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本の行方

人物紹介2


高田高樹

 宏太と同じクラス、同じ部活、同じ委員会に属するお調子者


高城るり

 二年生、図書委員会


長谷川智香

 二年生、図書委員会副委員長

「ゆいちゃん……!」

 改めて園田が浅井の名前を呼ぶ。園田の額には、汗で髪の毛が数本はっついている。そうとう慌てて、文芸部の部室である深久高校、実習棟三階の第三理科室に来たようだ。

「真穂さんどうしたんですか? 今日は委員会活動で部活に来ないはずでは?」

 園田は、文芸部でもありながらもご苦労なことに高頻度に定期的に活動が活発な図書委員会にも所属している。

 確か、今日は図書委員会の放課後の図書当番って言ってたのだが。

「そう、それなんだけど!」

 どうやら、委員会活動について聞きたいことがあるらしい。

「本を探してほしいの!」

 そもそも浅井は、図書委員会じゃないと思うのだが、なぜ園田は浅井に頼みに来たのだろうか。

「他の図書委員に頼めばいいんじゃないのか? 本の管理に手慣れてるのは図書委員だろ」

 面倒事には関わりたくない性分、浅井が協力すると言い出す前にそう断った。

 すると園田は首を傾げて言った。

「小説の着想を広げたいから、なにか困り事とか謎に思うことはすぐ文芸部に相談してって言ってたけど」

「誰が?」

 予想も付く、嫌な予感もする。

 園田が、浅井の肩をぎゅっとつかんで笑ながら言った。

「ゆいちゃん!」

「やっぱり……。それで、その事は園田だけか?」

「いや、広めてって言ってたから広めてるけど」

 …………こいつ!

 浅井に睨んだが浅井は、そんなことも気にせず俺の手をグッと握った。

「では、唯さん。本を探しに行きましょ!」

「どうせ、無理矢理にでも連れていくんだろ」

「はい! ありがとうございます」

 そうして俺たちは、図書館へ向かった。



「そう言えば、なんで本がなくなったってわかったんでしょうか? 図書館って学校でも比較的にモノの入れ替わりが激しいじゃないですか。それでなんでわかったんですか?」

 図書館へ向かう間に浅井は園田に聞いた。

「この学校の図書館って意外に本の管理が厳しくて、宏太はわかると思うけど貸し出すときに学籍番号と静脈の照合が必要でしょ?」

「あー、言われてみれば。てっきり中学と違って高校だから近代的な感じだと思ってた」

 そう、この高校の図書館は本を借りる際に学籍番号の入力と図書館初回利用の時に登録させられる静脈の照合が必要なのだ。

「あはは、私も最初はそうかなって思ったんだけど委員長に聞いてみたら去年か一昨年にここで本の盗難事件があったんだって。

 兆候は貸し出し期限が過ぎてるだけで、学校の図書館なんて貸し出し期限の延滞ってしょっちゅうだしみんなあんまり気にしなかったんだって。

 それであるとき、学校の図書館の本が街の古本屋で売られてるのが発覚してそこから委員会内どころか先生にも広がって臨時の全校集会が開かれてその時の校長は、カンカンに怒ってたみたい」

「でも、学校図書館の本を売るなんてよっぽど守銭奴だったんですね。学校に置かれてる本ってお世辞でも状態がいいなんて言えませんし」

 浅井が不思議な顔をして言った。

 確かに。そもそも、本には学校の捺印が付かれてるし、カバーもコーティングされてるし売れる状態じゃないと思うが。

「いや、別に古くても価値が損なわれない本でしかもその本は、当時校長の友人から寄贈してもらった本らしいの」

「古くても価値が損なわれない本……古書の初版とかですか?」

 古本にそんな価値があるのか信じがたいな。

「そう! 盗まれたのは、フレイドン・オヴェイタの『推理小説小史』の日本語訳の初版」

 なんだそれ。

 スマホで調べてみた。


「…………八万九千円……!!」

 驚いた。まさか、古本がそこまでするなんて。

「そう、高価なものが盗まれてから図書館は一時、貸し出し規制されてたのそれで、反対派と賛成派にわかれて学校の雰囲気が一気に暗くなってそれを打開するために貸し出し管理を厳しくするって条件で図書館は再開されたの」

