なんだかんだと初めまして。
数分の間、アインはその場に立ちすくみ続けた。
そうしているうちに、ようやく気持ちが落ち着きはじめ、その後やっと、地面に落とした剣を拾えることができた。
知ってはいけない事、たどり着いてはならない場所に到達した気がして、心の中に産まれた喧噪の様な存在が、アインの鼓動を更に大きくしていく。
「無茶苦茶な……」
誰もいない墓石に向かって頭を下げ、その場を立ち去ろうとするアイン。
そして考えついたことはただ一つ。……マルコを頼る事だった。彼ならきっとその理由を知っている、今なら疑問だったことをしっかりと問いただせる。
「……お爺様の提案は、渡りに船だったってことだね」
気持ちを踏みにじるようだが、その提案を利用させてもらおう……そう決心した。
*
「元セージ子爵の領地のことね?今は王家預かりになってるはずだけど……」
「そういうこと。だから王族が視察に行くのが筋って聞いた」
王家墓地での一件から数日が経った。シルヴァードのおかげで、それまでにあった懸念は随分と軽くなった。もはや羽毛程度にまで軽くなってきたその気持ちは、アインとしても大きな負担には感じていない。しかしながら、その後に墓地で発見した事柄については、心境が穏やかではいられない。
「えぇ……陛下が仰ることもその通りなのだけど。それじゃカティマ様の代わりに、アインがってことなのよね?」
クローネの執務室。いつも通り仕事中だった彼女に近寄って、アインは視察についての相談をしている。いつもながら唐突にやってくるアインだが、なんだかんだと彼がやってくることは、クローネとしても嬉しいことで、それを強く指摘することは無かった。
「みたいだね。せっかくだから、いい経験だと思って行くことにしたよ」
「あら素晴らしい心がけですわね王太子殿下」
「でしょー?」
軽口を叩けるようになったアインを見て、クローネも時折アインを見上げて笑みを零す。
「それじゃ日程の調整を……って、あれ……これってもしかして……」
「あれ?どうかしたの?」
大きめの手帳を開いたかと思えば、どうしようと悩み始めたクローネ。
「その日はオリビア様も予定があるの。アインは休日だったから、私もその手伝いとして向かうことになってたんだけど……」
「あーそうだったんだ……。それじゃクローネは一緒に行けないってこと、だよね?」
「……こ、断ってく——」
「大丈夫だよ。それに相手がお母様なんだから、クローネも断るなんてしたくないでしょ?」
物悲しい表情をしてしまうが、内心ではその通りだ。
「ご……ごめんなさいアイン……」
「いやいや、正直この話も急に決まった事だからさ。だから気にしないでいいよ、じゃあディルとクリスを連れて……」
クローネが居ないのは残念だが、ディルとクリス。それに近衛騎士を連れて行ってこよう、アインはそう思ったのだが——
「実はその、クリスさんもオリビア様の側にいる日だから……」
「そういえば、お母様の護衛でもあったね……クリスって」
つまり連れて行けるのはディルのみということだ。……だが少しばかり冷静になって考える、するとこの方がむしろ都合がいいのでは?と、密かに喜べる結果になったことに気が付いた。
「わかった。じゃあディルと一緒に行ってくるから大丈夫!別にただの視察だから心配しないで」
「……本当にごめんなさいアイン」
「だーかーら!別に気にしてないってば、大丈夫大丈夫」
そう言って、クローネの頭をぽん、ぽんっと2回だけ優しく触る。
「……髪の毛乱れちゃうでしょ?」
「はいはい。そうだねー」
