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閑話:兄弟の再会

今日は2つの更新なので、この閑話の前にも1つ話があります。

お間違いないようお願いします。


 アイン達は一足先に王都へと帰還していった。

 一方マジョリカと共にバルトに残ったカイゼル。なぜこの場に残ったのかというと、なんとなく多くの懐かしいことを思い出して、つい感傷に浸ってしまったからだ。



「んーこのまっずい酒。久しぶりだわぁ」


「おいまずいのはわかってんだ。だから口に出すなよ」


「余計に不味くなるから、ってこと?」


「……昔からそういってんだろ」



 安酒を飲み干す二人。それは飲みなれていた味で、あまり美味しくない酒なのだが、どうにも癖になっていた。

 入店したのはありふれた大型の酒場で、その安価な料理と酒は、稼ぎの少ない冒険者にもありがたい一品だ。



「……でもまあ。久しぶりに飲むあなたとの酒は悪くないわ。昔よりは美味しくかんじるもの」


「思い出に浸って酒を飲むなんて、俺たちも年を取ったもんだ」



 もう何杯目かわからない安酒を煽り続け、さらに微妙な味のつまみを口にする。

 二人の収入ならば、それこそ高級店にだって入れるだろう。だがそれは選択肢になかった、どうにも自分たちらしさが感じられなかったから。



「そろそろついた頃だな」


「なにがよ、ほんっと昔から言葉足りないんだから」



 カイゼルが考えていたのは、当然ながらアインの事。朝方バルトを出発し、王都へと戻っていった王太子アインのことだった。



「わかるだろ?アインがそろそろ王都に付く頃だっていってんだ」


「ああそのことね。……確かにそうね、無事についたかしら?」



 つまみの一つに、分厚く切られたハムがある。

 見た目には豪華に見える一品だが、パサついていて油が少ない。それを思えば安い肉を使ってるのがよくわかる。

 だがそれでもカイゼルは、そのパサついた肉を口に含み、安酒で流し込むのが大好きだった。



「ゴク……ゴク……ッ、ぷはぁー相変わらず微妙な味だ」


「好きよねぇそれ。一瞬美味しそうに見えるのが不思議だわ」


「これが俺の楽しみなんだよ、肉に味のしねえ酒が染み込むのが最高なんだ」



 人によって価値観は違うが、カイゼルのように、味の良しあしよりも大事な事もある。

 楽しみ方はそれぞれで、彼にとってはこれがご馳走なのだ。



「おいそこの化け物!そんな不味いの食って楽しいかー?」


「ギャハハ!化け物が味分かる訳ねえだろばーか!」


「……おいマジョリカ。お前いわれてんぞ」


「別にいいわ、言わせておけばいいのよ。大衆店だから、馬鹿みたいなのが多いのは当たり前だもの」



 これも一つの風物詩だろう、馬鹿みたいに喧嘩を売る冒険者たちが居て、それをはやしたてる第三者。万が一これに対応しようものならば、腕っぷしがモノをいう喧嘩の始まりだ。



