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第34話 王家



 ある町に、豚の様な醜い男がいた。


 男の名は(オウ) 倉韋(クライ)。誰もが嫌う、町の鼻つまみ者であった。



 醜い容姿もさることながら、学も無く、粗暴で無駄飯喰らいの穀潰し。

 マトモに働かず、欲しい物は暴力で奪うのがモットーと、人に嫌われる為に存在している様な男である。


 同じ様な荒くれ者達にすら疎まれ、群れをなす事も無く、着の身着のまま暴力のみで自由に生きる無頼漢。




 そんな嫌悪の権化とも言うべき倉韋は、毎日の様に町の市場で勝手に陳列している商品をくすねて行く。

 窃盗以外の何ものでも無いのだが、本人は「ツケ」の一言で済ませている。

 勿論、ツケが支払われることは一度も無い。


 店主も倉韋の粗暴さは理解しているので、泣き寝入りするしか方法は無かったのだ。



 目に余る素行の悪さの倉韋。それに業を煮やして用心棒を雇い、排除を試みた者もいるにはいたのだが、その全ては返り討ち。


 半殺しの用心棒から雇った者が誰なのかを聞き出し、雇い主の元に出向いて半殺し。


 今では誰もが逆らうことすら諦め、警察ですら手出しが出来ない始末。



 倉韋の排除を頼まれた者の中で、ピンクの象の者も少なからず居た。

 勿論、敗北して雇い主の情報を漏らし、敗北と顧客情報漏洩のダブルパンチでピンクの象の信用はガタ落ち。


 そんな倉韋にピンクの象の幹部が、勝てぬのなら取り込めばイイと、誤った判断をしてしまう。



 倉韋に多額の金を払ってピンクの象に迎え入れたものの、迎え入れ先の流派で問題を起こす。

 同じ門下生への暴行、並びに窃盗。女性の門下生の中では、無理矢理子供を孕まされた者も複数いる。


 問題を起こすたびに他の流派へと移籍させられ、どこの流派からも嫌われ拒絶させられることに。



 傍若無人の倉韋だが、人に迷惑をかけている自覚は無い。

 弱い奴が虐げられる、それが自然の摂理なのだから、虐げて何が悪いのだ、と。


 嫌なら強くなればイイだけのこと。それすらせずに、文句だけは一人前。


 ピンクの象の流派を渡り歩きながら、倉韋は弱者の愚かさに呆れ果てていた。




 ある日のこと、倉韋は自分より弱い師範が偉そうに指導しているのを見て、生意気だからと半殺し。

 倉韋は師範を血ダルマにしてから、ふと気が付いた。こんな奴より、自分が指導者になればいいのではないかと。


 そして倉韋は世界で最も醜い象形拳を生み出すことになる。

 奥義など存在しない、タフネスさと膂力に頼っただけの暴力を振るうだけの象形拳、その名もオーク拳。



 オーク拳の信条は破壊と凌辱。気に入らないものは破壊し、気に入ったものは凌辱する。

 まさに倉韋の為にある象形拳と言えよう。



 特にオーク拳の女騎士への凌辱衝動は、凄まじいものがある。


 オークとは女騎士を凌辱する為に存在し、女騎士とはオークに凌辱される為に存在しているのが世の理。

 その凌辱衝動は人知を超える凄まじさと言えよう。



 例えば一匹のオークの前に、万の女騎士が立ち塞がるとしよう。


 女騎士が一斉にオークに襲いかかる。しかし、これだけの戦力差がありながらも、女騎士ではオークに勝つ事は絶対に不可能なのだ。



 万の数で挑みながらも、女騎士は全滅の憂いを避けられない。

 そして凌辱と言う名の御褒美を受け取ることもまた、避けることが出来ないのだ。

 それがオークと女騎士との関係。




 倉韋の様な粗暴な男にとっては、なんとも素晴らしい象形拳ではないだろうか?


