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第24話 本物の天才



 見誤った。


 それが大量の血に塗れながら倒れ込むショクシュ子の思考。

 相手は自分と同等か、それ以上の天才。それを見誤ったのだ。




 マネージャー詡王の助言を聞いてはいたものの、やはりたて続けに天才格闘少女に連勝した事が、気の緩みを誘発していたのだろう。


 それがこの全身から噴き出る大量の出血だった。高い授業料を支払ったと後悔しても、今さら後の祭りである。


 せめてもの救いは、急所をずらして致命傷を避けたこと。

 しかし、大量の出血は圧倒的に不利な状況である事には変わりない。


 闘いが長引けば長引く程、ショクシュ子は不利になる。

 目の前に居る天才に勝利する為の策を必死で模索するが、一向に見えてこない。



 ショクシュ子は必死で立ち上がり、臨戦態勢をとるものの、反撃の糸口があるわけでも無い。

 先程と変わらず防御の構えをとる。


 傷付きながらも諦めない、そんなショクシュ子の闘争心に、華はニヤリと笑みを浮かべた。

 カマキリを模した蟷螂拳は、カマキリ同様に動かぬ敵には興味を示さないのだ。


 獲物は生き餌こそ最上。それが蟷螂拳の使い手である華の信条でもあった。


 傷付いても折れることの無い闘争心。これは今までの経験上、最も美味と思われる獲物の条件。


 強敵との対戦程、勝利した時の高揚感は半端が無いのだ。自分が強くなると、肌で感じる程の高揚感。

 途中で敗北を認めて諦める者との対戦では、絶対に得ることの出来ない極上の高揚感。

 それこそが、華の求める闘い。



 目の前の日本人には決して諦めることの無い絶対不変の勝利への渇望と、敗北への嫌悪が見受けられる。

 だからこそ、喰らいたい。敗北を望まぬ者の苦痛に歪んだ絶望の味を。



 絶対強者の宿命(サダメ)として、義務として、そして欲望として、華は目の前の獲物に全力で襲いかかるのであった。




 ショクシュ子の目の前に居るのは、紛れも無い本物の天才。

 その天才が本気で襲いかかってくるのだ。一瞬の気の緩みが敗北へと繋がる。

 全身に刻まれた鎌鼬による傷痕が、その証拠。


 気を引き締め直したショクシュ子は、華の奥義に対して触手拳が奥義で迎え撃つ。








「奥義!舞滝鞭(ブタキムチ)!」


 ショクシュ子は両腕を触手化し、上下に勢い良く振り回す。

 触手を鞭の様にしならせると、触手の先端が大気を()ぜる。

 華が大気を切り裂く鎌鼬ならば、ショクシュ子は大気を爆ぜる鞭。



 大気を切り裂く奥義と、大気を爆ぜる奥義。その二つの奥義がぶつかり合い、そして打ち消し合う。

 何とか活路を見出したと思われたショクシュ子であったが、未だに不利な状況で有ることには変わりない。



 舞滝鞭(ブタキムチ)は元々、触手拳の鞭打技。

 ショクシュ子の父である岸ベシローが、妻である益美と共に道場破りに出向いた時、女の子を相手に触手拳を繰り出す事に、益美が憤慨したことによって生み出された奥義である。



 妻以外の女への触手拳を許さぬ恐妻家となった益美。つまり、岸の触手拳は妻以外では男のみに許されたのだ。



 急所への攻撃や密着する寝技など、男とやっても楽しい訳が無い。

 そこで鞭打技である舞滝鞭(ブタキムチ)の登場。

 男を相手に容赦無く、滝の如き鞭打が降り注ぐのであった。



 そんな父の悲哀に満ちた舞滝鞭(ブタキムチ)ではあったが、ショクシュ子は大気を爆ぜる奥義として、鎌鼬に対抗する手段として用いたのだ。


 しかし、触手拳の奥義により危機は脱出した筈ではあったが、再び別の危機が待ち構えていた。



 先程の華の攻撃により、ショクシュ子の両腕には無数の切り傷がある。

 傷口はまだ塞がっていないにも拘らず、鞭の様に両腕をしならせて奥義を繰り出せば、更なる出血を促すことに。


 そう、時間をかければかける程に出血が増し、ショクシュ子は不利になるのだ。


 華もそれを理解していた。故に先程とは違って、ショクシュ子から距離を保ちながら、奥義を繰り出し続けているのだった。



 このままではジリ貧である。目の前にいる天才に勝つには、更なる高みへと到達しなければならない。


 意を決したショクシュ子は舞滝鞭(ブタキムチ)を止め、別の構えをとった。




 前羽の構え。




 両の掌を前に出し、相手の攻撃に対して攻撃を合わせる為の防御の構え。


 それは母である益美が空手で学んだ構えであった。しかし、ショクシュ子は空手家では無く、触手拳の使い手。

 ショクシュ子の前羽の構えが、ただの前羽の構えな訳が無い。




 ショクシュ子が目の前に突き出した10本の指。

それが指とは思えない程にグニャリと曲がり、ウネウネと蠢き始めた。










「奥義!爆指八鞭八(バクシヤムチャ)!」


 触手化した一本の指が、鞭の様にウネリをあげて大気を爆ぜる。

 続いて他の指もウネリをあげながら、鞭の如く大気を爆ぜる。

 全ての指がウネウネと鞭の様にしなり、華の奥義に対応する。



 2本の鞭である舞滝鞭(ブタキムチ)とは違い、無数の小さな鞭を以って目の前に『爆ぜる大気の壁』を作る奥義爆指八鞭八(バクシヤムチャ)


 華の奥義が斬撃を飛ばすが、ショクシュ子の奥義が作り上げた爆ぜる大気の壁によって消滅。


 その人間離れした奥義により、最小の動きにて華の奥義を完全に相殺するのであった。




 ショクシュ子は天才と対峙する事により、触手拳が奥義である舞滝鞭(ブタキムチ)から、新たなる奥義を生み出す事に成功したのだ。



 確かにショクシュ子が対峙している華は、本物の天才なのかも知れない。

 しかし、華が対峙しているショクシュ子もまた、本物の天才なのであった!



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