「ま、そりゃそうだけどな」



 カイゼルやマジョリカは、現役時代は一握りの……いわゆる実力者たちとして君臨していた。

 自分たちを知ってるものは、こんな大衆店にはやってこない。だからこそ、こうして何も考えずに喧嘩を売ってくるのだろう。

 古き良き光景と思えば、なかなか悪い気がしない微笑ましい光景だ。



「ほら見てみろ。つまらなそうな顔してやがる」


「あらほんと、若いのねー」



 白けたような顔をする、若い冒険者たちの姿。

 彼らは依頼や魔物の相手をして疲労しているはず。だというのにこうした催しごとを望むのだから、その逞しさが逆に羨ましい。



「……って思ったけど、ちょっと席を外すわね?」


「あ?おいどこに行くんだマジョリカ」


「貴方にお客様よ。暇になるのも嫌だし、あの坊やたちの相手してくるわね……さっきの奴出てこいやお"らぁ!ケツの穴ガバガバにしてやんぞあ"ぁ!?」



 勢いよく立ち上がり、下品な言葉を口にして立ち去るマジョリカ。

 カイゼルがそれを不思議に思っていると、マジョリカの座っていた席に、身なりのいい初老の男性が腰かける。



「ここ、座ってもいいかな?」


「……座ってから聞くもんじゃねえだろ、アホか」



 気を利かしてくれた相棒に感謝し、目の前に座った男に目をやるカイゼル。



「伯爵様には、どうにも似合わねえ店だぞ」


「どんな店だろうと、立派な私の町だ。何も恥じ入ることは無い」



 店主に声をかけ、いくつかの注文を行った。

 彼の名はライゼル・バルト。この町の領主であり、カイゼルの実の兄。



 当然伯爵を見て驚く店主だったが、伯爵が口に手をあてて、秘密にしてくれとサインを送る。



「たまにはこんな雰囲気も悪くない。……アレに夢中で、みんな気が付かないみたいだからね」



 柔らかな物腰の兄を見て、変わらないなとカイゼルは安心した。

 自分の勝手で家を出たとはいえ、やはり昔のままの兄を見ると嬉しいものだ。



「聞いたよ。王立キングスランド学園で教職についてるとか、お前がそう落ち着くとは思わなかった」


「いろいろあんだよ。……それに、案外悪くない場所だ」


「はは……そうか、それはよかった」



 店主が持ってきた酒に口を付けるライゼル。普段彼が飲むような酒ではないが、それでも彼は満足そうにそれを飲む。



「悪くないな。それにこの値段だ、なかなか売れるだろうね」


「……そりゃな。駆け出しはこれを飲んででかくなるんだ」



 何年ぶりだろうか、恐らく15年近く顔を合わせていなかったはずだ。

 白髪交じりの、皺が深くなった顔。そんな兄の姿を見れば、時の流れを感じずにはいられない。



「あ、ちょ……すみませんしたっ!?だからもう……へぶぁ……な、殴らないで……」


「あ"ぁ!?喧嘩売っといて何ってんだてめぇ!」



 嬉々として折檻を続ける相棒を見れば、なかなか楽しそうにやっているようだ。

 得意の封印系のスキルを使い、首から下の動きを抑えているようだ。こんな酒場の冒険者では、ひとたまりもないだろう。



「お前の友人も楽しそうだ」


「止めなくていいのか?兄貴んとこの、守るべき民ってやつじゃないのかよ」


「あぁいいんだ。冒険者達なんて、ああして学んで強くなるもんだからね。教育に感謝するべきかな」



 バルトの領主は随分と厳しめな教育のようだ。

 渇いた笑いを零したカイゼルは、お代わりの酒に手をかける。



「で、いつまでこの町にいるんだ」


「……あと一週間は残るかもな」



 有難いことに、王家の計らいでしばらくの間宿を借りてもらっている。

 その期間が終わるまでは、せっかくだからとバルトに滞在することにしていた。



「ならちょうどいい、せっかくなんだ。うちにも顔を出していくといい」


「出せるわけねえだろ馬鹿兄貴。俺はもうバルトの人間じゃ……」


「まだそんなことをいってるのか?まったく……店主、勘定を」



 呆れた顔を浮かべながらも、店主を呼びつけるライゼル。なんだかんだと伯爵は忙しい、きっとこれからも仕事があるのだろう。



「このテーブルの払いはこれで、足りなければうちに請求してくれ、いいかな?」


「かかかっ……畏まりましたっ!」



 懐から1枚の金貨を取り出して、それを店主に手渡した。

 このような酒場では通常目にすることのない貨幣に、店主も慌ててしまう始末。



「お、おい!俺たちの払いぐらいっ……——」


「兄の顔を立ててくれ。これぐらいしてもいいだろ?……面倒な事は気にしないで、一度顔を出しにこい。父上と母上の墓前にだって、行って一言いってやるぐらいしても罰は当たらないぞ」



 好き勝手してきたことの責任。そのつもりで、もうバルトの家には拘わらないつもりでいた。

 だが兄のライゼルは全くそんなことを気にせずに、家に顔を出せと告げてきた。



「責任なんてものは、いくらでも出てくるもんだ。生きていればそんなの当たり前のことだ、だけどなカイゼル。どうやろうとしても、私とお前の血の繋がりは消すことができない。それは亡くなった父上達も同じことだろ?……だから顔を見せてやってくれ。きっと父上達も、それを望んでるからね」



 そういったライゼルは、カイゼルの返事を待たずして店を後にした。

 好き勝手言っておきながら、返事を待たない自分の兄。せめて返事ぐらい聞いていけ、そう恨み言を口にする始末。



「……マジョリカに相談するしかねえか」



 両親の墓に添える花。それぐらい持っていくべきだろうと思ったカイゼルは、どうすればいいかをマジョリカに相談することにした。



「はースッキリしたわあ。でもだらしないのね、最近の冒険者って……。あら、どうしたの?」



 タイミングよく戻ってきた相棒は、カイゼルと対照的にスッキリとした表情を浮かべていた。

 その顔にはイラッとしたものの、宿に戻ってからは断腸の思いで頭を下げて、教えを乞うのだった。



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