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最強の格闘技とは触手拳にあらず!  作者: 猪子馬七
最終章 触手決戦
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第49話 猫の力



 鉞拳の奥義によって一刀両断された…白熊の着ぐるみは、李羅の足元に崩れ落ちた。


 田魯の奥義を喰らう寸前、着ぐるみの中に顔を引っ込めて難を逃れた李羅であったが、着込んでいた着ぐるみは前半分が完全に裂け、ずるりと音をたてて崩れ落ちたのであった。


 崩れ落ちた李羅愛用の着ぐるみ。それを見て更なる大歓声が会場に響き渡る。


 だが、その大歓声は田魯の奥義に対するものでは無く、李羅の白熊の着ぐるみの下にあるものに対しての大歓声であった。



 それが証拠に大歓声が響き渡っても、田魯の顔は優れない。

 それどころか、冷や汗を流すしまつ。


「貴様…それはどういうつもりだ!熊掌拳の使い手が、その姿は無いだろうが!」


 田魯の動揺に反して、李羅は冷静な態度で答える。


「私がいつまでも怠けるだけの熊だと、本気で思っているのか?敗北から何も学ばない程、愚かでも無ければ怠け者でも無い。そしてこれがその答えだ!」


 李羅は身構える。その動きに対して観客から大歓声が巻き起こる。

 田魯に向けられていた大歓声よりも、遥かに大きな歓声である。


 会場は李羅への歓声で埋め尽くされた。


 歯噛みする田魯。しかし、歓声が自分から李羅に移ったことは、仕方の無いことだとも理解は出来た。



 それもそうであろう。李羅の切り捨てられた白熊の着ぐるみの下には、もう一枚の白熊の着ぐるみを着込んでいたのだから。


 しかも下に着込んでいた二枚目の着ぐるみは、ただの白熊では無い。目の周りが黒くなった白熊である。それと胸周りと四肢も黒いと来ている。

すなわち…。


「これぞ熊掌拳を覚醒昇華させた新たなる象形拳、その名も熊猫(パンダ)拳なり!怠けているだけでは到達することの出来ない、熊掌拳の更なる高み!その身を持って思い知るがイイ!」


