同人作家は描き止まないっ
「お疲れしたー」
別れの言葉とともに、ドッと疲れが押し寄せてきた。コミックアウトレット赤坂。地方の小さな「創作オンリー」の同人即売会が、ようやく終わった。会場には数えるほどのサークルと、百人程度のお客さん達。決して大反響とは言えなかった。此処数年、「創作」で小説や漫画を出しているサークルはめっきり減ってしまった。特に地方の創作人気の衰退は激しく、はっきりいって今回の即売会の開催もかなり危うくなっていた。
「やっぱり最近は東方オンリーとか、初音ミクとか、人気作品じゃないと人は集まらないんかなぁ…」
どこかで即売会の運営さんが愚痴をこぼしていた。やっぱり売れるジャンルに切り替えたほうがいいのかしら…。そんなことを思いつつ、私は大量に売れ残ったコピー本を片付けながら、深いため息をついた。本日の交通費往復二千三百円。サークルのスペース代千円。同人誌の印刷代が四千円。売り上げは…値下げした一冊が売れて、五十円也。
同人活動4年目。元々絵を描くのが好きで、最初はネットの友人に同人活動のことを教えてもらった。
「創作とか、二次創作とか、18禁だっていいし。ステッカーとかグッズ作ってる人もいるよ。とにかく情熱だけ持った人がたくさん集まってるの」
そういって美代子ちゃんは自分の作品もネットで公開してるから見てね!と笑った。初めてみた同人誌は、一つ下の女子が描いてるとは思えないほど美しい絵のイラスト集だった。私はまず年下がすでにこれほど完成度の高いイラスト本を、自分の手で作り上げてるという事実にガツンと衝撃を受けた。
自分なんかただ漠然と絵を描いてて、将来は無理かもしれないけどイラストレーターとかになって、あわよくばイラスト集なんか出しちゃったりして…なんてことを頭の片隅程度に留めておいたくらいだった。それなのに、この子は既に自分の絵を本という形にして、それを売ってるんだ…。実際売れてるのかはわからないが、少なくとも自分の絵を、売れるかどうか試す舞台に立ってるんだ。私は彼女の存在が一気に遠くなるのを感じた。自分の実力との距離をはっきり痛感した。
「美代子ちゃん。サ、サークルってさ」
「ん?」
「同人誌のサークルってどうやって立ち上げればいいのかな?何か申請とかいるん?」
「フフッ。いらないよー。自分で「私は今日からこういうサークルです」って宣言しちゃえば、それでいいんだよ」
美代子ちゃんは優しく動じん活動について色々と教えてくれた。彼女もまた、同人仲間ができるのが嬉しそうだった。今度即売会があるから来てよ!と誘われた。家からは絶望的に遠かったが…是非一度同人の即売会とやらを見てみたいと思った。
「明日香ちゃんはどんな作品つくるのかなー?とっても楽しみ!」
私はチャットを終わらせて、私は部屋で自分の落書き帖を開いてみた。とても汚くて、万が一にも売れそうにもない。少なくとも、美代子ちゃんの絵のレベルと比べると、クオリティの差は歴然だった。これじゃ駄目だ。もっと上手くならなきゃ。もっと…少なくともこの子のレベルまでには。私はネット世界の小さなチャットルームで受けた、今までの自分の人生観を崩壊させるほどの衝撃から立ち直れないまま、フラフラと落書き帖に絵を書きなぐり続けた。
「明日香ちゃん」
サークル仲間と別れた後、学校の近くで同級生に呼び止められて、私は身を強張らせた。
「何してるの?」
「え?えーと…」
私はクラスメイトに同人誌を作ってることを内緒にしていた。もし同人本なんか作ってるとこみられたら、何て言ってバカにされるか分かったもんじゃない。学校では普通の女子を演じていた。絵も描かないようにしていた。本当は学校でも練習したかったが、リスクが高過ぎる。
「?まぁ別にいいけど…」
「あ、私知ってるよ!明日香ちゃん昔から絵書くの好きだったよねー」
