クリスマス特別編:駄猫サンタ
12/24日の2本目の投稿です。
アインが大きくなった後のこととなります。
ただし、あくまでも本編とは関係ない特別編となります。
そうしたifの様なものとして御覧くださいませ。
「はーいちゅーもーく!だニャ!」
夜の城。
その中でも中庭へと集められた面々が、目の前に立つカティマに注目する。
「……あのさ、こんな時間になんで連れてきたのさ」
溜まらずアインが不平を口にし、カティマは得意げな顔で返事をした。
「ふっふーん……クリスマスだからニャ!」
「いや、知ってるけど。だからなんで、そのクリスマスになったとたんに連れてきたのさ」
先程日付が変わったばかりで、アインは唐突にカティマの襲来を受けた。
「あのーカティマ様?なーんで私まで連れてこられたのかなーって……」
そう口にするのはエメメ。わざわざ城下に行き、エメメまで連れてきたのかと思うと、彼女の本気度が覗える。
「エメメも!いつまでもクリスマスのチキンで終わってたら駄目なのニャ!」
「え、えぇ!?私いつのまにクリスマスのチキンに……っていうか、鳥じゃないです!立派なハーピーです!」
「うるさい!静かにするのニャ!」
——ドォオオオオン!
という効果音が似合いそうなほど、堂々とした姿でそう口にしたカティマは、エメメの反論を待たずして話し続ける。
「エメメも!今日の仕事をこなして立派なフェニックスになるのニャ!不死鳥……そう!エメメは今日から不死鳥エメメになるのニャーっ!」
「わ、私が……不死鳥?」
「なれないからね?落ち着いてね、エメメさん」
アインのツッコミも意に介さず、衝撃を受けた様子のエメメ。
翼の先をぴくぴくさせて、その衝撃を表していた。
「というわけで、エメメには私たちの運搬を任せるのニャ。オーケーだニャ?」
「オーケーですっ!まっかせてください!」
「あぁ、これ駄目なやつだ。もう止められないじゃん」
駄目アニマルが結託してしまっては、もはやアインには抑えられるはずがない。
「いやーでもさ、実際どうなの?警備に迷惑かけるんじゃ……」
「その質問を待っていたのニャアアアアアッ!っというわけで、リリ。説明するのニャ」
「は、はーい……わかりました……」
今まで黙っていたリリ。彼女がようやく口を開いた。
ウォーレンの持つ隠密の一人で、ハイムへの単独任務を任されるほどの実力者。
そんな彼女が、どうしてこの場に呼ばれたのか疑問だった。
「えーっとですね、殿下。結論から言えば、"見て見ぬふり"をしなさい、と伝えてあります。なのでその懸念は大丈夫かと思いますよ」
「あ、そうなんだ……。まさか城の警備まで、すでに巻き込み済みだったとは」
手回しの良さに驚かされるが、やるときはやる猫……それがカティマだ。
「ふっふっふー。今日の私は、なにせサンタなのニャ!だから誰にも邪魔はできないのニャ!」
今更ながら、彼女の服装を説明しよう。
彼女のために作られたサンタ服に、サンタ帽。そして背中には巨大な白い袋が置かれている。
「……カティマさん?一つ聞きたいんだけど」
「違うニャ!今日の私はサンタ!サンタさんと呼ぶのニャ!」
「あ、うん。……それじゃサンタさん?サンタさんの身体には、その大きな袋は厳しいんじゃないかと」
明らかに背丈よりも大きく、大人の男性でも一苦労しそうな大きさ。
それを、カティマが持てるとは到底思えない。
「ニャ?アインが持つに決まってるニャ。なんのために呼んだと思ってるのニャ……馬鹿かニャ?」
「魔石吸うぞこの野郎」
恨み言は華麗にスルーされ、カティマが上機嫌で振り返る。
そしてその大きな袋の紐をほどき、中身を確認しているようだ。
「まずはプレゼントの確認だニャ」
「……いつの間に調べてたの?」
「自白剤作って、寝言で確認したのニャ」
「本当の畜生じゃん。サンタさんまじすげえ」
こんな皮肉を言われても、今日のカティマは動じない。
「という訳で、これがお母様の欲しがってたプレゼント……新しいティーカップだニャ!」
「うん。まぁイメージ通りかな」
ごそごそと、カティマは袋を漁り続ける。
一方、エメメの様子を見れば、彼女はただフェニックスとつぶやき続けるだけだ。放置がきっと最善だろう。
「ほいでこれが、ウォーレンの欲しがってた、高級なペンだニャ」
「それも想像通りだね」
筆記用具を欲しがるのも、ウォーレンらしいと思われる。
「それで、これがロイドの欲しがった裁縫セットだニャ。職人お手製の一級品だニャ」
「……まぁ、うん。裁縫得意だもんね」
身体に似合わず、裁縫系のスキルに富んでいるロイド。まぁ、まだ彼らしいと思えるラインだ。
「それでバーラが新しい眼鏡。メイが新しいメイド服……これは支給品もあるから、とりあえず新しい服をいろいろ揃えたのニャ」
「なるほどね。微笑ましいよ」
二人ともいつも頑張ってる。そう思えば、随分と微笑ましいプレゼント。
「それで、マーサが新しい靴だニャ。ディルはこないだ遊んでた時に、手袋がほしいって言ってたから、作ってみたのニャ」
「何して遊んでたのか気になるけど、なるほどね」
というかいつの間に遊んでたんだ。今度、ディルにボーナスでも出すべきだろうか?