「図書館にそんな暗い過去があったんですね」

 浅井は、すこし顔をしかめていた。



「園田! 聞いたよ、昼の人たちの問題請け負うんだって? ありがとう、助かるよ」

 図書館が目と鼻の先に差し掛かるところだった。後ろから大きな声をかけられて園田は肩をピクつかせ驚いた様子だった。

「え、あー、まあ、そんなところです。あははは」

 体育会系の言わばボーイッシュな女生徒は園田に立ち寄った。

「えーっと、この人たちは?」

「"一人じゃあ"らちが明かないので助っ人です」

 一人?

「私、文芸部の部長をしてます浅井ゆいです」

「同じく副部長の唯宏太です」

 浅井の自己紹介と挨拶に続くように俺も挨拶をした。

「これはご丁寧に。あたしは図書委員の副委員長の長谷川智香。陸上部もしてるんだ。じゃあ、これから部活だから後はよろしく! 園田」

「はい……」

 長谷川先輩は、颯爽と立ち去り後には俺たちだけが残った。

「珍しいことだが俺から質問する。園田、一人ってどういうことだ?」

 本の管理が厳しく徹底されている図書館でそこの運営を担う図書委員会が、本の紛失に一人はおかしい。

 普通なら臨時で召集して全員で捜索に当たるのが当たり前じゃないのか?

「実は、お昼に引き継ぎ受けたときに本が紛失してるって引き継がれて放課後に探すってなったんだけど、お昼に担当してた先輩たちは部活で忙しいってことで結局、私一人で探す羽目になってるんだ」

「そうですか、それならぱぱっと探して見つけましょう?」

 浅井は気合いを入れて図書館に入っていった。

 そう簡単に見つかればいいが。



「そう言えば、なんの本を紛失してるんですか?」

「海外作家の小説」

 外国作家の小説とはまたマニアックな。

「本の装丁とサイズはわかりますか?」

「ごめん、そこまでは……」

「ならタイトルはわかりますか?」

「確か作家は覚えてないけど『シタとロット』ってタイトルだった気がする」

「ありがとうございます。今、調べます」

 浅井はスマホを取り出して本を調べ始めた。

「なあ、その本って貸し出し履歴って見れるのか?」

「え、ああ、ちょっと待って調べてみる」

 さすがに貸し出し履歴の情報は、部外者の俺が見ていいものなのか困惑するが仕方ないことなのだろう。

「わかりました。アン・ファン・プラーハ著『シタとロット ふたりの秘密』です。装丁の特徴は、四六判の約三八〇ページの本です。赤が特徴です」

「ありがとう」

「はい、唯さん!」

 なぜ、喜ぶのだろうか。



「宏太、これ」

 続いて園田がノートパソコンを見せてきた。

 ノートパソコンには本の貸し出し履歴がずらりと表示されていた。

 シタとロットの貸し出し履歴は、七十件程表示されていた。

「ちょっと、多いね」

 園田がそう呟いた。

「全部確認しようってわけじゃない。消去法で考えるんだよ」

「え?」

「図書館の貸し出し期限って二週間だろ、なら今日から二週間前に借りた人だけに絞り込めばいい」

 そうすると、残るは三名。


 二年 F 組の酒井健さん。

  二週間前に借りて、四日後に返却。


 一年 C 組の谷町みきさん。

  一週間前に借りて、五日後に返却。


 二年 A 組の坂本美冬さん。

  昨日借りて、今日の昼に返却。


 人の速読力で優劣を決めたくないが、怪しいのは一人。

「二年の坂本さんが怪しい」

 消去法で考えたらそうなる。

 四六判で三八〇ページの本をたった一日で読みきるのは不可能だ。

 一日中暇ならあり得るかも知れないが、学生であるなら不可能だ。

「でも、返却されてるよ。それに図書委員って返却されてからの本の管理が厳しいし」

「厳しいし?」

「うん。返却された本は、ちゃんとした手順をふまないと棚には戻せないし」

「手順?」

「最初に返却口から本が回収されて、そのあとにパソコンで返却処理してそれから、委員長か副委員長とその時間の当番の委員でページが破かれたり落書きされてないか確認して、司書の先生に報告してそれから棚に戻せるんだよ」