不平を口にするならば、もう少し表情にも気を使うべきだ。密かに嬉しそうなクローネを見て、アインはそう考えさせられた。
*
視察当日は、朝の早い時間から王都を出発した。
時間にすれば、ホワイトローズからおよそ5時間少々の道のりを進み、例の子爵が治めていた地域に到着する。
農業に長けた地域と聞いていた通り、多くの農作物に溢れた地域だ。
王都では見られないような、数多くの出店。床に布を敷いて、その上に商品を並べる簡素なつくりだが、そうした暖かな雰囲気をアインは好ましく思う。
王太子の視察を楽しみにしていた農民たちは、息を吸う暇も無いほどに、アインに多くの声を投げかけ続ける。
「も、申し訳ありませんアイン様……なんというか、クローネ殿はいつもこのような仕事を……?」
視察も佳境、時刻ももうすぐ夕方となる頃に、とうとうディルが音を上げ始めた。
「うん、いつもそうしてくれてるよ。俺もたまに手伝うけど、でもクローネ程はできないかな」
「な……なるほど……」
近衛騎士として、そしてアインの護衛として多くの事を学んでいたディル。
それでもクローネが普段こなしていた仕事は、彼にとっては随分と荷が重かった様子。
「クローネ殿のお力を、強く実感した次第でございます……やはり私は、剣を振るしかできないみたいで……」
「いやいやそんなことないってば。クローネが化け物染みてるだけだよ」
化け物なんて言ったら怒られてしまうが、今この場に彼女はいない。だが実際、そうした文官的な能力に関して言えば、本当に化け物染みている。
「あぁ……こんなにも夕日は美しいというのに、私の力が足りないばかりに……」
「……今日のディルは詩人だね」
だがディルが口にする様に、確かにこの地の夕日は美しい。
近くに見える黄金色に輝く穂。それが時折吹き寄せる風に靡き、赤い夕陽と相まって幻想的な風景を作り出す。
広がり続ける作物の匂いと、肥料や土の香り。そうした独特のアロマが鼻腔をくすぐり、気持ちを穏やかなものとしてくれた。
「殿下!ご指示にありましたお品物ですが、確かに購入して参りました」
「ありがと。お金渡してきた?」
「いやはや……殿下が危惧なさったように、本当に無料となりそうでした。なので無理やり支払ってきた次第でして」
媚びを売りたいというわけではないが、こうした地の者達は、作物を献上したいという念に駆られることが多い。
少量であれば受け取ることもあるが、今回のように私用であったり物量が多い時には、何があっても支払いを行うようにしている。
「やっぱりね……。それで買ったものはもう運んでくれた?」
「はっ!本日夜の便にて、王都に届く予定でございます」
「それは何よりだね。お爺様も楽しみにしていらっしゃるからさ」
シルヴァードには随分と世話になった。そのシルヴァードが楽しみにしているのだから、すぐに届けたいという孫心だ。
「では私はこれで、任務に戻ります」
「うん、ご苦労様」
戻っていく騎士を見て、ディルが再度口を開く。
「ではアイン様。我々も列車に戻りますか?」
「うーん……」
そろそろ時間か……。ディルは反対するだろうなあ、とアインは乾いた笑みを零す。
「でもやらないわけにもいかないから、うん……」
「アイン様?今何か仰いましたか?」
「ううんなんにも。それじゃ戻ろうか、騎士達も休ませないとね」
アインが何かを呟いていたように思えたが、アインがそう口にしたことから、ディルは素直にその指示に従った。
*
この地へは、王家専用列車を使ってやってきた。カティマがやってくる予定だったのが、王太子に変わったという事実。
だがどちらにせよ、王族が公的な用事でやってくるのだから、王家専用列車が動くのは確定的だったのだが。