するとその同級生と一緒にいた小学校からの幼なじみが、饒舌に語りたがった。
「もしかしてイベント参加してたのー?」
私は死にたくなった。
「どうじん?何ソレ?」
「んー何か自分で本作ってるの。あたしのお姉ちゃんがやってるから…」
「え!?マジ!?すごくなーい?」
「明日香ちゃんも作ってるの?」
「えー?」
ノーマルな友人どもが一斉に騒ぎ始めた。騒ぎを聞きつけて同級生が集まる。私は死にたくなった。
「見せてみせて!」
「え…いや…」
「いいじゃーん!え?アレ?もしかしてHな本とか描いてる訳—?」
「そうじゃないけど…」
「じゃあ見せてよー」
「何何—?私も明日香ちゃんの本読みたいー」
私は死にたくなった。
「えと…」
「えーい!もう見ちゃえ!うわぁ!」
「おおー!」
私は死にたくなった。
「すごーい!これ何?SF?」
「ファンタスティックだねー」
「イラスト集?すげぇー」
私は。
「あれ…これ何?別の人の本?」
「男の人同士で裸になってるー」
「…もしかして腐女子ってやつー?」
友人と色んな意味で別れてから、私は「人とは本気で死にたいと思っても中々死ねないんだなぁ」なんて思いつつ、とぼとぼと家路についた。
それから私の高校生活は、絵を描く事に全霊を注ぐ事になった。昼休みも堂々と絵の練習ができた。自分が売れもしないしょうもないイラストを描いてることをばらされた挙げ句、性癖まで暴露された私に失うものは何も無かった。その代わりといっては何だが、私と同じように絵が好きだったり同人活動している同級生と仲良くなった。それは私にとって新鮮な驚きだった。こんなど田舎で同人誌を作ってる人間なんて自分以外いないだろうと思っていたのだ。皆今までこっそり描いてたようだが、中々アニメ絵のイラストだったりオリジナルの小説を作ってるなんて恥ずかしくて言い出せなかったようだ。今までばれたら死ぬしかないと思っていたが、まさかたくさんの仲間ができることになろうとは。世界って狭いようでとっても広い。
「明日香ちゃん。新しく漫画できたから読んでみてー?」
「いいよー」
あれから私は、とてもやる気のある子を何人か自分のサークルに勧誘し、週に三回は空き教室に集まって自分の作品を見せ合っていた。主にオリジナルで創作を頑張ってる子…特に、いつか東京のコミケに参加してバンバン売れたい!というような大きな夢を持った子たちだ。知り合った友人の中には私のサークルに入りたいといってくれた子もいたが、ただ絵を描いたり文章を書くのが好きで、上昇志向のない者はこちらから断った。私はサークルでなれ合いとか、傷の舐め合いがしたい訳じゃない。お互いを刺激し合って、いつかは全国に…なんて夢を語り合って切磋琢磨したいのだ。ただし、安易には初音ミクとか東方とか売れる二次創作に手を出す気もなかった。できることなら私の好きなオリジナルのイラストで。どうせ夢を見るなら、でかい方が楽しいに決まってる。淡い夢だと笑われるかもしれないが、今まで孤独に本を作ってきた私には、仲間ができただけで嬉しくって、もう何でもできるような気がしていた。
もちろんなれ合い目的とか、単純に絵が好きで描いてるって人を否定するつもりもない…ただ私は、いつかの小さなチャットルームで受けたあの衝撃を忘れられないでいたのだ。
「確かに絵は上達してるけど、美代子ちゃんに比べたらまだまだかな」
「明日香ちゃんまたその話?もう…」
私は仲間内でもことある事に美代子ちゃんの名前を出した。私にとって、アレ以来、美代子ちゃんは心の師匠であり、前を歩く先導者であり、いつか追いつかなくてはいけない壁だった。
「私もこんなに売れ残ってるイラスト集だしてるようじゃ、まだまだ美代子ちゃんに笑われちゃうなぁ…はぁ」
美代子ちゃんは東京に住んでいる。4年前に即売会に誘われた日から一度も会っていないが、数ヶ月に一度のチャットやメールを交わす限り元気にやってるはずだった。