 図書委員会って意外にしんどい仕事をしてるんだな。次から貸し出し期限を守って返そう。

「返却処理されてからは図書委員会の管理か……」

「そう、だから本の紛失が一大事なの」

 本の管理下が図書委員会にある以上、疑うべきは図書委員会にある。

「お昼の当番の委員ってわかるか? もう少し情報が欲しい」

「それなら、二年 D 組の先輩だよ」

 二年 D 組か。

「ありがとう、じゃあ行ってくる」

「どこかに行くんですか?」

「ああ、浅井は本は見つけたか?」

「いえ」

「なら、園田と引き続き図書館を探しといてくれ」

「はい!」

 軽い指示を出したあと、俺は図書館を去った。

 紛失した本を探す。面倒で本音を言うとやりたくないが、協力せずにずるずると引きずられる方がもっと面倒だ。

 今、やるべきことはこの問題を早く解決して、楽になることだ。



 二年生の教室は地味に遠かったがそんなことは、もう問題じゃない。それより問題なのは、

「先輩はいるのか?」

 そもそも、図書館委員会の先輩の名前を確認してなかった。

 どうしたものか……。

 二年 D 組の前に立ってても事は動かない。

「すみません、図書委員っていますか?」

 教室にいたのは数名、その全員が一斉に振り返った。……やっぱり、慣れないことをするもんじゃない。

「るりなら多分、職員室だよ」

 女生徒が答えてくれた。

「ありがとうございます」

 どうやら職員室のようだ。急いで職員室に行こう。

 運よく、名前も判明できた。



 先輩クラスの廊下より職員室の陰湿とした廊下の方が落ち着く。

 職員室を覗くと、先生が仕事をしていた。

 そのなかに先生に泣きながら謝る女生徒がいた。

 様子見を続けると、彼女は先生に慰められていた。

 しばらくしてから職員室を出た。

「あの! るり……先輩ですか? 図書委員会の」

 彼女は、廊下を立ち止まった。

 彼女の目頭は赤く腫れていた。

「誰ですか?」

「すみません。私は、唯宏太。文芸部の副部長をしております。その図書委員会との繋がりは、同じ部活の園田真穂と繋がりが」

 関連性を伝えると、彼女は目に涙が溢れ始めた。

 ……先輩、女性が目の前で泣かれるのは慣れてないんだけどな。

 そう思いながら頭をかいた。

「ごめんなさい。私のせいなんです」

 彼女はなんでそこまで責任を感じてるのだろうか。

「すみません。話が飛躍して理解できないんですが」

「私が管理をミスったから……」

「別にあなただけが悪いんじゃない。俺の話を聞いてくれますか?」

 敬語は苦手だ。こんな時、浅井がいてくれたら楽なんだろう。

「え?」

「話は飛躍してても俺は理解できます。紛失した本のことですよね? 俺たちは、別に管理をミスした人に怒りに来たわけじゃないんです。

 ……その本を探すために、紛失が発覚した状況を教えて欲しいんです」

 事情を説明すると彼女はまた泣き出した。

 なぜ、すぐに泣いてしまうのだろうか。

 俺は彼女と落ち着いて話すため図書館に戻ることにした。



「おかえり」

 図書館に行くと、最初に能天気な声をかけたのは高田高樹だった。

 高樹は、俺と同じクラスでよく言っても、悪く言ってもひとくくりにお調子者と言う言葉が似合う。

「なんだ高樹もいたのか」

「はは、まあね。このまま放っておくと実行委員会が請け負いそうだから前以てね」

 確かに実行委員会が引き継ぎそうな案件ではある。

 実行委員会とは、学校内で行われる学校行事の全般を運営する委員会だ。今までは各委員会で分散していた行事運営を一括にまとめて簡略化をはかるために新たに設立された委員会らしい。