ちなみにアインが寝泊まりする予定の場所も、この王家専用列車の中になる。
安全面や設備の面を考えれば、この中が一番都合が良かったのだ。
「ではアイン様。日程は終了……明日も昼頃には出発し、夕方過ぎには王都へと戻る予定です。よろしいですか?」
アインが乗る車両。その中のラウンジ区域に到着した二人は、そうして視察の日程が終了したことを確認し合う。
農地自体は広大なのだが、そこを管理する者達は決して多くない。その管理者たちと面談し、状況の報告を受けてきた。
「……そうだね。無事に終わって何よりだよ」
ディルにそう返事をして、アインは窓の外の風景に目を移す。
穏やかで、心の奥底にぐっとくる美しい景色……それがどこまでも広がっている。
「ではしばしのご休憩を……」
確認が終了したディルが頭を下げて、アインの側から離れていこうとする。
アインはそのディルの仕草を見て、懐から一枚の手紙を取りだした。
「"王家"からの手紙なんだけど……これを運転士の人に渡してきてくれる?大事な手紙なんだ」
「……承知いたしました。直ちに手渡して参ります」
「お願いするよ」
王家から運転士に手紙?一体どんなことが書かれているのだろうか、ディルは手紙の中身が気になってしょうがない。
だが中身を確認することはできないため、アインの指示に従って手渡しに行くことしかできない。
もう一度頭を下げて去っていくディルを見て、小さな声で『ごめんね』と呟いた。
「うん……うん。ほんとクローネ達がいなくてよかったよね、居たらこんな手段通用するわけないし」
彼女なら確実にその内容を聞いてくる。なぜ自分が知らないのか?王太子補佐も知り得ない情報なのか?と強く詰問してくることだろう。
強いて言えば、ただ強気になって拒否すればいいだけなのだが……そうしたクローネの前では、なかなかそれが難しい。
「ディルの忠誠心を利用するみたいで、心苦しいけどね」
深くため息をついて、そうした自分の行いを懺悔する。ディルはもうすぐ運転士のところへと到着するはずだ。そうなれば王家……アインが書いた手紙が届けられ、アインの指示したことが行われるだろう。
ディルになんて言われるか……それを思えば、さすがのアインも気が気でない。
「いっそのこと鍵閉めて拒否……?いやなんかそれはなあ……」
自分のすることなのだから、最後まで責任を取ろう。そう心に決めた。
「あ、サンドイッチあるじゃん。食べちゃお」
小腹の空いたアインは、保冷庫を見て食べ物を見つける。それを手に取って、ウキウキ気分でテーブルに持ってくる。
「んっ……マーサさん製っぽいな。いつもの味だ」
こんなところでも慣れた味。それを口にできることが嬉しくて、アインの顔に笑顔が浮かぶ。
「こうして気力を補うのだ」
この後起きるであろうことに対して、強気でいられるようにと……アインは黙々とサンドイッチに口を付ける。
……そうしてアインが、マーサ特製のサンドイッチを楽しんでいた時の事だった。
「あ、動き出したかな?」
——ガタン……ゴトン……。
水列車が動き出して、線路を踏みしめる音が響き渡る。防音性の高い車両だからこそ、窓を開けてしっかりとその音を耳に入れる。
「うん、ディルがしっかりと届けてくれたみたい」
ゆっくりと進み始めた王家専用列車。窓から見える風景が、少しずつ少しずつ移り変わっていく。
日の沈み込む方向とは真逆、すでに暗くなり始めた方向に向かって、吸い込まれるように列車が進み始める。
「……そうなれば、次に起こるのは」
——ドンドンドンッ!ドンドンドンッ!
