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銀の天使とイツワリノカラダ  作者: 閲覧用
第二章 悲劇を生む大魔法
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第十四話:予期せぬ再開

 がたがたと揺れる馬車の音をBGMにターナ達は王都へ向かっていた。初めて乗る馬車は思っていたものよりも快適で、揺れも大きくない。通行量が多く、簡単にだが整備されている道を走っているもある。しかし、揺れを気にならないレベルまで抑えられるということはこの世界の技術水準は低くないということだ。やはり科学の代わりに魔法が発達しているだけなのだろう。


「日が暮れるまでには王都へ到着するはずです。そこから騎士団の宿舎へ向かうとちょっと夜遅くなってしまうかもしれませんね。旅に慣れていない方もいる中、申し訳ありません」


 そんなことを考えながら高速で後ろへ流れていく景色を眺めていると、近衛騎士のキールが口を開いた。


「いえ、思っていたより快適だったので自分はそれぐらい大丈夫ですよ。ただマリーさんがちょっと……どうですかね?」


 社交辞令などでは無く本音だ。宿場村を経由してくれたことで毎晩しっかりとしたベッドで寝ることが出来たうえ、馬車の揺れでお尻が痛くなったりすることも無かった。実に快適な、それこそちょっとした旅行気分である。

 それは村の外へ出たことが無かったらしい、マリーも同じようで非常にはしゃいでいた。その反動か現在はミリアの膝の上で船を漕いでおり、到着まで持つかはかなり微妙である。


「寝ちゃってたら私が担いでいくから平気さ。今まで村の外に出してやる機会が無かったから多めに見てくれると助かるよ」


 そうして小さく頼むが別に誰にも負担がかからないのだから断る理由も無い。


「あとオレだけは早めに帰らせてくれるんだよな? さすがに長期間村を放置はしたくねえぞ」


「それは安心してください。“天使狩り”が狙うのは“天の落とし子”のみ。アルフレッド様は一般のエルフなので危険は無いはずですから」


 アルフレッドは一日に一回の勢いでこのように確認している。初対面の時の状況が原因でまともに仕事をしている印象が全くないのだが、腐っても村長ではあるらしい。確かに代表者が不在のままなのは問題だろう。

 このようにいくつか懸念事項はあったが道中“天使狩り”に再び襲撃されることも無く実に平和は旅路だった。ただ唯一不安が残り続けていることもあり、


(悪いことばかりじゃないってどういうことなんだろう)


 キール達が村へ到着し、初対面の時に言われたことだ。もちろん何度もその意味を問いただそうとしたが、曖昧に濁すだけでまともに答えてくれることは無かった。彼の言葉を信じるのなら不利益を被ることはないのだろうが、それでも心配ではある。

 ちらっと対面の席に並んで座っている騎士たちを見る。いい加減、視線をそわそわと向けてこなくなった彼らもキールの言っていた意味を知っているのだろうか。王国直属の人間のはずなのにどうにも疑心暗鬼から抜け出せなかった。





 ☆ ☆ ☆ ☆





 そびえ立つ城壁を目の前にしてターナ達は立ち往生していた。予定からやや遅れ、王都へ到着したのは日暮れ直後。そのため閉門ギリギリになってしまい、王都へ入れるか微妙な状況である。実際、今日中に入ることを諦めて野宿の準備をしている人も少なくない。

 正門は長い行列になっていて今から並んでも確実に間に合わないだろう。キールが兵士用の入り口に掛け合っているのだが、兵士でも騎士でもないターナ達が同行しているためそれも中々許可が下りなかった。


「野宿ってのは勘弁したいけどな。まあキールは結構偉い役職だし、何とかするだろうよ」


「そんな職権乱用はよろしくないと思うけどね。一日ぐらい、それも安全な場所での野宿なんて大した負担でもないだろうさ」


 そして相変わらず意見が対立するミリアとアルフレッドだ。最もほぼ確実にミリアの意見が押し通されることを対立と称するのは間違いな気がしてならないが。ちなみに口には出さないがターナも野宿は勘弁である。理由は虫がいっぱいいるから、それだけだ。


