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レイジー・リバース・レイン  作者: かずず
一章 レイン・リバエル
6/42

2.レインとリバエル

□ □ □



 その日、俺は大きなビルに囲まれた場所に居た。

 一番近い白いビルの上に、四角い看板。そこに、大きく赤い十字が描かれているのが見える。

 見上げた空には、多分、青空は見えていなかったように思う。

 四角いビルに囲まれた空を、狭そうだなと感じたのは覚えている。


(ああ、そうだ、この日は、病院の日だ。)


 様々な花が植えられている花壇。その傍のベンチ。

 俺は、そこに父と座っていた。

 ベンチの横に黄色のジャンパーを着て、父が横に座って父を見上げている自分になにか話かけている。

 眼鏡をかけて、癖っ毛の強い黒い髪、耳の後ろに少しだけ、白い髪が見えている。


「零士。今日の晩飯何がいい?チャーハンがいいか?カレーが良いか?」


「肉じゃががいい。」


 幼い頃の自分が、そう答えたのは覚えている。


「うーん、今日はお母さん、お家に居ないんだよ。ほら、もうすぐ零士、お兄ちゃんになるだろ。だから、お母さん頑張ってるんだよ。だから、肉じゃがは又、今度かな。」


 困ったような笑顔で、父さんが答える。父さんの笑顔は好きだった。なんだかほんわかと心が温まったような気がする。


「うー。肉じゃががいいー。肉じゃがー。」


 何故こんなに、この日の自分は肉じゃがを食べたかったんだろう。カレーも、チャーハンも、好きなはずなのに。


「ワガママ言うなよー。肉じゃが、お母さんと一緒の方が絶対旨いから。な?」


 また困ったような笑顔で、その台詞を父さんが口にした時、唐突に、場面が変わった。


 屋外から屋内に、曇りの日から、晴れの日へ。

 その日、テレビの朝の天気予報で、雨の日も雪の日も晴れの日もいつも外にいる女性リポーターは、襟元のファーが暖かそうなベージュのダウンコートをがっちりと着込んでいる。

 寒さに頬を赤くして、「昨日の暖かさとは一転して、冬の寒さが帰って来ました。」と、朝の冷え込みを身体と声の両方で伝えてくれていた。

 テレビを見ながら朝の準備をしていると、愛子がキッチンから出て来る。いつも愛子は、こうして俺が家を出る前は、朝の挨拶と簡単な会話を提供してくれる。この日は熱いコーヒー付きだった。


「もう少し、寝ていても良いんだよ。」と、お腹が大きくなって来たある日の朝に、そう言った事がある。愛子は優しく笑って「癖になってるから、変えると逆に調子が悪くなる」と笑ったいた。


「あなた、今日の晩ご飯どうする?」


「あっつっ熱ち。あ、俺が作るよ。今日は休日だし。何が良い?チャーハン?カレー?」


 愛子に渡されたコーヒーを、急いで口に含もうとして、ちらっと舌を火傷したかもしれない。

 愛子は、そんな俺の様子を見てなのか、俺の答えが可笑しかったのか、しょうがないなぁ、とばかりに一つ笑う。


「それしか作れないでしょ。もう。今日は私、肉じゃががいいなー?」


「うーん。絶対、愛子の作った奴の方が美味いからなぁ」


 あの晩は、結局、肉じゃがにして、失敗したんだっけかな。

 父さんはあの時、成功してたんだろうか。そもそも、肉じゃがを作ったのだろうか。あの病院に行った夜のご飯はどう頑張っても思い出せなかった。


 ゆっくりと、目を開けて、記憶の底から戻ってくる。


「ふぅ…」


 ゆっくりと目を開け、記憶の確認を終える。


 高い天井を見ながら、色々思い出してみたり、声を聞いて言葉を覚えようとしたり、腕や足を動かしてみたりしている毎日が、今日まで続いていた。


 ここに来てから、どの位経ったのだろうか。いまいち時間の感覚が上手く掴めていない。

 周りの状況は、まだ良く把握出来ていない。

 身体はまだハイハイすら出来ない。

 ナイナイ尽くしである。赤ん坊には、分からない事が多すぎるのだ。


 暖かな布団の中。木の柵に囲まれている所を見ると、恐らくはベビーベッドなのだろう。たまにフワッと持ち上げられて、授乳をしてもらったり、お湯に浸けられたり、抱かれたりするが、基本的に今の自分の世界は、この四角い柵の中だけだった。