……あぁ、なんという迷惑をかけてしまったというのか。王家としても、詫びる必要があるかもしれない。
「それじゃそろそろ、お母様とかかな?」
「察しがいいのニャ。それじゃ早速……」
——ごそごそ。
再度袋を漁り始め、アインとしても気になるプレゼントの発表が始まる。
「まずはクローネだニャ。クローネの欲しがったのは、アインの枕なのニャ。というわけで、アインが今朝まで使ってた枕がこちらだニャ」
当たり前のように取り出したが、確かにその手に持つのはアインの枕。
「おい、いつ間に取ってきたんだサンタさん」
「細かいことは良いのニャー……。というわけで、クローネはこの枕だニャ」
王族の枕……まぁいいものを使ってるからね、うん。
アインはそう納得した。
「それで次だニャ。次はクリス……クリスのプレゼントは、形じゃないから持ってきてないのニャ」
「形じゃない?」
「そうだニャ。なんかアインに頭撫でてほしいとかあったから、寝てるとこに忍び込んで、頭撫でてもらうニャ」
「なんとも強引な……」
彼女もハードスケジュールだ、褒められることも重要だろう。うん。
「それでオリビアだニャ。オリビアはアインの"新しい根っこ"が欲しいそうだから、後で出してもらっていいかニャ?」
「……はい」
——もはや何も言うまい。
「最後は……お父様だニャ。お父様の場合は、紙に書かせたのニャ。それで、その紙がこちら」
そして、サンタさんが手渡した紙に目を通す。
「……『安息』」
——いつもごめんなさいお爺様。
心の中で、海より深く土下座した。
「お父様のは面倒だから、お父様が好むお菓子と、お茶を用意したのニャ。あとで適当に食べてもらうニャ」
「最後の扱いが酷くて涙が出るね」
「それじゃリリ。私たちはこれからプレゼント配ってくるから、警備の方は頼むニャー」
「え、えぇ。お任せくださいカティマ様」
リリも自由人な節はあるが、それでもカティマには及ばない。
今日のカティマの勢いはすごい。そのため、リリもただ気圧されるばかりだった。
「じゃあ行くのニャ!今宵、我々は大陸最強のサンタとなるのニャ!」
こうして、アインのクリスマスが始まった。
*
「まずはクローネだニャ。それじゃ枕元に枕を……って、ダジャレじゃないのニャ!」
「怒らなくていいから、起きないうちに早く置いて?」
「……ほいニャ」
なるべくクローネの姿を見ないように、サンタさんの手助けをするアイン。
「ぅん……アイン……」
すると枕を置いてすぐに、クローネがその枕に手を伸ばす。
寝言だと分かっているのだが、バレないかとドキドキするのは仕方ない。
「ふふふ……私のリサーチ力の勝利だニャ」
胸元に持っていき、ぎゅっと抱きしめている姿を見て、サンタさんは勝利を確信した。
「この調子でどんどん行くのニャ!次はクリスだニャ!」
「……はーい」
部屋の外で待つエメメと合流し、3人は次の目的地へと急ぐ。
「だめ……もっと、強くして……?」
そう言って、アインの枕を更に強く抱きしめた。
*
クリスの部屋。
さすがにクリスならば、侵入者に気が付くかもしれない。
そう思ったが、その心配も杞憂だった様子。
「まぁ、当たり前ニャけど。お薬混ぜてあるのニャ」
「いやー、サンタさんって結構ヤる時はヤるもんだね」
決して褒めてない。ただの皮肉だが、サンタさんにはその想いは届かない。
「それじゃアイン。早く撫でるニャ」
「はーい。わかりました……」
そう言われて、アインは寝ているクリスに近づく。
心の中で『ごめん』と呟いて、忍び込んだことを詫びた。
「それじゃクリス。いくよ……」
むしろ自分に気合を入れた形だが、寝ているクリスの頭を撫で始める。
今日も手触りが良く、ツルツルの髪。撫でているアインすら、気持ちよくなるような代物だ。