「そういえば、その美代子ちゃんなんだけど…」
「え?」
仲間内の物書きが、私に声をかけた。
「美代子ちゃんのサークル、前回の「東方オンリー」落としたらしいよ」
「えぇ!?」
「落とす」とは、〆切まで(つまり発売日まで)に作ると告知していた本が完成しないことだ。原稿を落とした場合、当日のブースには売るべき本が並ばず、買いにきてくれたお客さんにもとても悪いことをしてしまうことになる。同人誌を作ってるような人は大抵〆切5日前とかに徹夜で原稿を書き上げることが多く、「今回は落としました」なんて言ってる人ももちろん多い。だけど私は、今まで美代子ちゃんが〆切前に本を仕上げないなんて聞いた事もなかった。確実に一日十枚は絵を描いてるような子なのに。
彼女のオリジナルイラストは今ではかなり人気が高く、ピクシブでもアップしたらすぐランキング入りするくらい人気だった。彼女の本は、とらのあなや他の通販でも実際ハイペースで売れていた。なによりも人気の秘密に、ハイクオリティのレベルの本を常に一定のペースで継続して作れる安定感にもあったのだ。それで固定ファンはおろか新規のファンも続々と増やしている。このままいけば、本当にプロも夢じゃないんじゃないか…そんなところに彼女は手をかけているのだ。もはや雲の上の存在だった。そんな彼女が、落としたって…?
「なんで!?」
「さぁ?忙しいとか?でも、良くあることじゃない落とすなんて」
「………」
私には何か納得がいかなかった。その日、家に帰ると急いで美代子ちゃんにメッセを送ってみた。だけど、返信は三日待っても来なかった。一週間待っても来なかった。私の顔色ははますます曇った。手帳をめくってみる。次のイベントは一ヶ月後。私は意を決した。
電車の窓がゴトゴト揺れる。久しぶりの上京だった。前に上京したのは4年前。やはり美代子ちゃんに会う為だった。コミケ会場に向かう途中、私は皆から頼まれたBASARA本やイナイレ本のメモを見ながらため息をついた。余りに多い。果たして1人で会場を回れるだろうか。
コミケには、美代子ちゃんのサークルは参加していなかったが、前回まで彼女はバリバリ参加していたので、他のサークルの人たちから何か美代子ちゃんについて聞き出せないか…そう思っての上京だった。
「美代子ちゃん?あー【VISITING Ver.】の人?そいえば参加してないね。どうしたんだろ…俺もあの人の本楽しみにしてたんだけどなー」
目当てのコピー本を買って、私は美代子ちゃんについて色々聞き回った。さすがに東京のトップクラスの絵師や作家が集まってるだけあって、会場の本のレベルは異様に高い。いつかこの場所に作家として参加するなんて無理なんじゃないか…なんて、私は勝手に落ち込んだりもした。しかし、いくら聞いても肝心の美代子ちゃんについての情報は全く得られなかった。この人が駄目ならもう諦めて帰ろう…そう思った。
「ああでも」
BASARA本の男がテーブル越しに言った。というかこのBL本を男が描いてるとは予想外だった。絵柄からてっきり女性の方だと思っていた。彼にそのことを聞いてみると、だって売れる本描いた方がモチベーション上がるだろ、と笑った。
「彼女の家なら知ってるよ。何回かお邪魔したことあるし」
それはどういうことですか!?という好奇心は置いといて、私は彼に感謝して急いで会場を後にした。恐ろしい熱気から解放された後、電車の中で、ドッと疲れが押し寄せてきた。私は今回は客として参加しただけなのに、何故か凄く場違いな場所にいた気がして、二度とあの場所には帰ってこれないような気がして、大変気が滅入った。
「いやーまさか明日香ちゃんが東京に来てくれるなんて」
美代子ちゃんの家は東京のはずれにあった。一軒家だったが狭い家で、やっぱり東京って物価が高いんだ…なんて私は勝手に想像してみた。親はまだ仕事で帰っていないようだ。