「アイン様っ!?アイン様これは一体どういうことですか……!?」
ドアを叩き、外から大声でその疑問を届け始めるディルが見えた。
『あちゃー……』、アインは予想していたことではあったが、このディルの迫力を見ると、少しばかり逃げたくもなってくる。
「とりあえず入ってきていいよ。中で話そ」
民生用とは違った作りの車内。静かな音を立てて扉が開き、その音とは対照的にディルが騒々しい様子でやってきた。
「な……なぜ車両が動き出してっ……」
「手紙にそう書いてあるからだよ」
「やはり先ほどの手紙……王家といってましたが、内実はアイン様の手紙だったのですね?」
あははー、とヘラヘラ笑って茶を濁そうとするが、さすがのディルもそれは見逃してくれず。
「ご説明を頂いても……?」
ずいっと近寄り、いつもより数段厳しめの表情をして、アインへと事情を尋ね始める。
「これからバルトに向かうよ。……王太子として、調べなきゃいけないことができたからさ」
「バ、バルトにですか?いくらなんでも急な……陛下達は知っていることなのですよね?」
「帰ったらお爺様には伝えるけど、実はまだ言ってない。言ったら止められるしね」
がくっと項垂れて、両手で頭を抱えだすディル。
「そんなに落ち込まないでよ」
「いえ、どちらかといえば呆れてると言いますか……」
「あーなるほどね……まぁ呆れられても文句いえないねこりゃ」
貧乏くじを引かせるどころか、いつもの事ながら、こうした苦労を掛け続けることに申し訳なく思う。
「あ、それと先に伝えておくけど。何を調べなきゃいけないのかは、バルトに着いたら教えるから、それまでは我慢してね」
「随分と痛い先手を使って来ますね……では私はもはや」
「うん、しばらくは何もしなくていいよ。それと……バルトに着くまでゆっくりしてもらうのと、申し訳ないけど近衛騎士達にこのことを伝えてきてくれる?まぁバルトについても、列車を降りてもらうのはディルだけなんだけど」
饒舌に語る内容を聞いて、ディルはどうしたものかと考え始める。だがたしかに、近衛騎士達へと早急な連絡は必要となろう。
「ですがアイン様?どうして私だけが……」
「だってディルが一番信用できるからさ。……それじゃいけない?」
「……わかりました。では私は、これから近衛騎士達に連絡をして参ります」
今回のアインは何を始めるのか。
正直な心境をいってしまえば、気が気でないとしかいえなかった。しかしもう出発してしまったものもあり、更にいえばアインがそれを指示しているのだから、自分たちには止める権利なんてものは存在しない。諫めることはできるが、もはや今更だろう。
……なにせシルヴァードにまで内緒にしているのだから。
「それじゃ頼んだよ、ごめんね苦労を掛けて」
「いえ……では戻ってきたら、またお話を伺いますからね?」
そういってディルは、頭を下げてからその場から立ち去り始める。
「……一番信用できる、ですか。……ふふ」
急な事でどうしたものかと考え始めた。それでもアインの言葉はディルにとって、何よりも嬉しい宝の様な一言だった。
——その後の事だ。
説明を終えて戻ってきたディルは、バルトへの到着は深夜の時間帯だとアインに告げる。
そりゃそうだと納得し、アインはディルへと仮眠をとるように指示。
ディルがどうしてだ?と聞くと、時間の都合上、到着したらすぐに行動を開始するとのことだった。中々の過密スケジュールだが……こうした急な移動をしているのだから、今更な気がしてならない。
そうしてアインと少しばかりの会話をしながら、早めの夕食をとった。その後はディルに、再度近衛騎士達の許へと向かってもらい、食事や待機の命令をしてもらう。
随分と早い時間だが、到着してからのことを考えてベッドに横になり、アインはバルトへの到着を今か今かと待ち望んでいた。
それからというもの。数十分もすれば、体の疲れも影響してか、アインはゆっくりと夢の世界へと旅立っていったのだった。
*
——アインが次に目を覚ました時の事だ。
そこは何一つ想定していなかった、穏やかな緑と暖かな空気に包まれた場所。
辺りを見渡してみると、柔らかな風が吹き抜ける草原で、アインはそこにただ一人で横になっている。
夢……だろうか?
