは言えない様子」


「――エウロが?」


「はい。数も尋常じゃないらしく、最終的には戦艦の砲撃を行い、エウロの城下町ごと焼却する結果となりました」



 騎士達が戦艦に頼る程なのだ。

 アインやウォーレンには詳細な数は分からないが、切迫した状況だったというのは伝わった。



「アムール公は保護しました。また、エウロの被害者たちも同様に保護しております」


「……イシュタリカ側の被害は?」


「――騎士が一名。その生物によって犠牲になりました」



 重苦しく伝えると、アインは俯いて声を漏らす。



「俺が言わなくてもウォーレンさんならしてくれると思うけど、手厚く見舞いを」


「心得ております。すでに、その手配を行っている最中ですので」


「言いづらそうにしてたのは、この事が原因?」


「……いえ。細かくお伝えすることがあるのですが、それはさておき、実は珍しい人物を保護したのです」



 騎士の死と聞いて残念に思っていたら、これだけで終わらないとのこと。

 アインは水を飲むと、少しばかり気持ちを切り替える。



「珍しい人物って、エウロの?」


「それがエウロの人物ではなく、ハイムの人物でして」


「え?な、なんでハイムの人がエウロにいるのさ」


「先日の暗殺の件と、我々との書類のやり取りのためにやって来ていたとの事です」



 この言葉を聞くと、アインはなるほど、と納得した。



「――それで、その珍しい人物というのも二人居りまして、まず一人目はエレナ殿です」


「っ……それは本当に保護できてよかった」


「えぇ。かなり危険なエウロにあって、リリや騎士達がどうにか保護してきたのです」



 もしかすると、命を落とすほうが確率は高かったかもしれない。

 そんな状況にあって、エレナを助けてくれたリリには感謝の気持ちを伝えるべきだろう。



「そして、もう一人と言うのが問題なのです」



 どうしたもんか。

 ウォーレンが迷いながら口を開く。



「もう一人というのは、ティグル王子なのです」


「……え?」



 アインは呆気にとられながらも、ウォーレンがどうして気を遣っていたのかを察する。



「詳しい報告は受けていませんが、ハイムの暗殺事件によって、ティグル王子とエレナ殿は、ハイムに居るよりもエウロに向かう方が得策と判断した様子。そのため、王子自らエウロに向かってきたという事らしいのです」


「……また、随分とキナ臭い」


「戦艦が王都に帰還次第、詳しく話を聞いて参ります」


「うん。頼んだよ」


「……ということですので、私は陛下に尋ねて参りました。ティグル王子の扱いはどうするべきか、と」



 祖父に聞いたというのを語られ、アインは居を正した。

 シルヴァードがどういった判断をしたのか、アインもしっかりと聞く必要があった。



「その結果、陛下は『アインに一任する』……と申しておりまして」


「えぇー……ちょ、ちょっと。お爺様、それって丸投げすぎじゃない?」


「陛下曰く、ティグル王子と所縁が深いのはアイン様だそうで。クローネ殿の件然り、過去のエウロでの件然りですな。イシュタリカに対する態度も目に余っておりましたが、今回はアイン様に処遇を(ゆだ)ねるとのことでした」



 言われてみれば、イシュタリカにあって、ティグルと最も縁があるのはアインと言えよう。

 これがラウンドハート家の人間や、ラルフ王ならば話はもう少し複雑だったのかもしれないが、ティグルはこの中でも優先順位が低い。

 アインが次期当主から外された件は、ラウンドハート家の問題であり、それ以外の多くの面倒事は、基本的にはラルフが原因だ。



 同じ王族として責任があり、過去のエウロでの無礼も重なる訳だが、こうした理由があるからこそ、シルヴァードはアインに判断を委ねたのだろう。



「――例えば、俺が入国を認めないとかいえばどうなるの?」


「場合によっては、ロックダム等に送り返すことも検討します」



 真っすぐと答えられたウォーレンの言葉に、アインは本気を感じた。

 本気でアインがこう判断したのならば、ウォーレンは本当に送り返すだろう。



「じゃあ、拘束しろって言ったら?」


「条約違反を言い訳にして、すぐに牢に入れることにしましょう」



 先日決まった条約の事だろう。

 考え方や受け方によっては、確かに条約違反と判断することも可能だ。



「――……はぁ。思う所はあるし、面倒だなって思うけどさ」



 筆舌に尽くし難い感情を前に、アインはぽつり、ぽつりと考えを口にする。



「逃げてきたんでしょ?」


「まぁ……そうなりますな」


「納得してない人がいるのも分かってるけどね。でも、俺の中では、こないだの会談でほとんど方は付いたんだ。――家族が死んで、良く分からないけど国から逃げるような人を相手に、送り返すとか牢に入れるなんて事は俺にはできないかな」