 李羅は修行により熊掌拳を熊猫拳へと覚醒昇華することに成功していた。


 怠け者からの脱却によって成し得た成果なのだが、熊よりもパンダの方がいつもゴロゴロしていて、逆に怠けている様に見えるのは気のせいであろう。



 そんな愛くるしい姿のパンダの着ぐるみを着こなす李羅。そして会場は田魯よりも、パンダの姿に夢中となったのだ。


 何故ならば中国人にとって、パンダとは特別な愛玩動物。

 世界に対してお金儲けや外交手段として用いる事が出来るパンダを、中国人が嫌う訳がない。



 誰からも愛されるパンダの動きと着ぐるみによって、会場の支持を得た李羅。


 アウェーである筈の象形拳48ドームに集いしファン達を、一瞬にして自分の味方へと引き込んだのだった。


 それに対して怒りと焦りを露わにする田魯。

 折角ここまで自分を応援してくれるファンを増やしてきたのに、それを一瞬で奪われた事に対する怒り。

 そして確信した筈の勝利が大きく揺らぐ事に対する焦り。


 対熊掌拳用に特化した鉞拳にとって、この展開がどれだけ不利な状況下であるのかは、火を見るよりも明らかであった。



 李羅と田魯が再び動き出す。だが、田魯の動きに先程までの精彩さは感じられない。

 それどころか、李羅の攻撃に対して防戦一方になるしまつ。



 鉞拳の真価を発揮出来なくなった今、田魯に残されたのは必死になって足掻く事しか無いのだ。

 それを見た李羅は、安っぽい挑発で反撃を促す。


「どうした?先程までの威勢は何処へ行った?反撃しなければ勝てるものも勝てないぞ?私が憎いのでは無かったのか?」


 李羅の挑発によって田魯の忌々しい過去が蘇る。







 田魯は熊掌道場にて修行に励む、ごく普通の少女であった。

 そんな田魯は孤児であり、両親を毒キノコで無くした李羅にシンパシーを感じていた。


 李羅と友達になりたい。そんな純粋な気持ちで李羅に近付いたが、怠け者の李羅にとってはどうでもイイ存在。

 路傍の石コロ程度の存在でしかない田魯など、眼中に無かったのだ。



 そんな李羅と仲良くなるには、強さを手にしなければならないと田魯は判断した。

 自分が弱いから歯牙にも掛けてくれないのだと思い、懸命に修行に励む田魯。


 しかし、どんなに修行を積んでも、怠けている李羅の足元にも及ばない現実が、立ち塞がる。


 業を煮やした田魯は、武器を使った器械武術の導入を提案。これで何とか李羅に追い付けると思ったのだが、道場の門下生達からは非難轟々。


 熊掌拳は素手による破壊力を追求する象形拳。武器の導入など言語道断だと、誰もが田魯の提案を否定。


 それでも諦めきれずに必死で武器の導入を主張する田魯に、たまたま通りかかった李羅が事情を聴いて決闘で決着をつければイイと提案。

 武器の導入の正当性を自ら示せばイイと、李羅は田魯の前で身構えてみせる。


 田魯にしてみれば勝てるわけが無い相手。言葉で説得しようと必死になって説明するが、李羅は聞く耳を持たない。


 そして何故か李羅と決闘をする羽目になった田魯。


 仕方なく少しでも自分が有利になる様にと、ルールを相撲でと提案した。


 相撲のルールならマトモにやりあわなくても、土俵際で運良く李羅が土俵際から足を踏み外すことだってある。

 怪我を負わずに勝利する可能性が一番高いのは、相撲だと判断したのだ。



 そして地面に土俵を描き始める田魯。


 それを見ていた李羅は「早くしろ、面倒臭い」と、土俵を描いている田魯に向かって、容赦無く張り手による突っ張りをお見舞い。



 いきなり張り手により吹き飛ばされた田魯は星となり、青空に笑顔でキメッ!と、熊掌道場から永久追放されるのであった。




 そんな星となった田魯の転落人生は、凄惨を極める事になる。


 吹き飛ばされて落下した先にあったのは、雨で水嵩の増えた川。

 激流に飲み込まれながらも必死で藻掻いて岸に辿り着いた先にあったのは、海の近くの港街。


 無一文で帰る場所の無い田魯は、この街で暮らすことになるのであった。



 手に職の無い、無一文の田魯が生活するには、夜の仕事につくしかなかった。

 当面の費用を前借りして酒場で働き始めたが、暫くして前借りした借金が、膨大な金額に膨れ上がっていることが判明。


 契約書に書かれていた異常なまでの利息率について、田魯は全くの疑いも持たずにサインをしてしまったのだ。


 多額の借金によって縛られ、奴隷の様に働かされる田魯は、酒場よりも稼ぎのある身体を売った商売に身を投じる事になる。



 しかし、多額の借金は返済されるどころか、雪だるま式に増え続ける。

 それでも身体を売って、お金を稼がなくてはならなかった。



 精神的にも肉体的にも限界が近付いた田魯は、遂に脱走を決意。


 借金を踏み倒して逃げられない様、店に軟禁状態ではあったが、運良く逃走経路を確保。


 逃走を決行し、見事逃げおおせた田魯であったが、逃げ出す時に店のお金を奪っていたのが不味かった。