「んみゅ……むぅ……」
一瞬体をピクッ!と震わせて、起こしてしまったかと不安になった。
「……大丈夫か」
「んぅ……アイン、さまぁ……」
少しの間撫でていたら、クリスが満足そうな笑みを浮かべる。
「作戦は成功だニャ……。ふぅ、私の才能が怖いのニャ」
「せやな」
そうして撫で終わり手を除けると、クリスは口のあたりまで布団にもぐり、嬉しそうに寝息を立て始める。
「それじゃ次行くニャ!次は……この訳分からないのをほしがった、駄妹の場所だニャ」
*
「でも本当に意味わからないのニャ。アインの根っこなんて欲しがって、良く分からない妹だニャ……」
雰囲気が大事……そういわれ、アインとサンタさんは、エメメによって吊るされて、オリビアの部屋のテラスから侵入した。
「これで私も不死鳥にっ……!」
「……なれるといいね」
もうツッコミはやめて、流れに身をゆだねるアイン。
「それじゃアイン。さっさとこの根っこ置いてくるのニャ。まったく……ドライアドの趣味はわからないのニャ」
サンタさんは部屋に入らないようなので、アインだけがオリビアの部屋に向かう。
ガラス扉を静かに開けて、ベッドで横になるオリビアに近づく。
関係が関係とはいえ、自分の産まれ方などの影響もあってか、どうにも難しい感情がある。
「……それじゃ、枕元……は危ないかな?」
——シュルッ……シュルッ……。
「でも、床に置くのもプレゼントとしてどうなの?」
——シュルルッ……!」
「うーん。どうしようかな……って、えぇ!?」
何か音がすると思ったら、オリビアのベッドから根がはみ出て、アインに向かって進んできていた。
「ちょ、ちょちょっ……!」
巻き付いて捕まりそうになったので、アインは手に持っていた自分の根を離す。
以外と重かったので、手から離れると楽になるのだが、根が向かってきたこと以上に驚いたのは……。
「あ。うん……ナイスキャッチ」
落としてしまった根は、オリビアの根が拾っていった。
すると満足したように戻っていき、アインの根はオリビアのベッドの中に運ばれる。
一本の根が、頭を下げるように、『ペコリ』としていったのが可愛らしい。
「あっ……アイン……?」
「お、お母様……?」
「こっちよ、いらっしゃい……?もっと……近くに来て……っ」
ベッドの中で器用に抱き寄せ、アインの根を抱き枕にするオリビア。
太ももと太ももの間に挟み、胸の間に抱き寄せる。
……ベッドの中までは見えないが、それでも布団の動きが煽情的で、アインもその様子にくぎ付けになった。
「……えっと、寝言だったみたいだけど」
さすがにじっと見ているのも悪い。
プレゼントを渡したのは確認したので、テラスで待つ二人の場所へ向かう。
「ん?終わったのかニャ?」
「い、一応終わったかな。うん!」
「よくやったのニャ!それじゃ次の場所だニャ!」
「次ってどこ?」
「次はグレイシャーの屋敷だニャ!さぁ行くニャー!」
思えばまだ配る先はある。
次はグレイシャー家の面々なのだろう。
「まっかせてください!不死鳥エメメ、今日の私は超凄いですから!」
まだなってないだろ、というツッコミは控えることにした。
まだどころか、これからも不死鳥になる機会は無いことだろう。
「あのさ、カティマさん……」
「サンタ!」
「……サンタさん。袋にまだまだプレゼントあるんだけど、これってもしかして」
先程聞いた名前以外にも、絶対にプレゼントを詰め込んでいる。
なにせ、この大きな袋には、まだまだ数えきれないほど詰め込まれているのだ。
「そうだニャ!夜が明けるまでには配り終える必要があるニャ……!さぁ、アイン!クリスマスはこれからだニャーっ!」
こうして、アインの今年のクリスマスは、寝不足で迎えることになったのだった。