「で、宏太。後ろにいるのは?」

「ああ、図書委員会の先輩だよ。今日のお昼休みに当番だった人だ」

 るり先輩はお辞儀をした。

「なるほどね。二人ともちょっと集まってきて」

「はい、わかりました……イテッ」

「ちょ、ゆいちゃん! 大丈夫?」

 あいつら何をやってるんだ?



「おまたせ」

「すみません、遅れました」

 園田と浅井が司書室の部屋から出てきた。

 浅井は、頭をさすりながら今にでも泣きそうに涙を目にためていた。

「何があった?」

 一応、浅井のことを聞くが……まあ、消えた本と関係ないんだろうな。

 しかし、浅井は黙っていた。

「ゆいちゃん。司書室にあった六法の本が落ちてきて角に頭をぶつけたんだよ」

 浅井は痛さを我慢して、園田の口を押さえようとしていた。

 痛さと恥ずかしさの板挟みなんだろうな。

「保健室に行った方がいいぞ」

 お世辞でも心配するが内心、浅井の境遇に笑転げそうになりそうだった。

「ま、それより本は見つかったのか?」

 本題に入ったが、二人は揃えて首を横にふった。

 ま、予想はしていた。

「ところで唯さん。後ろの方は?」

「るり先輩。私の前の当番の人」

 園田は浅井に説明するように言った。

「ちょっと、当時の状況を知りたくてな。じゃあ、先輩、お昼休みの状況を教えてくれませんか?」

「…………」

 先輩は沈黙していた。それもそうだ、出会った状況が状況でなんの説明もせずに図書室に連れてきたんだから。

「……先輩、その私は先輩が悪いなんて思ってませんからそれに今は、誰が無くしたかかじゃなくて本はどこで無くなったかを知りたいんです。

 だから、お昼休みの状況を教えて下さい」

 園田は深々と頭を下げた。

 先輩はハッと気付いたような表情になった。

 なぜ、図書委員会はこうも本を紛失しただけで大袈裟なんだろうか。本がなくなったなら先生に報告して謝ればいいはなしじゃないのか?



「私は、お昼の担当でした。当時はいつも通り、お昼休みの終了二十分前に図書室が閉館して委員会は返却本のチェックがありました。

 ずっとやってた手順なので慣れたと過信して、そこで本の管理を怠ってたと思います」

 先輩は眉を寄せて後悔してるようだった。

「でも、それって本を紛失したことに繋がりはないですよね。

 だって、慣れた"手順"ですよね。ちゃんと図書委員会で決めた手順を準えたなら本が紛失するなんてありえないと思いますよ」

 浅井が考えながら言っていた。

 それもそうだ。

「るりさんでしたっけ? そのときの状況、今度は誰がいたか覚えてますか?」

 高樹が聞いた。

「確か、私と委員長と副委員長に委員長の友達、司書の先生がいました」

「尚更だ。尚更、手順に不備があったとは考えにくいんです。

 るりさん、俺たちはお昼の当番のミスしたとは思ってないんです。

 逆に怪しいって思うのは、該当本を昨日に借りて、今日返した人……個人名を晒すのは気持ちがいいものではありませんがこの場合、致し方ありません。

 俺個人で疑いを持つのは、二年生の坂本美冬さんです」



「嘘よ! だって、美冬は去年の十月に退学処分をうけて今、学校にいないんだから!」

 脳裏にこびりつくようにるり先輩の叫びが脳内でループ再生されてるようだった。

 俺たちはるり先輩を返した後、状況を整理した。



 一つ、貸し出し履歴のこと。

 坂本美冬は去年の古書盗難事件の主犯で退学処分を受けていたこと。


 一つ、坂本美冬名義の貸し出しは容易なこと。

 坂本美冬は、事件の主犯により退学処分になった。だがその事件を機に厳重化された図書室の本の貸し出しは、坂本美冬には無関係故に坂本美冬の貸し出しは坂本美冬の学籍番号の入力だけで貸し出しができること。


