第35話 凌辱
詡王の父である倉韋がいつも口にする「凌辱」。子供である詡王には、その意味が分からなかった。
オーク拳は女の子を凌辱する素晴らしい象形拳だと、指導者である倉韋はいつも詡王に語っていたのだ。
詡王が「凌辱」の意味を聞くと、女の子を喜ばせる素晴らしい行為だと教えてくれた。
確かに間違ってはいない…筈。
そして凌辱の大いなる誤解に気付かない詡王は、クラスメート達の前で凌辱を熱く語り、あまつさえ普段の特訓の光景まで、身振り手振りで激しく説明。
そんな詡王にドン引きしたクラスメート達が、片言の中国語で誤解を解く。
「アノネ、ソレネ、モノスゴイネ、ゴカイヲシテイルンダヨ?」
意味が分からない詡王。
急いで帰宅して辞書を引っ張り出し、凌辱の本当の意味を知る。
多感な時期である中学生の詡王。そんな時期に学校での凌辱発言。
しかも自分が毎日の様に父と特訓と称しておこなって来た行為は、世間ではド変態がするべきSMプレイと言う名の、高尚なる行為。
この日を境に、詡王は登校拒否の引きこもりとなるのだった。
優しいと思っていた父が今まで自分にして来た行為は、世間では児童虐待とも、ド変態ともとれる行為。
こんな父の元など逃げ出せば良いのだが、母は他界したと嘘を信じ込まされているし、他に家族もいない。
勿論、頼る友達などいるわけが無い。
逃げ場が無く、引きこもるしか無かった詡王は、結局父である倉韋と共に、修行に励むしか無かったのだ。
自分のしている行為がド変態行為だと気付いても、辞めるわけにはいかなかった。
倉韋が無理矢理させていた時期もあったが、今では一人で道具を使ってでも特訓に励んでいる。
毎日の習慣とか、気持ちがイイからとか、理由は多々あったが、自分にはオーク拳しか無いと思っていたからである。
自身の人生をオーク拳に捧げる。たとえ辿る道は違えど、それは触手拳とショクシュ子との関係に酷似していた。
そんな触手拳の使い手と、遂に遭遇する時が来る。
オーク拳の使い手として立派に成長した詡王を、倉韋はピンクの象への復讐の為に送り出す計画を開始したのだ。
勿論、倉韋が何かをする訳では無い。
詡王がピンクの象を代表する猛者達を徹底的に調べ上げ、勝手に各個撃破して行くのだ。
詡王が猛者達を倒し尽くしたところで倉韋が登場。
会議室でピンクの象の無様さを嘲笑い、自分が組織を乗っ取ると、何とも拙い計画を企てたのだ。
自分は殆ど何もしない。全てが娘任せ。つまり、失敗すれば全て娘のせいに出来る。
成功すれば労すること無く、ピンクの象を乗っ取れる。
嫌悪の権化と謳われた倉韋らしい他力本願な、しょうもない計画であった。
そんなしょうもない計画であっても、父である倉韋に絶対服従している詡王は、計画通りにピンクの象の主だった猛者達を調べ上げる。
各個撃破の計画が完了すると、一人で白鶴拳の使い手、裴多の元に。
裴多を付け狙っている刺客を速やかに排除し、計画通りに邪魔が入らず対戦する場を設けた。
しかし、ここで予期せぬ事が起きる。
自分と同じ様に付け狙う、同世代の女の子が現れたのだ。
詡王は他の刺客同様に、速やかに排除しようと試みるが、その女の子は他の刺客とは別格であった。
そう、全くと言ってイイほどに隙が無いのだ。
手を拱いていると、裴多と女の子が先に闘う事に。
女の子の名前は岸ショクシュ子。触手拳と言う象形拳の使い手であった。
触手拳はオーク拳と同じ様に、新興の象形拳である。
どこか自分と似た親近感を覚えたが、触手拳の奥義を見てその思いは現実のものとなる。
触手拳の奥義は全身を触手化させると、裴多の身体に纏わり付き、容赦無く責め始める。
特に急所への念入りなまでの責めには感嘆。
女体の全てを隅々まで理解し、一分の隙も無い、見事なまでの責めである。
格闘家として、女として、詡王は触手の見事なまでの動きに胸が熱くなった。ついでに下半身も熱く滾る。
そんな詡王の元に、責め終えたショクシュ子がやって来た。
顔を出したものの、上手く感情が定まらず、話も出来ずにショクシュ子は去って行ってしまった。
この時になって初めて、自分のコミュ障に気が付いた。
詡王は父親以外とは、マトモに話をしたことが無い。
少ない他人とのコミュニケーションが、中学生の時の引きこもりのキッカケとなる、凌辱発言による苦い思い出を最後としている。
自身のコミュ障に気付かぬ程に、他人と関わらなかった詡王。
どうしてイイか分からないが、このままではダメな事だけは分かる。