「どうしたの急に?」
「えーと…最近会ってなかったから…」
私は何といって切り出していいか分からなかった。小さな彼女の部屋で、妙に縮こまってしまう。何でメッセ返してくれなかったの?なんで前回のオンリー落としちゃったの?なんで…
「そ、そーだ美代子ちゃん、絵見せてよ。最近見てなかったからさ…」
「あー私、もう絵は止めちゃったの」
彼女は寂しそうに、それでも笑いながら私に呟いた。
「え?や…やめた?」
「うん」
「なんで!?なん…」
「言わないでよ。もう…散々皆からも言われたんだから…」
彼女はやはり微笑んでいた。私には何がなんだか分からなかった。
「私の絵がいいって言ってくれる人もたくさんいるし、それはとってもありがたいんだけど、何か…って虚しくなっちゃって」
「はぁ?」
「私、何回か大きなイベントに参加したんだけど、やっぱり其処には、自分じゃとても敵わないような、ほとんどプロ級の絵師さんがたくさんいるのね」
私は思わず彼女を二度見した。美代子ちゃんより上手い絵師がたくさんいるって?あんたも十分上手いでしょうが…。
「それで、私もネットとかで評価されて、ある程度本も売れて、自分がそこそこできるなんて勘違いしてたんだけど…上の人たちをみたら、自分の絵に限界を感じちゃって」
「ああ、私絵師としてのピラミッドの、一番下の階級にいるんだなって。私なんて全然たいした事無い。根本的に住む世界が違うんだ。本当に売れる人とか、本当にこの世界で一級の評価をされる人って、私より上の、こういう人たちなんだなぁ、って痛感しちゃって」
私はあんぐりと口を開いたまま閉じれなくなった。何を言ってるんだこの人は?美代子ちゃんが「絵師としてのピラミッド」の一番下?じゃあ私はどこにいるんだ?地底の奥深くのマントルに挟まって動けない絵師だとでもいうのか?或いは地球なんか突き抜けて、木星とかで絵を描いてるのだろうか?誰もいない木星で、青い地球のピラミッドのてっぺんに恋い焦がれながら、地球人には理解も評価もされない絵をひたすら描き続ける木星人絵師…。
「も、もったいないよ…あんなに売れてるのに。あんなに人気あったのに…」
「別にいいよ。同人だって、元々私の力を試したくって作ってただけなんだから」
美代子ちゃんが私を見つめてきた。
「お金って、ちゃんと自分で働いて稼ぐモノでしょ。私はもう、絵を仕事にすることは諦めたんだから…それでお金稼いでたら今まで描いた絵に失礼じゃない?」
それから美代子ちゃんは、そんなに絵が好きじゃなくなったのかもね、と寂しそうに笑った。
帰り際、薄暗くなった路地裏で。私は美代子ちゃんに渡そうと持ってきた自分の新刊をボロボロに破いて捨てた。何だかとても悔しくて、私は雨が降り出した事にも気づけずにいた。
それから三ヶ月後。私は地方の東方オンリーの即売会に出品者として参加するために、1人マックでイラストを描いていた。今まで赤字続きだった私のサークルを何とかしなければと、友人達がグッズ販売を企画してくれたのだ。これから全国を狙う私のサークルでは、如何に知名度を上げ商品価値を上げるかが最大の課題だった。私もサークルのリーダーとして、初めて東方のイラスト集を描く事になったのだが、あいにく筆は一行に進まなかった。無理矢理下書きだけしてみる。だけど、何か違った。私の絵じゃないみたいだった。
上京して以来、私は絵を描いていなかった。それまでは一日に一枚は必ず完成させていたのに、まるでそんな気になれなかった。でも、もういい。どうせ木星人の私がいくら努力したところで、どうしようもないのだ。憧れだった地球人でさえ、今では自分に限界を感じている始末…。何で絵なんか描いてるんだろう?…そもそも私は、今まで何をやってたんだろう?
…絵をかくの、やめようかな?
