第十九話:すれ違う思惑
数日前より夜間のサーバーが不安定なのでこのような時間ですが更新。投降が遅れてしまい申し訳ないです。
──俺たちが時間を稼ぐから。お前は情報を持って逃げろ、頼む。
どこか遠くで怒号が聞こえたような気がした。こちらへ向かって発せられた声であるのに自分とは関係ない、言うなればテレビから流れるセリフを聞いているような不思議な感覚。
──ここは死んでも通さねえぞ。あいつらには大人しく、おれらと一緒に土に還ってもらおうじゃねぇか。
自分とは関係ないのに、何故だろうその声を聞くと悲しみが、怒りが湧き上がってくるのは。
──みんなが命を賭けるならあたしの命も上乗せするわ。掛け金は少しでも多い方がいいからね。
見知らぬ人物たちのものだ、大事な仲間たちのものだ。理性が聞こえてくる声を否定し、記憶が肯定する。どちらも自分自身のはずなのに矛盾した主張をし続ける。
──大切な仲間や相棒に囲まれて……満足って訳じゃないけどもう十分だよ。どん底にいた僕には勿体ない幸せな人生だった。
フラッシュバックのように彼らの背中が一瞬だけ見えたような気がした。その彼らの中心に黒髪の男性が立っている。自分の分身であり、大好きな“兄さん”だ。二本の剣を構えた彼の強い覚悟を宿したその背中を見ると、何故だか泣きそうになる。
──こんなことをお前らに頼んですまない。そしてこんな最低な兄貴でごめんな。
そこまで聞いたところで再び、“仲間”たちの姿は消え去る。だが約束は守らなければならない。彼らの覚悟を無駄にしてはいけない。振り払うように後ろへ振り返り、直後何かが正面に向かって飛んでいくのが見えた。
それは誰のものでも無い、自分自身の左腕だ。二の腕から服の一部を付けたまま斬り飛ばされたそれは、宙をゆっくりと舞い暗闇へと消えていった。それに追い縋るように、言葉にならない叫びを上げながら走り出す。だがすぐに背中から冷たい異物が侵入してくるのを感じて──。
「ごめんなさい。兄さん、みんな。そして、次の私」
夢の中で発した悲鳴を引き継ぎながら、ターナはベッドから飛び起きた。全身から気持ちの悪い汗が吹き出し、長い銀髪が首元に付着するのを感じるがそれを気にする余裕は無い。ただただ自分の身体を抱きしめて震えを必死に抑えるのが限界だ。
「悪夢、なんて、こんなにひど、いの、なんて何時、以来だっけ……?」
適当な戯言を発して気を落ち着けようとするが無駄だった。冷や汗も、身体の震えも収まる気配すら見せない。しかし一体今の夢は何だったのだろうか。悪夢にしても限度があるし、何より内容をはっきりと覚えているのが奇妙だ。まるで実際に体験したことのような──。
「違うっ! あんなこと知らない。知る訳が無い……!」
自分で考え着いたことであるのに、声を荒げて否定する。そうでもしないとそれを認めてしまいそうだからだ。どうして否定したいのか、そもそも本当に身に覚えが無いのだから否定も肯定も必要ないはず。自分でも何を考えているのか、理解できなかった。
そのまま十分ほど経っただろうか。ようやく身体と心が落ち着いてきたところでふと時計を見ると時刻は深夜零時半を示している。
「もう過ぎてるか……行かないと」
夕食を終え、一度解散したターナたちだが、深夜に談話室にクリスたちが集まっているそうでターナもそこに参加するつもりでいた。しかしそれまでに時間があったため仮眠を取ろうとしていたのだが、このざまだ。
未だに身体の震えは残っていたが気にしないようにすれば問題ないほど。気分の問題であって体調を崩しているわけでは無いのだから、約束は守るべきだろう。一度頬を軽くたたき気分を意識して入れ替えてから、部屋の外に出た。
宿舎の廊下は完全な闇に閉ざされる村とは違って、深夜であっても不自由しない程度に視界が確保されていた。所々に埋め込まれた魔水晶が輝いているおかげだ。