 そんな素晴らしい象形拳であるオーク拳を身につけた倉韋は、意気揚々とピンクの象の本部へと訪れる。


 アポイントメントも無しに突然の来訪。

 そこに丁度各流派の代表者が集まっての会議が開かれていた。

 警備員達は必死で倉韋止めるが、抵抗は無意味と言わんばかりに、止めに入った警備員を次々に薙ぎ倒して会議室へ。



 会議は突然の倉韋の来訪に一時中断。

 倉韋はそんな事は御構い無しにと、34の流派の代表者達に新たなる象形拳の設立を要請。


 勿論、倉韋の横暴を認める代表者などおらず、満場一致で要請は却下。

 そしてそれが、惨劇の始まりとなるのであった。



 物事が自分の思い通りに行かないことを激しく嫌悪する、自分勝手でワガママな倉韋。

 そんな倉韋が暴れる理由を、代表者達は与えてしまったのだ。


 会議室で一匹のオークが暴れ出し、ピンクの象の本部には阿鼻叫喚が木霊する。



 これにより倉韋はピンクの象を追放。

 20年前の黒歴史として、未だに語り継がれているのだった。




 追放した倉韋に対し、ピンクの象は中国狂産党との繋がりを強化して、国家権力を以って倉韋と対立。


 流石の倉韋も国家権力を相手にするのは些か不利と判断し、ピンクの象にはそれ以来手出しはしなかった。



 手出しはしないものの、自分の思い通りに事が進まなかった事を根に持ち、オーク拳を独自で育てて見返すことを画策。


 それがとても愚かな行為だと気付くのは、暫くしてからの事であった。






 道場設立にともない、倉韋は道場の門下生を募った。

 しかし、嫌われ者であり、人に物を教える才能など皆無の倉韋が、オーク拳なる色モノ象形拳の門下生を募ったところで、人が集まる訳が無い。


 仕方ないので不良の溜まり場などに出向いて、アウトローな若者を無理矢理門下生として引き込んだ。



 抵抗する若者は容赦無く叩きのめし、抵抗する意思を完全に砕いてから門下生に。


 無理矢理でも何とか門下生は集めたものの、教えることなど太って暴力を振るう事だけだと、幼稚な格闘論で育成。


 それで格闘家が育つのなら、誰もが名だたる格闘家になっていた事だろう。

 大方の予想通りに、強くなる門下生など現れず、倉韋のストレスは日に日に募るばかりであった。


 一向に強くならない門下生への指導と言う名の八つ当たりは、そのウチただの虐待へとエスカレート。

 そして逆らうことすら叶わない門下生達は、一斉に集団エスケープで全員が逃走。


 道場には間抜けな顔をした1匹のオークが、取り残されるだけとなったのだった。




 またしても自分の思い通りに行かなかった。

 憤慨する倉韋ではあったが、誰がどう見ても自然の成り行き。

 己の愚かさを理解出来ない倉韋は、自身の態度を改めるよりも、街に出向いては周りへの八つ当たりに精を出す。


 そんなある日のこと、倉韋の子供を身籠った女がそれを出産したと噂が流れた。


 色んな意味で精を出し続けた倉韋。今まで百人以上の女を無理矢理孕ませてきたが、その全ての女が選んだのは中絶と言う選択。


 愛してもいない不細工な豚の様な男に、無理矢理孕まされて出来た子供である。中絶以外の選択など考えられないのだ。



 しかし、無理矢理孕ませた女の中に、子供に罪は無いから堕胎は避けたいと、出産を決意した女がいたのだ。


 その噂を聞きつけ、倉韋が密かに女のところにやって来た。

 産まれた子供は女の子で、母親似。名前は詡王であった。



 三歳児の詡王。自分の血を引く娘なら、きっとオーク拳の使い手になれると、倉韋は再びよからぬ事を企み始める。



 暫くしてから倉韋は母親の目を盗み、眠っている詡王を強奪。


 未成年者略取と、立派な犯罪であるのだが、倉韋は自分の子供を引き取っただけだと解釈。

 罪の意識など感じることも無く、幼い詡王を誘拐するのであった。





 それから倉韋と詡王の二人の生活が始まった。

 突然、豚の様な親に育てられる事になった詡王であったが、逆らうと有無を言わさず殴られるので、黙ってイイなりになるだけの従順なる子供として育つ事に。



 自分に逆らう者を嫌い、服従する都合のイイ者には好感を持つ。

 そんな唯我独尊の倉韋に従順な娘、詡王は何とも都合のイイ存在であった。



 しかし、いざオーク拳を指導しようにも、父親とは似ても似つかぬ格闘センスの無さ。


 やっと見つけた従順なる門下生であるにも拘らず、才能の片鱗も見出せないのだ。


 詡王は格闘技よりも部屋で本を読むのを好む大人しい子。