少なくとも、これからは創作の時代じゃない気がするな。創作なんて、よっぽど上手くないと売れないよ。売れたとしても、ほんの一握りだよ。売れないと、評価されないし、誰も見てくれないんだよ。これからは初音ミクとか、けいおんとか、旬のジャンルにどんどん手をだすべきだと思う。出すモノも、コピー本ばっかりじゃなくて、キーホルダーとか、シールとか、バラエティ豊かに…
「おねえちゃん!えじょうずねー!」
気がつくと、私の横に幼稚園児くらいの女の子がいた。参考資料にと開いていた美代子ちゃんの東方イラスト本を取り上げて、とても嬉しそうに笑っていた。
「おねえちゃんがかいたの?」
「え?えっと…」
「こら、駄目でしょ。お姉ちゃんの邪魔しちゃ!」
お母さんらしい人が女の子を抱え上げる。
「すみません、この子も絵が好きで、よく家で遅くまで描いてるんですよ。それで興味津々で…まったく」
「あ、いえいえ…」
咄嗟のことで、私はどう対処していいか分からなくなった。お母さんは女の子に優しく話しかけた。
「将来は漫画家になりたいんだよねー?」
「うん!」
「じゃあ、お姉ちゃんにバイバイしなさい、もう行くからね」
「うん!ばいばい…わたしもね、だいすきで、まいにちかいてるんだよ!こんどあったらもっとみせてね!」
女の子はとても笑顔で、お母さんは申し訳なさそうに店を出て行った。
私が東方オンリーのイベントを落としたのは、それから数週間後だった。そして、今までのサークルを抜けて、また1人で新しくサークルを立ち上げた。友達はとても驚いて、私を引き止めたが、私はもう創作以外描ける気がしなかったので、きっぱり断った。
「同人作家の作家生命ってどれくらいなんだろう?」
4年前、美代子ちゃんと語り合ったことがある。
「美代子ちゃんはいつまでやるつもりなの?」
「私?私は絵が好きだから…きっと死ぬまで絵だけ描いてると思うよ」
そういって彼女は笑った。
「絵を仕事にしたいな。大好きな絵を描いて、毎日暮らしていたい」
「仕事にしちゃったら、描きたくない絵もかかなきゃいけないかもしれないけど…でも私は、絵が好きだって死ぬまで思っていたいな」
夢を語り、尚かつガムシャラに努力する彼女の姿は、私には眩しすぎて、真っ直ぐ見てられなかった。私なんて、ただ漠然と絵が好きで、ぼんやり描いてるだけなのに…。きっとそれじゃ駄目なんだ。彼女クラスになるには、本気で絵と向き合って、これでもかってくらい好きにならなきゃいけないんだ…。
彼女が東京の舞台で何を見てきたのか私は知らない。きっと美代子ちゃんクラスの人には、私には想像もつかないような悩みとか苦しみがあったのだろう。それが何なのか…私もこのまま絵を書き続けていれば分かる日がくるんだろうか。
でもあの日、彼女が絵が好きじゃなくなったなんて言ったのはきっと嘘だと思う。きっと彼女は諦めきれなくて、それでも諦めなくちゃいけない理由があって、あえてそんなことをいったんだと思う。私はきっと、美代子ちゃんはもう一度絵を描き始めると思っている。だって、一度好きになったモノを、簡単に諦めきれる訳が無い。諦めきれるくらいなら、最初から好きになんてなってない。
私は次の創作オンリーに出す原稿を一旦やめて、一息ついた。窓の外は、いつの間にか冬が終わろうとしていた。きっと今回のイベントも、これまでと大差なく全く売れないだろう。何にも変わらないだろう。そもそも、どんなに絵を描いたって、皆プロになれる訳じゃないし、大半の同人誌なんて結局なんの価値もない。
でも、小さなチャットルームで教えてもらった同人誌が、私に未だに忘れられない衝撃を与えたように。
或いは何処にでもあるようなマックで、何処かの女の子の目を輝かせるようなことがあったように。
描いていれば、何かあるかもしれない。とにかく描き続けるしかない。売り上げとか、結果とか、レベルとか気にしてもしょうがない。好きなモノを好きなだけ描こう。だって私はプロの作家じゃない。同人作家だ。