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容疑

 そう言えば、生徒指導を終えて思ったのだが、高樹はあの先生にどれだけ非礼を浴びさせるのだろうか?

 今回、燃えた本に関しては指導されるわけではないが、高樹は一度別件でキツく指導されるべきなのだが。


 一時限の途中参加をしたのだが、今回の授業は本当にサボってもよかったかもしれない。

 経済学の授業で先生が変わり者で、グループディスカッション方式で行われるのだ。

 特別、高校の友達が多いわけではなくむしろ逆に少ない方で、同じ中学もまあ、いないに等しいくらいの人脈の薄さの俺には苦痛な授業だ。

「唯、戻ったか。これが今日のプリントだ」

 先生から授業のプリントを受け取り、グループの席についた。

「遅刻か?」

 別に付き合いが深いわけではなく、同じクラスに属していて尚且つ、同じグループでしかない男子生徒がそう言ってきた。

「まあ、そんなとこ」


「唯くん、大丈夫?」

「えっ? なにが?」

 ディスカッションが上の空だった。気が付けば、授業が終わる前の先生のまとめが行われていた。

「最近、疲れてるの?」

 グループでは隣り合わせ、普段の教室であれば前に座る女子生徒が心配していた。

「ちょっとね」

「あんまり無視しないでね、たまになら学校も休んでみるといいよ?」

 女子生徒は本当に心配してるようだった。

 こんな配慮ができる人が文芸部にいてくれたらな……。

「文芸部って意外に大変なんだね」

 いや、普通の文芸部なら進路指導で事情聴取をするとこはないと思うが。

 これは、全国の文芸部は励まして欲しい。

「古典部はなにもしてないのに。部長も文芸部の部長を見習って欲しいよ」

「はは、そうか」

 文芸部の部長が時折無駄に発揮するポンコツ具合を知って欲しいよ。

「そんなに大変な部活なら……古典部と兼任して、たまにはリフレッシュしない?」

 彼女はニッコリ笑った。こんなに優しい女子がいるなら古典部にいくのも悪くないな…………。

「そしたら私も、部活が楽しくなるし」

 悪くない話だ。だが……

「悪いな、副部長なんだ。掛け持ちはできないわ」

 副部長である以上、中途半端では許されない。

 それにあいつが本気でやることに協力を約束した。本気でやることに俺が中途半端な協力だったら失礼な気がする。

 それより、古典部のこいつは誰だ?

 情けない話だが、クラスの人の名前はまだ全員、覚えきれていない。

『緊急全校集会を開きます。生徒は至急、 B 体育館へ集合してください。繰り返す……』

 校内放送が入り、授業終了五分前の教室はどよめき始めた。

「なにがあったんだろう?」

 古典部の彼女は首を傾げるが、おそらく燃やされた本の事だろう。

「皆さん、授業中ですが B 体育館へ移動してください」

 えー。と言う生徒が複数いるがなんやかんや言って、体育館へ移動した。



 体育館は全校生徒が整列するもどよめきあっていた。

 この学校は問題が起こらない、故にこのような緊急全校集会が開かれることはないのだ。

「なにがあったんだろう?」「先生が生徒に痴漢したとか?」「まじで?! 先生なのにかよ」「いやいや、最近は先生なのに犯罪を犯すから安心できないよ」「サチも気を付けなよ。とくに先生に呼び出されたときとか」「う、うんわかった。その時は、スマホで録画でもするね」「お前が録画するのかよ!」「あはは」

 ありもしない噂と雑談が飛び交っていた。


「本が燃やされたらしいよ」


 飛び交う噂のなかで、一際目立つフレーズが飛んできた。

 学校の情報網というか噂は恐ろしいものである。

 おそらく、本が燃やされたと確信を持っているのは文芸部くらいだろう。

 関連ワードがヒットする度にいちいち反応してしまいまいまるで、俺が犯人のような感覚だった。


「マッチで燃やされたみたい」


 体育館のどよめきあう中、その言葉だけが鮮明に明確に聞き取れた。

「っ……!」

 誰だ? なんで、噂でもそこまで状況がわかる? 誰だ?

 聞いたことのある声……いったい、誰だ?

 そもそも、第一発見者の俺らですら何で燃やされたか知らないのにどうやって確信をつける?