「あ、戻ってきましたよ」


 そのように時間を潰していると、見張りの兵士と話を付けていたキールがこちらに向かってきていた。彼の言葉で野宿するかどうかが決定するのだ。虫が大の苦手なターナは祈り続ける。


「許可が下りました。これから王都へ入ります」


 結果、ターナの祈りは運命の女神に届いたようだった。心の中でひっそりガッツポーズする。そしてキールの指示で再び動きだした馬車は正門よりかなり小さな兵士用の門へ向かっていく。野宿の準備をしていた旅人たちから羨ましそうに目線を送られるが、僅かに罪悪感を刺激されながら努めて無視をした。


「本当なら一般人は通れないんだぞ。キール様の顔に免じて特別だからな」


 門の前に馬車を一旦停め、そう言ってきたのは気の良さそうな中年の兵士だ。彼は一度馬車に上がり、その中身を確認していく。その際ターナ達の顔を確認すると一瞬呆けたような表情をした。


「どうしたんだ?」


「……じろじろ見てすまない。ずいぶんと凄い顔ぶれだったものでな」


 兵士はアルフレッドに指摘されるとすぐに意識を仕事へ戻し、謝罪してから作業に戻る。


(でも“顔ぶれ”って……ミリアさんは有名な冒険者だったらしいけど。アルフレッドさんも結構有名だったりするのかな?)


 顔ぶれと言うことは複数だということだ。ミリアを一人として他に誰がいるのかと聞かれればあとは子供のマリーと、この世界に来たばかりのターナ、そしてエルフのアルフレッドだけ。自然とアルフレッドのことだと結論付ける。


「よし、不審物は特になし。行っていいぞ」


 兵士からも許可を貰い、馬車は門をくぐり王都へと入っていく。キール達、騎士は馬車から降りて周りを固めるように歩いており、ちょっとした貴族になったような気分だ。そのまま石畳によって整備された小道を進み、大通りに出るとターナは思わず感嘆の声を上げた。


「おお、凄いですね!」


 村であれば既にミリア家で食事を取り、下手をしたら就寝していてもおかしくない時間帯だ。しかしそんな時間であることなどお構いなしで、様々な人々が道を通り、宿の店員は客引きを勤しむ。道は石畳で整備され、魔道具らしきもので明かりを灯す街灯が規則的に設置されていた。夜の時間帯で混雑するほどの人口密度なのだから、昼間であればどうなるおだろうか。

 それを見てターナは興奮せざるを得ない。魔法があったりと村での生活も中々にファンタジーをしていたがここはそれ以上だ。馬車の窓から顔を出し、前方を見てみると石造りの巨大な城が目に映る。そこにこれから行くということもターナを興奮させる要因になっていた。


 ターナは童心に帰ったように喜び、ミリアとアルフレッドの年長者組がそれを微笑ましそうに眺める。外見だけ見るとターナの年齢は十代後半であり、羽目を外してしまえばただの子供にしか見えなかった。


 そしてその様子を見ているのはミリアとアルフレッドだけでは無い。外を歩く女性騎士の一人がターナのことを不安そうに、それでいて何かを期待するように見つめていた。


「隊長、やっぱりあの人も……」


「恐らく、違う。あまり期待はしないでおくように」


 その女性は祈るような声でキールへ声を掛けるが、職務を優先するキールの態度は冷たい。その返しにやるせない気持ちで歩く彼女に気づくのはキール以外にいなかった。



 それから王城へはさほど時間はかからずに到着した。目の前に来てみると改めてその迫力を認識できたが、さすがにはしゃぐのは自重している。ミリアとアルフレッドに温かい視線を送られていることに道中気づいたためだ。