 まず、目がまだ良く見えていない。

 明暗位は判別出来る程度のぼやけた灰色の世界に、たまにチラチラと、人や自分の身体の輪郭やら、周りやらに、モヤモヤとしたカラフルな何かが見える位。

 不思議な事に、何故か色付きのモヤモヤは左目でしか見えない。目の病気だろうか、少し不安だ。

 それに、昼夜は分かるが、意識を保つ事が出来ている時間が短く、半分以上、俺は寝てしまっている。


 耳は良くというか、普通に聞こえる。誰かの話している声や、近くの足音、窓の向こうの雨や風の音、風の強い日には葉が擦れる音が聴こえる時もある。大きな木が生えて居るのだろうか。

 だがしかし、それも名前らしきものと、幾つかの単語位しかまだ判別出来ていない。早く言語は習得したいが、それも周りの状況が分かってからだろう。

 母乳を飲ませてくれる人と、母親らしき人は何となく別なのだろうな、という位は把握したし、両親らしき人も分かってはいる。

 多分、毎日来る度に顔を近づけてくる髪の長い美人と、たまに来ては1日居座るイケメンが両親なのだろう。良く話しかけてくれるし、あやしたり、たまにオムツを、代えたりしてくれた。


 臭いや味も、普通に感じる。

 木の薫り、お日様の臭いがする布の匂い。そして、後は、自分の排泄物の臭いに、仄かに甘いミルクの匂いと味、一番最初以外にも一度だけ、起きた時に血の味がしたこともある。

 歯も無いのに口でも切ったか、口の中には痛みはなかった。病気だろうか、これも若干不安だ。

 それから、俺を抱いたり、見たりしている人達の臭い。

 甘いミルクの匂いの人。ミルクの匂いはしないけど、たまに花の匂いのする人。甘い匂いに、たまに埃の匂いのする人。この三人は女性だろう。

 3人は交代で俺の部屋に詰めていてくれているらしい。

 汗の臭い、土やら草やらの匂い、鉄の匂いがするのはイケメンパパだろう。顔を近づけて来た時に、ぼんやりとだが見えた顔は、俺が異世界に来て、最初にぶん投げられたグラディエーターだった。あのときに比べると随分若かったが。そして、ごく稀にすごい臭い。その匂いがした時は、甘い匂いの女性陣に怒鳴られていた。

 後は何度か他の人も来ているようだが、来ている数が少なく、判別出来てはいない。


 その他の、自分への刺激は、ミルクを飲んだ時の満腹感と、同じくミルクを飲んでいる時と、オムツを取り換えて貰ってる時の羞恥心だ。

 正直、割り切らないといけないが、なかなか上手くいかない。

 

 寝て、起きて、ちょっと動いて、排泄したら「おううー」と近くに居る人を呼び取り換えて貰う。お腹が大きく減ったら「おあうー」と声に出して近くにいる人に呼び掛けて、おっぱいを飲んで、そしてまた眠る。話し掛けられたら真似をしてみたりしつつ、言語の習得の糧にする。

 そんな繰り返しを、ここに来てからは続けている。というか、それしか出来ない。

 赤ん坊は寝るのが仕事だが、気持ちは焦る。


(こんなことしてる場合じゃない。けれど、成長して、力や知識をつけないと、どうにもならない。)


 気ばかり焦る中で、取り敢えず今やれることをやろうと思って始めたのが、元の世界にいた頃の記憶の補強だった。

 忘れかけている役に立ちそうな高校やら大学やらの授業の内容から、ネットで見た豆知識。仕事の事や家族の事。数少ない友達の事。その他、嫌だった事や、良かった事。


 何より、忘れたくない愛子との出来事。


 先程までの父との記憶は、俺が二歳かそこらの時の記憶だ。一番、覚えている中で古い時期の記憶。そして、そこから連想された、つい最近の愛子との会話。


(ああ、俺はこの前、愛子に父さんと同じ事言ってたんだな。そう言えば、愛子に、一番古い記憶の事とか、そんな話題で話したことあったな)