去って行くショクシュ子の後を取り敢えず追いかける。そして逆に追いかけられる。
逃げ場を失い追い詰められたが、やはりマトモに話は出来ない。
自分でも嫌になるほどのコミュ障。
しかし、そんな詡王にショクシュ子は拳骨を喰らわせる。
拳骨を喰らうたびに身体の芯が熱くなる。
そしてショクシュ子との距離が縮まる感覚が芽生えてくる。
詡王は何度も殴られる事により、何とかコミュニケーションがとれる様になるのだった。
その後はショクシュ子と行動を共にする様になる。
初めて友達との旅を満喫。こんな充実した生活は初めてであった。
しかし、父である倉韋に絶対服従の詡王は、密かに倉韋と連絡をとり、計画の変更を余儀無くなったと報告。
すると新たなる計画を告げられた。
ショクシュ子がピンクの象の猛者達を撃破して、最後に漁夫の利を取ればイイ。
道半ばで敗れることがあればショクシュ子の代わりに、自分がその後をついで覇道を歩めばイイと。
詡王は父の指示に従い、ショクシュ子の覇道の手助けをしながら、先日最後の飛燕拳を撃破。
そう、遂に自分の本当の姿を、ショクシュ子に晒す時が来たのだ。
詡王は自分をド変態だと受け入れていた。
認めたくは無いが、ド変態であることを受け入れることにより、オーク拳の使い手として成長を遂げることが出来たのだ。
そんなド変態の自分を、ショクシュ子は友達だと言ってくれた。そう、ド変態である自分を、父以外で受け入れてくれる者が現れたのだ。
自分の中で渦巻く凌辱衝動が、ショクシュ子の笑顔に反応して激しく暴れ出す。
そして告白の時、自分を晒す前にショクシュ子は自分の事を気付いていたと発言。
詡王は嬉しかった。やはりショクシュ子はド変態である自分を受け入れてくれる、同じド変態なのだと確信。
自分も我慢してた様に、ショクシュ子も我慢していたに違いない。
【ピーーーー】が【ピーーーー】な事を、お互いに本当はもっと早くにしたかったのであると…。
申し訳ない気持ちも、これからタップリする凌辱で償えばイイ。
それがオーク拳の真骨頂なのだから。
女騎士の姿となり、まさにオークに凌辱される為のお膳立ては万全である。
足が竦みながらも必死で抵抗するショクシュ子の姿は、凌辱衝動を激しく刺激。
「奥義!舞滝鞭!」
オークを前にして、全身の触手化が上手く機能しない女騎士こと岸ショクシュ子は、無理矢理触手化した両腕を鞭の様にしならせながら、詡王に向かって解き放つ。
詡王はショクシュ子の奥義を、避ける事も防御する事もしない。
苦痛を快楽へと変換出来るドM属性が、オーク拳のタフネスさとして機能しているのだ。ショクシュ子の奥義など、凌辱前の前戯である。
詡王にダメージを与えるどころか、興奮させているだけであった。
オークを前にして足が竦み、マトモに触手化も出来ないショクシュ子は、一縷の勝機も見出せないまま必死で抵抗を重ねる。
勿論、それではジリ貧だとは理解している。時間が経てば経つほどオークは興奮して、凌辱の激しさが増すだけなのだから。
触手拳は相手の急所への攻撃や、サブミッションなど得意としている。
しかし、オーク拳のタフネスさは経絡秘孔や快楽秘孔への攻撃を無効化。
サブミッションも、父親譲りの膂力を特訓によって開花させた詡王の前では無力。
数少ない打撃技である鞭打も、詡王を興奮させるだけで逆効果。
…完全に打つ手が無い。
仮に熊掌拳の様に破壊力に特化した象形拳であっても、オーク拳の前では跪くであろう。
サブミッションに特化した象形拳でも、打撃に特化した象形拳でも、斬撃に特化した象形拳でも…オーク拳はどの象形拳に対しても強い。
奥義の無い象形拳ではあるが、奥義など無くてもこれほど強いのだ。いや、奥義など必要としない強さこそが、オーク拳の強さ。
オーク拳と闘いながら、オーク拳を知れば知るほどに、ショクシュ子の中から込み上げて来るものがある。
それを吐き出せばとても楽になる筈だ。しかし、それを吐き出してしまっては、全てが終わる。
それを理解しているからこそ、吐き出さずに必死で飲み込むのだ。
そんな葛藤とも闘い続けるショクシュ子に、遂に詡王の一撃が炸裂する。
詡王のパンチを腹に受け、吹き飛ばされたショクシュ子は、勢い良く壁に激突して倒れ込む。
そしてその衝撃により、思わず吐き出してしまったのだ。
ずっと我慢していた…。
凌辱ウエルカムを告げる…。
闘いの終わりの禁句を…。
「くっ…殺せ!」




