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銀の天使とイツワリノカラダ  作者: 閲覧用
第二章 悲劇を生む大魔法
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第十五話:ギルドの仲間たち

 いつも通りのんびりとした意識の覚醒の後、視界に映った天井は低家賃のアパートのものでも、二週間近く過ごした一軒家の天井でも無い。滑らかな大理石製の天井だ。日本の友人との予想外の再会はお互いに大きく容姿を変えながらも一目で気づき、その場では大した会話もせず解散となった。

 旅の疲れがあったのも要因の一つだが、他にも保護されているらしい日本人たちが就寝後だったため、今日まとめて話をすることになったからだ。今思えばキールが言っていた意味深な言葉もこれを指していたのだろう。


「でもここまで好待遇にしてもらえるって、どうしてだろう」


 ベッドから抜け出し、テーブルに置かれていた白いワンピースを見て呟く。村でミリアに用意してもらったものとは違って、手触りの良いどちらかと言えば日本で作られたものに近いものだ。

 日本ではありふれていたが、こちらの世界ではそこそこ高価な製品のはず。それをターナに貸し出してくれるとはずいぶんと太っ腹なものだ。


 そのような庶民的思考に浸りつつ手早く着替えていく。良いのか悪いのかすっかり慣れてしまった女物の服を身に着け、備え付けられていた魔法式の水道の洗面台で身だしなみを整えると部屋を後にした。

 そしてドアを潜った先の長い廊下を観察しながら進む。床や壁は磨き抜かれた大理石で作られており、廊下の中央には赤いカーペットが引かれている。細かな装飾なども施されており、最初に想像していた社員寮よりホテルと言われた方がしっくりくる建物だった。

 見るからにお金が掛かっていそうだが、ワンピースのことも含め騎士団の花形となると出される予算も多いのだろうか。


 そしてふと、人と全くすれ違わないことに気づく。見てみると窓から差し込む日光は強く、既に結構な時間かもしれない。起床時間を指定されていたわけでは無いが、悪いことをした気分になって歩く速さを少しだけ上げた。

 そのまま階段を下り、一階の談笑室が目的地だ。その扉の前に立ちドアノブに手を置くと、緊張から少しだけ呼吸を整え、ゆっくりと開けた。


「お、ターナ遅いぞ!」


 談話室はかなり広くその中に二十人弱の人間が集まっていたが、狭さを感じることは無かった。そして部屋に入るや否や声をかけてきたのは金髪の男性、昨日も一度会ったクリスだ。

 よく見ると部屋にいる人間のほとんどが転移直前にオフ会で一緒にいたメンバー、つまりMMORPGで同じギルドだった人々のようである。元々の容姿とは大きく変化してしまった彼らだが、その中身は変わっていないようでターナのことを見つけると無事を喜ぶ声をかけてきてくれた。


「アベルさんも無事で良かった……えっと今はターナさんのほうがいい?」


 そのように声をかけてきたのはクリスと一緒に談笑していた四人の中の一人、白髪の青年だ。身長はやや低めで百六十後半ほど、やや長めの白髪の生えた顔からは気の弱そうな印象を受ける。ゲームで見ていたときは、そのような印象を受けたことは無かったのだが、きっと中身の人の性格が反映されているのだろう。


「ひとまずターナで構いませんよ、リオンさん。こっちの世界の人達にはそう名乗っちゃっていますし」


「よく自分から女の名前を出せたな……おれはこいつらに無理やりだぜ?」


 白髪の青年リオンにそう返し、次に口を開いたのはやや乱暴な口調の男性──では無く中学生程度の年齢の少女だ。艶のある黒い髪をポニーテールに結び、機嫌の悪そうに眉をひそめていた。ちなみに絶壁である。どこを指した説明であるかまでは言わないが。しかし本人がそれを気にすることは無いだろう。なぜなら、


「アリシアさんもまた災難で……」


「ああ、ホントだよ。目線の高さも変わりすぎて何度転んだことか。あとアリシアって呼ぶな」


 アリシアはターナと同じ元男性、日本では男性であったのにゲームキャラの姿になったことで性別が逆転してしまった人間だからである。思わぬところで出会った同じ境遇の人間にお互いにため息をついた。


