第52話 聖剣
裸祭りと化している象形拳48ドームにて、ショクシュ子と詡王が対峙する。
世紀の対決である筈なのだが、それを邪魔だてするのは象形拳48のメンバーであった。
「おい、糞豚野郎!その豚化を解いて早く服を脱げ!」
トランスの奥義により衣装を吹き飛ばされ、一糸纏わぬ姿となった象形拳48のメンバーが、いつもの様に詡王を蹴り飛ばして服を奪おうとする。
しかし、詡王はいつもと違って微動だにしない。
そんな詡王の態度に苛立ちを覚え、再び蹴りを入れようとするが、詡王は振り向くと同時に無造作に腕を振り回して裏拳を放つ。
技と呼ぶには抵抗がある程の、膂力に頼っただけの裏拳。
しかし、その威力は吹き飛ばされる象形拳48のメンバーを見れば一目瞭然。
更に吹き飛ばされたメンバーを受け止めようとして、共に壁へと吹き飛ばされるメンバー達の姿が物語る。
人知を超えた破壊力である、と。
無造作に振り回しただけの腕が持つ、その圧倒的な破壊力。
それは今まで詡王へのリンチを繰り返して来た象形拳48に対する、復讐として向けられる為のものなどでは無い。
凌辱対象である岸ショクシュ子に向けられる為のものに、他ならない。
煩い蝿を追い払う様に象形拳48を吹き飛ばし、改めてショクシュ子と向き合う詡王…いや、自我をも完全なるオークへと変貌させた醜悪なる一匹のオーク。
象形拳48など気にもせず、眼前のショクシュ子に舌舐めずりをするのであった。
オークを前にして、凌辱対象であるショクシュ子が身構える。
触手拳の構えでは無い、見たこともない構えであった。
その構えは何とも凌辱衝動を掻き立てる構え。思わずオークが生唾を飲み込む程に、見惚れる姿であった。
ショクシュ子は右手で手刀を作ると、それをオークへと向けて身構える。
そしてその手刀を以って、オークへと斬りつけるのであった。
オーク拳はタフネスさを売りにする象形拳であり、回避能力は皆無と言ってよかった。
完全なるオーク化でショクシュ子の手刀による斬撃は、避ける事も躱す事も無く、全身にて受け止めた。
…だが、ダメージは無い。
ドM属性を持つが故に、ダメージを快感へと変換する力を持つのだが、それすら無い。
その変換能力が発動することも無く、斬撃を喰らいながらもダメージが無いのだ。
ショクシュ子の斬撃は手加減による斬撃なのかと不審に思うが、オークの中でドクンッと何かが脈打つ感覚に捉われる。
…何かがおかしい。オークの野生の本能が警鐘を鳴らす。
再び襲い掛かるショクシュ子の斬撃を、今度は受け止めずに避けようとするが、回避能力が皆無のオーク拳では、再び斬撃をその身に受けてしまう。
そして脈打つ何かも、自身の中で再び感じる事になる。
この攻撃は危険だ。オークの本能がそう結論付けた。
しかし、回避能力が劣るオーク拳では避けるのは困難なのが現状。
攻撃を避ける事が無理ならばと、今度は攻勢にでるオークであったが、ショクシュ子はオークの攻撃を余裕で躱して、手刀による斬撃をお見舞い。
そして脈打つ何かが、更に勢いを増す。
脈打つ何かにより動きが鈍くなり、攻撃も防御もままならないオーク。
そんなオークに情け容赦無く襲い掛かるショクシュ子。
後退りしながら必死で避けようとするオークであったが、その死に物狂いの抵抗が功を奏し、何とか一撃だけは躱すことに成功。
ショクシュ子の繰り出した斬撃が、避けたオークの後ろにいた象形拳48のメンバー、三人を斬りつけた。
そして三人はその場にへたり込む。大量の体液で床を濡らしながら…。
それを見たオークは、やっとショクシュ子の攻撃のカラクリに気が付いた。
そして既に自身がその攻撃による効果を発症していることも、今更ながらに気が付くのであった。