しかし、不自由しないだけで薄暗いことには違いない。先程の悪夢の影響もあり、恐怖心を強く刺激されたターナは少しばかり駆け足になりながら談話室へ向かった。
「あ、ターナさんさっきぶり」
両開きの扉を開け、部屋の中に入るとすぐに気が付いたリオンが会釈してくる。それに小さく答え、室内を見渡してみるとクリスたちいつものメンバーを含め、ギルドの友人たちが十人と少し集まっているようだった。
昼間に来たときは全員集合する勢いで二十人を超えるほど集まっていたのだが、こんな夜遅い時間では仕方がないだろう。そもそもこの時間にわざわざ集まること自体、理由が分からないのだ。
「おし、ターナも来たな。……なんか顔色悪いけど大丈夫か?」
イスに座っていたクリスもターナを見つけると、声をかけてきてすぐに眉をひそめた。その言葉に思わず、小さく肩を跳ねさせる。どうやら悪夢を見て怯えていたのが顔に出ていたらしい。
「大したことじゃないので気にしないでください……っ!」
肉体が変わっても心は未だ男であると自負しているターナからしてみれば、悪夢で怯えているなど恥ずかしいことでしかない。少々ムキになって言い返すと、クリスが少し困ったような様子を見せてからぎこちなく頷いた。
「照れてムキになってるターナちゃんも可愛いねえぇ!!」
「っ!? ってジェシカさん、またあなたですか!?」
衝動的に言い返してしまったことをクリスには悪かったかもしれないと、心の中で反省していたところ背後からジェシカが飛びかかってきた。直前まで気配を微塵も感じさせない完璧な隠密だ。ちなみに彼女は治療術師、断じて暗殺者では無い。
「いやぁ、アリシアもそうだけど二人とも弄りがいがあってさ」
「こっちは迷惑……ひっ! ちょ、そこはやめてください!?」
脇をくすぐってきたりジェシカはやりたい放題だ。この変態、そういう趣味でもあるのだろうか。真偽は知らないし、興味もない。だが好き勝手弄ばれるターナからすればいい迷惑であることに変わりはなかった。
「まあ、まあ、そこらへんでやめておけって。近所迷惑だぞ」
はしたなく騒ぐ二人の少女を見かねたのか、クリスが咎めるように言うと、さすがのジェシカもターナを開放した。自由の身になったはターナはしわだらけになったワンピースを伸ばしながら涙目で抗議する。
「本当に勘弁してください……! 散々悲鳴あげてた自分が言えないですけど、こんな夜中に寝ている人が起きちゃいますよ!」
「それなら心配いらないよ。ボクとリオンでさっき『静寂』の魔法を掛けておいたから」
そこへ横合いから会話に入り込んできたのは銀色の小さな龍、それが定位置なのかリオンの頭に鎮座している精霊のフウだ。彼の言った『静寂』とは文字通り一定範囲内の音を外部に漏らさないようにする魔法である。
いくらジェシカが騒いでいたとはいえ、何故魔法まで使うのかと疑念をフウとリオンにぶつけていたが、クリスの方は驚いたような様子で、
「ずいぶんと詠唱が早くなってきたな」
「ようやくコツを掴んできたんだ。まだフウの補助が無いとまともに発動できないけど……」
「えっと、一体何の話ですか?」
「そういや、ターナは来たばっかりだったか。いつもこんな感じで外に音が漏れねぇようにしてるんだよ」
一人だけ状況が理解できずに困っていると、いつの間にか現れていたアリシアが答えてくれた。チラチラとジェシカを警戒しているあたり、ターナのように襲われないよう離れたところにいたのかもしれない。
「騒音対策……って訳じゃなさそうですが」
「その通り、騒音対策ってのはあくまで建前だな。本音のところは騎士たちに会話を聞かれないためだ」
「騎士の方に聞かれないため……?」
