第46話 旧蟷螂拳vs新蟷螂拳
「奥義!歯噛歯根!」
フードファイターであり、河馬拳の使い手である河 馬焼が奥義を繰り出した。
食欲を強制的に増加させ、噛み付き攻撃の威力をも増幅させる奥義である。
馬焼がショクシュ子と初めて対戦した時、触手による食欲以外の人間の三大欲求を強制開花させられ、惜しくも敗北。
しかし、触手拳に敗れはしたものの、その威力は折り紙付き。
噛み付き攻撃に特化した河馬拳の攻撃は、一噛みで指を喰い千切る程の威力。
それを知る者であれば、噛み付き攻撃には細心の注意を払うのが定石である。
元、河馬拳を代表した猛者である馬焼に対抗する象形拳48のメンバーは、鮫鰭拳の使い手。しかし、得意な水中戦も手刀も使えずに、馬焼を相手に握り拳で対応。
勿論、不利な状況下で勝てる見込みなど無く、馬焼の奥義によって拳の骨は噛み砕かれ、早々に戦線離脱。
相性の有利不利は有るものの、圧倒的な実力差によって蹴散らかし…いや、噛み散らかすその姿に、取り囲む包囲網が遠巻きになるのであった。
そして鮫鰭拳道場を追い出されてショクシュ子達と合流した鮫 派舵は、鴨葱拳の使い手や蟷螂拳の使い手と対峙。
鴨葱拳は相手が攻撃し易い隙をあえて作り、攻撃の手だてを防御側が作り上げる象形拳。
攻撃する側は鴨葱拳への攻めやすさに調子に乗り、鴨葱拳の使い手が作り上げた攻撃の手だて通りに攻撃。
ふと、気が付くと攻め続けた攻撃側がいつの間にやら不利な戦況に陥り、その隙を突かれて鴨の嘴によって敗北する。
派舵に対しても鴨葱拳の使い手は、定石通りに攻撃し易い隙を作って対応するが、派舵はそんな事は一切気にせず、手刀一閃で斬り伏せてしまった。
簡単に倒されてしまった鴨葱拳の使い手ではあったが、自分が攻撃されることにより、同じ象形拳48のメンバーである蟷螂拳の使い手が、派舵への攻撃に活かせると判断。
糜路程では無いにしろ、それなりに名を馳せた蟷螂拳の使い手が、派舵に対峙しているのだ。この隙を付けば勝てるはず。
鴨葱拳の使い手は血にまみれながらも、派舵の足にしがみ付く。
これで蟷螂拳の攻撃が決まる…と、思いきや。蟷螂拳の使い手もまた、自分と同じ様に派舵の手刀一閃によって斬り伏せられた。
元々、ピンクの象にて最強と呼ばれていた蟷螂拳が使い手、華と共に斬撃の特訓をして来た派舵。
不利なる陸地での戦闘であろうとも、その斬撃は並の蟷螂拳の使い手では太刀打ち出来ない程の、凄まじいまでの威力にまで成長していたのだ。
多対一の陸地での不利な状況下を、ものともしない派舵。
更に攻め寄せてくる象形拳48のメンバーをも、同じ様に斬り伏せて行くのであった。
仲間達の奮戦を横目に見ながら、華は糜路と対峙。
元蟷螂拳のトップと現蟷螂拳のトップによる新旧蟷螂拳対決。
糜路は華に引導を渡さんと、まくし立てる。
「あんたの時代はとっくに終わったんだよ!腐れ日本人の触手拳なんぞに敗れた時点でな!よくもまあ、おめおめと舞い戻って来れたものだね?せめて私の手で引導を渡してやるよ!」
「…えらく口達者になったわね?昔は人の顔色を伺いながらいつもビクビクしていた癖に、私が居なくなっただけでこうも調子に乗るとはねぇ」
「口達者?そう思いたければ好きにすればイイさ!私は己の本当の強さに気付いただけ。そう、貴様如きに遅れをとる事も無い、真の強さと言う物をな!」
「なら早速、試させて貰おうかしら…奥義!無手鎌八!」
挨拶代わりに華の奥義が糜路に襲い掛かる。
しかし、迫り来る八つの鎌鼬を糜路は避けようともせずに、顔を両腕で隠して防御の姿勢をとった。
ショクシュ子ですら触手拳無しでは防御も出来ず、必死で回避した鎌鼬を糜路は真っ向から受け止めるのだった。
ザシュッと華の奥義による鎌鼬が、糜路の全身に斬り付いた。
しかし、糜路は無傷。
全身から血が流れるどころか服すら切れていない。
つまり、服が華の斬撃を無効化したと言う事になる。
「…フ、フハハハハ!どうだ!見たか!コレが私の真の実力よ!アレだけやりたい放題だったあんたの斬撃、完全に無効化出来る様になったのよ!これであんたは攻撃手段を失った…即ち、鎌の無いカマキリ!最強の蟷螂拳の使い手がいいざまね!」
「…実力も何も、あんたの武道着が優れてるってだけの話じゃ無いの?」
「ふん!負け惜しみが!確かにこの武道着は特注の防刃武道着!それもほら、日本製の武道着よ!絶対的に信頼の置ける日本製の防刃武道着を取り寄せた、私の手腕も含めて私の実力!真の実力が解放された私に死角は無し!マトモな武道着も用意出来ないあんたに、負ける事なんて万が一にも無いのよ!」
糜路がめくった武道着の裾には、確かにMade in japanと記されていた。