再び後退りするオーク。
しかし、もう手遅れである。ショクシュ子の攻撃は既にオークの中で眠る者へと、蝕んでいたのだから。
「どうやら気付いた様ね、この攻撃の真価に」
そう言うと、ショクシュ子は再びオークへと襲い掛かった。
マトモに避ける事もままならないオークは、それでも必死に回避に徹する。
しかし、無情にもオークの身体を、ショクシュ子の手刀が斬りつける。
斬りつけられる度に、オークの身体を形成していた禍々しいオーラが、グズグズと音をたてて崩れ始めてきた。
オーク化の強制解除。それが始まる様になっては、勝敗は決したと言っても過言では無い。
「どう、この手刀の斬れ味は?痛みは無いけど、良く効くでしょ?オーク化の崩壊が始まってはもう、手遅れね。冥土の土産に教えてあげるわ、この聖剣の名を!」
そう言うとショクシュ子の右手で作り上げた手刀が、聖なる光によって一本の聖剣と成す。
敗北のショックから、全身の触手化を成し得なくなったショクシュ子。
そんなショクシュ子が苦肉の策として見出したのが、一点集中の触手化である。
右手の手刀に集められた全身の触手力。それが光り輝く一本の聖剣を作り上げたのだ。
「これぞ触手力を集結させて作り上げた…その名も聖剣ショクシュカリバー!そしてそれを携えるのは…」
そう言うと、ショクシュ子の全身にあるはずの無い甲冑が浮かび上がる。
会場にいる客にも、象形拳48にも、乱入者である裴多達にも、そしてオークにもその見事なまでの、あるはずの無い甲冑が確認出来た。
全身を覆う見事なまでの甲冑。その姿は紛れも無く…歴戦の女騎士の姿であった。
「触手拳を更なる高みへと覚醒昇華させた象形拳、それがこの女騎士拳!聖剣ショクシュカリバーの聖なる力によって完全なる女騎士となった私に死角は無し!凌辱対象でしか無い女騎士によって…オークを滅する時が来たのよ!」
ショクシュ子は触手拳を触手剣とし、拳技と剣技とを融合をさせる事によって、新たなる力を手に入れた。
そんな聖剣による攻撃だが、相手を傷付ける事は無い。
傷は付かない。しかし、斬り付けた箇所から全神経を伝って触手に呑み込まれる感覚に囚われる。
それが聖剣ショクシュカリバーによる攻撃の真髄。
触手の持つ特性を一点集中により高め、聖剣としてその効果を遺憾なく発揮。
如何なる猛者であろうとも、聖剣ショクシュカリバーによる攻撃を受ければ、誰もが触手に呑み込まれる感覚に苛まれる。そして急所からは大量の体液を放出。
全身が弛緩して力は入らず、急性触手渇望症を発症。即ち、二度と触手には逆らえなくなるのだ。
これが前代未聞の象形拳である、女騎士拳の正体であった。
オークを倒す為にあえて不利なる女騎士となり、触手の力によって相手を滅する。
完全なる勝利に拘る、ショクシュ子らしい考えであった。
そして遂に、オークを斬りつけ続けることによって、詡王の自我が目覚め始めた。
先程からドクンッと、オークの中の詡王の自我が胎動を繰り返すのだ。
オーク拳は完全なるオーク化を果たす為に、相反する詡王の自我を完全に抑える事によって成り立つ。
しかし、聖剣ショクシュカリバーの攻撃によって、詡王の中にある触手を愛する女としての自我が、覚醒を始めたのだ。
触手渇望症を発症して、目覚め始めた詡王の自我。それが完全に覚醒する時、オークの自我は完全に崩壊し、オークの存在そのものが消滅すると言っても過言では無かった。
つまり、オークの死が目前に迫っている。
このままでは二度とオーク拳を使えなくなり、完全なる敗北を喫する事になる。
オークが女騎士に敗れる。あってはならない現実に、オークは最後の抵抗を見せるのであった。