 完全記憶能力は、神様の言った通り、その力をもらった時点からの記憶を完全に保持するのであって、力を貰う前の記憶はその時点の記憶の強度しかない、と神から聴いてはいたが、これを始めて更に実感出来た。

 一度思い出せれば、それ以上記憶は薄れないのではないかと思い、寝る前や、そうでなくても起きてる間は、状況の把握や運動の他に、前の世界の事を意図的に思い出すことにしていたのだが。


「うぅ・・ぅっ」


 でもどうやったって、最後には愛子の事を思い出し、最後の鏡に映った愛子の姿を思い出すと、その度に涙が出てくる。


(身体が赤ん坊でよかった。)


 泣いていても、赤ん坊なら、あまり不自然ではないだろうから。


 ただ、この家に来て落ち着いて、3日程経った日の夜に、緊張の糸が切れたのか、我慢できなくて大きな声で泣いてしまった時は、メイドさん(多分)、乳母さん(多分)、そしてアーシェと呼ばれている俺のこの世界での母親と、アレックスと呼ばれている父親まで飛んできて、全力で自分をあやそうとして大騒ぎになってびっくりした。

 そしてそれ以来、必ず誰かが傍に居るようになった。

 声を殺して泣いてもたまに気付かれる。赤ん坊であっても、やはり人前で泣くのは恥ずかしい。

 昔の事でも、一度思い出したら、その時の記憶を鮮明に思い出せるのは便利で良いが、その時感じた感情も、思い出して心が揺らいでしまうのだ。


(自分の感情を制御出来るように、ならないと。後は、連鎖的に思い出す事をせめて抑える事が出来ないと変に、思われて…しまう…か、な)


 反省しながらも、すぐ疲れてしまうこの身体は、また暗い眠りの中に、俺を引きずりこんでいった。


 □□□□□□


 イデア歴2990年

 ミューリアの月 15日



 ミリタ二ア王国。その北西部の国境都市『リバエル』

 北方に国境の役割を果たしている山脈を望み、その麓から広がる広大な森と、山脈からの豊富な雪解け水からなる大きな河。森を抜けた裾野からは、なだらかな丘陵地帯が広がり、広大な平原と畑が存在している。

 リバエル辺境伯領。

 そんな緑豊かな土地に、その都市は有った。

 四方を壁に囲まれた都市は、有事の際は城砦の役割も果たし、加えて隣国との貿易都市でもある。

 王国中心に位置する王都までの距離はかなり有るものの、街道と国防の要所であるこの都市は、総人口10万を超える。王国内でもかなり大きな部類の都市だろう。

 その都市の中心の領主の館。大きな門を抜けた大きな前庭を、がっちりとした筋肉に包まれた身体に少々汚れた鎧を着こみ、具足をがちゃがちゃと鳴らして一人の戦士が歩いていた。

 ぼさぼさの黒髪を揺らし、五日分の無精髭生やし、濃い赤い目をした男。野性味あふれるその姿は、一見するとすご腕の傭兵か山賊の様に見える。白く美しい石畳に、花の咲き乱れる庭、そして刈り込まれた植木等、貴族の庭然とした美しい庭にはとてもそぐわない雰囲気だ。

 一月半ほど前から王都に出張中の館の主の居ない家に、次期領主アレックス・リバエルは述べ5日ほどの魔物の掃討戦を終えてようやく今、我が家へ帰還した。


 春の始まりの嵐の日にレインを拾って一ヶ月程が経った。

 ようやく、あの時の違法奴隷の商人、そして、レインの親か、その知り合いと思わしき奴隷達の捜査が終わった。


 件の違法奴隷を連れていた商人は、その筋ではそこそこ有名な悪徳商人だった。王都の貴族とも繋がりが有ったみたいだが、裏の方の取り引き先とヘマをやらかして他国に逃げる途中だったようだ。