 その納得してないのは主にクリスだが、アインが『もういい』とでも言ってしまえば、彼女も"しぶしぶ、しぶしぶ"と納得するだろう。

 彼女の忠誠心を利用するようで心苦しいが、こればかりは我慢してもらうしかない。



「彼が望むような待遇はできないけど、安全な場所を貸すぐらいならいいんじゃない?」


「……アイン様は、(まこと)にお優しい」


「甘いだけだよ。単に、自分が見える中で胸糞悪い話にしたくないだけ」



 自らを嘲笑うかのように笑みを浮かべると、こめかみの辺りに手を当てた。



「"面倒事"は極力避けたい。悪いけど、そこはウォーレンさんに一任してもいい?」


「えぇ、お任せください。アイン様がそうご決断なさったのであれば、私に異論はありませんから」


「うん。ありがとう。それじゃ、あとは詳しい情報を聞いてから、どうするのかとか含めて相談するべきかな」


「残念ですが、そうなりますな。戦艦はもうすぐ帰還するはずですので、私も港に向かい、いち早く話を聞いてまります」



 わざわざウォーレンが向かうという事に、話の重大さが分かってしまう。



「ティグル王子の心境なども併せて、詳しく尋ねて参ります」


「ん、りょーかい。城に連れてくるんだよね?」


「そうなりますな。"色々"と、管理するのが楽なのもありまして」


「じゃあ、あとでエレナさんのとこにでも行った方いいかな?」



 主に気を使うという意味で、マグナ以来の会話でもしようかと考えたのだ。



「よろしければ、そうしていただければ助かります」


「わかった。じゃあウォーレンさんが戻ってきたら、俺の事呼びに来てもらえる?」


「えぇ、アイン様のお心のままに」




 *




 その後、しばらくしてからウォーレンが戻ってきた。

 馬車の中で聞いた話を省略しながらアインに伝えると、アインはティグルの変貌や、ハイムの状況に驚かされた。

 その中でも特に、赤狐(アノン)とラウンドハート家の繋がりを考えると、どうにも面倒くさい縁ばかりで、気分が一気に下降する始末だ。



 エレナやティグルからリリに伝えられ、それがウォーレンに届くとアインに伝わる。

 おかしな経路で伝わった話だったが、宿敵の背中が見えたのをアインは感じたのだった。



 ――そして、ウォーレンから報告を聞き終えたアインは、エレナが向かったという、クローネの執務室を目指して足を進めていた。



「言っちゃあれだけど。俺たちが知らない間に、話が進みすぎじゃない?」


「えぇ。なんとも、一気に話が進んだ気がしますね」



 昨晩からの流れに、アインも苦笑いを浮かべるしかない。

 隣を歩くディルも同じような表情を浮かべた。



「これからどうするかは、まぁ相談次第かなー……」


「その、ご存知かと思いますが、アイン様が海を渡るわけにはいきませんからね?」


「わかってるってば!さすがの俺でも、それは危ないなーっての理解してるって!」



 アノンという、グリントの許婚の身柄。

 そしてエドの事を考えると、早く拘束でも何でもしてしまいたいが、そう簡単にはいかない。

 海を渡る必要があるという事実が、陸続きとは違った苦労を見せてくるのだ。



 ……強いて言えば、アインも決着を付けに行きたく思うが、さすがに王太子が向かう訳にもいかない。

 ここから先は、遠くイシュタリカから状況を聞くしかないと思えば、少しばかりの寂しさを感じてしまうのだった。



「――よし、服は大丈夫。髪の毛も整えた」



 クローネの執務室にやってきたアインは、最後に身だしなみを確認する。



 ――コン、コン。



 問題無い事を確かめると、ノックし慣れたクローネの執務室を、いつもと違った気持ちで優しく叩く。

 すると、数秒の間があってから、マーサの声で『どうぞ』と返事が届く。

 それを聞いて、アインはディルに語り掛ける。



「ディル。それじゃ、エレナさんと話してくるよ。――扉の外で待っててもらえる?」


「はっ。では、何かありましたらお呼びください」



 ディルにこう話すと、アインは扉に手を掛けた。

 ゆっくりと扉を開けると、中にいる人物を確認して、軽く挨拶をする。



「こんばんは。……あれ、もうおはようございますかな?――こうして会話をするのは久しぶりですね。エレナさん」



 会談の際に顔を合わせたが、会話をしたわけでないため、こうした言葉選びで間違いないだろう。

 てっきりクローネと会話を楽しんでいるのかと思っていたら、クローネは疲れて休んでいたようだ。

 エレナの膝の上で休む彼女の表情が、どうにも嬉しそうに見える。