言っている意味は理解できるが、納得はできない。だってここの騎士たちはこうしてターナたちの生活を必要以上に保証してくれて、クリスたち元の世界の友人と引き合わせてくれた存在だ。
確かにキールや挙動不審だった騎士たちなど、少し不快な思いをしたこともあったが、それ以上に彼らには感謝しなければならないことが多すぎる。そんな恩人たちに聞かれて困る理由が分からない。
「俺たちはしばらく状況に変化が無ければ、ここから抜け出そうと思ってる」
「え……? いやいや、こんな人権も保障されてない国で、自力で生きていくなんて無理ですよっ!?」
「確かに厳しいだろうな。でも騎士団は俺たちに元の世界への手がかりをちっとも教えてくれやしない。このまま黙っていたら一生このままだと思うんだ」
「それはやっぱり出回ってる情報が少ないから、苦戦してるだけで……」
「団長さんは、とある犯罪者集団が違法扱いの召喚魔法を使ったのが原因、とだけ言ってたんだ。そこまで分かっててどうして欠片ほども情報が集まらない? 実際には集まらないんじゃなくて、秘匿にしてるだけってのが俺の予測だな。」
予測とは言っているがクリスの話し方にはどこか確信しているのが感じられた。確かにターナだって元の身体に戻りたいし、日本へ帰りたい。それはただ安全なところでダラダラと過ごすだけでは叶わないのも理解できる。
だが、この世界は危険なのだ。いくら魔力が多く持っていると言っても、所詮は御しきれない力。“天使狩り”のような強者には通用しないし、魔獣の群れに襲われれば容易に食い殺されるのは想像に難くない。行動するにしてももっと慎重になるべきではないのだろうか。
「それに、騎士たちはあたしたちを決してここの敷地の外に出してくれないのよ。だから早い人でもう二週間以上ここで暮らしてるのに、誰も街中を歩いたことさえないわ」
「この世界は、魔獣は怖いよ。でも一生ここで何もせずに生きている方が怖い。そんな人生楽しいとは思えないもん」
「ボクはリオンの精霊だからね。主であり、友達であるリオンの意見を尊重する」
しかし、ターナの考えとは裏腹に友人たちは皆、クリスと共に行く覚悟を持っていた。数日とはいえしっかりと悩んで出した結論なのだろう。彼らの眼に迷いはない。
「別に明日逃げ出すって訳でもないからよ。ターナもゆっくりでいいから考えておいてくれ。もしかしたら本当に情報が集まってないだけかもしれないし、ここに残るってやつも少なくない」
ターナを気にかけての言葉だったのだろう。そのクリスの思いやりも動揺するターナの耳にしっかりと伝わることは無かった。
☆ ☆ ☆ ☆
第一騎士団宿舎最上階。その中で一際豪華で大きいドアをアルフレッドは押し開けた。左腕には酒瓶が抱えられており、ドアに手を掛けたのは右腕のみだ。
視界に飛び込んできた部屋は想像していたよりも素朴なものだった。置かれているのはシングルサイズのベッドにテーブル、そしてイスなどの最低限の家具。それに加えて少々大きめな本棚が置いてあるだけ。
“騎士団長”としては華やかさの無い部屋だったが、アルフレッドの知る“親友”としては相変わらずの一言で済んでしまう。何十年、何百年と経っても変わらないとニヤニヤしながら部屋の奥、第一騎士団長オリヴァーの元まで歩いていった。
「こうやってプライベートで飲むのはいつぶりかね、アル」
「どうだっけな……少なくとも十年は経ってるぞ」
軽く言葉を投げ合いながらアルフレッドはオリヴァーの向かい側のイスに座る。そして机に置いてあった二つのグラスに持参した酒を注ぐと、自分の分を一気に飲み干した。
「お前は相変わらずだな……座ってすぐに酒か」
呆れたように呟くオリヴァーだが、すぐにアルフレッドに続くようにグラスへ手を伸ばした。性格上、アルフレッドよりかは自制するが酒好きであるのは知っている。
