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第八話 押しに弱い男なんです

「それは……難題ですね」


 ヘンリエッタの口からホワイトムーンの状況を聞いた瑛太は、心の底からそう思った。


「小手先だけでどうにかなる状況ではなく、私にはどうすればよいか」

「もう少しホワイトムーンについて教えてもらえませんか? 流れてしまったお客を引き戻す為にやっていることとか」


 僕の世界で言えば、広告的な何か。


「何か……そうですね……請負人ギルドに張り紙を貼ってもらっているくらいでしょうか」

「請負人ギルド?」


 聞き慣れない名前に瑛太は首をかしげるも、すかさずルゥがフォローの耳打ちを入れる。


「聖マリアント教会から請負人に発行される依頼を仲介しているギルドじゃ」

「だから請負人ギルドなのか」


 納得した、と頷く瑛太。


「亡くなった父と親交があったラドマンという方が運営しているギルドなのですが、無理を言って協力してもらってるんです」

「なるほど。請負人が集まるそこに広告を出しているというワケですね」

「コーコク?」

「あ、いや、なんでもないです。それで、他には何か?」


 首をかしげるヘンリエッタに瑛太が続けて問いかける。


「後は……安価なシルバーアクセサリーを売りだしたんです」

「安価なシルバーアクセサリー、ですか」

「はい。エルトンには経験が浅い駈け出しの請負人が多く、彼らはお金があるわけではないので『初心者向け』というわけじゃないですが、少し質を落とした安価なアクセサリーを販売したんです」


 その言葉に、瑛太は良いアイデアだと思った。エルトンに訪れる請負人が経験が浅い人が多いって事は、つまり彼らはお金を持ってないって事だ。いくら質がよくてもお金が無ければ買うことは出来ないし、安価なアクセサリーを出すのは解決策として良いと思う。


「ですが、すぐにやめてしまいました」

「えっ? どうして?」

「実は、私が安価なアクセサリーを売りだしてからバーバラ商会がより安価な商品を売り出し始めたんです。彼らほど潤沢な資金があるわけじゃないですし、値下げ競争になってしまえば先に倒れるのはこちらなので、やむなく中止に」

「あぁ、そっか……」


 多分、価格競争に持ち込むのはそのバーバラ商会というギルドの思う壺だろう。どちらかというとバーバラ商会も価格競争になることを狙っている気がする。値下げ合戦になってしまえば、体力が無いホワイトムーンが先につぶれてしまうのは目に見えているからだ。


「うーむ……」


 腕を組み、唸り声を漏らす瑛太。

 ヘンリエッタさんのギルドはベストな場所に広告を出し、さらに彼らに合った価格設定でアクセサリーを販売していた。でも、勝っているのはライバルであるバーバラ商会。


「何か策は思いついたか?」

「何も。八方ふさがり」


 心配げに小さく囁いたルゥに、瑛太はお手上げです、といいたげに肩をすくめた。

 ヘンリエッタさんが言っていた通り、出来ることは全てやっている感じだし、ギルドの資金力も向こうに軍配が挙がっている。僕にできることは何もないよ、これ。


「フム、だが音を上げるにはちと早過ぎるかもしれんな?」

「え、何かアイデアがあるの?」


 この状況を覆す奇策が? さすが商業神、と目を輝かせる瑛太だったが──


「何を言っておるか。そんなものあるわけ無いじゃろ」


 即答する商いの神様であった。まぁ、確かにそうですよね。あったら僕に助けを求めず解決できちゃいますもんね。


「だが、お主の何倍も生きておる儂に言えるのは、戦いにおいて敵と味方をよく知らねば勝てる戦も勝てぬということじゃ」

「敵と味方をよく知る?」

「『敵を知り己を知れば百戦危うからず』とはお主の世界のことわざでは無かったか?」

「え……?」


 ルゥの口から放たれたその言葉に瑛太は驚きを隠せなかった。そのことわざ、聞いたことがある。でも、なんでこの世界の神様であるルゥがそんなことわざを知ってるんだ。


「滞納している貨幣地代の返済期限がタイムリミットだとしてもまだ時間はある。残された時間を有効に使えば何かしら活路を見つける事が出来るはずじゃ」

「……はぁ、そんなに物事は簡単じゃ無いと思うんだけどなぁ」


 ヘンリエッタに気が付かれないように瑛太が小さくため息を零す。僕には父さんみたいなマーケティング知識がもあるわけじゃないから、バーバラ商会の事を調べても何も策が浮かぶはずない。てか、よくよく考えたら僕よりも父さんのほうが適任じゃないか、これ。


「やはり、ルゥ様でも難しいでしょうか?」


 仏頂面で悩む瑛太の顔をひょいと心配そうな表情のヘンリエッタが覗きこんだ。


「ここまで悪化してしまったのは私の責任です。どうせ頼るなら、もっと早くお願いしに行くべきでした」


 申し訳ありません、と頭を下げる健気なヘンリエッタのその姿に瑛太の心がぎゅっと締め付けられてしまった。

 そんな顔で見つめないで下さい。たまりませんから。


「大丈夫ですよヘンリエッタさん。最善を尽くします」 


 なんとか笑顔で答える瑛太だが、その意識は明後日の方向へとすっ飛んでいた。

 確かに適任者は父さんだろうけど、ルゥは役目が終わるまで現実世界には戻れないと言っていたし、僕が代理人になってしまった以上、この世界に父さんを連れてくるなんて不可能だという事だ。こうなったらもう逃げ出す事はできない。ヘンリエッタさんを悲しませない為にも、僕の力でなんとかしないと。

 と、弱り切った瑛太が吐き出した溜息がふわりと部屋の中に消えていく。瑛太はすでに両肩にのしかかる重圧にギブアップ寸前だった。

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