 しかし、そんな一部の声より体育館の生徒は、『賛成派』と『反対派』のフレーズが溢れかえっていた。


 そんな混沌とした体育館で、先生たちは誰一人と生徒を静止することなく、校長先生が登壇し緊急全校集会は開かれた。


 その全校集会の内容は案の定、図書室の本が燃やされたこと、司書の先生は悲しんでいること、そして警察と一緒に事態の究明にあたることや、燃やした生徒がいる場合、学校側は停学か退学処分を行い最悪の場合、警察への現行犯としての検挙となるという主旨が伝えられた。



 学校が総力をあげて警察と協力するなら犯人が見つかるのも時間の問題だろうと思っていた。



 事態が急変した。



 その日は、放課後から曇り空になった。誰だってわかる、この後は雨が降る。

 そんな陰鬱とした放課後に、俺と浅井……関連性で言うなら文芸部代表者が校内放送で呼び出された。

 職員室でもなく、生徒指導室でもない会議室に呼び出された。

 会議室には、教頭先生と見知らないたぶん事務の職員がいた。

 最初に来たのは俺だった。嫌な予感がひしひしと伝わった。

 次に入ってきたのは、浅井だった。授業が長引いて遅れたことを謝罪して、ホッと一息ついていた。

「二人とも揃ったようだな」

 教頭先生は、咳払いをしてガラガラな声で言った。

 声のトーンで、褒められるものじゃないと察しがついたのは、浅井もわかったようだった。

「高橋さん。プリントを」

 教頭先生がそう指示をすると事務の職員は、無言で一枚の紙をそれぞれ配った。

「…………」

 褒められたものじゃない。むしろ、咎められたものだ。

 配られたプリントには、一目で見てわかりやすいように、



 休学届

 

 __学年__クラス/学籍番号______

 名前_____


 希望するものに○をせよ。 休学/停学

 理由:_________________

 ____________________

 ____________________

 ____________________

 ____________________


 担当承認印

 担任__学年主任__教頭__校長__

 事務__

 』



 と書かれていた。

「これから説明があると思いますが、どういうことですか?」

 珍しく自分から聞き入ったと思う。それくらい俺のなかでは急変したことだった。

「全校集会で言った通り、警察の協力を要請する。学校の本を燃やした……これは立派な犯罪だ」

「じゃあ、なんで俺たちが停学処分になるんですか?」

「警察と協力すること、これは遅かれ早かれ公になる。そのときに、メディアでの声明発表の信頼を得るために必要なことだ。”学校は既に生徒に処分をくだしている”とな」

 ようやく理解できたと思う。

「その処分生徒が俺たちだと?」

「ああ、だがお前たちが犯人じゃないのは十分に承知してる。だからこその停学だ。もちろん、犯人も見つける。犯人は目立たないように警察に送り届ける。例え、犯人であっても我々は、生徒を守る義務がある」

 生徒を守る義務? 本当に守れてるのか? 犯罪を犯した生徒を世間の迫害に受けないように代わりの生徒を犠牲にすることが本当に守れてるのか?

 この処分は、本当に適切なのか?

