牧村君は、ちっちゃいけど笑顔が素敵なんだってよ
学校が始まってから2週間が経った。
仲のいい友達もでき、学校生活も慣れてきた所だった。
「で、部活はどうすんだよ?」
俺も前に座って弁当を食べている悠太が俺に質問してくる。
「はやく決めなきゃとは思ってるんだけどね・・・」
「うちのサッカー部そんなに強くないし、初心者歓迎だぜ?」
「いやいや、体育で見てたけどバスケめっちゃ上手かったじゃん!バスケ部にしようぜ!!」
と横にいる双葉と海斗が提案してくれる。
双葉と海斗とは体育で一緒のチームになり、そこから仲良くなった。
双葉はサッカー部所属で、キーパーらしい。
顔はイケメンで高校で既に何回か告白されたって海斗が言っていた。
口数は少ないけど、優しくて凄くいい奴だ。
海斗はバスケ部所属で、ポジションはまだ無いらしい。
身長を伸ばしたいという決意を持って高校からバスケを始めたらしく、中学ではバレーをしてたけど伸びなかったらしい。
双葉が言うに無駄に明るく、デリカシーが皆無。俺が振った女の子の名前をしつこく聞いてきたらしい。
「何でそんなこと聞いたんだよ?」
と悠太が聞くと
「落ち込んでる女の子を放っておけないタイプなのさ」
と胸を張り、答える海斗。
「あわよくばそのままゲットしちゃおうって?」
「それもある!」
「も?」
「ほ、ほとんど?」
「・・・・・・」
「う、うるさいな!それが全部だよ!これでいい?」
と海斗がいうと悠太は何か納得したように頷き、食事に戻る。
「でも、本当に相談に乗るから何でも言えよ?」
「ありがとう双葉。大丈夫だって!」
その日の放課後、俺は担任に呼び出され職員室にいた。
「うちのクラスで部活に入ってないのはお前ら二人だけだぞ、どうするんだ?」
俺ともう1人、確か巽さんという人だ。
「・・・ちょっと悩んでて」
俺ははっきりしない答えを返す。
「私は決まってるんですけど、決まってません。」
「よし、巽お前は後で説教だ!」
確か巽さんは自己紹介の時、バレー部に今すぐにでも入りたいです。とか言ってた気もしたが、まだどこにも入ってなかったんだな。
「でも、早く決めないとそろそろ部活内での人間関係も出来上がってきてるし、そういう意味でも大変だぞ?」
「そ、そうですね。」
「そーですね!」
先生は巽さんの頭を掴み、グリグリする。
「あぁ痛い、痛いよー!」
「はぁ、期限は後1週間あるけど、出来るだけ早く部活を決めてくれ。」
呆れる先生から念押しの入部届けを受け取り、2人で教室に戻る。
俺は、何で部活を決められないか本当は分かっていた。
でも、その選択肢を選ぼうと思うと足がすくむ。どうしてもあの時の記憶が蘇ってきて怖くなる。
「・・・くっそ」
自分が情けなくて、不甲斐なくてつい声が漏れた。
プリントを鞄に入れ、早足で教室を出ようとした時、後ろから声をかけられた。
「ねぇ、牧村くん!ちょっといい?」
夕日に照らされ、赤くなっている彼女の顔と瞳に、さっきまでのふざけていたのとは違う何か強い意志の様なものを感じた。