「ぷはぁーッ!! っと残りも早く飲みたいからよ、先に面倒な話は済ませちまおうぜ」
「……そうだな」
真面目な雰囲気に切り替えたアルフレッドの言葉にオリヴァーも堅く答える。アルフレッドから見てその姿はいっそのこと奇妙だった。オリヴァーは親友であり、尊敬できる騎士だ。そんな彼がこのように緊張しているのは記憶に少ない。
「今から話すことは被召喚者たち、お前の村にも来ていたターナ様たちの話だ。とは言っても全てをここで話せるわけでは無いがな」
「ターナのこと……あいつらは別の世界から来たんだよな? 正直言ってそこらの奴と何か違うところは感じられなかったぞ」
「あいつらは非常に特殊な存在でな。確かに普通に生まれ育った人と基本的には何も変わらない。それは“天の落とし子”だって一緒だろう?」
そこまで言い終えると、オリヴァーは酒で軽く喉を湿らせる。アルフレッドは量の減ってきた彼のグラスに酒を追加しながら質問を続けた。
「あいつらも“天の落とし子”なのか?」
突然この世界に降り立ち、人類に様々な恩恵を与える人に限りなく近く、しかし人では無い存在。確かに突然この世界にやってきたという点では同じだ。
「そうであって、そうでないとも言える」
「……ややこしいな。もっとはっきり言ってくれや」
「すまない。まだどこまで話すべきか分かりかねている」
さっさと結論を要求するがオリヴァーは迷うように目線を揺らすだけだ。
「俺はどうするべきか迷っている。俺が生まれた意味を全うするなら傍観するべきだ。だが、私はこの国を、民を護る騎士でもある。それなら“あの方”に逆らってでも……」
「待て待て! お前何を言ってるんだ?」
目を伏せたままアルフレッドにも聞き覚えの無い言葉をオリヴァーは次々と発していく。二百年以上もの付き合いだが、オリヴァーが言うことも、ここまで動揺しているのもアルフレッドの記憶にはなかった。
──オリヴァーは重大な何かを知っている。
それを確信したアルフレッドはもっと聞き出そうと身を乗りだし、テーブルに置かれていた魔水晶が点滅し出したのは直後だった。赤く光るそれをオリヴァーが触れ、軽く魔力を流し込むとそれに反応してか再び沈黙する。
「どうやら、今日も被召喚者たちが集まったようだ」
「どういうことだ?」
今の魔水晶が何かしらの知らせをするための物なのは分かる。だが、魔法に関しては劣等生のアルフレッドにはそれだけで詳しいことまでは読み取れない。
それに気づいてかオリヴァーは魔水晶をテーブルの真ん中に置くと、説明を始めた。
「これは一階の談話室で、魔法が行使されると光るように作られていてな。恐らく情報を漏らさないための魔法でも使ったのだろう」
「何であいつらがそんなことを……?」
「どうやら、俺たちは信用されていないようで。不審がられる自覚はあるから仕方ないのだがね」
自嘲気味に小さく苦笑するオリヴァー。その様子からこれ以上話したがらないと判断したアルフレッドは再び酒に手を出した。
結局話を聞き出すどころか、余計な疑問が増えただけ。しかし、一つだけ絶対に答えてもらわなければならないこともある。
「……あいつらを悪いようにはするなよ」
「それだけは約束しよう。決して彼らを傷つかせはしない」
断言するオリヴァーの言葉を聞き、アルフレッドは満足すると再び酒へ手を伸ばした。
☆ ☆ ☆ ☆
僅かな月明りのみが視界を照らす個室の中でミリアは窓を開け放ち、佇んでいた。ベッドには娘のマリーが安らかな寝息をたてており、無防備な寝顔を見て思わず笑みを零す。
「……来たね」
ふとミリアが呟いた。それは明らかに誰かへ向けた言葉であったが、室内にそれを聞くことができる存在は見当たらない。
「お久しぶりでやんす。ミリアの姉御」