「まあまあ、二人とも可愛いからいいんじゃない?」


「そういう問題じゃねえんだよッ!?」


 ケラケラと笑いながら横やりを入れてくるのは、長い金髪をサイドテールにまとめた女性。元気の良さを前面に押し出したその顔は今、アリシアをからかって意地の悪い笑みを浮かべていた。名前はジェシカ。ゲームの時で言えば支援、つまり味方の回復役を務めていたギルドメンバーだ。


「アベル……じゃなくてターナか。前からずっと敬語だったから、女になっても違和感ないな!」


「同級生とかだったら普通にため口ですよ……。初めてVC(ボイスチャット)つないだ時からそうやって話せるほうが“僕”からしてみると不思議なんですけどね」


「最初はあたしもそうだったけど、別に仲良くなって来たらため口で良かったんじゃ? ずっと敬語ってのも今考えると凄く律儀よね。アリシアも見習ってもう少し女の子らしくさ……」


「だからッ! 何回も嫌だって言ってんだろうが!!」


「アリシアさん落ち着いて……」


 姿形が変わってもお互いの間にある絆は変わらない。クリスが話題を振り、ターナがそれに答え、アリシアとジェシカが言い争いをして、リオンがなだめる。以前と変わらない笑顔がそこには今もある。たった三週間だったが妙に懐かしく感じられてしまい、少しだけ涙ぐんだのはバレていないと祈りたかった。





 ☆ ☆ ☆ ☆





「それじゃあ、この世界について俺たちが知っていることを説明しようか」


 それから一時間ほど他愛のない会話で盛り上がった後、クリスが真面目な話題に切り替えた。談笑しているうちに忘れそうになるが、ターナ達は見知らぬ土地に突然違う肉体で放り出された状態なのだ。のんきに生活している場合ではないのである。


「でも分かっていることってあまり多くないのよね」


「そう言われちゃお終いなんだけどな。まあ大事なことだし」


 ジェシカの遠慮の無い突っ込みに、出鼻をくじかれた状態のクリスだがめげずに続ける。


「まず気づいていると思うけど、この世界は俺たちがやっていたネトゲの世界そのものだ。これは地名やら、俺たちの姿とかを見ればまあ分かるよな」


 それはターナも自分の容姿を確認した時点ですぐに気が付いた。ゲームとこの世界、両者にどのような繋がりがあるのかは不明だが密接に関わっているのは確実だろう。


「それでどうしてこんなラノベみたいなことになっているかと言うと、どっかの誰かさんが召喚魔法とやらを悪用しているのが原因らしい」


「ホントに迷惑だってんだよ。おれをこんな格好にしやがって、絶対にぶん殴ってやる!」


「でもどうしてそんなことをしているのか分からないんだよ。召喚した後に接触してくることも無く放置だし、騎士の人達に見つけてもらっていなければどうなっていたことか……」


 クリスの説明に、アリシアはただの愚痴だったが、リオンが補足する。この転移騒ぎが人為的なものだったことは、ラノベを少なからず読んだことのあるターナにとって予想外と言う訳でも無かった。だがそのまま放置されているのは納得がいかない。

 異世界に召喚されたら能力を貰って勇者だと祭り上げられるのがお決まりでは無かったのだろうか。中途半端な術者だ。


「まあそこらへんは騎士の人達が調査してくれているらしいから、任せるしかないよな。それで次は俺達の身体のことだ」


「いやあ、これがまた肌は艶々、指は綺麗。胸もちょうどよくあるし悪くないのよね」


「自分で作った容姿だから理想像そのものだし、当たり前だよ……。そうじゃなくて身体能力とかのほうだね」


 少々的外れなことを言い出すジェシカにリオンが控えめに突っ込む。しかし身体能力と言われてもあまりピンと来ない。


「確かに魔力はたくさんあるとか言われましたけど、身体能力も何か変化が?」


「あれ、気づいてないのか? ゲームの時のステータスが反映されてるぽくて凄い腕力とかあるぞ。ターナも前衛の魔法剣士だったんだから凄そうだけどなあ」


 不思議そうにするクリスだが首をかしげたいのはターナも同じだ。言われてみれば、体力などの増加に心当たりはあるがゲームの能力が反映されているとは言い難い。


「あ、ターナちゃんは強化魔法を自分にかけながら戦うスタイルだったよね? それが無いからあまり力が出ないんじゃないの?」


「なるほど、その可能性は高そうですね」


 ジェシカの言う通りターナはゲームの時、自信を魔法で強化しながら戦う魔法剣士だった。魔力の消費を度外視すれば、一時的に格上の敵ともタイマンを張れるのが強みであったが、強化無しでは途端に非力になってしまっていた。