 でかい街道を避け、国境に向かって点在する寒村を通り、違法奴隷と現金を使って雇った盗賊達と共に、途中で強盗を働きながらこの国境付近までやって来ていた。

 隣国の難民か、開拓民かが住んで居たのだろうか。此方には報告が上がっていなかった森の中の小さな村で、派手に次の商品の仕入れでもしようとしたのだろうか、血の臭いか、騒ぎか、もしくは、その両方か。その村の近くにいたオークとゴブリンの群れに見つかり襲われて街道まで逃げてきた。

 そして街道で逃げ切れずに全滅。そこに俺達が、という所のようだった。


 最初は、うちの都市の冒険者ギルドやら、商人ギルドへの聞き込み、そして次に、都市や国境近くの村々を聞き込みで回り、その過程で、奴隷商人達が最初にオーク等に襲われている時に、一人で逃げた一味の盗賊を捕える事が出来た。その盗賊に充分以上の尋問を施し、レインの故郷と思われる村の存在を知り、兵を連れて向かった所、上位種のハイオークとホブゴブリンが混じった魔物の群れが巣を作っている廃村を発見。

 村の住人の生き残りは居なかったが、占拠していた種族、そしてあの日街道で会敵した種族からして、間違いないだろうと思う。

 そして、その村に居た魔物を全て全滅させてようやく帰ってこれたのが今日の事だ。


 あの嵐の日、周囲の捜索と犠牲者の処理の後、家に帰って来た時には、ベッドでアーシェとレインはぐっすりと寝ていた。真新しい清潔な布を巻かれ、アーシェの腕の中で眠るレインとアーシェの寝顔を見て、俺もレインを引き取る事に覚悟を決めたが、そうなると障害は領主の、親父のガイウス・リバエル辺境伯への説得だ。

 あの夜、しばらくして起きて来たアーシェと話をし、取り敢えずは調査の結果が出てから、正式に親父と話し合うという形で落ち着いたが、あの親父に認められるかどうか。


「まあ、3割かね…」


 断られたら、どうなるかは考えたくない。ため息をついて、空を見上げる。晴れ渡った空に浮かぶ白い雲を見る。


(冒険者稼業をしていた頃と比べて、随分と自由がなくなったもんだ。)


 貴族の義務を怠る気はない。気はないのだが、こんな貴族としての立場と、俺やアーシェ個人の事情の板挟みに対面する度に憂鬱になる。


(まあ、取り敢えずは、結果をアーシェに報告だ。親父の説得は二人で考えるか…)


 そう思って、執事が開けてくれたドアに入り込もうとした時、バタバタと大きな足音を立ててアーシェが玄関ホールの階段から走り下りてきた。

 いつも外出する時に着ている冒険者時代から愛用しているローブは脱いでおり、代わりに白いドレスを身につけている。

 赤色がかったブロンドの長い髪が波打ち、白い肌とも相まってとても美しい。

 少し息を切らし、少々興奮しているのだろうか、頬を赤くして此方に走り寄って来た。


「今帰った。身体は大丈夫だぞ。今回はそんな心配するような任務じゃないぜ。寂しかったか?」


 こちらの挨拶は聞こえていないらしい。


「レインって天才かもしんないっ」


 と、いきなり親馬鹿発言をぶちかまされた。


「えぇ…」


 疑うとかではない。疑うとかではないのだが、親の贔屓目が過ぎる発言に思わず声が出た。表情にも出ているだろう。


「なによっ!疑ってるの!?生まれてまだ二ヵ月か三ヵ月くらいのはずなのに、ご飯欲しい時も、おむつ変えてほしい時も、起きた時も泣かないしっ!何だかこっちの事分かってるみたいだしっ!この前なんて『ごはんー』って言ったのよ。まだ発音はあやふやだけど。『おあぅー』にしか聞こえなかったかもだけど。私には分かるわっ!あの子は天才よ!」