 従順だからと言って、オーク拳の使い手に育て上げようとするのは、些か無理な話であった。



 そもそも相手の攻撃を物ともしない、タフネスさがオーク拳の必須条件。

 そのタフネスさが詡王には存在しない。多少の痛みにも涙する、普通の女の子なのだ。



 余りの才能の無さに、流石の倉韋も諦めかけていた。

 しかし、いつもの様に道場にやって来る借金取りや、怨恨による刺客の襲撃を叩きのめした時に、その時は訪れた。



 倉韋に叩きのめされた一人の男が、かけていた眼鏡を落として行ったのだ。


 落ちている眼鏡がまるで詡王を呼び寄せる様に、フラフラと詡王が近寄って行き拾い上げる。


 拾い上げた眼鏡は何処にでもある平凡なる眼鏡。視力の悪く無い詡王には無用の長物である。


 それでも詡王は眼鏡から感じる力を、本能で感じとっていた。

 そして本能の赴くままに詡王は…眼鏡をかけてしまったのだ。




 次の瞬間、詡王から目覚ましいほどのオーラが噴出。

 それを見た倉韋は思わず詡王を殴り飛ばしてしまった。


 容赦無く殴り飛ばされた幼い詡王が壁に激突。

 慌てたのは殴り飛ばした張本人、倉韋であった。


 自分の意思では無く、無意識に殴り飛ばしてしまったのだ。娘のオーラに当てられて。



 そう、詡王の放ったオーラとは、眼鏡っ娘が持つと言われている「いじめてオーラ」。

 このオーラは見る者全てを不快にさせ、思わずいじめてしまいたくなると言う、眼鏡っ娘が持つ特殊なオーラなのであった。


 そしてこのオーラを解き放ってしまい、倉韋に殴り飛ばされて壁に激突した詡王。

 普通なら、間違い無く即死である。




 だが、崩れた壁から出て来た詡王は生きていた。

 それどころか恍惚とした笑みを浮かべているのだ。


 驚く倉韋。思わず幼い我が子を本気で殴り飛ばしてしまったのに、即死どころか笑みを浮かべるとは、想像だにしていなかったからだ。



 詡王は眼鏡をかけることにより、いじめてオーラを解き放った。しかし、それだけでは無い。

 眼鏡によって詡王はもう一つの才能をも開花させたのだ。




 それが「ドM属性」の覚醒。苦痛を快楽へと変換出来る、眼鏡っ娘に多く見られる特殊な能力であった。


 詡王の才能の開花に、オーク拳の未来を感じ取った倉韋。

 そしてその日から、二人はオーク拳の猛特訓を開始するのだった。





 三角の木で出来た馬の様な乗り物。詡王の為に倉韋がこさえた、特訓用の道具である。


 詡王はお父さんの作ってくれた手作りの遊戯に喜んで飛び乗った。


 自分の為に、こんな素敵な遊戯を作ってくれるなんて、お父さんはなんて優しいんだと、詡王は改めて感謝した。



 詡王と手作りの乗り物、見事なまでのフィット感。乗っているだけでなんて気持ちの良い事か!


 しかも石を数枚抱きかかえるだけで、気持ち良さは倍増!


 詡王はウットリした表情で、乗り物を完全に乗りこなすのであった。




 詡王の育成の方向性を見出した倉韋は、その後も多くの遊戯や特訓を開発。


 詡王はそんな父の優しさに応えるように、オーク拳の使い手として驚異的な早さで成長を遂げるのであった。




 そんな詡王が中学生になった。


 入学して間も無い詡王は友達もおらず、教室の隅っこでいつも一人で本を読んで過ごしていた。



 そんなある日のこと。詡王にクラスの男子達がちょっかいを出して来た。

 悪名高い倉韋の娘だからと、馬鹿にして来たのだ。


 詡王は自分の事を馬鹿にされても、怒ることは無い。

 でも、大好きなお父さんを馬鹿にされたら、流石に反論してしまう。


 オーク拳を馬鹿にする男子達に向かって、詡王は思わずオーク拳の素晴らしさを熱く語ってしまったのだ。


「なんでお父さんやオーク拳を馬鹿にするのよ!お父さんは私にとっても優しいし、オーク拳だってとても素晴らしい象形拳なのよ!そんな素晴らしいオーク拳を私は使いこなして…沢山の女の子を凌辱するんだから!」


 …クラスが完全に凍り付いた。え?凌辱?女の子を?


 凍り付いたクラスを見渡し、オーク拳の素晴らしさに絶句していると勘違いした詡王は、更に追い討ちをかける様に普段の特訓の数々を熱く語る。


 クラスメート達の顔が見る見る歪む。


 それでも熱く語る詡王。


 これが取り返しのつかない事だと気付かずに…。



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