 強化魔法なんぞ使い方すら分からないのだから、今の状態は魔力が切れた非力な状態と同じなのだろう。


「それじゃあ今度使い方を聞いてみれば良いさ。一緒にいた美人のお姉さん、凄い魔法使いなんだろ?」


「はい、時間があれが聞いてみます」


 実年齢は三十を越えている子持ちなのに、お姉さんはおかしいと思ったが口には出さない。口は災いの元だ。


「あとは……そうだな。もう何も無い」


「ホントに何も分かってねえよな。オレたちはいつになったら日本に帰れるんだ?」


「しょうがないでしょ、騎士さん達は全然外に出してくれないし。そうだリオン、あの子紹介してあげたら?」


 ジェシカに話を振られるとリオンは、思い出したかのように何かを探る仕草をする。少しの間それを続けていたが、


「せっかくの再会に邪魔だからってどこかに行ったきりだよ。実体化はしてるはずなんだけど」


 諦めたように手を振って見せた。誰か人を探しているにしてはおかしな動作に疑問を持ち、理解できないターナは質問をする。


「誰のことを言っているんですか?」


「あれよ、リオンくんって精霊使いじゃない。だからゲームの時からいた精霊も本物になっててさ。今はどっかに行っちゃったみたいだけど」


 ジェシカの説明にターナもようやく納得した。リオンは精霊使いという文字通り精霊を使役して戦う、簡単に言えば魔法使いの亜種だったのだ。この世界にはゲーム上の電子データでしかなかった彼の相棒が実在しているのだろう。小さなマスコットのような姿だったので是非ともお近づきになりたい。


「でも、ジェシカさん少しは自重してね。あんまりモフモフするから怖がってたよ」


「あれはあたしのせいじゃない。あんなに可愛くてモフモフな毛並みを持っているあの子が悪い」


「自己中過ぎねえか。確かに手触りは最高だったけどよ」


 呆れたように突っ込むアリシアを見て、ジェシカは悪戯を思いついたようにクスクス笑い出す。そこから滲みだす謎の迫力にアリシアが一歩退くと、ジェシカが口を開いた。


「いやぁ、あの時のアリシアは可愛かったねぇ……。いつも機嫌悪そうにしてるのに珍しく微笑みながらさ、小動物を愛でる姿はもう完全に若い女の子で……」


「おまッ!? それはただの見間違いかなんかだって……!」


「アリシアには悪いけど、俺もそれは思ったかな」


 何かの間違いだと、視線でクリスへと助け舟を求めるアリシアだったが即座に裏切られる。そちらの方が面白いと判断されたのだろう。クリスも中々人が悪い。続いてリオンへと視線を向ける彼女だが、白髪の精霊使いは誤魔化すように苦笑を浮かべるだけ。


「いや、だから違う……!!」


 そして下手に騒いだことで部屋にいた他のギルドメンバーにまで注目されてしまい、生暖かい視線を全方位から向けられる。結果、羞恥心から顔を耳まで真っ赤にして俯く彼女はそれこそ、年頃の女の子にしか見えなかった。


(アリシアさんにヘイトは集めてもらおう……)


 今はそれを笑って見れているが立場としてはターナも同じなのである。ジェシカの矛先が自分へと向かないように注意しようと心に刻むターナであった。


ターナの本名が”内藤太一”ではあまりにおっさんみたいだったので、”永瀬 優理”に変わりました。せっかく頂いたアドバイスだったのに反映されるのは二週間後。序盤の手直しも中々進まないですしもっと頑張らないとダメですね……。

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