 興奮するようにまくし立てられるが、いまいち天才なのかどうか分からない。なにせ、赤ん坊がしゃべりだす時期も知らないのだ。違法奴隷商の調査が本格化し、オークやゴブリンの巣となった廃村が見つかるまでは、帰れる時は必ず顔を出して一緒に居ようともしているのだが、「余り泣かない子だな。」位しか自分には分からない。後、可愛いのは分かる。世界で多分一二を争う。


「すまん。天才っぷりが分かりにくい。というか、赤ん坊がいつから喋り出すのかすら俺は知らん。確かに余り泣かないが、来たばかりの頃、一度大泣きしてたろ?」


 あの時は大変だった。泣き声を聴いた途端、魔力での身体強化もしていたのだろう、誰よりも早くアーシェが飛び出し。レインが寝ている部屋に飛び込み全力で抱きしめていた。その後、乳母とメイドと俺も加わってあやしまくった。肝心のレインの方は驚いたような顔してすぐに泣き止んだが。後半涙を浮かべてたのは、多分俺達が怖かったんだろうと思う。


「アレックスあんまり近くに居ないから分からないのよっ!すごいのよ!可愛いのよ!」


(ああ、これは、あれだな。親父への説得の材料見つけたくて焦ってんのか。)


 貴族とはいえ、いや貴族だからこそ、養子を取る方も、養子となる方も条件は厳しくなる。

 平民が貴族の養子になるなど、5年前に恐ろしく才能ある10歳の子供が、宮廷魔術師の貴族にその才能を見出されて養子となったと噂に聞いた位だ。

 ましてや、難民の戦災孤児を養子にするなど聞いた事もない事だ。

 父親である領主ガイウス・リバエル辺境伯は、国境沿いを任されている事もあり、大きな権力、広大な領地を王家から賜っている。

 長兄が先の戦で結婚をしないまま若くして急死し、自分が呼び戻され、早く、そして強く、後継ぎを期待されていたのは、急逝した兄の事もあったのだろう。

 養子にしても、どこか由緒正しい遠縁の貴族の息子辺りが選ばれるとも思う。

 今回の王都への報告兼、領主の領地巡回の旅は、その選抜も含めての事だろう。何時もより、一月は予定が長い。


(一応、養子を見つけた。とだけ手紙は送ったが。)


 王都からここまで普通に馬車で一週間はかかる。早馬で伝令を出したわけでもないが、手紙はもう届いているはずだ。外せない予定である王への報告会の後、領地巡回せずに急いで戻ってきたとしても、あと7日位は親父が戻るまで時間が掛かるだろう。


(レインの身元がその前に判ったのは僥倖だったな。)


 アーシェは親父が帰る前になんとか、難民の孤児の養子を取ることを、親父が納得するだけの理由を見つけたいのだ。


「まあ、落ち着け。親父だって馬鹿でも無ければ、そこまで薄情な奴でも無い。もし養子には出来なくとも、赤子のレインを直ぐにどうこうとはしないはずだ。それと、そのレインの事で分かった事もある。取敢えずこっちの話を聞いてくれ。子供との時間を不意にしても集めた情報だ。心して聞けよ」


 最後はにやっと笑って言った。この位の嫌味はまあ、許されて良いはずだ。俺だってそばに居たかったのだ。


「う…。…ごめんなさい。ちょっと焦ってたのかもしれない。でも、天才なのは本当よ!」


 戦闘の時は、大体冷静なのだが、親父が帰ってくる時期が近づいてきて、レインが養子になれなければ引き離されると思っていたのだろう。


「分かった。それもちゃんと聴くから。」


 アーシェの肩に手を置く。冒険者から貴族の嫁になって、もう6年位だろうか。年上とはいえ、貴族の世界には色々と分からない事も有るだろう。それに子供が関係してしまうと、アーシェは弱い。


「うん…。ごめん。ありがとう。それと、おかえりなさい。」


 少しは落ち着いたようだ。ぽんと、優しく頭に手を置く。


「おう、ただいま。」


 さて、ようやく、帰ってこれた事だし、とりあえずは話の前にレインの顔でも見に行くかね。




 □ □ □

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