「……それで、ここは何処ですか」
自分は確実にベッドで横になった。そして列車はバルトを目指して進んでいる予定で、こんな暖かな陽気に包まれた場所は来ないはず。
……だがこの風景には見覚えがあった。
「あぁそうか。ここって……」
エウロから帰った時の事。エルダーリッチが自分を膝枕していた時、思い返せばここで横になっていた記憶がある。
両手をついて体を起こすと、見渡す限りの美しい緑。そして自分が寝ていた場所は、少しばかり小高い丘の様な場所にあった。
「起きたのか」
芝生を歩く音が背後から聞こえ、急いで振り向いてその方角を見る。
「……え、えっと貴方は……誰ですか?」
黒いシャツに黒いズボン。どこまで黒いんだコイツ、と思いながらも髪の毛は長めの銀髪をしている男。
ここまできたら統一してほしい、そんなよくわからない感情を抱きながらも、アインはその男に問いかける。
「察しの悪さは血縁のせいか?」
軽くため息をつきながら、銀髪の髪をさっとかき分ける。男性的ながらも、どこか憂いを帯びた女性の様な顔立ち。
……服装のせいでわからなかったが、その顔つきには覚えがあった。
「デュラハン……なの?」
「理解が遅いのはいただけない。常に論理的にだな……」
「ちょっとあなた?こんなところでも小言かしら?性格って本当に変わらないのね……」
「っえ……い、いつのまに……っ!?」
アインは背後からぽん、と肩に手を置かれる。
振り向くとその人物は女性で、顔の半分が隠れる程の漆黒のローブに、横には大きな杖を浮かせていた。
「たった今ですよ。……それじゃあなた?私は近くで見てるから、あまり無駄な事はしないでね?」
「……あぁ。わかった」
そう言って歩き出した彼女は、アインとデュラハンの前を歩いていったかと思えば、数歩進んだ場所に立ち止まる。
すると何もない場所へとテーブルと椅子を取り出して、優雅な動きで腰かけた。
被っていたローブから顔を出し、黒曜石よりももっと黒く、そして艶めいた美しい髪が広がった。
披露されたその容姿は、優し気な瞳の美女。……アイン達に向かって、優しく微笑みかけてくる。
「もしかして……エルダーリッチ?」
「俺がいるんだから当たり前だろう。……それじゃそろそろ始めるか」
——ドサッ。
大きな長い剣を取り出して、アインに向かって投げつける。
「始めるって何を……デュラハンが急に出てきて、正直全く意味が分からないんだけど」
「カインでいい。お前と名前は似てるが気にするな」
「あ、はい。それじゃカインさんで……」
「ならいいな?それじゃ剣を取って立て、始めるぞ」
一瞬アインの身体が光り、そして体中が黒い甲冑に覆われる。アインが意図した行動ではなかったので、目の前のカインが何かしたのは明らかだった。
「って、なにこれ!?」
「こうした場所だろうと怪我は駄目だ。精神的に何かの影響があってもおかしくない」
開いた口が塞がらないが、体中を確認するアイン。
この鎧にも見覚えがあった。それはカティマが購入した例の本……それに書かれていた、デュラハンの鎧だからだ。
「それで始めるってのは一体……?」
「"アイツ"のことは力押しよりも、技で倒してやってほしいと思ったからだ」
「……ごめん。意味がよくわからないんだけど」
いきなりこんなところに呼ばれ、更には剣を投げられて始めるぞ。そう言われても疑問符ばかりが浮かんでくる。
「その見るに堪えない剣技を、少しは見ることができるように磨いてやる。そう言ってる」
「いやいやいやっ……!俺の剣を見てくれるってこと?いや確かに嬉しいけど、でも……ってか、カインさんは防具付けないの?」
いつの間にか巨大な剣を持っているカインを見て、アインはこう尋ねた。
「付けても意味ないだろう?」
「いやでもさっき、自分で怪我するのはって」
「だから、児戯程度の剣では届かない。……そういう意味だ」
——カチンと来た。
勢いよく立ち上がって、カインが投げつけた剣を手に取るアイン。
何度か握りを確認して感覚を確かめる。スッと構えて、目の前の男を軽く睨み付けた。
「お前がどれだけ強かったのかは知らない。だけどさ、そうやって人を馬鹿にするだけのは……——」
「彼ね、海龍を真っ二つにするぐらいはできるわよ?」
——あ、へぇ……そう。
「ご指導、よろしくお願いします」
「ん」
なんでここに呼んだのか。何をさせたいのか。あと敢えて聞くならここはどこなのか。……そしてどうして今なのか。
質問はいくらでもあったが、とりあえず稽古を付けてくれるとのことだったので、その質問は後ですることにした。
海龍を真っ二つにするという力……それを目の前で見たいという興味が勝ったのだ。
今日もありがとうございました。