 キールは先ほどと同じように城門の警備をしている騎士と話をしていた。前回と違うのは予め話を通してあるかだろう。


「キール隊長、任務お疲れ様です。保護対象の方たちはそちらの馬車の中で?」


「ああ、道中に襲撃も無かったから。それとまだ起きている“難民”はいるか?」


「ええっと、先ほどクリスさんを宿舎の近くで見かけましたね。道中にいるかもしれません」


「そうか……僕は彼らを案内したらすぐ隊長殿のところへいく。しっかり仕事に励むように」


「はっ!」


 手短に確認を済ませたキールが馬車に戻ってくると入口を開け、ターナ達に降りるよう促してくる。さすがに城の城壁を開放するわけにいかないらしく、備え付けられている人間用の小さな扉から敷地内へ入るようだ。

 断る理由も無いため素直に馬車から降りると、身体を大きく伸ばした。一日中座りっぱなしだったため、全身の骨がパキパキと鳴るがそれがまた心地よい。


「ようやく到着かー。酒が飲みてぇ」


「またあんたは……たった三日ぐらい我慢しな」


 到着してから一言目が酒のアルフレッドとすっかり寝入ってしまったマリーを抱きかかえるミリアも後に続く。キール先頭に扉を潜ると気の良さそうな兵士が声をかけてくる、なんてことは無く代わりに見張りの騎士が鋭い視線を向けてきていた。

 彼らは上司であるキールに敬礼をしつつも、ターナ達から決して意識を逸らさない。仮にここで魔法を唱え始めれば、即座に取り押さえられるだろう。そう確信するほど騎士たちの仕事に抜かりは無かった。


「それにしても大きいですよね……」


「こんな近くで見ることなんて滅多にないからね。良い経験だよ」


 騎士たちの仕事ぶりに感心しながら、ターナは目の前にまで迫った城の観光に興じる。城の敷地内に入れるだけでもミリアの言う通り貴重な体験だ。いつまで滞在するのか不明のためできる限り目に焼き付けておくべきだろう。

 そんなことをしながら歩いていく。そして数分歩いたところで城と渡り廊下でつながった、大きな寮らしきものが見えてきた。石造の建物で窓の数からして恐らくは四階建て。グレーを基調に、様々なもので贅沢に装飾がされている。貴族では無く騎士の寝泊まりする場所にしては少々華やか過ぎる気もするが、きっとあそこが騎士団の宿舎なのだろう。


「あそこが第一騎士団の宿舎です。皆さんにはしばらくの間、あそこで生活していただきます」


 そしてそれは騎士団の大隊長の口から肯定された。


「じゃあ早く部屋に案内しておくれ。うちの娘を早くベッドに連れていってあげたいから」


 ミリアの頼みに了解しました、とキールが一言答えると五人は入口へと向かっていく。そしてキールが宿舎の入り口の両開きの扉を開けようとしたとき、


「もしかして、ターナ?」


 一人の見知らぬ男性、正確には“現実では初対面”の男性が背後からターナの名前を呼んだ。

 金髪を短くスポーツ刈りにし、身長百八十を超えているであろう身体は引き締まった筋肉で覆われている。年齢は二十歳ほどだが、良い意味での悪ガキがそのまま成長したような印象を受ける顔立ちだ。右手には木剣を持ち、肩に汗を拭うための布をかけた姿から剣の訓練か何かしていたのが窺えた。

 その男性とターナは初対面だ。しかし男性の姿はこれまでに何度も見てきた。──PCのスクリーン越しに。


「クリス……さん?」


 思わず声に出してしまったその名前は、MMORPGのギルドで特に仲良くしていた仲間のものだ。そして目の前の男性の姿はその仲間が操作していたキャラの容姿そのものだった。


「知合いかい? というかターナは記憶が無いんじゃ……」


 状況を飲みこめず、呟いたミリアが怪訝そうにターナを見つめる。ミリア達には記憶が無いと、初対面の際にそう説明していたのだ。そのことと矛盾してしまうこの状況にどう答えるか迷い、助け舟を出したのは意外な人物だった。


「ミリア様、彼女を怒らないで上げてください。彼女はそのように言うしかなかったのでしょうから」


「どういうことだい?」


「彼女と、そこにいる彼はこの世界の人間ではないのですから」


 キールの口から誰にも話してなかったはずの秘密が暴露され、ターナはただただ驚くしかなかった。

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