あれだけ日本人を侮蔑して起きながら、日本製品には絶対の信頼を寄せているのだ。
日本人は嫌いだけど、中国製品より日本製品を信頼する。コレが中国。
糜路の中国人らしい思考回路に半ば呆れる華であったが、本当にそれだけで強くなったと思ってるのなら話にならない。
「まさか、防刃武道着を手に入れただけで強くなれたと思ってるの?本当にそれだけで増長しているんだったら大したものよ?」
「そんな訳が無いだろう!実力も無しに自惚れる程、愚かではないわ!あんたを倒した日本人の触手拳が使い手、それを倒したのがオーク拳の詡王、そして…その詡王を毎日の様にいたぶっているのが、この私を含めた象形拳48。つまりは私達こそ、最強の象形拳の使い手!恐れ入ったかっ⁉︎」
確かに詡王は毎日の様に演武と称してリンチを受けていた。
しかし、それは詡王が父親の倉韋のしわ寄せを受けて、無抵抗でいただけのこと。
詡王が本気を出せば、象形拳48の誰にも負けることの無い実力なのだ。
それを本来の実力によるものだと勘違いしての増長。なんとも、おめでたい話である。
「なる程ね、それで自分達を最強だと勘違いしてるのか。毎日のリンチの事は知ってたけど…つまらない事をして強くなったと世間に宣伝して、自惚れにも拍車を掛ける。典型的なダメ人間じゃない?よくもまあ、恥ずかし気も無くこんな事が出来るわね?恥知らずな貴方達に本当の強さってのを…見せてあげるわ!」
そう言うと華が再びポケットに手を入れ、奥義である無手鎌八の構えをとる。
鎌鼬は既に無効化出来ることは立証済み。糜路は再び武道着に覆われてない顔を両腕で隠して防御体勢。
しかし、華が繰り出した奥義は、鎌鼬を繰り出す無手鎌八では無かった。
「奥義!無手群群!」
大気を切り裂く見えない斬撃…では無く、大気を穿つ見えない無数の触手が、糜路に襲い掛かるのであった。
突然の見えない触手が群がる、その先に居るのは呆然と立ち尽くす糜路。
初めての経験に戸惑いを隠せないのだ。
無手群群はショクシュ子への荒治療時に幾度と無く使い続けた触手を、蟷螂拳に取り入れた華のオリジナル技であった。
しかし、触手拳の使い手では無い華による触手の攻撃は、防刃武道着越しには大した効果は見られなかった。
勿論、華は効果の程を期待していたわけでは無い。一瞬の隙を作る為の布石として、奥義を繰り出したに過ぎなかったのだ。
そして読み通りに隙が出来た糜路の懐に素早く潜り込み、今度は直接防刃武道着越しに斬撃をお見舞いした。
鎌鼬では無く、直接の斬撃である。流石にこれなら防刃武道着が切り裂かれたと思いきや…糜路の着込んだ防刃武道着には、傷一つ付いてはいなかった。
流石は日本製の防刃武道着と言ったところ。しかし、傷一つ付かなかった事が、今度は逆に華の隙を作る事になるのだった。
斬撃が完全に無効化され、驚く華に糜路の斬撃が襲い掛かる。
咄嗟に紙一重で避ける華であったが、着込んでいた武道着が斬撃により切り裂かれる。
華の攻撃は全く通じず、逆に糜路の攻撃は回避しなければ致命傷になり得るのだ。
完全に守勢に回った華を、笑いながら糜路が攻め続ける。
「どうした、さっきまでの威勢は⁉︎今更ながらやっと実力の差を理解した様だね!でも、もう手遅れだよ!あんたは私の斬撃の餌食になるんだからね!これで名実と共に私が蟷螂拳最強!相手を屠って糧とする、雌カマキリの本領発揮といかせて貰おうかしら!」
糜路は更に斬撃のスピードを上げる。
それを避け続ける華であったが、身体は傷付かずとも武道着が見るみる切り刻まれ、どんどん肌が露出して行く。
ついには最後の一枚をも斬撃により切り刻まれ、華は一糸纏わぬ姿に追いやられた。
傷一つ付かない防刃武道着を着る糜路と、ロリ体型を余すこと無く披露している華。
武道着の差がこの様な結果となったのだが、それでも華は負ける気など無かった。
寧ろこの状態こそ、華の真の力を発揮する状態であると自覚していたからこそ、糜路の攻撃を甘んじて受けていたのだ。
そんな華の思惑など気付くこと無く勝ち誇る糜路に、華は一応の忠告をする。
「貴方は本当の強さを知らない。蟷螂拳の真価もそう。確かに鎌による攻撃こそ蟷螂拳の真骨頂かも知れないけど、斬撃のみが鎌による攻撃にあらず。真の蟷螂拳を…見せてあげるわ!」
裸になった華が何を言っても、糜路には負け惜しみにしか聞こえなかった。
勝利を確信している糜路は、忠告など無視してトドメを刺しに華に襲い掛かる。
そんな襲い掛かる糜路に対し、修行によって蟷螂拳を覚醒昇華させた、華の新たなる象形拳の奥義が繰り出されるのであった。
「奥義!秘恥締め!」