「お、王太子殿ッ――」



 アインが来たという事で、エレナは慌てて体を起こそうとした。

 膝の上で休んでいる彼女(クローネ)の顔を見れば、その時間を奪いたくない。

 こう考えたアインは、手でそれを制すると、静かに言葉を口にする。



「大丈夫。クローネが起きちゃうんで、そのまま座っててください」



 そう口にすると、アインはマーサが用意した茶の置かれる席に向かい、エレナとは向かい合って腰を掛けたのだった。



「……多くの事を考えていました」



 アインが腰かけるのを見て、エレナが口を開く。

 すると同じ頃合いに、マーサが執務室を後にしていく。



「過去の事をなんと謝罪をすればいいのか。お義父様とクローネを受け入れてくださったことへ、なんとお礼をすればいいのか。そして、今回こうして慈悲をくださったこと。……これでもきっと、ほんの一部かもしれません」



 エレナの語る一つ一つの言葉に、アインはじっと静かに耳を傾ける。



「ですが、まず初めに伝えたいと思っていたことがございます。――マグナでは、素性も知れぬ旅人(・・)風情に、あのような格別の厚意を賜り、感謝しない日はございませんでした」


「あはは……。別に、ただ宿を紹介しただけですから。気にしないでください」



 こうして直接話をすると、アインという男の人格が良く分かる。

 もしも彼が女性であった場合は、恐らく、オリビアのように聖女と呼ばれていたに違いない。



「それに、謝罪も礼も結構です。俺はクローネとグラーフさんが来てくれて、いつも楽しく過ごせてますから」


「っ……も、勿体ないお言葉で」



 ここに来るまでは、アインの方が緊張していたのだ。

 なにせ、相手はクローネの母のエレナ。

 ハイムの文官筆頭という事もあるが、この対談はほぼ私用のような時間。アインが緊張してしまうのも無理はない。

 だが、結果としてはエレナの方が頭を下げてばかりなことに、アインは話を変えるか、と心に決めた。



「ここに来るまでは、クローネと会話を楽しんでいると思っていました。……でも、今日も疲れて寝ちゃってたんですね」


「今日も……ってことは、もしや、今までにも何度かあったんですか?」


「えぇ、まぁ。以前、その事で一度喧嘩をしたことがあるので、今では多少休むようにはしてるみたいなんですが……」



 膝の上に寝る娘を見て、一度叱責しておくべきかと考えるエレナ。

 まさか、イシュタリカの王太子と喧嘩までしているとは思いもしなかった。



「もうご存知だとは思いますが、どうにもお転婆が過ぎるところがありまして。――申し訳ありません」


「いえいえ。俺も楽しんでるんで大丈夫ですから」


「……本当に、どうしてこんなにお転婆というか、勝気になってしまったのか」


「あははは……。クローネは昔と変わりませんか?」



 アインは少し興味を抱く。

 せっかくだから、この機会に昔の話でも聞いてしまおうと思ったのだ。



「昔は……そうですね。婚約を申し込まれても、中身を見ずにゴミ箱にすてるような女の子でしたから」


「くっ……くくくっ。それは何とも、クローネらしいですね」



 笑うのを我慢してみたが、それは最後まで続かなかった。

 アインは思わず笑みを零す。



「何をするにしても、器用にそれをこなしました。そのせいか、飽きっぽい性分があったんです」


「へぇー……」


「口も回るようで、お義父様が言い負かされることも何度かありました。孫に対する手心は見受けられましたけど、時折、完全に言い負かされることもありましたので……」



 それを聞くと、アインにも心当たりがある。

 ロディの騒動の際には、グラーフを城に呼び出してまで話をしたのだ。

 エレナの語る話は、その時とよく似ている。



「俺も見たことがありますよ。以前に、グラーフさんを城に呼び出して、その……話し合いをしてたことがありますから」


「……あらあら。王太子殿下?言葉を選ばずとも、言い負かしたと言ってくださっても構いませんよ?」


「ははは……。頼もしい補佐官ですよ」



 ここでも言葉を濁すあたりに、アインの優しさを感じられる。

 膝の上で寝ころぶ娘の体温を感じるエレナは、それが徐々に高くなっているように思えた。



「ところで、今更ですけどマグナの町はどうでしたか?実はあそこは、俺もイシュタリカに来たときの初めての場所なんです」


「まぁ、そうだったんですか。……それはもういい港町でした。ご紹介いただけた宿も一級品で、何一つ不自由することがありませんでした。それに食事も美味しい物しかなく、とてもいい"旅"となりましたよ」



