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第七話 エルフのお姉さん

「ルゥ様、本当に申し訳ありませんでした」


 マルクスが去って幾ばくも立たない内に慌てて二階に上がってきたヘンリエッタは部屋にはいるやいなや、頭を深々と下げたまま、何度も謝罪の言葉を口にした。


「まさか空からルゥ様がいらっしゃるとは思わず……」


 そりゃそうだよな。突然目の前に空から人が落ちてくるのを目の当たりにすればそりゃ驚くだろうし、かくいう落とされた僕自身も驚いた。


「だけどさ、びっくりすると魔術をぶっ放す癖、直したほうが良いと思うぞ姉ちゃん」


 そう言い放ったのはヘンリエッタと共に再び部屋に訪れたマルクスだった。

 さぁ、と、はっきりと聞こえるくらいにヘンリエッタの表情から血の気が引いていく。


「ええと、お気になさらずにヘンリエッタさん。主様は白魔術ですでに傷を癒やされましたから。ですよね、主様?」

「え? あ……はい、うん、もうすっかり」


 急にルゥに話を振られた瑛太は、慌ててぐるぐる巻にされた包帯を外すと、「ほらこの通り」とぶんぶんと腕を振り回す。さらに調子にのってそのまま走り回ろうとする瑛太だったが、無言でルゥに引き止められてしまった。


「あぁ、良かった……」


 すっかり元気になった瑛太を見て、ほっと胸をなでおろすヘンリエッタ。

 だが、そんなヘンリエッタに追い打ちをかけたのは、またしてもマルクスの言葉だった。


「ホント良かったな姉ちゃん。隠れて信仰している神様を間違って殺しちゃった、って笑い話にもならないからね」


 その言葉にさすがに場の空気が凍りついた。

 この少年、綺麗な顔して空気読めないのか。僕でも少しは空気読むのに。


「いやまてよ。むしろその方が請負人になった時に箔が付くかもしれないな」

「やめなさい、マルクス」

「うん、異教神殺しのマルクスってカッコイイし、きっと教会のウケも良いだろうし──」

「マルクスッ!!」


 ついに堪忍袋の緒が切れたヘンリエッタの通った声が部屋の中に響き渡る。

 その声に一番驚いたのは、はらはらしながら二人の会話を聞いていた瑛太だった。


「それ以上失はやめて頂戴」

「ご、ごめん」


 耳を垂れ、しゅんとしてしまったマルクス。

 そのマルクスの姿に瑛太は何処か既視感を覚えてしまった。

 なんというか、この雰囲気どっかで感じた事があるんだけど、何処だっけ?


「お店をお願い。私はルゥ様にお話することがあるから」

「わかったよ」


 そう言って浮かない表情のまま部屋を去るマルクス。

 彼が残していったのは、むずむずとしてしまう気まずい空気だった。

 そして、そんな空気を一番の苦手としている瑛太はどうしたものかと色々と言葉を探してはみたものの、さりとて良い言葉は何も思いつかなかった。


「お恥ずかしい所をお見せしてしまって申し訳ありません」


 瑛太の心を察知してかしないでか、ヘンリエッタが改めて瑛太に頭を下げた。


「なにやら色々と問題がありそうスね」

「ええ、もう、本当に色々と」


 何やら姉弟関係はうまく行って無さそうだな。あの小僧、こんな綺麗なお姉さんを困らすなんて、本当にけしからん奴だ。


「ですが、まさに神の救いとはこの事ですね。本当にルゥ様が降臨なされるとは思いもしませんでした」

「ええ、もうご安心ください。貴女のギルドを蝕む難事すべて解決するために主様は降臨されたのですから」

「え、ちょ……ルゥ……っ!」


 軽い口調でぐんとハードルを高くするルゥにあわてて瑛太はツッコミを入れてしまった。


「あまりハードルを上げないでよ。もっと低く……例えば掃除洗濯とかの雑務をこなす位にして欲しんだけど」


 それでこのギルドが立ち直るかはちょっとわからないけど、と耳打ちする瑛太だったが、ルゥは顔をしかめてみせただけで、お構いなしにヘンリエッタに続ける。


「主様も貴女の力になると仰っております。さぁ、主様に今貴女のギルドが困窮している原因をお話ください」

「ああ、ルゥ様、ありがとうございます」


 両手を合わせて祈りを捧げるヘンリエッタに瑛太は思わず顔が引きつらせてしまった。

 正直な所、今直ぐ逃げ出したいんだけど、困っているヘンリエッタさんを見捨てて逃げるのは僕には無理だ。

 そのまま結論が出ずしばらく悩む瑛太だったが、意を決したように、ええいままよ、と憔悴する心をなけなしの根性の後ろへと追いやると、自棄気味に言い放った。


「ぅ判りました! 泥船に乗ったつもりで、全て私に任せなさいっ!」

「……え?」


 瑛太の自信に満ちたそのセリフが虚しく響き渡っていくと同時に、ヘンリエッタの困惑した声を乗せた心地良い風が吹き抜けていった。

 そして訪れたのは痛い沈黙と、とてつもなく重い空気。瑛太の耳を撫でるのは、小鳥の囀る歌声と行き交う人々の笑い声。


「……僕、何か変な事言った?」


 何かを間違ってしまったのはなんとなくわかったが、何を間違ったのか判らない瑛太に出来るのは、ただ目を泳がせるだけだった。


「お主……本当にアホじゃの」


 問いかける瑛太にルゥは小さく肩を落とす。

 瑛太が放った言葉に、金縛りにあったかのようにしばらくぽかんとした表情を浮かべていたヘンリエッタ。だが、聞き間違いだったんだと自分の中でそれを消化すると、ヘンリエッタは気を取り直してホワイトムーンの現状について語り始めるのだった。

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