直後、いないはずの人物の声がミリアに言葉を返した。変にかしこまった男性の声だ。姿があるわけでも、物音がするわけでも無く、気配と呼べるものが何一つ感じ取れない。だが、ミリアはそれをさも当たり前と言った様子で受け入れる。
「こんなところに呼び出して悪いね。騎士に捕まったらまずいだろ?」
「いえいえ、姉御のためならたとえ火の中水の中。どこにだっていくでやんすよ。……そうでもしねえと、あっしたちみんな恩を返しきれやせんから」
所謂、子分口調と言ったやつだろう。場合によってはふざけているのでは、と捉えかねない話し方だがそこには確かな敬意を感じ取れた。
「私は大したことはしてないさ。ほとんどマスターと、ルスベルのおかげで私はただくっ付いていただけだよ」
「姉御はそう思っているのかもしれやせんが……あっしたちが救われたことに変わりはないでやんす」
ミリアの言葉を謙遜と判断した男は断言した。そこにあるのは敬意と、憧れ、そして重たすぎる信頼だ。それが自分にふさわしくないと考えているミリアは、小さく困ったように苦笑し、顔色を切り替えた。
「それなら、こき使わせてもらおうかね。連絡したときに頼んでおいた戦力の準備はどうなってる?」
「連絡を頂いた昼より、各地に散らばってるメインのチームに召集をかけてやす。順調に行きやしたら、三日後にはランクC+以上だけで三チーム、七日後には五チーム集めることが可能でやんすね」
一般的にランクCを超えるとベテランと呼ばれるのが冒険者社会だ。ずいぶんとハードルが低そうに思えるが、ランクD-に到達するまでに四割の新人冒険者が死亡あるいは、恐怖で引退していくと考えると打倒でもある。つまり最低でも決して低くない実力を持った冒険者を五チーム三十名、近衛騎士団の編成で言えば二個小隊と一個分隊も集めるということだった。
「私のために本当に悪いね……。予想が当たっていれば一月以内に騎士団は動きだすはず。そしたら合図を送るから手筈通りに頼むよ」
「了解でやんすよ!」
声を張り上げるが不思議と部屋の外にそれが響くことは無い。それがこの姿の見えない男の能力なのだから当たり前ではあるのだが。
「それにしても……そっちの子が姉御の娘さんでやんすか。姉御譲りの茶髪で可愛いでやんすね」
「何だい? うちのマリーに手を出すっていうなら先に地獄へ落ちてもらうよ?」
「こんな子供は好みじゃないっす!! もっとボッキュッボンな感じのお姉さんがいいでやんすよ」
「今度はうちのマリーに魅力が無いっていうのかい!?」
「理不尽すぎるっすよ!?」
割と本気で答えてそうなミリアに、男は声を荒げて抗議する。
「それに、その……あっしだって結婚しやしたから……」
「あんたが? 見栄を張りたいからって嘘はダメだよ?」
「いや、ホントでやんす。クランで働いてるマリディアと、去年……」
少しばかり照れの感情が混じったその言葉に、ミリアは目を見開く。正直言ってとても信じられない。しかし、名前を出してまで嘘を付いているとも思えなかった。
「確かにそんな雰囲気が無かったわけじゃないけど……。世の中何が起こるか分からないね」
「あっしの印象が悪いのは、この口調のせいだって分かって──っとすいません。巡回の騎士が来そうなので失礼しやす」
「分かったよ。気を付けて」
ミリアが言い終えるかどうかのタイミングで窓が独りでに閉められた。それを確認するとベッドの上のマリーの隣へ、腰かける。
「……ターナたちも動き出したか。こりゃあ、しばらく荒れそうだね」
下の階より魔力の動きを、リオンとフウが発動した『静寂』の魔法を感じ取る。辺りに魔力が漏れないよう気を付けているようだが、ミリアにしてみればまだまだお粗末としか言えない。
また状況からして騎士団も何かしら動きだしているのは確信できている。
自分が仕掛けたことも含め、只事では済まないと冒険者としての本能が確かに嗅ぎ取っていた。




