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第33話 世界で最も醜悪なる象形拳

今回から毎週火曜日と土曜日の23時に更新です!更なる応援の程、お願いします!



 そこは古びた廃村であった。


 長い事、人は住まずに荒れ果てた廃屋。それが数件建ち並び、元々は小さな村を形成していたのであろう。


 しかし、今では人っ子一人住まない見事なまでの廃村。


 そこを抜けると荒屋(アバラヤ)としか思えない、オンボロ道場が一軒。ここが目的地であった。




 目的の道場へと入ると、廃村同様に人の気配は感じられない。


 それでもショクシュ子は気にせずに、道場の真ん中にある開始線へ。


「さあ、始めましょうか」


 誰も居ない道場ではあるが、ショクシュ子は呼びかける。

 道場には自分ともう一人、マネージャーの詡王しか居ないにも拘らず、だ。


「…いつから気付いてたの?」


「ん?最初からよ」


 詡王の疑問にショクシュ子は迷い無く返答。


 ショクシュ子はいずれ詡王と対戦する事を予感していた。

 それは初めて詡王と出くわした時から、常に感じていた事であった。






 ショクシュ子が白鶴拳の裴多(ペタ)と対戦する時、裴多の呼び出しに応じて藪から姿を現した。


 その時、裴多は尾行者がショクシュ子一人しか居ないことに疑問を感じていた。


 それを聞いてショクシュ子は、辺りの気配を探る。

 触手拳は触覚を鍛える格闘技でもあるので、辺りの気配を読むのはお手の物。


 すぐに藪に隠れている詡王の存在をキャッチ。しかし、隠れているのは一人だけ。


 出てくる気配も無いので無視して裴多と対戦、そして勝利。


 それでも詡王は隠れたまま。仕方が無いので自分から出向こうとすると、そこでやっと顔を出した。



 出て来た詡王は素人を装っているが、見るものが見れば格闘技の経験者だと分かる(たたず)まい。

 裴多が言う様に、普段はもっと多くの刺客が居るのであれば、目の前に居る詡王が排除したことになる。


 だが、本人は素人を演じる。敵意を見せずに。


 そんな詡王を無視して立ち去ると、ショクシュ子を付け回し始める。そして自分に協力したいと、まさかの申し出。



 裴多を付け狙っていた刺客を詡王が排除したのは、ショクシュ子の為だったのだろうか?

 勿論、そんな訳が無い。



 詡王は裴多と闘う事を望んでいたからこそ、邪魔な刺客を排除していたのだ。

 しかし、同じ様に裴多を付け狙うショクシュ子だけは、排除する隙が無かった。



 そんなショクシュ子と裴多が対決して、ショクシュ子が勝利。

 詡王のターゲットは裴多からショクシュ子へと変わったのだ。




 詡王の持っていたノートの、象形拳の猛者達の情報を見ればそれが分かる。


 今でこそショクシュ子の為にノートを使っていたが、本来であれば詡王が自分で使う為のもの。

 それをショクシュ子の為に使っていたのだ。




 マネージャーとして信を得て、情報の無い触手拳の動きや奥義を観察。

 自身との対戦の為に、有利に事を進めることになる。



 それを理解しながらショクシュ子は詡王と行動を共にしたのだ。

 最初は警戒しながらも、マネージャーとして役立つからだと、行動を共に。



 しかし、友達のいないショクシュ子にとって詡王の存在は、ただのマネージャーでも無ければ、利用するだけの存在では終わらなかった。


 最初は一人旅を予定していたにも拘らず、ひょんなことから二人旅。

 そんな予期せぬ二人旅がなんと楽しいことだったろうか。


 行く先々で観光名所を回ったりと、怪我を負った時は休憩がてらに中国を旅行気分で闊歩。

 当初の予定での一人旅では、絶対に味わえない経験をしたのだ。



 そして、最後の飛燕拳との対決を制すると、詡王から今まで見たこともない象形拳の使い手がいると持ちかけられた。

 ショクシュ子は遂にこの日が来たのかと、覚悟を決めた。


 旅の終わりである詡王との対戦が始まるのだと、出会った当初からの予感が現実に起こってしまうのだと。



 だから目的地に向かうバスの中でショクシュ子は、詡王に向かって友達だと改めて述べたのだ。

 例えこの後に何が起ころうとも、私達は友達なんだと。楽しかった時間は嘘では無かったと、そう伝える為に。




 そして二人は対峙。最強の象形拳を決めんが為に、お互いに友達だと語った二人が雌雄を決するのだ。



 ショクシュ子が身構える。いつもの全身触手化による、触手拳の構えである。


 しかし、詡王は身構え無い。下を(うつむ)きながら、申し訳なさそうに語り始める。


「ゴメンねショクシュ子ちゃん、こんな事になって。私は本当に酷いと思うけど、仕方が無いことなの」


「謝る事なんか無いわよ、詡王ちゃん。格闘家であれば誰もが最強を目指すもの。私と詡王ちゃんが同じ最強を目指すのならば、遅かれ早かれこうなっていたんだからね」


 ショクシュ子にとって最強の頂を目指すもの同士、詡王とはいずれ雌雄を決する事は覚悟していたのだ。

 だから謝ることなんか無い、そう思っていた。


 しかし、詡王の謝罪は別のところにあった。









「私ね、ずっとショクシュ子ちゃんの【ピーーーー】を【ピーーーー】したり、あまつさえ【ピーーーー】を【ピーーーー】だったり…あ、あと【ピーーーー】を【ピーーーー】も忘れずにしたかったの!」


「…は?」


 ショクシュ子は凍り付いた。


 それもそうであろう。突然、詡王の口から出て来たのは、放送禁止用語のオンパレード。

『小説家になろう』のサイトに記載したら、間違いなく速攻アカ停を喰らうレベルの、放送禁止用語なのだから。


 そんな放送禁止用語を何の躊躇いも無く語る詡王。その笑みは今迄で1番の笑みであった。



 ショクシュ子の顔が引き攣る。目の前にいる詡王を自分は見誤っていたのでは無いかと、今更になって気が付いたからだ。



 そんなショクシュ子の態度など一切気にせず、詡王は続ける。


「私ね、ショクシュ子ちゃんと一緒に旅をして…ずっと自分を抑えて我慢してたの!本当はショクシュ子ちゃんだってして欲しかったんでしょ?だって私みたいなド変態を友達だって言ってくれたんだから!ゴメンね、こんなに待たせちゃって!でも大丈夫!今迄、散々()らして来たけど、もう我慢なんてしなくていいんだよ!だってここなら…どんなに叫んでも…誰も…来ないんだから…」


 詡王の身体からドス黒い、禍々しいオーラが立ち込める。

 そのオーラは詡王を包み込み、1匹の巨大なる生き物へと変貌を遂げるのだった。



 ショクシュ子は足がすくみ、動けない。

 詡王のド変態宣言にも驚いたが、それだけでは無い。

 目の前の生き物に対して、畏怖しているからだ!







 西洋の甲冑を着込み、女騎士の姿となった岸ショクシュ子の前に、1匹の巨大なる豚…いや、豚に似た醜悪で巨大な生き物が立ち塞がるのであった。


 世界で最も醜悪なる象形拳、オーク拳が使い手(オウ) 詡王(クオウ)



 今迄、溜めに溜めまくった欲望を吐き出さんとばかりに、目の前の女騎士へと襲いかかるのであった。



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