第39話 修行場
ショクシュ子がベッドの上から、ボ〜っとした顔で窓の外を眺めている。
外では修行に励む34名の猛者達が、汗を流しながら鍛錬に勤しんでいた。
ここは元々、李羅の実家にある熊掌拳の修行場であったのだが、怠け癖のついている李羅が折角の修行場をそのまま使わずに放置。
荒れ放題であった修行場。それが今ではキレイに整備され、34名の猛者達の修行場として機能している。
そんな猛者達の姿を見ながら思い出すのは、一ヶ月にも渡る荒治療と言う名の触手責め。死を覚悟する程の荒治療であった。
その後遺症からか、未だに触手が全身を這いずり回る感覚を発作的に起こし、その都度急所が熱く滾る。
そんな常軌を逸した荒治療。常人では耐えられぬ程の、無謀とも言える行為であった…。
時には34本の触手化した舌先によって責められた事もあった。
あえて急所だけを重点的に責められた時もあった。
逆に急所以外だけを責め続ける時もあった。
大量の体液を放出し過ぎて、脱水症状に陥った事もあった。
脱水症状を治す為に、放出した水分と同じ成分の体液の摂取が望ましいと、34名の放出する体液を直に飲まされたこともあった。
…思い返すと、なんと献身的な荒治療であったことか。
34名が24時間体制で責め続けたからこそ、死と隣り合わせの荒治療を成し得たのである。
ショック療法ならぬ触手療法。そうした荒治療の甲斐あって、ショクシュ子の凌辱に対する怯えは些か緩和されたのだった。
だが、女騎士のオークに対する凌辱願望は完全に消し去ることは出来なかった。
再びオークと相見える時、ショクシュ子の中に眠る凌辱願望が再び覚醒し、決してオークの前では吐き出してはいけない「くっ…殺せ!」を吐き出してしまうことだろう。
それ程までにオークに対する凌辱願望は、ショクシュ子の中にある騎士道へと、根強く残るのであった。
とは言え、オーク拳によって植え付けられたトラウマを、多少なりとも改善したことは、ショクシュ子にとって朗報であった。
猛者達の触手に責められている間、凌辱の事は一切忘れられたし、なんとか笑顔も取り戻すことに。
敗北したからと言って、いつまでもベッドでうずくまって怯えているだけでは、なんの進展も無いのだから。
改善の兆しが見えただけでも、今のショクシュ子にとっては大きな一歩であった。
しかし、最も改善しなければならない触手拳の復活が、一ヶ月の荒治療でも改善の兆しすら見えなかったのは、ショクシュ子のみならず、34名の猛者達をも落胆させた。
これ以上は流石にドクターストップと、一ヶ月に渡る荒治療は終了。
今は英気を養う為にベッドの上から、外の様子を眺めているショクシュ子であった。
ショクシュ子との敗戦に屈することも無く、修行場にて汗を流す面々。
同じ敗者でありながら、何故こうも自分と違うのか?
そんな疑問を持ちながら、ただただ指を咥えて眺めている自分に嫌気が差す。
およそ一ヶ月半、部屋に籠っていたショクシュ子が、居ても立っても居られなくなり、修行場へと顔を出した。
「もう立てるのか、ショクシュ子ちゃん?」
一週間は安静と言われていたショクシュ子が、修行中の皆の前に姿を現した。
裴多の心配をよそに、ショクシュ子は笑顔を取り繕いながら、必死で回復したことをアピール。
「心配かけたけど、私はもう大丈夫!皆のおかげでこうやって外に出ることも出来る様になったし、いつまでも部屋に篭ってたら逆に身体に悪いでしょ?」
空元気なのは誰の目にも明らか。それでもショクシュ子は元気がある様に振舞っている。
「皆んなが修行に励んでるのを見てたら私、居ても立ってもいられなくなったから…リハビリがてらに、皆んなの修行のお手伝いをすることに決めたの!」
そう言うと、ショクシュ子は皆と混じって修行に参加することに。
必死に汗を流しながら、共に修行に励むショクシュ子。
その必死さは触手拳の復活を願ってでは無く、二度と触手拳が使えなくなった事を受け入れた自分から、目を背ける為の現実逃避によるものであった。
汗と共に流れる涙。
受け入れたく無い触手拳との決別を、今はただ修行に没頭して、忘れようとしているショクシュ子なのであった。
第4章 完