 一つ、坂本美冬名義の貸し出しと判明し以上悪意にイタズラだということ。


 一つ、よって図書委員会のミスではないこと。



 イタズラで紛失した本、人で例えるなら失踪事件だ。

 俺の見解では、失踪事件は必ずと言っていいほど猟奇殺人に変わる。

 浅井も察したのだろう、状況整理が終わると「本があぶない……」と呟いていた。

 それで、どうしたものか……。

「実習棟の空き教室にはなかったよ」

 ラインとは便利なものだ。こうやってグループラインで通話して常に情報の共有ができる。

 俺たちは、そんなツール使いつつイタズラで本を所持するなら人気が少ない場所に絞りこみ捜索していた。

「宏太、やっぱり校内じゃないんじゃ……」

 スマホごしに不安気な園田の声が聞こえる。

「まだ、判断にははやい。ちょっと、通話抜ける!」

 考えろ、考えろ俺が犯人だとして考えろ。

 紛失した本を持ってるとしてそれをどうする?

 そのまま所持するか? いや、もし手荷物検査でバレたときに言い逃れができないから所持はしない。

 隠すはずだ。

 じゃあどこに?

 考えろ。

 探す側と隠す側の両方で考えろ。

 犯人だとして犯人が見つからないように隠すとして探されたら、空き教室には隠すのだろうか?

 スマホを見て、気付くことがあった。

 あいつなら知ってるかもしれない。



「もしもし? 聞きたいことがある。当時の話でいい。次にあるテストの答案用紙を盗んだんだが、探されても絶対に見つからず克つ捜索の優先度が低い場所ってあるか?」

「宏太が珍しいね。犯罪に手を染めてお姉ちゃん悲しい」

 身内だから、姉だから、この学校のOGだから色々な理由が交錯して連絡はしたくなかった。

「そんなことはどうでもいいから、はやく!」

「お気遣い、下げて欲しいの?」

 うっ、ただでさえお気遣いが下がってるのにこれ以上下げられたら人溜まりもない。

「どこに隠したらいいんですか? お願いします!」

「はいはい。実習棟裏のもと焼却炉」

「焼却炉? そんなものあるのか?」

「昔よ昔。今じゃあ学校の焼却処分は禁止されて、お姉ちゃんがいた頃にはもう焼却倉庫って俗称で倉庫にリノベーションされてるわ」

 実習棟の丁度、第三理科室からは見えるのだろうか。

 どちらにしろ、焼却倉庫に行っても犯人に出くわすわけがない。

 体は無意識に走り、実習棟裏へと向かっていた。


「クそっ! 文芸部はいないのか」


 実習棟の廊下を走っていたとこだろう文芸部に用事だろうか、男子生徒はそう愚痴をこぼしていた。

 悪いな、今日の部活は終わってんだ。また別の日に部長の浅井が受け持つから! と他力本願ながらに無視をした。



 実習棟裏、西日により影が濃い場所だった。きっとこの場所は昼間でも暗い場所なんだろう。

 もし、ここが不良校と呼ばれるとこならここは完全に溜まり場に相応しい雰囲気だった。

「ここか……」

 そう呟き、黙々と本を探した。



 数分後。



 予想以上に早く見つかったと思う。個人的には、数十分かかるのかと思った。

 しかし、事態は予想以上に悪い傾向だった。

 この事は、はやめに報告しとこう。

 ラインのグループ通話に参加する。

「あ、唯さん。見つかりました?」

 無駄に期待を持たせているのだろうか? 浅井が心待ちしてたかのように話を降った。

 順を追って話そう。


「みんな、実習棟裏の焼却倉庫に来てくれ。――本が燃やされた」


 本が燃やされた。


 そう、目の前には表紙だけは辛うじて燃え残った箇所はあるものの黒く焦げて焼けた本があった。

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