 店のお金はバックについている狂産党への献上に充てられる筈の資金。つまり、国に対するお金を強奪した事になる。


 国を敵に回した田魯は全国指名手配犯となり、懸賞金がかけられる事に。

 それによって多くの刺客に狙われる日々を送ることになるのだった。


 無一文で苦労した田魯がお金をちょろまかして逃走した事は、稼いだお金を奪い返しただけなのだから、本来であればそこまで執拗になる必要は無い。

 しかし、相手は狂産党。そんな言い訳が通じる相手では無かった。




 逃げきれないと判断した田魯は狂産党の幹部の中で、最もブサイクな幹部の元に盗んだお金と自身の身体を以って庇護を求める。


 ブサイクな幹部の庇護により安全を手に入れた田魯であったが、その代償として毎日の様にブサイクな幹部の夜の相手をする羽目になる。


 特殊な趣味の性癖を持つブサイク幹部と共に生活する田魯。

 この時にはもう、手遅れとなるほどに田魯の精神は完全に歪み始めていた。




 底辺にまで落ちた田魯であったが、刺客に狙われなくなった事で、心に余裕が出始めてきた。

 そうなるとフツフツと湧き起こるのが、この現状に陥った元凶である、熊掌道場の面々と李羅に対する怒りと憎しみ。


 復讐に燃える田魯は、いつしか対熊掌拳用の象形拳の開発に没頭するのであった。



 こうして開発された鉞拳の使い手として成長した田魯。

そんなある日のこと、田魯の元にブサイクな幹部のつてで、ピンクの象の企画するアイドルグループへのスカウトがやって来た。


 面接としてピンクの象の本部に呼ばれた田魯であったが、面接時に田魯は参加に対する条件を提示した。


 出した条件とは恨みのある熊掌道場の全壊。勿論、そんな事が認められる訳が無い。


 しかし、その場にいた熊掌拳の代表者を相手に決闘を申し付け、対熊掌拳に特化した鉞拳を披露。

 血祭りにあげた熊掌拳の使い手を前に、鉞拳の強さを知らしめる。


 象形拳48のメンバーに自分が絶対に必要になると断言し、更には熊掌道場を自分が滅ぼすと息巻いてピンクの象を後にした。



 それから数日後、熊掌道場は半壊し、鉞拳の使い手である田魯に服従することで存続を認められる事になる。


 己の強さを知らしめ、復讐を遂げ、象形拳48のメンバーとなった田魯。

 センターを務めて人気者となり、我が世の春を満喫するところに現れたのが、憎っくき李羅であった。



 それもパンダの格好をして、今まで増やして来たファンを根こそぎ奪われ、圧倒的有利であった戦局も、圧倒的不利に持ち込まれる。


 対熊掌拳用の象形拳である鉞拳は、熊掌拳のみに対して威力を発揮する。

 即ち、熊掌拳を熊猫拳に覚醒昇華した時点で、鉞拳の真価は発揮出来ないことになるのだ。



 日本人であれば熊もパンダも同じ熊科なのだから、大した問題では無いと思うかも知れない。


 しかし、中国人にとってパンダとは、熊の仲間だと言う認識が無い。パンダは熊の仲間では無く、猫の仲間だと言う認識なのだ。


 そんな事が某中国人の嫁日記に書いてあったので間違い無い筈。





 多くのファンを奪われ、圧倒的に不利な状況の田魯。

 それでも必死に李羅に攻撃を仕掛けるが、攻撃するたびに観客からブーイングの嵐。完全にアウェーだ。


 象形拳48の為に作られた象形拳48ドームでの杮落とし。にも拘らずのアウェー感。あり得ない現状に歯噛みする田魯。


 そんな田魯に李羅が挑発するのだ。悔しく無い筈が無い。



 敗北すれば全てを失う。仮に敗北せずとも、既に多くのものを失った。

 もう、田魯には前に出るしか術は無かった。

 反撃を恐れず、田魯は無我夢中で李羅に鉞を振り回した。


 パンダの着ぐるみによってこの状況が作られたのだ。何は兎も角、この着ぐるみを破壊することが勝機に繋がると、防御を無視した攻撃によって李羅の着ぐるみを斬り裂いた。



 その甲斐あって、李羅の着込んでいたパンダの着ぐるみは切り刻まれ、李羅は一糸纏わぬ姿に。



 決死の猛攻によって勝利を見出したと、田魯は安堵した。


 しかし、それこそ李羅の奥義を繰り出す為の布石であったと、李羅の下半身が視界に入った瞬間、田魯は気付かされるのであった。




 着ぐるみを失い、動きやすさと不毛なる大地を見せつける李羅。

 そこから繰り出される奥義こそ、熊猫拳の真髄とも言える奥義であった。








「奥義!白威(パイ)熊猫(パンダ)!」


 李羅の諸手から繰り出される神速の掌底打ちが、田魯の胸部へと炸裂。


 吹き飛ばされ、壁に激突した田魯はその場に崩れ落ちた。

 そして田魯の巨乳は破裂…いや、胸部に仕込んでいたパットが破裂し、下から申し訳無い程度の胸が露わに。





 鉞拳vs熊猫拳。その軍配は華同様に、不毛なる大地を持つものが制するのであった。



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