「もちろん、我々の都合での処分だ。授業には支障をきたさないように授業の内容をまとめられた冊子を用意する」

 それならそれでもいい気がする。

「先生、その間の部活動はどうなるんですか?」

 浅井が言った。

 教頭先生の表情が険しくなる。

「こんな状況で戯れようとするつもりか?」

 その先生の一言で、気味が悪い程に部屋は暗く静かだったことに気付いた。

 それから数秒経ったときだった。

「ふざけないで! なんで私たちが処分なの? 罪を犯した生徒を守る? そんなの守らなくていい、世間に醜態を晒せばいい!」

 浅井は、休学届の紙を持ち引きちぎろうとした。

「おい!」

 それ以上のことをしたら、言い逃れはできないと感じた。


 何も言わなければ、処分からも脱げられない。


 そう思った。

「教頭先生、一週間待ってくれませんか?」

 浅井の目にためた涙を見て俺は、決意した。

「俺が犯人を突き止めます。警察の協力を要請するまで一週間待ってくでさい。その間に必ず、犯人を見つけます」

 本が燃やされたのを見つけた日、浅井は犯人を見つけたいと言った。

 俺はそれを認めなかった。――俺たちのやることじゃないと……。

 でもそれは建前で本心は、怖いんだ。

 本を燃やすことをしてしまう人を目の前に何かできる自信がない、逆に俺たちが本のように酷い目にあうかもしれない。

 本を見つけて、浅井が言ったとき怖くて浅井を止めた。今ならまだ止めれる。

 ――今なら、まだ首を突っ込んでない。だから間に合う。

 そう思った。

 だが、俺たちは燃やされた本を見つけてしまった時点で後戻りも逃げることもままならない状況に陥ってしまったのだ。


 だから、もういいや。


 教頭先生の不当な処分も、それに対する浅井の気持ちも……もう後戻りもできない。

 それなら、俺が浅井の気持ちを代弁して――

「俺が一週間以内に犯人を見つけます。もし一週間で見つからなかったら、その時は俺たちを犯人捜索の撹乱をした"共犯者"として処分してください。処分はお任せします」

「わかった。一週間待とう」


 ……まだだ。まだ、こんな不当な処分を受けた浅井の気持ちは晴れない。

 ――俺たちにメリットがない。


「一つ、俺たちが一週間で捕まえたら処分の帳消し、そして不当な処分を持ち掛けた教頭先生を別で報告します。いいですね?」

「そんな取り引きは認めません」

 教頭先生は一蹴する。

 引き下がるわけにはいかない。

「これは、取り引きなんて上品なものじゃない。お互いにリスクを背負った掛け引きだ。……掛け引きは逃げたものが負ける」

 俺はスマホを付き出した。

「最近のスマホは便利ですよね? 音声が録音できるんですから。……今の会話、この後すぐにでも校長先生……いや、教育委員会に報告してもいいんですよ?」

「わ、わかった。一週間……条件をのもう」

 渇いたガラガラの声で教頭先生は言った。



 帰り道、浅井と俺は田んぼ道を歩いていた。

 最寄り駅はとっくにすぎて、俺は徒歩で家まで帰ることが確定していた。

 今日だけは、浅井を一人で帰らすわけにはいかなかった。

「……唯さん。ありがとうございます……最近、唯さんに助けられてばっかですね」

「お前に協力するって約束したからな。礼ならいいさ」

 浅井は苦笑いを浮かべていた。

「それより、唯さんは凄いですね。教頭先生にもの応じせずにあそこまで優位に話ができるなんて。でも、でもどうして不当ってわかったんですか」

 不当だとわかっていたわけではない。不当だとわかったのは最後の教頭先生が条件を飲んだときだ。

 だが、浅井の性格的に疑った理由まで聞かされそうだ。

 ため息をついて、説明する。

「最初から最後まで確証はもってない。だが、疑った理由はある。

 会議室に校長先生がいなかったからだ。今日の全校集会で前に出て話していたのは校長先生だ。だが、あのときには校長先生はいなかった。

 生徒を処分をくだすには、担任と学年主任と教頭先生と校長先生と事務職員の承認が必要だ。

 そんな手間隙がかかる休学兼、停学届あの場に校長先生がいたらとりあえず、三枠の承認が済む。なのになんで校長先生の姿がなかったのか? それで怪しいって思った」

 別に名探偵ばりの推理を披露してるわけじゃない。ただ俺が怪しいって思ったものを言ってるだけだ。

 物証も確証もなくただの推測だ。

「でも、校長先生がいないのは偶然なら?」

「そこまで確信して物事を考えてない。言ったろ、俺は名探偵でも学園ミステリーでもやりたくないって。だから、スマホの録音でゆさぶって確信したんだ」

 ようやく、浅井はクスクスと笑った。

 やっぱり浅井は、笑ってる方がいい。

「でも、スマホの録音なんてよくできましたね」

「お前が遅れてくる前に、一人であの部屋にいたから嫌な予感がしてきてな。

 最近は、教師とは言えってくらいには物騒な世の中だし念の為にだよ」

「流石、宏太くん!」

「え、え?」

 浅井の敬語が外れさらに名前呼びに戸惑ってしまった。

「す、すみません!」

「…………。それより、心配がある。録音した音声は、教頭先生の声はちゃんと入ってるのかどうか?」

「どういうことですか?」

「スマホのマイクの集音性能なんて信用できないからな」

「じゃあ、あのときの自信は?」

 浅井は目を丸くして言った。

「ハッタリだよ」

「唯さんは、危ない橋を渡りますね」

「橋を渡らなくても処分なら、危なくても渡るさ。

 ……それより、あと一週間だ。明日からは情報を整理するぞ」

「はい!」

 処分まであと、一週間。

 慎重に危ない橋を渡ろう。

 作中の主人公が言うとおり、ミステリーでも名探偵ものでもありませんからあしからず。

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