 マグナを気に入ったように言ってくれて、アインは気をよくして言葉を続ける。



「そういえば、話し辛かったら大丈夫なんですが、リリさんに案内をしてもらったとか」


「……マグナで一番苦労したのは、あの子と会話をすることかもしれません」



 その時のことを思い返し、エレナが頭を抱える。



「本当に自由すぎて……。その、足を運んだ私が言える立場じゃないのですが、起きたらメイド服を着て給仕の真似事をしていたので……」


「……なんともリリさんらしい」



 アインの前ではそれなりに抑えているが、リリにもカティマたちに通じる自由さがあるのは分かっている。

 朝起きて、敵国の人間が給仕をしていたら、エレナが驚くのも当然だ。



「ですがあの子のお陰で、戦力の差というものを理解させられました。あの子なりの優しさも感じられたので、感謝してるんです。……あ、このことは秘密ですよ?あの子が調子に乗ると、手に負えなくなる気がするので」



 秘密ですよ、と口にしたエレナの顔つきは、やはりクローネと似ていた。

 こうして話していると、クローネと母娘な事をアインも感じていた。



「……多分、名前を叫べばすぐに走って来てくれますけど、どうします?」


「――勘弁してください」



 少しの悪戯心を込めて口にすると、エレナは優しく笑いながら遠慮した。



「あの子もエウロの事がありましたし、疲れてるでしょうからね」


「あー……。言われてみれば、確かにそうですね」



 エレナはリリの事を労うと、マーサが用意した茶に初めて口を付けた。



「……あら。美味しい」


「マーサさんのお茶ですからね。凄い人なんです」



 茶の一杯でも差を付けられたように感じると、エレナは自虐するように笑みを浮かべる。



「っとと、俺はそろそろ行きますね。実はお爺様に呼ばれてるので、その前に寄らせてもらったんです」



 こう口にしたアインは立ち上がると、マーサの淹れた茶を一気に飲み干す。



「また、ゆっくりと話しましょう。もうすぐ部屋の用意も出来ると思うので、クローネと話をして待っててください」


「――お気遣い頂きありがとうございました。こちらこそ、王太子殿下と話せる時間が出来て光栄でしたわ」



 クローネを膝に乗せたまま、エレナはそっと頭を下げる。

 それを見たアインは、ゆっくりと扉に向かっていくのだった。



「それにしても、申し訳ありません。この子ったら、最後まで寝ちゃってて」


「……ん?いえいえ、大丈夫ですよ。さっき、クローネと話をして待っててくださいって言ったと思いますが……」



 扉に手を掛けたアインが振り向くと、ソファに横になるクローネに声を掛けた。



「クローネ。明日は夕方までゆっくりしてていいから、無理しないように。……それと、エレナさんの前なんだから、そろそろ狸寝入りはやめてあげたら?」


「――……もう。黙っててくれてもいいじゃない」



 アインの声を聞くと、クローネがエレナの膝の上から返事をする。



「はいはい。それじゃ、また明日ね。お休み、クローネ」



 最後はこのように言葉を交わすと、アインは今度こそ執務室を後にした。

 二人の会話に呆気に取られてしまったが、自然とやり取りをする二人の関係に喜ぶ。

 ……と、同時に、狸寝入りをしていた娘に厳しい視線を向けた。



「あら、お母様ったら怖い顔をしてるのね」


「誰が原因なのか、良く分かっているでしょう?」


「うーん……。でも、最初のうちは本当に寝ていたんですもの。アインが来た時に気が付いたのだけど、起きる頃合いを見失ったといいますか……」



 悪戯っ子の様に笑うと、ペロッと舌を見せたクローネ。

 こんな姿を見せられれば、エレナも怒る気力を失ってしまう。



「……っと。マーサさん、私にもお茶を頂けますか?」



 クローネは体を起こすと、アインが座っていた所に座り直す。

 そして、呼び声を聞いたマーサが、すぐに執務室へとやってくる。



「失礼致します。クローネ様、よろしけば軽食もお持ち致しますが、どうなさいますか?」


「でしたら、私とお母様の分を頂けますか?」


「畏まりました。すぐにお持ち致しますね」



 自然なやり取りに、クローネが如何にイシュタリカに馴染んでいるかがエレナにも伝わる。



 ――こうして、エレナのイシュタリカでの初日が始まった。



 会談の時の会話と比べて、更に落ち着いた様子で会話を楽しんだエレナとクローネ。

 その後のエレナは、用意された部屋に通され、疲れた体を癒すためにベッドに入る。

 ティグルも同様に部屋を用意されたらしく、エレナとは別の部屋に通されたのだった。



 次に目を覚ました時には、多くの事を考えねばならない。

 だが、まずは体を癒すために休憩しよう。

 ……興奮した精神状態だったが、イシュタリカのベッドはエレナを優しく包み込み、エレナはすぐに夢の世界に向かうことができた。



いつも多くのブックマークや評価を本当にありがとうございます。


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[一言] 母娘幸せそうな時間が持てて何より!
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